転生したら蜥蜴人族の友人と邪仙の恋人ができた件   作:乃出一樹

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お待たせしました、第37話となります。

ライブアライブ面白いです。


鍛冶師カイジン

目的の鍛冶師が打ったという剣が置いてあった店から少し歩き、大通りから離れた裏路地。そこに小さな家がぽつんと建っていた。どうやらここにその鍛冶師が住んでいるらしい。丁度作業中らしく、中から鉄を叩く音が聞こえる。空はすっかり暗くなり夕飯時だと思うが、ここの家主は随分働き者らしい。

 

しかし・・・正直なところ、もう少し立派な所に住んでいると思っていた。腕の良い鍛冶師ならば稼ぎだって良い筈だろうし。まぁ、もしかすると古き良き職人気質な人で、こういうこじんまりとした仕事場の方が好みだったりするのかもしれないが。

 

 

 

「ここだ、腕は保証するぜ?・・・・・・おーい、兄貴!いるのかい?」

 

「兄貴?」

 

 

 

扉の前で一度こちらを振り返り、にやりとカイドウさんが笑う。そしてそう声を上げながら、家主からの返事を待たずカイドウさんは扉を開けた。リムルはカイドウさんのその言葉が気になったのか首を傾げ(るように体を揺らし)、俺は彼に続くように家の中に足を踏み入れた。

 

 

 

「うぉ・・・・・・あっつ・・・」

 

 

 

鍛冶師の家・・・工房の中はもわりとした熱気が篭っていた。その原因は、鉄を打つ為に火を灯しているであろう炉である。常にこの暑さの中で作業をするなんて自分では無理だろう。そんなことを考え一人苦笑していると、赤く光る炉の隣で鉄を打っているドワーフの男の姿があった。

 

 

 

「・・・・・・カイドウか。少し待ってくれ」

 

「あぁ!」

 

 

 

暑さからか裸の上半身に汗をかきながら、こちらを見ることなく男が呟く。帽子を被り、目にはゴーグル。モミアゲと繋がった口元を覆う髭・・・・・・いかにもドワーフと言った風貌である。

 

 

 

「お邪魔しまーす・・・」

 

「お邪魔します」

 

「カイジン、俺の兄貴だ」

 

「おぉ・・・・・・頑固一徹の職人って感じ・・・」

 

 

 

俺の頭から降りたリムルと共にとりあえず挨拶する。返事をしない男の代わりにカイドウさんが彼を紹介してくれた。手に持ったハンマーで黙々と鉄を打つカイジンさんの姿にリムルがそう呟いた時だった。

 

 

 

「あっ!」

 

「あっ」

 

「あれ?ガルムさんたちじゃないですか」

 

 

 

その声がした方を見ると、先程出逢ったドワーフの三兄弟、ガルムさんとドルドさん、そしてミルドさんがいた。予想よりずっと早い再会に驚いたのか、俺の足元付近にいたリムルが間の抜けた声を漏らす。ガルムさんたちの声が気になったのか、カイジンさんがこちらに顔を向け、そこで初めてリムルの存在に気付いた。

 

 

 

「スライム・・・・・・?お前たち、知り合いか?」

 

「カイジンさん、この子とスライムですよ!」

 

「昼間、大怪我した俺たちを助けてくれたのは!」

 

 

 

カイジンさんの問いにガルムさんとドルドさんが答える。ミルドさんは相変わらず「ウッ!」と言いながら頷くだけだが。

 

 

 

「おぉ、そうだったのか・・・!ありがとう、感謝する」

 

「いやいや~!それ程でも・・・あるような、ないような?あっはっはっはっ!」

 

 

 

カイジンさんは立ち上がると俺たちにそう言って頭を下げた。お礼を言われて調子に乗ったのか、ややテンションの上がったリムルを無視して俺はカイジンさんに改めて挨拶をした。

 

 

 

「あー・・・ガルムさんたちから聞いてるかもしれませんけど、一応自己紹介を・・・・・・初めまして、俺はアクトと言います。こんな時間にすみません」

 

「カイジンだ。なに、構わねぇさ。寝るにはまだ早いし、何より連れてきたのはカイドウだろう?」

 

 

 

そう言ってカイジンさんは溜め息を吐きながら弟であるカイドウさんをちらりと見る。彼の視線にカイドウさんはなんてことは無さそうに笑っていた。それを見てもう一度溜め息を吐くカイジンさんに俺とリムルは苦笑する。

 

 

 

「ったく・・・・・・それで、何の用だい?」

 

「あ、そうそう!ウチの村で働く気はないかな?ゴブリンの村なんだが、服も家もボロボロで・・・」

 

「俺は、なんつーか・・・・・・興味本位で付いてきただけだったんですけど、ガルムさんたちから鍛冶について色々教えてもらおうかなと思ってて」

 

 

 

リムルの後に俺はそう続けた。俺についてはガルムさんたちから話を聞いていたのか、「あぁ、それか」と呟きカイジンさんは三兄弟をちらりと見る。その後、リムルに視線を戻したカイジンさんは何かを考えるように顎髭を触りながら答えた。

 

 

 

「成程・・・・・・だが、スマン。今ちょっと立て込んでてな。どこぞのバカ大臣が無茶な注文をしてきてよ」

 

 

 

ちらりと自分が打っていた鉄を見ながら、カイジンさんは本日三回目となる溜め息を吐いた。そう言えばガルムさんたちは仕事が忙しいと言っていたっけ。同じ工房で作業しているということは、カイジンさんも彼らと同じ仕事を請け負っている筈だ。

 

 

 

「無茶な注文?」

 

「ガルムさんたちが言ってた仕事のことですか」

 

「あぁ・・・・・・戦争があるかもしれないって、長剣(ロングソード)を二十本、今週中に作れってな・・・まだ一本しか出来てねぇんだよ、材料がなくて」

 

 

 

ここでも戦争による被害が出ているらしい。しかし戦争の準備だというのに二十本なんて少な過ぎるのでは・・・・・・と、思ったが、恐らく国中の鍛冶師たちに仕事を振り分けているのだろう。

 

 

 

「だったら断ったらいいじゃねえか。材料が無ぇんじゃ無理だって」

 

「最もだ」

 

 

俺が一人で納得していると、カイドウさんがどこか呆れたようにカイジンさんにそう告げる。彼の言葉にリムルも同意するが、そんな二人にカイジンさんが声を荒らげた。

 

 

 

「馬鹿野郎!俺だって無理だと最初に言ったんだよ!そしたらあのクソ大臣、ベスターの野郎が──」

 

『おやおや。王国でも名高い鍛冶師のカイジン様ともあろうお人が、この程度の仕事も出来ないのですかな?』

 

「・・・・・・なんぞとほざきやがったんだよ!許せるか?あのクソ野郎が!」

 

 

 

そう吐き捨て、カイジンさんは手近にあるテーブルに拳を叩き付ける。今の様子からしてその大臣とは仲がよろしく無いようだ。顔など知る由も無いが、きっと典型的な小物の悪徳大臣のような見た目をしているんだろうな、そいつ。

 

 

 

「・・・・・・ウチの部長もそんな感じだったよ」

 

「大人になるとどこも人間関係が大変なんだな・・・」

 

 

 

ぴょいっと俺の肩に乗ったリムルがそう囁く。学生でも人間関係は大切なのだから大人はきっとそれ以上なのだろう。嫌なことを思い出しているのか、どこか沈んだ様子のリムルを見て俺は慰めるように体を撫でた。

 

 

 

「どうした?」

 

「あー、いや、何でもない!それより・・・材料が無いって?」

 

「あぁ。魔鉱石という特殊な鉱石が必要でな」

 

「さっき俺たちが掘りに行ったんだが、アーマーサウルスが出てな・・・・・・あとはアクトくんたちの知る通りだよ」

 

 

 

誤魔化しながら訊ねたリムルに、カイジンさんは頭を掻きながら答えた。そして四度目の溜め息を吐く。鍛冶師であるガルムさんたちが危険を冒してまで鉱山へ採りに行く程なのだ。元々希少だというのもあるが、国内で相当枯渇しているのだろう。もし先程の俺の予想通り、国中の鍛冶師たちに仕事が回ってるのだとしたら、彼ら全てが魔鉱石を必要としているということだろうし。

 

 

 

「成程・・・・・・」

 

「まぁ・・・どちらにせよ、あの鉱山はほとんど掘り尽くしてて、もう魔鉱石は残ってないらしいけどな」

 

「しかもだ。たとえ材料があっても、二十本打つのに二週間はかかる。なのにあと五日で王に届けなきゃならねぇ」

 

 

 

そう言ってカイジンさんは椅子に座ると、鉄を打つ作業に戻った。カイジンさんたちだと剣を二十本打つのに二週間かかる・・・・・・だが期限はあと五日。そもそも材料である魔鉱石が無い・・・・・・これ、ハッキリ言って詰んでるのでは?

 

 

 

「国で請け負い、各職人に割り当てられた仕事だ。出来なけりゃ、職人資格の剥奪も有り得る」

 

「兄貴・・・・・・」

 

「困ったもんだな・・・・・・ん、あれ?」

 

 

 

こんなにも絶望的な状況だというのに仕事を続けようとするカイジンさんをカイドウさんとリムルは不安そうに見つめる。その時だった。リムルがふと何かを思い出したかのように声を上げたので、何事かと俺は訊ねる。

 

 

 

「どうした、リムル?」

 

「いや・・・・・・えっと。魔鉱石って、こんなやつか?」

 

 

 

そう言うと、リムルは口からなにかを吐き出す。吐き出されたそれはリムルの体より少し大きめで、まるで宝石のように輝く石だった。きっと『補食者』のスキルで体内に仕舞っていたのだろう。

 

恐らくだが、魔鉱石と思われるそれを見てカイジンさんは硬直する。しかしそれは一瞬で、がたりと立ち上がると信じられないといった表情で声を上げた。

 

 

 

「・・・・・・・・・お?お、おい・・・・・・おいおいおいぃいいいいっ!?魔鉱石じゃねえか!しかも純度が有り得ん程高いぞ!?・・・・・・いや、魔鉱石じゃねえ・・・・・・既に加工された『魔鋼塊』だ・・・!」

 

 

 

どうやらリムルが吐き出したそれはただの魔鉱石ではなかったらしい。カイジンさんは『魔鋼塊』と呼んだそれをまじまじと見つめていたが、やがて食い気味にリムルに迫った。

 

 

 

「これならさらに強力な武器だって作ることが出来る・・・!そんな、この塊全てが・・・・・・!?こ、これは譲ってくれるのか!?勿論金は言い値で払うぞ!」

 

「さーて、どうしたもんかねー」

 

「ぐっ・・・・・・何が望みだ・・・!?出来ることなら何でもする!」

 

 

 

惚けた声を出しながら、リムルはカイジンさんから視線を逸らした。目の前の魔鋼塊がどうしても欲しいのか、カイジンさんは必死にリムルへ訴える。するとリムルは待ってましたと言わんばかりに、嬉しそうな様子で魔鋼塊の上に飛び乗るとカイジンさんへ向き直った。

 

 

 

「その言葉が聞きたかった!──誰か、親父さんの知り合いで、技術指導として俺たちの村まで来てくれる人がいないか探して欲しい」

 

「・・・・・・・・・そんなことでいいのか?」

 

 

 

どんな無理難題を出されるのかと身構えていたカイジンさんだったが、リムルから告げられた内容に拍子抜けしたのか目を丸くする。確認を取ってくる彼にリムルはスライムの体をぷるんと揺らしこう答えた。

 

 

 

「俺たちにとって最優先が、衣食住の衣と住なんだよ。まぁそれと・・・・・・今後の衣類の調達や、武具なんかも頼みたい」

 

「・・・・・・はは、任せてくれ。お安い御用だ!」

 

 

 

そう言って、カイジンさんは笑みを浮かべ胸を叩いた。快く了承してくれた彼の言葉に俺とリムルは顔を見合せ笑みを浮かべる。隣のカイドウさんも安心したように頷いていた。

 

 

 

「よし、それじゃあさっさと仕事を片付けねぇとな」

 

「だけどカイジンさん、今から剣を揃えようとしても時間が・・・・・・」

 

「間に合うのか?」

 

「いや、流石に無理だろ・・・さっきの話を聞く限り」

 

 

 

首を傾げるかのように体を揺らしたリムルに俺はそう囁く。カイジンさんはリムルの問いに答えはせず、頭をぽりぽりと掻いた後静かに炉の前へ移動した。

 

 

 

「・・・・・・まぁ、やるだけやってみるさ。──さぁ、すぐ始めるぞ!」

 

「へいっ!」

 

 

 

カイジンさんの掛け声にガルムさんたちがばたばたと動き出す。それぞれが自分の作業スペースに入ったことで俺たちは手持ち無沙汰になってしまった。

 

 

 

「・・・・・・そうだ」

 

「ん?今度はなんだよリムル」

 

「ちょっと思い付いたことがあってな・・・・・・『大賢者』に確認取ってみる」

 

 

 

そう言ってリムルは沈黙する。脳内で自分のスキル『大賢者』となにかを話しているのだろう。やることが何も無い俺は、とりあえずリムルを持ち上げ、近くの壁に背を預ける。カイジンさんたちも作業に集中し始め、工房内には少しの間、鉄を打つ音だけ響いていた。




この時点のカイジンが作った、魔鋼を芯とした剣ってランクはどうなってるんでしょうね

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