転生したら蜥蜴人族の友人と邪仙の恋人ができた件 作:乃出一樹
転スラ劇場版、楽しみですね。
気が付けば、時刻は21時を回ったところだった。
現在俺たちは夜のセントラルを歩いている。天井の切れ端からは夜空が覗き、星が輝いていた。こんな時間になってもドワルゴンは賑やかで、まだ多くの人や魔物が街中を歩いている。
「おぉ・・・・・・ここらはまだ活気があるなぁ」
「そりゃあドワルゴンはこの辺りじゃかなり発展してるからな。ブルムンド辺りと比べたら、住人の数も観光客の数も桁が違うし」
「それに、このくらいの時間からが本番の店だっていくつもあるぜ」
こちらを見つつ、カイジンさんがにやりと笑う。このくらいの時間から・・・・・・つまり夜が更けていくにつれ賑わう店。今向かっている店もその一つだ。
先程、カイジンさんと共に工房へ戻ってくるなり発したリムルの言葉を一瞬理解できず、俺は間の抜けた声を漏らしリムルを見つめた。意味が分からなかったので事情を説明してもらうと、なんでも仕事が片付いたお祝いとして綺麗なお姉ちゃんがいるお店──まぁ、元の世界でいうところのキャバクラだろう。そこへ行こうとカイジンさんにリムルは誘われたそうなのだが。
「いやー、俺はいいって言ったんだけど~。カイジンが今回のお礼にどうしてもって言うからぁ・・・・・・仕方なくね?仕方なく!」
どこからどう見ても滅茶苦茶乗り気なリムルに思わず苦笑した。リムルって結構スケベなのかもしれない。
そういう訳で、カイジンさんにガルムさんたち三兄弟。それに俺とリムルでキャバクラ的な店へ行く流れになったのだが・・・・・・
「・・・・・・・・・なぁリムル。俺、カイジンさんの家で待ってていい?」
俺だけ全く乗り気じゃなかった。あからさまにテンションの低い俺の頭の上に乗ったリムルが不思議そうに声を掛けて来る。
「なんだよアクト、女の子は苦手か?」
「あー・・・・・・そういう訳じゃねぇけど」
女が苦手なランドルなんて解釈違いだが、キャバクラへ行くランドルもまた解釈違いなんだ・・・・・・いや、ランドルなのはガワだけであって俺は俺なのだが、そこのところがどうしても割り切れないというか・・・・・・これだからオタクは厄介である。自分で言うな。
それに、青娥さんとガビル・・・それに爺さんや親衛隊長たちが頑張ってる中で俺だけ羽目を外し過ぎるのは流石に申し訳無さすぎる。青娥さんはなにしてるのか分からないけども。
「心配すんなよアクト。お前さんはかなり良い男だ。店の姉ちゃんたちもきっと喜ぶぞ」
見当違いなことを言いながらカイジンさんが俺の肩を叩く。さっきまでは寡黙で硬派な職人って感じだったのに、今は普通のおじさんって感じだ。いや、親しみ易くて全然悪くはないが。
「んー・・・・・・あぁ~、どうしよ・・・・・・」
悩んでいたが、逃げる口実が思い付かない。最悪、『脱獄者』の『加速』を使えばリムルからでも逃げ切れはするだろうが、ガルムさんたちから色々と教えてもらう立場なのに、彼らから黙って逃走するのもアレだ。やはり何かしら理由がないと・・・・・・
「・・・・・・・・・ん?『脱獄者』・・・・・・っ!な、なぁリムル!」
「おわっ!ど、どうしたアクト?」
その時、俺は一つ案を思い付いた。それと同時にリムルに話し掛けると、突然声を掛けられたからかリムルは俺の頭の上でぷるりと体を震わせる。
「その、急にこんなこと言い出して悪いんだけどよ・・・・・・ヴェルドラ・・・様に会わせてくれないか?」
「えっ!?」
俺の言葉が予想外過ぎたらしく、リムルは声を上げて驚いた。その声を聞いてカイジンさんがこちらを振り返る。
「ん?どうしたよ、リムルの旦那」
「い、いやいや!なんでもないよ!さっ、店まで案内してくれ!」
慌てて誤魔化すリムルを見てカイジンさんは少し怪しんでいたが、「そうか」とだけ呟くとすぐにまた前を向いて歩き出した。リムルの中に暴風竜ヴェルドラがいることをカイジンさんたちは知らない。魔鋼塊を使って瞬時に剣を二十本作成するなんてとんでもないことを平気でするリムルでも、流石に暴風竜を体内に隠していることを知られるのはマズイと分かるのだろう。
ちなみに俺の先程の言葉はリムルにだけ聞こえる程度の小声だったので、カイジンさんたちには聞こえなかったようだ。
「馬鹿アクト!いくらなんでもヴェルドラのことは言っちゃ駄目だって!」
「悪い悪い。でも、小声だったからカイジンさんたちには聞こえてなかっただろ?」
カイジンさんたちに聞こえないよう小声で怒るリムルに俺も同じく小声で謝る。俺の言った通り、カイジンさんたちにヴェルドラのことを知られなかったからか、リムルは割りとすぐに許してくれた。
「全く・・・・・・それより、ヴェルドラに会いたいって?」
「あぁ。ジュラの大森林の支配者・・・・・・とは違うかもしれねえけど、偉いヤツだし一応挨拶はしておいた方がいいかと思ってさ。俺もあそこに住んでるし」
「お前・・・・・・ヴェルドラを引き合いに出す程、綺麗なお姉ちゃんたちに会いたくないのか?」
店に行きたくないから適当な理由を言っていると思ったようで、リムルは若干呆れたような声を出す。実際その通りだと俺は内心苦笑しつつ、それを悟られないようにこう言った。
「違ぇよ。実は少し考えがあってな・・・・・・ヴェルドラを『無限牢獄』から出せるかもしれない」
「なに!?」
俺の言葉にリムルは声を上げて反応する。リムルの声に再びカイジンさんたちがこちらを振り返ったが、何とかもう一度誤魔化した。とりあえず食い付いてくれて良かった。
「危ない危ない・・・・・・それでアクト、今のはどういうことだ?」
「お前程じゃないが、俺も便利なスキルを持っててな。ユニークスキル『脱獄者』って言うんだけど、簡単に説明すると結界とかを素通りする権能があるんだ」
「へぇ、便利なスキルじゃないか。けど、それなら別に店を出た後でもいいんじゃない?」
ざっくりと『脱獄者』について説明すると、リムルはそう感嘆する。しかしすぐに想定していた質問が投げ掛けられたので、俺は小さく息を吐いて冷静に答えた。
「・・・・・・・・・いいかリムル。キャバ・・・・・・いや、綺麗なお姉ちゃんたちとは最悪他の街ででも会えるけどさ。お前とは次いつ会えるか分からないだろ?」
「え?なんでだよ」
「ほら、俺って今居候の身だからさ。その内別のとこに引っ越すかもしれないし・・・・・・それに師匠の都合で修行を付けて貰ってるから、師匠が他の国に行くって言ったら付いていくしかないし・・・・・・もしかしたら師匠の用事がもう終わってここを離れることになるかもしれないし?」
「・・・・・・うーん・・・・・・そういうことなら・・・?というか、俺たちもあそこよりもっと住みやすい場所に移るかもしれないしな」
少し無理のある理由かと思ったが、リムルは少し悩んでいる様子を見せるだけで特に反論したりしなかった。なんとか説得出来そうだと安心し、俺は一息吐く。
「・・・・・・あと、そんな店に行ったなんて知られたら滅茶苦茶弄られそうだし・・・」
「おいコラ。そっちが主な理由だろ!」
思わず漏れた本音に頭の上でぷるりと揺れながらそう突っ込むリムル。しまったと苦笑しつつ、俺は頭の上のリムルを落ち着かせるかのように優しく撫でた。
「はははは・・・・・・けど、リムルの友達と一度話してみたいって気持ちは本当だぜ。自由にしてやりたいって気持ちもな」
「ったく・・・・・・分かったよ。ヴェルドラに会わせてやる」
「本当か?」
「あぁ。今聞いたんだけど、アクトの力が未知数だから何とも言えないが、試す価値はあるかも・・・・・・みたいなことを『大賢者』も言ってたし」
俺の問いにリムルはそう返した。良かった、どうなることかと思ったがなんとか説得できたらしい。あとは店を出るまでリムルの中でヴェルドラ様と話していよう。
・・・・・・伝説の邪竜となにを話すのかという問題はあるが。
「けど、俺も『捕食者』・・・胃袋の中がどうなってるかは分からない。ヤバそうだったらすぐに出てこいよ?」
「分かった。あんまり出てくるのが遅かったらそっちから吐き出すなりしてくれ」
リムルは頷くと俺の頭から降り、正面から俺を見据える。すると彼の体がぐにゃりと歪み広がり始めた。恐らくこれが『捕食者』によって可能となる、対象を飲み込む為の力なのだろう。
俺は一度深呼吸をすると目を瞑ってそれを待つ。そして次の瞬間、全身がリムルに包み込まれた。
「────・・・・・・ここは・・・・・・」
何とも言えない感覚の後、ゆっくりと目を開く。そこは何もない真っ暗な空間だった。ドワルゴンとは空気が違う。だが、暑くもなければ寒くもない。不思議と過ごしやすい空間だった。
「なんだここ・・・・・・って、リムルに飲み込まれたんだから、あいつの胃袋の中か・・・」
「その通り!」
俺がそう呟いたその時、辺りに声が響く。その声はとても力強さを感じさせるもので、びりびりと空間が震えるようだった。そして俺は気付く。俺の後方から発せられたその声の持ち主の圧倒的な存在感に。
冷や汗を流しながらゆっくり振り返ると、そこには一匹の黒い竜がこちらを見下ろしていた。先程の声は間違いなく、この竜が発したものだろう。俺は僅かに震える声で、目の前に君臨する黒き竜を見上げこう訊ねたのだった。
「ま、まさか・・・・・・貴方は・・・・・・貴方様が・・・・・・?」
「そう!我こそが暴風竜ヴェルドラ!この世に四体のみ存在する『竜種』が一体である!クァーーーハハハハハハハッ!!!」
ヴェルドラさん登場回でした。