転生したら蜥蜴人族の友人と邪仙の恋人ができた件   作:乃出一樹

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お待たせしました、第44話となります。

評価バーが赤に・・・!ありがとうございます!これからも皆様に楽しんで頂けるよう頑張ります!


首領の想い

「し、進化ぁ!?」

 

「ガビル様が更にお強く・・・・・・というか、アクト殿が名付けを・・・!?」

 

 

 

シス湖の地下大洞窟──首領の間にて、ガビルの新たな姿を前にして親衛隊長と爺さんはあんぐりと口を開けて驚愕する。玉座に座ったままの首領は何も言わずにいるが、二人と同じように大口を開けた様子を見る限り驚いてはいるようだ。

 

あの後・・・・・・ガビルの予想外の進化に俺と青娥さんは滅茶苦茶驚いた。まさか既に名前のあるガビルに名付けが出来るなんて夢にも思わなかったし。名前の上書き・・・・・・とでも言えばいいのだろうか、こんなことが出来るだなんて青娥さんも知らなかったらしい。

 

何が起きたのか教えようと、青娥さんが取り出した鏡で自身の姿を見て慌てるガビルを落ち着かせた俺たちは、とりあえず首領たちに報告した方がいいだろうと判断し今に至るという訳だ。

 

ちなみに、名付けの際に消費した俺の魔素は回復している。正直ホッとした。

 

 

 

「うむ・・・・・・妹と爺の気持ちも分かる。なにせ当の本人である我輩も驚いているからな・・・急に翼とか生えたし」

 

「種族はアクトくんと同じドラゴニュートになったようです。アクトくんと違って人間の姿ではなく、魔物としての姿のままですが」

 

 

 

背中に生えた翼を気にするガビルの隣に立ち、青娥さんがそう説明する。青娥さんのスキルで解析した結果、ガビルはリザードマンから俺と同じドラゴニュートへと進化を果たしたということが分かった。ランクとしてはAランク越えらしい。青娥さんが言うにはまだ俺の方が魔素量は多いそうだ。

 

 

 

「す、すみません・・・・・・まさかこんなことになるなんて。本当に名付けするつもりじゃなかったんです。その、冗談でやったら本当に名付けが成功しちゃって・・・・・・」

 

「待て、アクト殿のせいではないぞ!そもそも我輩がそう話を振ったのが原因である!」

 

 

 

首領たちに謝る俺を見たガビルは慌てて擁護してくれた。その時、驚愕していた爺さんが我に返り首領に声を掛ける。

 

 

 

「ふむ・・・・・・まぁ、別に構わないのではありませんか?首領。アクトさんたちの言うとおり、これは事故のようなものですし。そもそも二重に名付けが出来るなんて誰も知らなかったのですしねぇ」

 

「・・・・・・・・・首領、私もそう思います。弱くなったのならいざ知らず、強くはなった訳ですから」

 

 

 

爺さんだけでなく親衛隊長もそうフォローを入れてくれた。二人の言葉を聞いた首領は表情を普段の威厳あるそれに戻し、一つ咳払いしてから口を開いた。

 

 

 

「・・・・・・・・・そうだな。爺の言うとおりこれは事故であろう。それにリザードマン以外の種族になったとしても、それを咎める掟など無い。そして、我が息子が力を得たというのは悪くない話・・・・・・アクト殿、この件は不問としよう」

 

「おぉ!感謝しますぞ親父殿!」

 

 

 

首領の言葉に俺は胸を撫で下ろす。首領の息子の種族を変えてしまったのだし、変なことをした罪で追放・・・なんてことにならなくて良かった。

 

俺と同じくガビルもその言葉を聞いて安心したのか笑顔を浮かべる。その時、首領はガビルを鋭い目付きで見据えこう言った。

 

 

 

「だが息子よ。お前のその力は偶然手に入ったものだ。確かに、最近のお前は修行に熱を入れていたが、今のレベルにまで達するには本来相当の時間が掛かった筈・・・・・・それくらいは分かるな?」

 

「は、はい・・・・・・!」

 

「ならば、今回の成長に浮かれることなくより一層精進せよ。我等リザードマンの次期首領を目指すのならな」

 

「・・・・・・御意」

 

 

 

首領の厳しい言葉にガビルは沈んだ表情でそう答えた。普段とは全く違う、どこか弱々しいガビルの姿に俺と親衛隊長は声に出さず驚き、爺さんと青娥さんは何も言わず二人を見つめる。

 

 

 

「・・・・・・話は終わりだ。もう行って良いぞ、息子よ」

 

 

 

言いたいことを伝え終えた首領は瞳を閉じると、少し間を開けてそう告げる。ガビルは首領の言葉に応えることなく静かに頭を下げると部屋の出口へと歩き出した。

 

 

 

「ガビル・・・・・・」

 

「アクト殿。先に外へ出ているぞ」

 

 

 

俺が声を掛けると、ガビルは僅かに笑みを浮かべそう答えた。だが、無理矢理作った笑顔だというのは誰の目から見ても明らかで。その顔を見て何も言えなくなった俺は、ガビルが部屋を出ていくのをただ見ていることしか出来なかった。

 

 

 

「ガビルさんなら心配要りませんわ。今は少しだけそっとしておいてあげましょう?」

 

「・・・・・・そうですね」

 

 

 

いつの間にか隣に来ていた青娥さんは、そう言って撫でるように俺の肩に手を置いた。青娥さんの言う通り、今は一人にさせてやろう。

 

そう俺が思っていると、立ち去るガビルの背中を黙って見つめていた親衛隊長が小さく声を上げた。

 

 

 

「首領・・・・・・あれで良いのですか?ガビル殿は・・・・・・兄上は、父である貴方に・・・・・・」

 

「良い。・・・・・・良いのだ」

 

 

 

親衛隊長の言葉を遮るように首領は告げる。その言葉に親衛隊長は俯き口を閉ざしてしまった。そんな二人を見ていた俺は少し考えた後、意を決してその場から一歩踏み出し首領と向かい合う。

 

 

 

「・・・・・・あの、首領」

 

「どうした、アクト殿。実の息子の名すら呼んでやらず、冷遇する儂を・・・・・・裁くか?」

 

「しゅ、首領・・・・・・!」

 

 

 

僅かに口元を歪め、首領はそう言った。まるで挑発するような物言いに親衛隊長と爺さんが焦りを見せる。もし俺と首領が戦うことになれば、ほぼ間違いなく俺が勝つだろう。俺たちの実力差を理解している二人からすれば当然の反応だった。

 

だが俺は、首領の言葉に対し首を横に振ると彼を真っ直ぐ見据えこう告げた。

 

 

 

「・・・・・・しませんよ、そんなこと。あなたは冷たく見えるけど・・・・・・でも、きっと優しい人だ」

 

 

 

予想外の言葉だったのか、首領は目を丸くして俺を見つめる。その反応がどこかおかしくて・・・・・・そして、ガビルに似ているような気がして、俺は僅かに口元を緩めた。

 

 

 

「ここに来てから一ヶ月と少し・・・・・・多くはないけど貴方と何度か話す機会はあった。そして、貴方のことを他のリザードマンたちから聞くことも何度か」

 

 

 

そのリザードマンたちの中に、ガビルも含まれていることは言わないけれど。

 

 

 

「貴方は立派な人・・・いや、魔物です。そして優しい父親だとも思う・・・・・・俺の父親も優しい人だったから、皆から貴方の話を聞く限り・・・それと、貴方自身を見ればなんとなく分かります」

 

「・・・・・・・・・」

 

 

 

俺の言葉をただ黙って首領は聞いていた。止めようとしないのならば話し続けても構わないのだと判断し、俺はさらに続ける。

 

 

 

「ガビルへ放つ言葉は厳しくて冷たいかもしれないけど、彼を見る貴方の目は優しかった。ガビルを大切にしているのに冷たくするのは、勿論次期首領であるあいつを甘やかさずに育てる為でしょう。

 

けど・・・・・・断固として名前を呼ばないのは、その名前を認めていないから・・・・・・いや──貴方自身が、ガビルに名前を付けてあげたかったから。違いますか?」

 

「───・・・・・・」

 

「あ、アクトさん・・・・・・!」

 

 

 

傍にいた爺さんが驚く素振りを見せる。しかし、それは俺の指摘した内容にではなく、俺がそこに気付いたことにだろう。

 

俺の問いに対し首領は沈黙していたが、やがて大きく息を吐くとぽつりと呟いた。

 

 

 

「──託されたのだ。妻に・・・・・・奴の母にな」

 

「託された?」

 

 

 

繰り返すように俺は呟く。首領はそこで一度口を閉ざすと目を伏せた。何を話そうか考えているのだろうか、そんな彼を一瞥した親衛隊長は、俺に向き直ると彼に代わって口を開いた。

 

 

 

「・・・・・・アクト殿。私と兄上の母については、御存知でしょうか」

 

「あぁ・・・・・・前に少しだけガビルに聞いた。亡くなってるんだよな」

 

 

 

修行を始めてすぐの頃だったと思う。なんとなく、本当になんとなくガビルに家族の話題を振り、そこから彼の母について訊ねたことがあった。その時に知ったのだ、彼の母親が既に亡くなっていることを。

 

辛いことを聞いてしまったと俺は慌ててガビルに謝罪すると、彼は気にしていないと笑ってくれた。だが、俺はあれ以来ガビルに母親の話を聞くことはなかった。

 

 

 

「そうでしたか・・・・・・はい、その通りです。私たちの母は、私たちを産んで体調を崩し、それから数年後に亡くなりました」

 

「出産の後に・・・・・・体が弱かったのか?」

 

「そうではない・・・・・・あぁ、いや・・・それもあるのかもしれぬが、原因は違う」

 

 

 

俺の問いに、親衛隊長ではなく首領が答えた。どうやら話す内容を決めたようだが、途中僅かに言い淀む。どうしたのかと俺は訝しげな視線を送るが、首領は気にせず続けた。

 

 

 

「アクト殿。我等魔物が力を得る・・・そして与える方法は名付けだけではない・・・・・・生殖行為によっても、力を与えることが出来るのだ」

 

「せ、生殖行為で?それはどういう・・・・・・」

 

 

 

予想外の方法に俺は少し驚く。先程とは変わって、首領が俺の反応を見て小さく笑った。

 

 

 

「通常の生殖行為・・・種だけを分け与える場合は何も問題は無いのだ。力が減ることはほぼなく、生まれてくる子供の能力はその種族の平均的なものとなる。

 

しかし、本気の子作り・・・・・・言葉で説明するのは難しいのだが、生まれてくる子供のことを意識して力を込めつつ生殖行為を行うと、子供は親の力を大きく・・・或いは同じだけ受け継ぐのだ」

 

「ですが、一方で親は力が減退し、さらには寿命も縮んでしまう可能性があるのですよ。その為に名付けと同様、安易に行えない行為と言えますね」

 

 

 

首領の説明を補足するかのように爺さんが続けた。首領は爺さんの説明を聞くと、それを肯定するかのように静かに頷く。

 

 

 

「成程、本気の子作り・・・・・・」

 

「なんだかエッチな響きですよね!アクトくん♪」

 

 

 

そう呟いた俺に顔を寄せ、青娥さんは満面の笑みで・・・・・・いや、いつもの誰かを揶揄う時の顔でそう言った。空気の読めない青娥さんの発言に場のシリアスな空気が即死する。親衛隊長と爺さんはややずっこけ、首領に至っては玉座から滑り落ちそうになっていた。不覚にも、なんだかコントを見てるようで少し面白かった。

 

 

 

「青娥さーん・・・・・・?そういうのは後で聞きますから今は真面目にしててくれますぅ・・・・・・?」

 

「やーん♪」

 

 

 

ぐいっと青娥さんの顔を押し退け、俺は溜め息を吐く。分かってはいたが、この反応からするに全く反省していない。その時、話を続けたい首領は大きく咳払いをした。

 

 

 

「うぉっほん!・・・・・・で、だ。儂と妻は生まれてくる子に力を引き継がせようと、本気の子作りをした。結果、名付けされる前の息子も、そして娘も全盛期の儂に匹敵するまでに成長したのだが・・・・・・」

 

「・・・・・・首領も、奥さんも弱体化を?」

 

 

 

そこまで言って言葉を詰まらせた首領に俺はそう訊ねた。そう問われた首領は静かに頷く。

 

 

 

「その通り・・・・・・だが、親に起こる弱体化に差があるとは知らなかった。儂は魔素が減っただけで済んだが、妻は魔素量の減退だけでなく、寿命を大きく削ってしまった」

 

 

 

俯いたまま、悲しげな顔で首領は呟く。亡くなった奥さんのことを思い出しているのだろうか・・・・・・きっと、心から愛していたのだろう。

 

 

 

「元から妻は体が丈夫では無くてな・・・・・・それが子作りと出産で弱ってしまい、二人を産んで数年後に・・・・・・」

 

 

 

そこまで言って、首領は再び目を伏せる。ふと気付くと、爺さんも俯いていた。歳から察するに爺さんも首領の奥さんを知っている筈。彼もまた、その人を思い出しているのだろう。

 

 

 

「・・・・・・妻は、優しいリザードマンだった。いつも自分のことより他者のことを考えていた。少しは自分を優先しろといつも言っていたのだがな」

 

 

 

ふ、と首領が僅かに微笑む。一瞬しか見せてくれなかったが、優しい笑顔だった。

 

 

 

「その性格は最期の瞬間まで直らなかった・・・・・・あいつは息を引き取る寸前に言ったのだ・・・『子供たちを頼む。そして、傍に居てやれない自分の分までこの子たちを見守って欲しい』と。そして・・・・・・儂を、家族を、『愛している』・・・と・・・」

 

 

 

その言葉を最後に、再び首領は口を閉ざしてしまった。小さく息を吐き、虚空を見上げる。その一瞬、一筋の雫が彼の頬を濡らしたのを、俺は何も言わず見ていた。

 

 

 

「・・・・・・・・・私は、魔素量こそ並のリザードマンを上回っていますが、上に立つような器ではありませんし、そのつもりもありません」

 

 

 

すると、親衛隊長がぽつりと呟いた。そちらを振り向くと、親衛隊長は俺と視線が合ったことを確認してさらに続ける。

 

 

 

「一方で兄上は、実力は勿論、同族からの信頼も厚い。首領になりリザードマン族を導いて行こうという気概も持ち合わせています・・・・・・ですが、どこか抜けていると言いますか・・・・・・その・・・少し不安になる部分もあるでしょう?」

 

 

 

歯切れの悪い親衛隊長の言葉に思わず苦笑する。確かに彼女の言いたいことは分かる。ガビルはどこか天然というか、あぶなっかしいところがあるのは事実だ。まぁ、そういうところも割りと愛嬌を感じて決して悪い点というだけでは無いと個人的には思う。

 

 

 

「アクト殿の言う通り、首領は・・・・・・父上は、本当は自ら兄上に名付けをしたかったのです。しかし、名付けをして弱体化してしまったら、万が一の時に兄上を諌めることが出来なくなってしまう・・・・・・」

 

「・・・・・・寿命の問題もある。リザードマンの寿命は50~70年程・・・・・・儂も良い歳だ、名付けによって弱体化すれば、そのままぽっくり逝く可能性も無くはない」

 

 

 

親衛隊長が言い終わると、少し間を置いて首領が口を開いた。リザードマンの寿命について聞かされた俺は内心で少し驚く。リザードマンは人間よりも平均寿命が短いのか・・・・・・魔物というのは基本的に人間よりも強い種族ばかりだし、寿命も人間より長いのだと勝手に思い込んでいたからである。確かに寿命のことまで考えると、首領が慎重になるのも頷けた。そして悩んでいる内に、ゲルミュッドが大切な息子に勝手に名付けをしてしまったということか。

 

 

 

「最も・・・・・・今の息子にはどうやっても勝てそうにないがな。リザードマン族に代々伝わるこの特質級の魔槍、水渦槍(ボルテクススピア)を持ってしても」

 

 

 

そう言って首領は玉座の隣に置かれた三又の槍を一瞥する。ガビルが首領になったらあれを受け継ぐのか。バーニングランスとボルテクススピア・・・・・・二槍流になるのか、どちらかだけを使うのか。少し気になったが、一旦それは頭の片隅に追いやる。

 

 

 

「そうですね・・・・・・多分、俺が名付けをする前の状態でも勝てなかったんじゃないでしょうか。ガビルの奴、滅茶苦茶頑張って修行に励んでましたから」

 

「ふっ、かもしれんな・・・・・・息子は少し変わったような気がする。アクト殿が来てくれてから・・・・・・友と、なってくれてから」

 

 

 

俺の言葉に、首領はどこか嬉しそうに僅かに微笑む。ガビルの父親である彼にそう言って貰えたのが嬉しくて俺が頬を綻ばせていると、首領は玉座から降りこちらへ歩いてきた。

 

 

 

「・・・・・・アクト殿。奴の父親でありながら、お主にこんなことを頼むのはどうかと思うが・・・・・・息子のことをよろしく頼む。お主が傍に居てくれれば、奴はきっと大丈夫・・・そんな気がするのだ」

 

 

 

目の前で頭を下げる首領の姿に俺は勿論、親衛隊長と爺さんも驚いた。青娥さんだけは全く無反応であるが。

 

突然のことに俺は面食らってしまったが、やがて父親としての首領の想いを理解し、その想いの暖かさに笑みを浮かべながら答えた。

 

 

 

「・・・・・・はい、勿論です。ガビルは俺の大切な・・・友達ですから」

 

「・・・・・・!・・・・・・ありがとう」

 

 

 

顔を上げ、僅かに震える声で首領は答えた。

 

さて、今日ここで聞いたことは、一先ずガビルには内緒にしておこう。今以上に首領との関係が拗れるようなら話は別だが・・・・・・これは家族の問題でもあるし、何より・・・・・・

 

首領の想いは、息子のガビル自身が気付くか──父親である彼自身の口から、語られるべきだと思うから。




ガビルの母については完全に妄想です。もし原作の方や書籍の方でなにか記述があるようでしたら・・・・・・すみません。
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