転生したら蜥蜴人族の友人と邪仙の恋人ができた件   作:乃出一樹

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お待たせしました、第54話となります。

今年もあと一週間ですね。来年もよろしくお願いします。


獣王国ユーラザニア

その日、シス湖の空は雲一つ無く晴れ渡っていた。

 

見上げればそこに広がる一面の蒼は、まるでこの地に生きる生き物全てを祝福しているかのようで、それと相まって今日のシス湖の景色は一段と美しく見える。

 

 

 

しかし・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

「おはようございまーす♪」

 

「・・・・・・おはようございます」

 

「うむ・・・・・・おはよう」

 

 

 

そんな澄み渡る空とにこやかな笑顔を浮かべる青娥さんとは違い、俺とガビルの表情は憂鬱だった。別に体調が悪い訳ではない。昨夜の宴で羽目を外して飲みすぎたとかでもない。そもそも俺は酒を呑まないし、なんならガビルも昨日は一滴も酒を呑まなかった。

 

だというのに何故このように暗い顔をしているのかも言えば理由は一つ。

 

 

 

「それでは、早速魔王の元へしゅっぱーっつ!」

 

 

 

・・・・・・そう、魔王に会いに行くからである。ちなみに拒否権なんて無かった。

 

 

 

「・・・・・・本当に行くんですね。魔王のとこに」

 

「はい♪行っちゃいまーす♪」

 

 

 

消え入りそうな声で確認を取る俺に、青娥さんは微笑みながらそう返した。昨日の言葉が冗談でも何でもないことを改めて思い知った俺は俯きながら溜め息を吐く。何のためにそんな奴の所へ行くのかと昨日聞いたのだが、「内緒です♪」としか答えてくれなかった。まさかとは思うが、俺たちを揶揄う為だけに魔王の所へ行くんじゃないだろうな、この人・・・・・・

 

 

 

「はぁ・・・・・・昨日はあんまり楽しめなかったぜ・・・」

 

「我輩もだ・・・・・・折角の槍脚鎧蜘蛛(ナイトスパイダー)だったというのに味が半減した気がするのである・・・・・・」

 

 

 

昨夜はガビルが倒したナイトスパイダーを使って多くのリザードマンたちの宴が行われた。皆大いに食べ大いに呑み、賑やかで楽しい時間を過ごせただろう。中には呑みすぎて顔色が悪い連中もいるようだが・・・・・・それでも、今の俺たちより精神状態はずっとマシな筈だ。

 

 

 

「あらあら、どうしたんですか二人とも。昨日は美味しい料理を食べて英気を養えたのでは?」

 

「最後の晩餐になるかと思ったらあんまり箸が進まなくて・・・・・・」

 

「ふふふ、アクトくんてば心配性ですねぇ。大丈夫ですよ、アクトくんのことは私が守りますから」

 

「えっ、我輩は?」

 

 

 

浮かない表情の俺を案じてか、青娥さんは微笑みながらそう言ってくれた。そしてガビルの問いには答えなかった。シカトされ真顔のまま固まるガビルを横目で見つつ俺は苦笑する。

 

 

 

「はは・・・・・・そう言ってくれるのは嬉しいですけど、流石に魔王が相手じゃ青娥さんだって──」

 

「なにせその魔王、以前倒してますので」

 

「そう、倒してますので──倒してますのでぇ!?」

 

 

 

さらっととんでもないことを言い放った青娥さんに俺は思わず声を上げ驚愕する。なんだかノリツッコミのようになってしまったがそんなことはどうでもいい。ガビルもたった今スルーされたことなど忘れたかのように目を見開き驚いていた。

 

 

 

「なんですとぉおおおおっ!?せせせせ、青娥殿!魔王を倒したというのは本当であるか!?」

 

「えぇ、数年前にちょっと色々ありまして・・・・・・その時にえいっと♪」

 

 

 

可愛らしく拳を突き出す身振りをして説明しているが、その内容は全然可愛く無い。彼女から告げられた衝撃の事実に俺とガビルは絶句していた。

 

しかし青娥さんが魔王より強かったとは。前々から只者じゃないとは思っていたけど、そりゃ余裕がある訳だ。

 

 

 

「は、ははは・・・・・・それを聞いたら少し落ち着いたぜ・・・・・・それで青娥さん。その魔王ってのはどういう奴なんですか?」

 

「あぁ、そう言えばまだ何も教えてませんでしたね。これから会いに行く魔王の名は『カリオン』。獅子王(ビーストマスター)の異名を持つ、獣王国ユーラザニアの支配者です」

 

「魔王、カリオン・・・・・・」

 

 

 

カリオン。その名を俺は静かに繰り返す。一体どんな人物なのか俺が想像していると、青娥さんはユーラザニアについて次のように解説を続けた。

 

獣王国ユーラザニアは、獣人族(ライカンスロープ)という魔物が中心の国。とは言ってもライカンスロープだけでなく、人間や亜人など多くの種族が暮らしており、人口数は三億にものぼるとのこと。首都は自然と調和する素朴な石造りの街で、温暖な気候を活かした果実園で出来る様々な果物が主な特産品だそうだ。ちなみに人間の国と違い貨幣は導入されていないので、買い物などの取引は物々交換らしい。

 

 

 

「ふむ、ライカンスロープか・・・・・・聞いたことはあるがジュラの大森林にはいない魔物である故にそう詳しくは無い・・・・・・済まぬが青娥殿、そちらについても教えて貰えるか?」

 

 

 

顎に手を当てガビルが青娥さんに訊ねる。俺も丁度気になっていたことだったので青娥さんを見つめ頷くと、彼女は微笑みながら快く教えてくれた。

 

 

 

ライカンスロープとは獣と人間、双方の性質を持つ半人半獣の人型種族。『獣身化』という種族固有のスキルを持ち、獣へと変身することが可能な亜人種だ。犬や猫、猿や熊に鳥以外にも蛇や象など、個体毎に様々な動物の性質を持つという。

 

基本的に好戦的な性格で弱肉強食を体現したような種族だが、魔物ランクは個体によって幅があるらしい。ちなみに魔王カリオンも種族としてはライカンスロープだそうだ。

 

 

 

「ふーん・・・・・・じゃあ、とりあえず獣人っぽい魔物は皆ライカンスロープってことか」

 

「そんな感じです。あ、ですけど・・・・・・犬頭族(コボルド)兎人族(ラビットマン)などもいますから注意してくださいね。それらの種族は『獣身化』を持たない劣化獣人と言われてます」

 

「少しややこしいな・・・・・・」

 

 

 

頭を掻くガビルに俺は確かにと呟き軽く笑う。コボルドやラビットマン・・・・・・どちらも知らない種族なのでこちらともいつか会ってみたいものだ。

 

 

 

「ホッホッホッ・・・・・・こちらにおりましたか皆さん」

 

「グルルッ!」

 

 

 

その時。背後から声を掛けられ、そちらを振り向くと爺さんとシーザーがこちらに向かって来ていた。俺たちの視線を受けたシーザーはどこか嬉しそうに速度を上げてガビルに駆け寄る。

 

 

 

「おぉシーザー!よしよし、どうしたのである?」

 

「ガビルと俺たちを見送りに来てくれたのかね」

 

「ガァウッ!」

 

 

 

自分に飛び込んでくるシーザーを受け止め、その頭を撫でるガビルに釣られるように俺もシーザーの体に触れる。その際に呟いた俺の言葉に反応したのか、シーザーは俺に顔を向け何かを訴えるように一声鳴いた。

 

 

 

「ん?なんだよシーザー」

 

「シーザーはガビル様と・・・・・・いえ、皆さんと一緒に行きたいのですよ。だからこうして追い掛けてきたのです」

 

「そうなのかシーザー?しかし、今から我輩たちが向かう場所は・・・・・・」

 

 

 

シーザーの代わりに爺さんがそう答えた。それを聞いたガビルは表情を曇らせ言葉を詰まらせる。いくらシーザーが名付けのより強くなったとはいえ、これから向かう場所は魔王の支配地。ガビルとしてもそんな場所にシーザーを連れていくのは不安なのだろう。

 

しかし、そんなガビルの不安など知ったことではないと言った顔で青娥さんが口を開いた。

 

 

 

「いいんじゃありません?シーザーを連れて行っても」

 

「なぬ!?」

 

「いや、けど青娥さん。相手は魔王ですよ?昨日倒したナイトスパイダーとは訳が・・・・・・」

 

 

 

その発言に思わずガビルは驚き、俺は慌てて彼女にそう訴える。その反応を見た青娥さんは小さく笑ってから俺に答えた。

 

 

 

「ふふふ、そんなに心配しなくても平気ですよ。なにも魔王を倒しに行く訳じゃないんですから」

 

「そうは言っても・・・・・・」

 

「魔王が襲ってきたら私が何とかします。アクトくんたちを絶対に死なせはしません・・・・・・私を、信じてくれませんか?アクトくん」

 

 

 

不安に思う俺に青娥さんは一歩近付く。そして俺の顔を覗き込むように見つめながら、青娥さんは優しく微笑んでそう言った。不意に迫った彼女の綺麗な顔と吸い込まれるような瞳を前にして、俺は思わず照れてしまい言葉を失いつつ視線を逸らした。そんな俺の内心を知ってか知らずか、青娥さんは反応の無い俺に微笑んだまま首を傾げる。

 

・・・・・・・・・ホント狡い人だ、青娥さんって。

 

 

 

「あー・・・・・・その、それじゃ・・・・・・シーザーも連れて行ってみるか?ガビル」

 

「そうであるな・・・・・・青娥殿がここまで言うのであれば問題ないであろう。ではシーザーよ、共に行くとするか!」

 

「グルァアアッ!」

 

 

 

諦めたように吐き出した俺の言葉にガビルが頷く。そして彼に同行を許可されたシーザーは嬉しそうに吠えた。

 

 

 

「はーい!それではメンバーも決まったことですし、そろそろ出発するとしましょうか。『空間移動』で向かいますので私の傍に寄って寄って~♪・・・・・・ちょっとガビルさん近いですよ」

 

「えっ、寄れって言ったのに・・・・・・」

 

 

 

手招きする青娥さんだったがガビルにだけ冷たかった。勿論冗談だろうけど。その言葉を受けて信じられないと言った様子で目を丸くするガビルを見て、とても申し訳ないのだが吹き出しそうになってしまう。なんだろう、ガビルってそういうキャラなのだろうか・・・・・・

 

 

 

「あんまりガビルをイジメないでくれませんかね青娥さん・・・・・・っと、それじゃ行ってくるよ爺さん。多分無事に帰って来られると思うから安心してくれ」

 

「う、うむ。我輩たちが留守の間、ここを任せるぞ爺!」

 

「えぇ、お任せください・・・・・・皆さん、どうかお気を付けて」

 

 

 

青娥さんに軽く注意をし、俺とガビルは爺さんに出発の挨拶をした。爺さんからの見送りの言葉を受け、俺は青娥さんに向き直る。

 

 

 

「んじゃ青娥さん。行きましょうか」

 

「ふふ、そうですね・・・・・・それでは獣王国ユーラザニアへ、出発しまーす♪」

 

 

 

青娥さんの明るい声を受け、俺たちは彼女に密着するように集まり彼女の肩に触れる。シーザーはそのサイズからして無理だったので、代わりにガビルの体に密着していた。

 

そして全員が密着したことを確認すると、青娥さんは『空間移動』を発動させるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──はい到着~♪」

 

「・・・・・・いや、分かってたけど本当一瞬ですね」

 

 

 

『空間移動』を終え、明るい声色で青娥さんが告げる。地図上で見るとシス湖からユーラザニアまでかなり距離があるのだが、青娥さんにかかればそんなものは関係無かった。俺もこういうスキルか魔法が欲しい。

 

 

 

「・・・・・・ふむ。青娥殿、ここはどこである?どこかの建物内のようだが」

 

 

 

隣にいたガビルが辺りを見回しながら訊ねた。彼の言葉を聞いて同じく俺も周囲を確認して見ると、言うまでも無いがそこはシス湖では無かった。どことなく豪華な石造りの部屋、と言った場所である。

 

 

 

「そうだな、てっきりドワルゴンの時みたく街中にでも出ると思ったら・・・・・・それで、どこなんですか青娥さん?」

 

「魔王の城です♪」

 

「なんでいきなりそんなとこに飛ぶんだよ!!!」

 

 

 

頭を抱えながら思わず叫んだ。何考えてるんだこの人は・・・・・・道中すっ飛ばしていきなり魔王(ラスボス)のとこに行く奴があるかよ・・・・・・いくら戦いに来た訳じゃないと言っても、何者かが突然自分の居城に現れたら相手に警戒されるだろうに。どんな意図なのかと青娥さんの様子を伺うと、彼女はよく見る悪戯な笑みを浮かべていた。

 

これ、絶対俺たちを揶揄う為にわざとここへ転移しただろ。本当にこの人はもう・・・・・・!

 

 

 

「青娥殿ぉおおお・・・・・・!・・・・・・はぁ・・・と、とにかく・・・・・・近くに誰も居なくて助かったのである。どうやらここは玉座の間のようだが・・・・・・」

 

 

 

青娥さんに怒鳴り掛けたガビルだったが、そんなことをしても無駄だと悟ったのか、やがて声を抑えて溜め息を吐いた。そして呆れながら改めて周囲を見渡し始める。彼の言葉通り、よく見ると奥に玉座らしきものも見える。そこに座る主はどうやらいないようだが。そのことにガビル共々ほっと胸を撫で下ろした。

 

・・・・・・・・・その時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「──誰だ。俺様の城で騒いでいる奴は」

 

「────ッ!?」

 

 

 

低い声と共に突如凄まじい威圧感が俺たちにのし掛かった。思わず息が詰まりそうになるのを耐えながら声のした方へばっと振り向く。すると、玉座の隣にある通路から一人の男が現れた。

 

 

 

「グルルル・・・・・・!」

 

「アクト殿、気を付けるのだ・・・・・・!」

 

「あぁ、分かってる・・・・・・とんでもねぇな、こりゃ・・・!」

 

 

 

即座に臨戦態勢に入ったガビルに頷き、俺は『魔力感知』でその男を視る。凄まじい魔素量、妖気(オーラ)だった。俺やガビルなど話にならない。しかも、自然体のように見えて全く隙が無い。見ただけで何となく分かるこのとんでもない強さ・・・・・・恐らく、こいつが魔王カリオン・・・・・・!

 

 

 

「んん・・・・・・見ない顔だな。レッサードラゴンに、リザードマン・・・いや、ドラゴニュートか。それに人間と──」

 

 

 

不思議そうな顔で魔王は俺たちを見下ろす。知らない奴らが突然自分の居城に現れたというのに部下を呼んだりなどしないらしい。仮に賊だとしても、自分でどうにかできるという絶対の自信があるのだろう。

 

魔王はガビルの種族は見破ったが、俺のことは人間だと勘違いしたようだ。妖気は抑えていたし、外見だけなら完全に人間なのでぱっと見ただけでは分からない筈。もしかするとこの魔王は青娥さんのように鑑定系のスキルを持っていないのかもしれない。

 

そして魔王の視線が、俺から青娥さんに移ったその時──・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら。お久しぶりですカリオン様♪」

 

「げぇーーーッ!?青娥!?」

 

 

 

・・・・・・・・・げぇーって言ったぞ、この魔王。




カリオン推しの方、申し訳ありません・・・・・・

それはそうと、カリオンって一人称が「俺様」だったり「俺」だったりしますよね。これって魔王の座を降りる前と後で変わってるんでしょうか。それとも気分・・・?
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