転生したら蜥蜴人族の友人と邪仙の恋人ができた件 作:乃出一樹
気付けば大分暖かくて過ごしやすい季節になってますね。花粉症の方には辛い季節かもですけど。
更なる変身を遂げたアルビスを前にして、俺は絶句していた。決して彼女を侮っていた訳じゃない。相手は魔王の側近・・・・・・ならばきっと、今まで戦ってきた誰よりも強いだろうと覚悟はしていた。
だが、これは流石に予想外である。外見はそこまで変化した訳じゃない。角は増えているが、面影は残っているし一目見ればアルビスだとすぐに分かる。
だが、魔素量は先程までの彼女のそれを遥かに越えていた。今まで戦ってきた連中の誰よりも多い彼女の魔素量をひしひしと肌で感じながら俺は訊ねた。
「二回目の変身だと・・・・・・!?」
「はい。獣王戦士団の中で、私だけが可能とする境地です・・・・・・ふふ、少しは驚いて頂けたようですね」
俺の驚いた様子を見たからか、アルビスは満足そうに微笑む。しかし、柔らかな声と表情とは裏腹にその目からはどこか冷たいモノを感じる。まるで、獲物を前に舌舐めずりする獰猛な獣のようだった。
・・・・・・・・・しかし、昨日戦ったケーニッヒより強い奴なんていくらでもいるよなぁ・・・・・・あいつ、自分のこと「最強魔人」だとか「魔王になる」なんて色々言ってたけど、俺やアルビスは勿論、フォビオにも絶対勝てないと思う。魔素量だけで見ればガビルとそう変わらないしな。全く、上を見れば果てが無い世界である。
「・・・・・・・・・本当、とんでもねぇ奴らがゴロゴロいるよな、この世界。くく、はははは・・・・・・!」
「・・・・・・?何が可笑しいんです?」
「いや・・・・・・可笑しいんじゃない。嬉しいんだ」
俺は堪らず表情を綻ばせた。この世界に来て初めて、本気で戦えそうだと。こんなことを考えてしまう辺り、元の世界にいた頃の自分とはもう違うのだろう。初めは身体を思いっきり動かせるのが楽しかっただけだったが、すっかり戦闘狂みたいになってしまった。
「すげえ変身を見せてくれた礼だ。俺も見せてやるよアルビス・・・・・・フルパワーをな!」
口角をつり上げ、俺も魔素を全開に放ちフルパワーになる。青娥さんとの修行では何度かフルパワーになったが、実戦では初めて・・・・・・いや、ケーニッヒの時にも一瞬使ったな。いや、でも・・・・・・あれはノーカンにしとこう。攻撃の瞬間だけだし。
「この姿になっても、まだ魔素量では劣りますか・・・・・・!」
「つっても、そこまで大きい差じゃねえだろ?正直割りと焦ってはいるんだぜ。だから、ここからはこっちも全力だ・・・・・・ッ!」
言い終えると同時に、俺は真正面からアルビスへ殴り掛かった。俺の本気の速度にアルビスは目を見開き驚いていた様子だったが、すぐに反応し両腕をクロスさせ攻撃を防ぐ。
「ぐっ・・・・・・重い・・・!」
「ふっ!おらぁっ!」
攻撃を受け止めたアルビスは苦しげにそう零す。そんな彼女を気にすることなく、俺は空中で体勢を変えると脚を下から振り上げアルビスのガードを崩した。
「そこだ!」
「甘いっ!」
がら空きになった胴体へ追撃しようとした時、アルビスは角から電撃を放った。近距離だった為に回避しようが無く、全身に電撃を浴びる。その凄まじい威力に俺は空中に縛り付けられるように硬直し、追撃は失敗した。
「がっ!?」
「ふんっ!」
そして動きの止まった俺へ、アルビスは身体をくねらせ尻尾を叩き付けた。変身する前に受けた攻撃の何倍もの威力を持つ彼女の攻撃に俺は勢い良く吹き飛ばされる。だが、すぐに『飛空法』を駆使し無理矢理体勢を整え、ざざざ、と地面を削るようにして着地した。
「いてて・・・・・・今のは効いたぜ」
「・・・・・・そうは見えませんけど?」
「嘘じゃないさ。まぁ、『身体強化』があるからそこまで大ダメージって訳じゃないのも確かだけどよ」
そう。実はアルビスへ殴り掛かる直前から、俺は『身体強化』も使用していたのである。このスキルを発動し、さらに魔素を全開にしていたお陰でアルビスの攻撃によるダメージを大きく軽減出来たのだ。
「『身体強化』までお持ちとは・・・・・・通りで先程よりも肉体が強固な筈です」
「発動し続けられる時間制限はあるけどな。けど、このスキルを使ってまだ倒し切れない相手はお前が初めてだぜ?」
ドワルゴンで戦ったアーマーサウルスには過剰過ぎる力だった。上位魔人であるケーニッヒでさえ素の力でどうにか出来たし。それも一瞬だけの力の解放で。自惚れる訳では無いが、その辺の魔物では俺の相手にはならないだろう。
勿論、青娥さんやカリオン様が相手ならば本気で戦える。しかし、あの二人が相手では今の俺など本気を出したところですぐに倒されてしまう。別に負けるのが嫌な訳じゃない。例え負けてもいいから実力の近い誰かと思う存分戦ってみたかったのだ。
「身体も、スキルも本気で使って戦える相手に出逢えて嬉しいよ。ありがとな、アルビス」
「・・・・・・・・・・・・ふふ、あははははっ!貴方、実はドラゴニュートではなくライカンスロープなのでは?」
俺の言葉を受け、初めはぽかんとしていたアルビスだったが、やがて声を上げて笑い出した。相手の強さに感謝するなんて可笑しな奴だとでも思われたのだろうか。彼女の笑い声につられるように俺も小さく笑った。
「はは、ライカンスロープも悪くないかもな・・・・・・っと、それはさておき、だ。そろそろ──再開するとしようぜ!」
「えぇ──行きますよ!」
その言葉を合図に俺は『闘気弾』を、アルビスは電撃を撃ち出した。それらは向かい合う俺たちの中間辺りで激突し爆発する。『闘気弾』が炸裂し爆煙が生じた瞬間、俺は・・・・・・いや、俺とアルビスは真横に飛び出した。
「だだだだだだだだだだだだだだだだッ!!!」
「はぁああああああああああああああッ!!!」
互いに相手を視認した瞬間、まるで並走するかのように低空飛行しながら俺とアルビスはそれぞれ気弾と電撃を連射する。煙によって視界が悪くなったのでその場を移動しようとしたのだが、向こうも同じ考えだったらしい。『魔力感知』があるとは言え、可能であるなら相手を視界に入れておきたいからな。と言うか、アルビスも飛べたのか。
「くっ、やはり正面から撃ち合ってはこちらが不利ですね・・・・・・!」
「らしいな!それじゃどうする!?」
「ふふ・・・・・・こうしますとも!かぁッ!!!」
「うおっ!?」
変身前の時のように、アルビスは俺の連続闘気弾に徐々に押され始める。すると彼女は気合いを込め、全身から電撃を放出した。彼女を中心とし広範囲に放たれる電撃はまるで雷の渦。それによって俺の闘気弾は全て撃ち落とされる。こちらにまで届きそうな勢いに慌てて俺は距離を取ったその時、雷の渦の中心にいたアルビスの反応が消えた。
「喰らえッ!」
「っとぉ!見えてるぜ!」
声と同時に背後からアルビスが放った電撃が迫る。恐らく電撃で気を引いている隙に『空間移動』したのだろう。『魔力感知』によって察知することは出来たが、このままでは攻撃を喰らってしまうと判断した俺は咄嗟に『脱獄者』の『加速』を使用してそれを回避した。
「空間転移はもうしないんじゃなかったか!?」
「難しくてあまり得意では無いだけで、もう使わないとは言っておりませんが?」
「そういやそうだな、チクショウ!」
「それより貴方、まだなにかスキルを隠していましたね!?なんですか今のスピード!」
「『加速』っつってな!その通りのスキルだよ!」
言葉と共にアルビスが連続で放つ電撃を、俺は『加速』を発動しつつ低空飛行して避け続ける。何とか対応出来たがやはり空間転移は厄介だ。攻撃にも防御にも活用できる。そして厄介なことがもう一つ・・・・・・『魔力感知』の情報量だ。
『魔力感知』は魔素を持つ敵の居場所を把握するだけでなく、周囲の魔素を探知し介することで、その場の景色や音を視たり聴くことが出来るのだ。これはこの世界が膨大な魔素に覆われている為に可能となるのだが、『魔力感知』で視たり聴いたりすると膨大な情報量になるらしく、それを処理する際に脳にかなりの負担が掛かる。しかもそれが戦闘中で、互いに高速で移動しまくっているのなら尚更だ。
あと『魔力感知』に比べれば大分マシではあるが、『思考加速』も負担はある。今俺は『思考加速』を通常時の10倍程度でしか使っていないが、『魔力感知』はフルで発動し続けている。身体の方はまだ余裕があるが、頭の方が少し辛くなってきた。この状況が続けば最悪の場合、俺の脳が焼き切れてしまうかもしれない。
「長期戦は、少し不利か・・・・・・なら!」
アルビスの攻撃を回避しながら考えを纏めた俺は、両手に闘気を込める。やがてそれぞれの手の上で球状に形成された二つの闘気の球を俺は発射した。撃ち出した二発の気弾は勢い良く飛んで行くが、それらはアルビスから少し逸れた方向へ向かって行く。
「あら、どこを狙っているんです?」
「お前以外に誰がいるんだよ!」
違う方向へ飛んでいく二つの気弾をちらりと見やり、アルビスはくすりと笑う。俺は煽るような彼女の言葉を気にすることなく、再び連続で闘気弾を放った。
「またそれですか!芸がありませんね!」
「そう言う割りには余裕無さそうじゃねえか!」
俺が指摘した通り、アルビスは額に汗を浮かべながら必死に闘気弾を撃ち落としていた。アルビスは俺の攻撃を芸が無いと言ったが、これしか手が無い訳ではない。俺の方がパワーもスピードも上である以上、これが一番簡単で効果的だと思ったのである。
それと先程、アルビスが言っていたことを思い出したのだ。彼女は『空間移動』が得意ではない・・・・・・と言うより、あれだけ使いこなしている青娥さんがおかしいだけなのかもしれないが。とにかく、アルビスはあれだけ便利な『空間移動』を多用してきてはいない。恐らく先程言っていたように、コントロールが難しかったり消耗があるからここぞと言う時にしか使わないのだろう。
ならば、転移を発動する余裕も無いくらい攻め続ければいい。先程のように雷の渦を起こしてから背後への転移をされる可能性はあるが、『魔力感知』はまだ持つ。『加速』もあるので背後に転移してからの攻撃には対応出来るし、アルビスだって一度失敗した手をそう何度も使おうとはしない筈だ。
最も、背後ではなく退避する為に離れた場所へ転移する可能性はあるが・・・・・・それに関しては問題無い。
「ぐ、ぐぅ・・・・・・!」
「どうしたアルビス、これじゃさっきと同じだぜ!また俺の後ろに転移するのかよ!?」
「っ・・・・・・仕方ありませんね」
何発か身体に気弾を受けながらも、アルビスは『空間移動』を発動した。行先は俺の背後・・・・・・ではなく、連続闘気弾の射線から外れた空中である。俺から見て10時の方向の上空と言ったところか。
「おっ、そっちに行ったか」
「流石に背後は警戒されていると思いましてね・・・・・・!」
転移を終えたアルビスはそこで立ち止まらず、移動しながら両手に妖気を溜め始めた。連続闘気弾の的にならないよう警戒しながら、大技を放つ準備をしているのだろう。確かにこの距離では闘気弾を撃ったところで当てることは出来ないだろうが、もうそれをすることは無いだろうから問題無い。俺は作戦通りに事が進みそうだと内心喜びながら、静かに右足に闘気を集中させつつアルビスへ向かい飛んで行った。
「おや、ただ突っ込んでくるだけですか。てっきりまた闘気の弾を連射してくるかと」
「もうあれはやらねえよ。良い位置だからな」
「位置?なにを──がっ!?」
不思議そうにアルビスが眉を顰めたその時だった。背後から何かに襲われたアルビスが声を上げる。何事かと驚きながら彼女が振り向いたそこには一つの闘気弾が浮いていた。
「これは・・・・・・!?」
「『繰気弾』っつってな。ほら、もう一発行くぜ?」
そう、アルビスを攻撃したのは先程俺が二つ撃った『繰気弾』の一つだ。アルビスは俺が普通の闘気弾を撃ってそれを外したと思っていたようだが、それは違う。あの時撃った二つの闘気弾はこの展開を見越してわざと外したのだ。
二つの『繰気弾』をアルビスに触れさせないように放ち、アルビスがどこに転移しても追撃出来るようにそれぞれ離れた位置に設置させておく。続けざまに連続闘気弾を撃ったのは『繰気弾』を動かしていることをバレないようにする為だ。アルビスの意識を連続闘気弾に向けさせている間に二つの『繰気弾』をそれぞれの場所まで移動させておいたのである。
ちなみに『繰気弾』を二つ扱えるようになったのはつい最近のことだ。最も、二つ同時に操作するとなるとそちらにばかり意識が向いてしまい、あまり複雑な動作や難しいスキルを同時に使用することが難しくなるのだが。現に俺は今、『魔力感知』を切っている。『飛空法』は出来るが全力では飛べていない。それに関しては右足に闘気を溜めているというのもあるのだが。
「こんなアーツまで使えるとは・・・・・・!くっ、このっ!」
そんなことを考えている間にもう一つの『繰気弾』が到着し、二つ同時にアルビスを翻弄していた。尻尾を振り回したり、角から電撃を放ち『繰気弾』を撃ち落とそうとアルビスは抵抗する。俺を倒す為に妖気を込めた両手では攻撃しないつもりのようだが、溜めた妖気を維持しているせいでコントロールが難しいのか、転移で逃げたりはしないらしい。お陰で大分彼女に接近できた。ここで勝負を決めようと、俺は可能な限り『加速』と闘気を全開にしフルスピードでアルビスへ向かう。
「おぉおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!」
「なっ!?くそっ!」
声を上げて突進してくる俺を見て、アルビスは慌てて両手から電撃を放った。妖気を溜めていただけあってかなりの威力だが、『加速』状態である俺はそれを難なく躱す。続いて身を守る為だろうか、アルビスは全身から電撃を放った。しかし先程気弾をかき消した時のような威力は無い。妖気を溜める時間がなかったからだろう。俺は全身を守るように闘気を放出させると、目の前の電撃の渦に突っ込んだ。
「この雷の守りに正面から──!」
「オラァッ!」
「がふぅッ!?」
電撃を突き抜け、驚いたようにこちらを見るアルビスの顔面へ拳を叩き込んだ。勢いの乗った俺の全力の一撃にアルビスは回転しながら吹き飛ばされる。しかし流石と言うべきか、アルビスは直ぐ様空中で体勢を立て直した。
「おのれ、こうなったら『空間移動』で・・・・・・!」
「させねぇよ!『繰気弾』!」
「しまっ・・・・・・うぁあああっ!?」
忌々しげに呟きながら、アルビスは殴られた箇所を片手で押さえつつ離れた場所へ転移しようとする。しかし、そうはいかない。俺は二発の『繰気弾』をアルビスへ放ち、彼女の目の前でそれを炸裂させる。二つ共、アルビスが電撃の守りを張る直前に遠ざけておいたのだ。タイミングとか他スキルやらアーツとの同時使用で色々とギリギリだったが何とかなって良かった。
「ぐ、ぐっ・・・・・・!」
「終わりだ・・・・・・!」
『繰気弾』の爆発でダメージを受けて怯んだアルビスは『空間移動』の発動に失敗したらしい。彼女のその隙を見逃さず、俺は一気に距離を詰めこの戦いに終止符を打つ新アーツを放った。
「
「が───あぁあああああああああああああああッ!!!?」
魔鋼によって造られたブーツが込められた闘気によって蒼く光り輝く。それを身体ごと回転することで剣のように振るい、俺は袈裟斬りの要領でアルビスの身体を肩から切り裂いた。
回避も防御も出来ず、『
「そこまでだッ!この勝負・・・・・・アクトの勝ちだ!」
地上の観客席からカリオン様の声が響く。その声で下に目をやると、いつの間にか目覚めていたガビルとシーザー、そして青娥さんが視覚に入った。嬉しそうに両手をぶんぶんと振るガビルの隣で、いつものように微笑みながら、青娥さんは小さく片手を俺に振っている。
「・・・・・・・・・は、ははは・・・・・・勝ったぞーっ!」
二人の姿に思わず口元が緩む。そして堪えきれず小さく笑いながら、俺は勝利の喜びに打ち震えるのだった。
戦闘描写は難しいですね・・・・・・皆さんに楽しんで頂けているのならば良いのですが。