転生したら蜥蜴人族の友人と邪仙の恋人ができた件   作:乃出一樹

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お待たせしました、第77話となります。

まだまだ寒い日が続きますね。雪だけは勘弁して欲しいところです。


腐肉竜(ドラゴンゾンビ)

突然『思念伝達』で話し掛けてきた謎の声の主。それがなんとあのシーザーだと分かり、予想外の正体に俺は声も無く驚く。あいつ、こんな声してたのか・・・・・・っていうか、喋れたのか。

 

 

 

『そうだぜ?何をそんな驚いて・・・・・・って、そういや大将と話したのはこれが初めてか!』

 

 

 

シーザーはそう言ってからからと笑う。もしかして『思念伝達』は精神で会話をするスキルだから、人語を話せない魔物相手とも会話が出来るのか?

 

いや、それよりもだ。

 

 

 

『なんで『思念伝達』が使えてるんだ・・・!?』

 

 

 

相手がシーザーということは、俺の持つユニークスキル、『魔物師者』に含まれる権能の一つ、『思念伝達』で会話しているということになる。しかし、このダンジョン内では『念話』の類いや転移は封じられている筈だ。

 

 

 

『そういや、なんかトラブルでもあったのか?そっちの調子はどうなのか気になってずっと大将と連絡取ろうとしてたんだけど、全然繋がらなくってよ』

 

『だ、だよな?なのに何で今はこうして話せてるんだよ』

 

『それが、ほんのついさっき青娥の姐さんが目の前に現れてな。大将と『思念伝達』で話してみろって言ってきたんで、もっかい試してみたら繋がったんだわ』

 

『青娥さんが・・・・・・?』

 

 

 

ということは、青娥さんがこのダンジョンの力を何とかしてくれたのだろうか。振り返って魔封牢に映る青娥さんに視線を向けると、彼女はこちらに気付いて小さく微笑む。

 

・・・・・・間違い無いな、これは。

 

 

 

『どうした大将、本当に大丈夫か?』

 

『ん、あぁ。何でもないよ。ところでコビーたちは?』

 

『おぉ、あいつらなら姐さんがラウラまで『空間移動』で連れてってくれるってんで任せたぜ・・・・・・俺は道端に放置されたけどな』

 

 

 

気掛かりであったコビーたちのことも青娥さんはちゃんと考えてくれていたらしい。最後に付け加えた言葉を聞いた俺は苦笑したが、すぐに気持ちを切り替え自分たちの今の状況を簡潔にシーザーへ伝えた。

 

 

 

『・・・・・・おいおいマジか!そんなやべぇことになってたのかよ!済まねえ大将、俺だけ一緒に戦ってやれなくて・・・』

 

『謝ることはねえよ、コビーたちを護衛する仕事を任せたのは俺だしな。それに、多分今から一緒に戦えるし』

 

『あん?どういうこった?』

 

『それは・・・・・・今は青娥さんのお陰って理解してくれればいい。それよりシーザー、頼みがある』

 

 

 

申し訳無さそうな声で謝るシーザーを慰めた俺は、彼からの問いに雑に答えてからそう告げた。そして現状を打破する・・・ドラゴンゾンビを倒す為の考えを伝える。

 

 

 

『───と、そんな感じだ。作戦・・・・・・って呼べるほど大した考えじゃないけども』

 

『ははっ!いいじゃねえか、分かりやすくて。要は大将たちが初手から全力で殺しに行くってことだろ?』

 

『殺しちゃ駄目なんだけどな・・・・・・』

 

 

 

こいつも結構脳筋だな、おい。ホバーリザードだった頃は可愛い奴だと思っていたが、こんな性格だったとは。

 

・・・・・・俺の名付けのせいでおかしくなった、とかじゃないよね?

 

 

 

『・・・・・・そ、それより・・・頼んどいて何だけど本当にいいのか?こういう言い方はあんまりしたくねぇけど、お前よりずっと格上の相手だぞ。一発でもあいつから攻撃を食らったら最悪死ぬかもしれないのに』

 

『へっ、それがどうしたってんだよ大将。ご主人と大将たちが戦ってんのに俺だけ黙ってみてられるか!それにフォスとフラメアのお嬢ちゃんたちだってそこで踏ん張ってんだろ?だったら益々何もしない訳にはいかねぇよなぁ!』

 

 

 

力強いその返答を聞いて、笑っているシーザーの顔が脳裏に浮かぶ。こういう仲間思いで勇敢なところは、主人であるガビルに似たのかもしれないな。

 

 

 

『はは、そうだな・・・・・・ありがとう、シーザー』

 

『気にすんなって。んじゃ、そっちに召還されたら後は作戦通りにな』

 

『あぁ、よろしく』

 

 

 

そこで俺は『思念伝達』を切る。すると、静かに様子を伺っていた青娥さんが声を掛けてきた。

 

 

 

『作戦会議は終わりました?』

 

「えぇ、一応。・・・・・・ありがとうございます、青娥さん」

 

『ふふふ、どう致しまして』

 

 

 

俺が礼を言うと、青娥さんは優しく微笑みそう返す。俺たちのやり取りを見たフォスとフラメアはどういうことなのかと顔を見合わせ首を傾げている。その様子がおかしくて俺は僅かに口元を緩めながら、ドラゴンゾンビと攻防を繰り広げているスフィアに向け叫んだ。

 

 

 

「スフィア、ここから反撃するぞ!悪いけど、もう少しだけドラゴンゾンビの気を引いといてくれ!」

 

「やっとかよ!いいぜ。ついでに手足の一、二本引き千切っといてやらぁ!」

 

「あー、それくらいなら大丈夫ですよね青娥さん!?」

 

『えぇ。あの魔素量とアンデッドであること、それに『自己再生』を持っていることを考えると・・・・・・頭部さえ無事なら胴体はある程度無くなってても問題ないかと♪』

 

 

 

スフィアの過激な発言にそれはどうなのかと思ったが、青娥さんが言うには全然問題ないらしい。成程、それなら予定より思いっきりやるとしよう。

 

 

 

「フォス、フラメアを頼んだぜ。ここから一気に攻めて終わらせる。多分そっちにまで気が回らないから、万が一の時はお前が守ってやってくれ」

 

「はっ、はいです!任せるです!」

 

 

 

俺たちを飲み込もうとする『水氷大魔嵐(アイスブリザード)』と受け止めながら、俺は背後にいるフォスへ振り返らずそう告げた。フォスの元気な返事のあと、誰かが近くまで駆け寄って来る。『魔力感知』によると、どうやらフラメアらしい。

 

 

 

「アクトさん、その・・・・・・が、頑張ってくださいね!」

 

「あぁ、ありがとうフラメア」

 

 

 

応援してくれたフラメアに振り返り、俺はなるべく優しい笑顔を浮かべながら礼を言った。それを聞いたフラメアはぱぁっと表情を明るくさせると静かに頷いて後ろに下がる。

 

フラメアが離れたことを確認した俺は『魔力感知』を切り、ふう、と大きく息を吐いてから目を閉じて意識を集中する。これから発動するスキルの為に。ドラゴンゾンビを倒す為に。

 

水氷大魔嵐(アイスブリザード)』を受け止めながらだったので少し難しくはあったが、やがて準備を終えた俺はゆっくりと目を開き、そしてこの場に居ない仲間の名を叫んだ。

 

 

 

「来い──!シーザァアアアアーーーーーッ!!!」

 

「グルルゥウアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」

 

 

 

瞬間、『水氷大魔嵐(アイスブリザード)』の余波が及ばない、俺とドラゴンゾンビの中間地点辺りの空中が輝く。そしてその光の中から雄々しく咆哮を上げシーザーが現れた。よし、どうやらイメージ通りにスキルを使えたらしい。

 

先程の『準備』とは、シーザーを召還する為にスキルを発動する魔素を溜めることと、彼を召還する正確なポイントをイメージし固定することだ。スキルは魔法と違って詠唱などは基本必要とせず、発動自体は簡単に出来る。しかし、強力なスキルほど使いこなすには相応の修行と、種類によっては魔法のようにイメージすることが大切なのだと以前青娥さんから教わった。

 

魔法と違って、スキルの権能である俺の『魔物召還』は扱いがそう難しいものではないが、この手のスキルは特に意識せず発動すると使用者の傍に対象を召還してしまうらしい。勿論これも青娥さんから教わったことである。俺の真後ろに召還されるのならまだ良いが、最悪の場合俺の正面に召還して、闘気か『水氷大魔嵐(アイスブリザード)』でシーザーがやられてしまう可能性もあった。なので召還されても安全かつ、ドラゴンゾンビへ攻撃を仕掛けやすい座標をイメージする必要があったのである。『水氷大魔嵐(アイスブリザード)』を受け止めるだけの闘気攻撃を行いながらだったので少し大変だった。

 

とにかく、『魔物師者』を会得してから『魔物召還』は使うタイミングがこれまで無く土壇場での御披露目となったが、なんとかなって一安心だ。

 

 

 

「ガァアアアアアアアアアアアアアッ!!!」

 

「オォオオオオ・・・・・・!」

 

 

召還されたシーザーは翼を羽ばたかせると直ぐ様ドラゴンゾンビへ突撃して行った。それに気付いたドラゴンゾンビは短く唸ると『呪怨束縛(カースバインド)』を発動させ再び死霊たちを呼び出す。シーザーの戦闘力では全てを回避するのは難しいだろうと俺は僅かに焦ったが、ドラゴンゾンビの傍にスフィアがいたこともあってか、死霊たちはスフィアとシーザーを狙う為に大体半分程の数に別れた。

 

あのくらいの数ならシーザーでも少しの間凌げるだろう。『火炎吐息(フレイムブレス)』を吐き死霊たちを牽制するシーザーを見てそう思いながら、俺は先程『水氷大魔嵐(アイスブリザード)』によってどこかへ吹き飛ばされたガビルへ『思念伝達』を発動する。

 

 

 

『ガビル、聞こえるか!?』

 

『ぐ、むぅ・・・・・・!?あ、アクト殿か?済まぬ、一瞬意識を失っていたのである・・・・・・ん?というかこれは『思念伝達』では・・・?って、なぬぅ!?シーザーがいるではないか!』

 

 

 

『思念伝達』で呼び掛けたところ、ガビルは苦し気に呻いてから答えた。『火炎大魔嵐(ファイアストーム)』で少しは威力を殺せていたとは言え、格上の相手であるドラゴンゾンビから魔法攻撃を受けたのだ。それによって吹き飛ばされ、恐らく壁にでも打ち付けられていたのだろう、気絶していても無理は無い。

 

とりあえず、ガビルが無事だと分かり安心した。しかし目は覚めたものの、目の前で起きている事態に付いて行けず彼は少し混乱してしまったようだ。

 

 

 

『あー、色々あって俺の『魔物師者』が使えるようになってさ。『魔物召還』で呼び出したんだ・・・・・・って、それよりも!ガビル、手短に話すからそのまま聞いてくれ!』

 

 

 

ガビルには申し訳無いと思いつつも、俺は状況の説明よりもドラゴンゾンビを倒す作戦を伝えることを優先した。狼狽えていたガビルだったが、俺が話を始めるとすぐに落ち着きを取り戻し静かに

 

 

 

『・・・・・・成程。うむ、理解したのである』

 

『そうか、なら良かったぜ。時間が無いから結構ざっくりだったしさ』

 

『ははは、この状況である。仕方あるまい。とにかく、つまりは───・・・』

 

 

 

 

 

 

「アクト殿を助ければ良いと、そういうことであるなッ!」

 

 

 

『思念伝達』が切られた次の瞬間、ガビルの声が響いた。声のした方に視線を向けると壁際から空中へ飛び上がるガビルの姿があった。やはり壁まで吹き飛ばされていたらしい。

 

 

 

「もう少しの辛抱であるぞアクト殿!すぐに我輩たちが『水氷大魔嵐(アイスブリザード)』から救い出してみせようぞ!」

 

 

 

そうこちらに呼び掛けながらガビルはドラゴンゾンビへ向かって行く。そう、つまり作戦とは、ガビルの言葉通り俺を『水氷大魔嵐(アイスブリザード)』から自由にし、それから主な戦力である俺、ガビル、スフィアの三人で一気にドラゴンゾンビを叩くというものである。うん、本当に作戦とはとても呼べない滅茶苦茶単純な内容だ。

 

しかし、単純ではあるがドラゴンゾンビをさっさと倒すにはそれが一番だと思う。

 

ドラゴンゾンビはあまり知能が高くないのかもしれないが、恐らくこのメンバーの中で俺が一番の脅威であると理解はしているのだろう。それを本能で感じ取ったのか、それとも『魔力感知』等のスキルを実は隠し持っていて、それで俺を解析したのかは不明だが。

 

どちらにせよ、危険視していたからこそ俺が自由に動けないように全力で足止め・・・・・・いや、攻撃していたのだ。俺一人であればある程度のダメージは覚悟して『水氷大魔嵐(アイスブリザード)』から無理矢理抜け出すことも出来なくはない。だが、フォスとフラメアを見捨てる訳にはいかないし、二人を抱えてこの冷気を突っ切るなんてそんな無茶は出来ない。魔素量的にフォスですら怪しいのに、フラメアでは僅かな時間すらこの冷気には耐えられないだろう。

 

 

 

だが、それももう終わりだ。

 

 

 

「ったく、遅ぇぞガビル!」

 

「済まぬなスフィア殿!この償いは戦いで返すのである!」

 

 

 

にやりとした笑みを浮かべつつ、スフィアはガビルへそう声を掛ける。その時、ガビルが戦線に復帰したのを見たドラゴンゾンビは『呪怨束縛(カースバインド)』によって呼び出した死霊たちをガビルの方にも向かわせた。

 

しかし、それが仇となる。

 

 

 

「グルルォオオオオオオオオオッ!!!」

 

 

 

向かわせた死霊たちだが、それはシーザーを狙っていたそれらの一部だった。恐らくシーザーよりも強いガビルの方が脅威だと認識しそちらを攻撃することを優先させたのだろうが、自身を襲う死霊の数が減ったのと、ドラゴンゾンビの意識がガビルへ向いたことで奴に隙が生まれ、それをシーザーは見逃さなかった。

 

隙を付いたシーザーはドラゴンゾンビの眼下へ潜り込むように飛んで行くと、奴の顎を下から突き上げるように体当たりをお見舞いする。ランクで見ると格下であるシーザーの攻撃とは言え、その一撃の勢いによってドラゴンゾンビの顔が僅かに上を向く。瞬間、奴の口を基点としていた『水氷大魔嵐(アイスブリザード)』の軌道が逸れ、俺は口端をつり上げた。

 

 

 

「良いぞシーザー!フォス、フラメアは任せた!」

 

「はっ、はいです!アクトさん、気を受けて!」

 

 

 

白銀の渦から自由になった俺は、フォスへそう告げると同時に全速力で飛び出した。同じくフォスもフラメアと共に今居た場所から離れ、俺とは違う方向へ駆けていく。戦いの余波に巻き込まれない安全な位置まで避難するのだろう。

 

 

 

「オォオオオオオオッ・・・・・・!」

 

「グギャッ・・・・・・!?」

 

 

 

俺たちが『水氷大魔嵐(アイスブリザード)』から逃れてすぐだった。やはりシーザーの攻撃では大したダメージにはならなかったらしく、ドラゴンゾンビは体勢を立て直すと無造作に左前足を振るう。回避しようとしたシーザーだったが完全に避け切ることは出来ず、奴の攻撃によって地面に転がった。そしてドラゴンゾンビはシーザーへ追撃しようと、口に魔素を込め始める。

 

 

 

「シーザー!・・・・・・そうだ、『魔物召還』!」

 

「ギャウッ?」

 

 

 

シーザーに余程苛立ったのか、ガビルたちへの攻撃は死霊に任せると、ドラゴンゾンビは大口を開け『水氷大魔嵐(アイスブリザード)』をシーザー目掛け放った。

 

その威力は俺がつい先程まで受けていたものと同じ。あのままでは間違い無くシーザーがやられると感じた俺は慌てて『思考加速』を使用し策を練る。そして白銀の渦がシーザーの目の前まで迫った瞬間、俺はあることを思い付き『魔物召還』を発動した。

 

 

 

『おぉっ!済まねえ大将、助かったぜ!』

 

『気にすんなよ。ピンチになったのは俺の為に頑張ってくれたせいだしな』

 

 

 

ドラゴンゾンビの正面から俺の傍に転移したシーザーは、攻撃から逃れたことに気付くと『思念伝達』で礼を言った。思った通り、『魔物召還』は上手く扱えば仲間の回避行動としても使えるようだ。

 

シーザーとそんなやり取りをしていると、ドラゴンゾンビの澱んだ瞳がこちらを捉える。するとドラゴンゾンビは大きく首を動かし、俺たちを薙ぎ払うかのように『水氷大魔嵐(アイスブリザード)』を放ってくるが、十分な距離があったお陰で俺とシーザーは難なく回避に成功した。

 

 

 

「当たらねぇよ!」

 

 

 

そう吐き捨て、『水氷大魔嵐(アイスブリザード)』から解放された俺はドラゴンゾンビへ突っ込んで行く。しかしそれはある意味でドラゴンゾンビも同じ。俺一人の動きを止めることに力を割いていた相手も、自由に戦えるようになったのだから。

 

ドラゴンゾンビは俺とシーザーへの攻撃が外れたことを気にする様子も無く、そのまま首を大きく振るい今度は空中にいるガビルとスフィアを『水氷大魔嵐(アイスブリザード)』で狙う。『呪怨束縛(カースバインド)』の死霊たちにも狙われていた二人だが、相手の動作をしっかり注視していたようでひらりと躱してみせた。

 

攻撃を外したドラゴンゾンビはすぐに次の手を打った。手数を増やせばどうにかなるだろうと判断したのか、ドラゴンゾンビはさらに『呪怨束縛(カースバインド)』を発動し死霊を召還したのである。新たに発動したそれで呼び出した死霊全てを俺へ放つが、俺の危機に気付いたガビルが空中から放った『火炎大魔嵐(ファイアストーム)』によってその数が減らされた。

 

 

 

『ありがとうガビル!』

 

『礼には及ばぬとも。それより今がチャンスである、アクト殿!』

 

 

ガビルに『思念伝達』で短く礼を告げ、俺は再びドラゴンゾンビと距離を詰める。残った死霊たち、振るわれる巨大な手足、それらを全てすり抜けるように躱して進み、そして遂に接敵した俺は『身体強化』を発動しながら右脚に闘気を集中させた。

 

 

 

 

「食らえッ!星皇剣(スターセイバー)───ッ!!!」

 

「グ、ォオ・・・・・・!?」

 

 

 

俺は蒼く輝く闘気を纏った脚を振るい、ドラゴンゾンビの右前足を斬り付ける。腐肉だから柔らかいだろうし簡単に斬れる筈と思っていたが、そこは魔素量の差か、俺のアーツは奴の前足の半分程を斬り裂いただけで終わり、切断には至らなかった。

 

 

 

「くそ、変身したアルビスだって倒した技だってのに!」

 

 

 

すれ違い様に蹴りを放った俺は舌打ちしながら急停止し、ドラゴンゾンビの傷痕を見る。いや、恐らく万全の状態であれば斬り落とせていたと思う。だが、ダンジョンの探索とこれまでに起きた戦闘、そして先程まで『水氷大魔嵐(アイスブリザード)』を受け止め続けていたことで思った以上に体力や魔素を消耗していたようだ。そのせいで『星皇剣(スターセイバー)』の威力が落ちてしまったのだろう。

 

そんなことを考えつつ追撃しようとした時、その巨体と腐った身体に似合わぬ機敏な動きでドラゴンゾンビがその場で暴れ始めた。身体に纏わり付く虫を追い払おうとするかのような雑な動きだが、それでも俺からすれば強烈な一撃となり得る。それと、数が減ったとはいえ、まだ『呪怨束縛(カースバインド)』二回分の死霊たちが残っているのだ。

 

今の『星皇剣(スターセイバー)』でさらに消耗した俺は、それらの対処に一瞬遅れ慌ててその範囲から飛び出す。しかし、その先でドラゴンゾンビが俺に狙いを定め、高密度の魔素が込められた大口を開いていた。

 

 

 

「や、ば・・・・・・!?」

 

 

 

「させないですッ!」

 

 

 

流石にこの状態からでは避けきれるか怪しい。冷や汗を浮かべる俺へドラゴンゾンビが『水氷大魔嵐(アイスブリザード)』を撃ち出そうとしたその時だった。なんといつの間にか接近していたフォスがドラゴンゾンビの顔に飛び掛かり、手にした短剣を奴の眼に突き立てたのだ。

 

予想外の一撃にドラゴンゾンビは攻撃を中断し首を振り回しフォスを振り落とす。片眼を潰されたことに余程苛立ったのか、ドラゴンゾンビは俺ではなく空中へ放り出されたフォスへ狙いを変え『水氷大魔嵐(アイスブリザード)』を放った。慌ててフォスの元へ駆け寄ろうとした俺だったが、それより先に・・・・・・ドラゴンゾンビが『水氷大魔嵐(アイスブリザード)』を撃つよりも先に動いた影があった。

 

 

 

 

 

 

「やぁあああああああああっ!」

 

「フラメア!?」

 

 

 

その正体はなんとフラメアであった。気合いを込めた声と共に大きく跳躍したフラメアは、フォスを抱き抱えるとその勢いのままドラゴンゾンビの射線から逃れる。『危険察知』でフォスの危機を予測した・・・・・・かと一瞬思ったが、あのスキルは確か自身の危機にしか反応しなかった筈だ。つまりフラメアは自分で戦況を予測し、フォスを助ける為に動いたということ。『兎人族(ラビットマン)』は自他共に認める弱い種族だが、ネームドであり各地を旅して来たフラメアは案外強いのかもしれない。

 

 

 

「オォオオオオン・・・・・・!」

 

「ひぃいいいいいっ!?こっちを狙ってるぅー!」

 

「ガァアアアアアアアアアアアアアッ!!!」

 

 

 

着地したフラメアが抱えていたフォスを降ろしていると、ドラゴンゾンビが二人を見据えおぞましい声で唸った。その声にフラメアが怯えていると、彼女を守ろうとしているのかシーザーがドラゴンゾンビの眼前へ飛んでいく。それに気付いたドラゴンゾンビがそちらに顔を向けた瞬間、シーザーは『火炎吐息(フレイムブレス)』を放ちドラゴンゾンビの視界を遮った。

 

 

 

「おぉっ!見事であるシーザー!」

 

「お前もでかしたぜフォス!それでこそ獣王戦士団だ!まだ補欠だけど、なッ!」

 

 

 

そう言って、笑みを浮かべたスフィアはドラゴンゾンビの懐へ潜り込んで行く。顔をブレスで焼かれのたうつドラゴンゾンビの代わりに死霊たちが彼女に殺到するが、それらをガビルが範囲を抑えた『火炎大魔嵐(ファイアストーム)』、俺が闘気弾で消し飛ばす。

 

 

 

「オラァアアアアアアアアアアアッ!!!」

 

 

 

俺たちの援護もあり、スフィアは空中を駆けて俺が半分程斬り裂いた右前足に接近する。そのスピードのままにスフィアは獣の腕となった両手に雷を纏い、雄々しい咆哮を上げながらその両手でドラゴンゾンビの右前足を斬り裂く・・・・・・いや。抉り、破壊した。

 

 

 

「オォオオオオン・・・・・・ッ!?」

 

「今だ、足が再生する前にやっちまえ!」

 

「分かった!ガビル!」

 

「うむ!我輩たちで決めてやろうぞ、アクト殿!」

 

 

 

脚を失ったドラゴンゾンビは体勢を崩し動きを止める。それを見たスフィアからの声を受け、俺とガビルはドラゴンゾンビを横から攻撃しやすい位置に移動し並び立つ。狙うはドラゴンゾンビの頸部。並び立った俺とガビルは互いに顔を見合せ頷くと、魔素を一気に高めそれを解き放った。

 

 

 

超龍槍撃(ドラゴンクラッシュ)────ッ!!!」

 

「はぁああああああああああああああああッ!!!」

 

 

 

「オ、ォ──オォオオオオオオオオオッ!!?」

 

 

 

俺の両手から放たれる闘気流と、ガビルのバーニングランスから撃ち出されるアーツ。二つの闘気の一撃は重なり混ざり合うように突き進み、ドラゴンゾンビへ激突する。直撃を受けたドラゴンゾンビはまるで悲鳴のような声を上げ抵抗しようとしたが、その前に俺たちの攻撃が奴の肩の付け根辺りの頸部を消し飛ばし、その首を地に落とした。

 

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ・・・・・・や、やったか?」

 

「・・・・・・いや、まだ動いてる・・・!」

 

 

 

フラグめいた台詞を呟くガビルに俺はそう返す。落ちた首を見ると、身体を失ったというのに跳ねたり転がったりして動き回っていた。身体の方は動きこそ止まっているが、千切れた右前足や消し飛んだ頸部の傷口はぐじゅぐじゅと音を立てている。恐らく『自己再生』で傷を治そうとしているのだろう。

 

 

 

「オ、オォ・・・・・・オオオオ──・・・・・・!」

 

「しつけぇ、よッ!」

 

 

 

と、その時。スフィアが凄いスピードで駆け寄り、その場に叩き付けるかのようにドラゴンゾンビの首へ垂直に拳を振り下ろした。ドガンッ!と凄まじい音を立てたスフィアの一撃は地面を凹ませる程のもので、ドラゴンゾンビはひび割れて凹んだ地面の中央で完全に沈黙した。

 

 

 

「ふーっ、ここまでやりゃあ流石にもう動かねぇだろ」

 

「おお、助かったのであるスフィア殿!・・・・・・・・・これ、死んだのでは?」

 

「あー・・・・・・うん、多分大丈夫じゃないか?ちょっとピクピクしてるし」

 

 

 

ガビルと共にスフィアの傍に降り立ち、ドラゴンゾンビの首を見る。白目を剥いて小さく痙攣しているのでギリギリ生きてはいるのだろう。ゾンビなのに生きてるとかおかしな話だが。

 

ちなみにドラゴンゾンビの身体の方は再生が止まっていた。首の方が気絶した為にスキルが止まったのだろう。

 

 

 

 

「スフィア様ー!」

 

「グルルルッ!」

 

「アクトさーーんっ!」

 

 

 

その声に振り返ると、フォスとシーザーにフラメアがこちらに駆け寄って来ていた。三人に手を上げ応えていると、フラメアが持つ魔封牢に青娥さんの姿が無いことに気付く。

 

 

 

「あれ?青娥さんは・・・・・・」

 

「呼びました?」

 

「おわぅっ!?」

 

 

 

首を傾げた瞬間、耳元でそう囁かれ変な声が出た。ばっと振り返ったそこにはなんと青娥さんが立っており、悪戯な笑みを浮かべこちらに軽く手を振っていた。

 

 

 

「ぬぉっ!?青娥殿ではないか!」

 

「急に出てくるんじゃねえよ邪仙!驚くだろうが!」

 

「本当、神出鬼没ですよね。青娥様・・・・・・」

 

 

 

突然現れた青娥さんに驚くガビルとスフィアの隣で、顔見知りだったフラメアは慣れているのかそう言って苦笑する。皆の反応が面白かったのか、青娥さんはくすくすと笑っていた。

 

 

 

「あらあら、ごめんなさい。私のお願いを聞いてくださった皆さんを直接労ってあげようと思いまして」

 

「ふぁー、ありがとうです!」

 

 

 

どこか上から目線な青娥さんの言葉にガビルとスフィア、それとフラメアが何とも言えない微妙な表情をする。一人だけ素直に礼を言うフォスの姿に良い子だなー、なんて呑気な感想を抱いていると、青娥さんが俺へと向き直りにこりと微笑んだ。

 

 

 

「──よく頑張りましたね、アクトくん。流石、私の可愛い教え子です♪」

 

「はは、滅茶苦茶大変でしたけどね・・・・・・けど、まぁ・・・・・・ありがとうございます、青娥さん」

 

 

 

俺はそれだけ言ってから、流石に立っているのも辛くなっていたのでその場に座り込む。すると青娥さんは少しの間を置いてから、俺の目の前でしゃがむと俺の頭を撫で始めた。

 

 

 

「はっ?や、あの・・・・・・青娥さん?」

 

「はーい♪」

 

 

 

困惑する俺などお構い無しに、青娥さんは優しく俺の頭や頬を撫でる。まるで青娥さんの犬にでもなった気分だ。

 

ガビルたちがいる手前、どうにも気恥ずかしかったが・・・・・・けれど、どこか心地好いその手を振り払う気にはなれず、俺は少しの間、青娥さんの好きにさせるのであった。




ようやくドラゴンゾンビ戦終了です。
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