転生したら蜥蜴人族の友人と邪仙の恋人ができた件   作:乃出一樹

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お待たせしました、第78話となります。

まさかBWリメイクではなくレジェンズの続編とは・・・・・・流石に予想外でしたね


ユーラザニアでの宴

百獣都市ラウラ。『獅子王(ビーストマスター)』の異名を持つ魔王カリオンが治める、獣王国ユーラザニアの首都。

 

その魔王カリオンからユーラザニア国内に最近出現したダンジョンの調査を命じられた俺とガビルにシーザーの三人は、獣王戦士団に所属し三獣士という魔王カリオンの側近でもあるスフィア、それと獣王戦士団候補のフォスと即席のPTを組み、そのダンジョンへと向かうことに。

 

俺の師匠である青娥さんから修行という名の無茶振りで、道中出逢った『兎人族(ラビットマン)』のフラメアをPTに加えたり、ダンジョンの核であるドラゴンゾンビを捕獲することになったりと、大変な冒険だった。

 

けれど、それ以上に皆との冒険は楽しかった。達成感と心地好い・・・とは言えないくらい心身共に疲労した俺たちは青娥さんの厚意に甘え、彼女の『空間移動』でラウラへと戻ることに。そして、無事に帰還した俺たちはここで──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『かんぱーーーーーいっ!!!』

 

 

 

祝勝会の真っ最中だった。いや、これは宴と言った方が良いのだろうか?

 

俺たちは今、昼間に闘技場で戦った後に食事をしたあの広場にまた集まっている。日はもう落ちているが、いくつもの篝火が広場の至るところに置かれているお陰で周囲は割りと明るい。

 

 

 

「わーっはっはっはっはっはっはっ!いやはや、勝利の美酒は格別であるな!ささ、スフィア殿もぐいっと!」

 

「おっ、気が利くじゃねえかよガビル!あっはっはっはっ!」

 

 

 

そんなこの広場に楽し気な笑い声が二つ響く。ガビルとスフィアの声だ。獣王戦士団と思われる数人のライカンスロープたちに囲まれ、酒と料理を味わいながら今回の冒険の武勇伝を彼らに話していたのだ。

 

その間に二人とも、もうすっかり出来上がってしまったようだ。顔を赤くして妙に高いテンションとなった二人を少し離れたところの席から眺め、俺は一人苦笑する。

 

ちなみに、ここに用意された料理の半分くらいは俺が作った物である。

 

 

 

「んー♪やっぱりアクトくんの作る料理は美味しいですねぇ♪」

 

 

 

何故ユーラザニアで俺が料理を作ることになってしまったのかと言うと、目の前で美味しそうに俺の作った料理を美味しそうに食べている青娥さんのせいである。

 

初めは少しだけ料理でも手伝おうと思って宴の準備を取り仕切っていたアルビスに声を掛けたのだが、そこに青娥さんが現れ「アクトくんの作る料理の方が絶対美味しいから作る人代わってくれません?」と、とんでもなく失礼なことを言い出したのである。

 

そんなことを言われてはここの料理人たちも黙ってはいない。当然彼らの怒りを買った俺(青娥さんでは無い)だったが、「俺たちユーラザニアの料理人よりも美味い料理を作れるだなんて有り得ない!どっちがより美味い料理を作れるか、暴力で勝負だ!」等とたわけたことを抜かしながら襲い掛かってきたので、そいつら全員を大人しくさせてから野外に用意された調理スペースへと移動したのだった。そこは料理の腕で勝負してほしい。

 

ちなみに、言い出しっぺの青娥さんだけでなく、フラメアとフォス、それにアルビスも手伝ってくれた。正直アルビスが料理出来るなんて意外だったな。失礼だから言わないけど。というか、どちらかと言えばフォスの方が料理は出来なかった。

 

 

 

「ふぁー・・・・・・本当です!美味しいです!」

 

「んむ、んむ・・・・・・!おいひい~・・・♪」

 

「そっか、口に合って何よりだよ」

 

 

 

先程まで野菜の皮剥きに苦戦していたフォスと、普段からしているのか手際良く調理を手伝ってくれたフラメアが俺の作った料理を美味しそうに頬張っている。こんなに嬉しそうな表情をしてくれるとこちらとしても嬉しい。作った甲斐があったというものだ。

 

 

 

「・・・・・・・・・ところで、本当に私なんかがラウラに入っちゃって良かったんでしょうか?」

 

「ん?」

 

 

 

口にしていた物を飲み込み、少し間を置いてからどこか不安気にフラメアが俺に訊ねた。本来、ユーラザニアの首都であるラウラには弱い者は立ち入ることが許されない。

 

実際、ラウラに戻ってきた際にそれが原因で少し揉めたのだが、三獣士の一人であるスフィアの権限で無理矢理フラメアをここに入れたのである。勿論、後からカリオン様にも許可を取ったそうだ。

 

ちなみに、コビーたち『犬頭族(コボルト)』のキャラバンは入れていないらしい。少し可哀想だな。

 

 

 

「あー・・・・・・まぁ、いいんじゃないか?スフィアがカリオン様から許可取ったんだし。それに、フラメアは強いだろ」

 

「ふぇっ?わ、私が?」

 

 

 

困惑するフラメアを見つめて俺は頷く。すると、そのやり取りを聞いたフォスが食べていた料理を急いで飲み込んで会話に混ざる。

 

 

 

「そうです!だってフラメアさんは私のこと助けてくれたです!」

 

 

 

恐らくフォスは、ドラゴンゾンビの『水氷大魔嵐(アイスブリザード)』から助けてくれた際のことを言っているのだろう。あの時、あの場では誰よりも魔素量が低かったフラメアは危険を省みず、フォスを助ける為に自分の意思で動いたのだ。一歩間違えば自身も冷気を浴び、全身が凍り付き砕け散っていたかもしれないというのに。

 

そんな彼女が弱いだなんて、少なくとも今回の冒険を共にした皆は誰も思っていない筈だ。

 

 

 

「あぁ。だからそう気にすることは無いよ。胸を張って・・・・・・ってのはお前の性格的に難しいかもだけど、とにかくここにいていいんだ。文句言ってくる奴がいたら、俺からそいつに言ってやるからさ」

 

「フォスさん、アクトさん・・・・・・・・・えへへ、ありがとうございます・・・♪」

 

 

 

フラメアはフォスと俺を潤んだ瞳で交互に見つめると、頬を赤らめながら微笑んだ。どうやら照れているらしいフラメアの姿に、俺とフォスもつられて笑みを浮かべた。

 

 

 

「・・・・・・まぁ、これは中々・・・!」

 

「なんだこりゃ、滅茶苦茶美味ぇぞ!?」

 

 

 

と、そんなやり取りをしていた俺たちの向かいからフォビオとアルビスの驚く声がした。そちらを見ると、二人が俺の作った料理を食べているところだった。

 

 

 

「おいアクト!これはなんだ!?」

 

「え?あー、海老・・・・・・エビーラのフリットみたいなもんかな」

 

 

 

少し興奮した様子でそう訊ねてきたフォビオが口にしているものは、やや小さめな身を丸めて揚げたエビフライ・・・・・・ではない。ポップコーンシュリンプだ。

 

ユーラザニアは果実が特産品ではあるが、海に面しているため魚介類もそれなりに獲れるそうで、今回の宴にもそれらが沢山用意されていた。その中に混ざっていたのがそのエビーラという魔物だ。

 

エビーラとは、牛鹿と同じく魔獣に分類される海老そっくりの魔物だが、人を害することは全く無い弱い魔物らしく、ほぼほぼ食用として知られているという。育った年数によるのか、生息している場所の環境によるのかは不明だが、個体ごとにサイズは様々なようで、俺のいた世界で言うところの伊勢海老やロブスター以上のサイズのものもいれば、寿司屋等で甘エビと呼ばれるホッコクアカエビくらいのものもいるようだ。

 

それはさておき。今回、大きいエビーラはライカンスロープの料理人たちが豪快に丸ごと焼いて調理していたが、小さめのものは残ってしまった。小さいとは言ってもそれなりに身はあるので適当に炒めて食べようとしていたところを止めて、それら全てを俺が貰い、こうして調理したという訳だ。

 

 

 

「このまま食っても美味いが、このソースを付けるとさらに美味い・・・・・・!うお、こっちのソースもまた違った味で美味いな!」

 

 

 

そう言いながら、フォビオはフリットを次々と口へ運んでいく。エビーラを包む衣にはコンソメやパセリを混ぜてある。コンソメは主に味付けで、パセリに関してはエビーラが一応魔物なので念のために臭み消しにと思い入れてみた。しかしいざ食べてみればエビーラの身に臭みなどは全く無く、パセリはただ良い風味を出す仕事をしてくれていた。

 

それとソースだが、俺のいた世界で言う一般的なソース・・・中濃ソースは無かったので、オーロラソースとタルタルソースを用意してある。勿論これらも俺の手作りである。ジュラの大森林では手に入らない材料は青娥さんに用意して貰い、シス湖での生活中に作っておいたのだ。保存も青娥さんにお願いしているので、彼女が一緒ならば空間魔法でどこにいても取り出せる。

 

 

 

「こちらの魚料理もとても美味ですね。最初は生かと思いましたが、この口の中で蕩けるような食感がなんとも・・・!」

 

「そっちはマグロ・・・・・・じゃなくて、『槍頭鎧魚(スピアトロ)』のミキュイだよ」

 

 

 

アルビスが食べている料理は槍頭鎧魚(スピアトロ)という、ジュラの大森林の北の海に生息している海棲魔獣の身を調理したものだ。槍頭鎧魚(スピアトロ)は青娥さんが用意してくれたのだが、なんとAランクの魔物らしい。そんな強い魔物をお土産感覚で持ってくる辺り、やはり青娥さんはとんでもない。

 

ちなみにミキュイとはフランス語でレアとか半分火が入った状態という意味である。湯煎したり、軽く火を入れるなどの調理法があるのだが、今回は後者を取った。

 

青娥さんに「なにかオシャレなヤツも作ってくれません?」と大分ざっくりとしたお願いをされたので、ここの設備と用意された食材等から作れそうなものを考えた結果、これが浮かんだという訳だ。他にはスピアトロの赤身を牛鹿の肉で巻いたサルティンボッカ風、それとスピアトロのムニエルや簡単なパスタなども作ってみたが、これらも青娥さんやアルビスたちに好評だった。やはり自分の作った料理を食べて喜んでもらえると嬉しいな。

 

 

 

「確かにこっちの小洒落た魚料理も美味い・・・・・・アクト、お前は邪仙に鍛えられてるそうだが、料理もあいつから習ったのか?」

 

「いや、そういう訳じゃないよ。これは単なる趣味というか・・・・・・・・・・・・えっと、普通の人間たちから習ったんだ」

 

「へぇ、人間からか。奴らは力こそないが、こういった技術には目を見張るもんがあると聞く。イングラシアなんかは他の国よりも華やかで文化的らしいしな」

 

 

 

興味深そうにフォビオが呟く。そんな彼には悪いが、少し言葉を濁してしまった。転生する前に元の世界で親や料理動画などを見て学んだ、と言っても分かってもらえるか不安だったし。

 

それはさておき、俺なんかが作った料理でフォビオたちがこんなに喜んでいるのには理由がある。料理担当のライカンスロープたちと宴の料理を一緒に作って分かったのだが、彼らが作る料理はなんというか、その・・・・・・雑なのだ。

 

流石にただ焼いて終わり、なんてそこまで酷くはない。しかし基本的にただ塩胡椒で味付けしたくらいなのだ。一応、茹でるとか燻製したり、油で揚げたり等の調理法は知っているらしいけれど。青娥さん曰く、ユーラザニアは素材の味でなんとか誤魔化しているけれど、食文化は人間より劣っているらしい。

 

まぁ、リザードマンたちよりは食のレベルは上だけれど。あいつら虫も食うからな、しかも生で。

 

 

 

『へへっ、流石だな大将。強さだけじゃなく料理の腕前も認められてるぜ!』

 

 

 

俺たちが集まっているテーブルの傍にいるシーザーが、大量の肉や魚を食べながら『思念伝達』でそう語り掛けてきた。シーザーは俺やライカンスロープの料理人が作った料理ではなく、調理されていないものを食べている。一応、今のシーザーなら俺たちと同じものを食べられるそうなのだが、レッサードラゴンに進化してから食べる量がかなり増えたという。なので、自分も同じものを食べていたらほとんどの料理を食べ尽くしてしまうだろうと言って、俺たちとは別のものを食べているのだ。今度何かシーザーだけに美味いものを作ってあげよう。

 

 

 

「ほう、戦いだけじゃなく料理も上手いのか。青娥め、どこでこんな奴を見つけて来やがった?」

 

「カリオン様!」

 

 

 

と、その時。ふらりとカリオン様がこちらに歩いてきた。ポップコーンシュリンプを一つつまみ「美味いな」と呟く。

 

 

 

「あ、ありがとうございます!カリオン様のお口に合ったのであれば光栄です!」

 

「止せ止せ。折角の宴だ、そう畏まっていちゃ飯と酒が不味くなる。楽にしていろ」

 

 

 

立ち上がって深く頭を下げた俺や、姿勢を正しているフォビオたちに対しカリオン様は片手をひらひらと振る。ふと気付くと、初めて出逢った時の威圧感が全く無い。恐らく俺たちが宴を楽しめるように妖気を限界まで抑えてくださっているのだろう。

 

 

 

「お気遣い、感謝します」

 

「気にすんな。お前らにはダンジョンの件も、フォスの件でも世話になった。感謝するのはこちらの方さ・・・・・・さて。おい青娥!」

 

「はーい?」

 

 

 

俺にそう告げたカリオン様はそこで笑みを消し、青娥さんを呼んだ。いつの間にか他の料理を取りに席を外していた青娥さんは両手にそれぞれ酒の入ったグラスと料理の乗った皿を持ったままこちらへ振り返る。

 

 

 

「楽しんでるとこ悪いが、捕獲したダンジョンの核について聞かせろ」

 

「あぁ、例のドラゴンゾンビのことですね?」

 

 

 

青娥さんの問いにそうだ、とカリオン様が頷く。それを見て青娥さんはカリオン様の隣・・・・・・ではなく、俺の隣に座るとカリオン様の方を向いて言葉を続けた。

 

 

 

「まだ解析は全て終わっていませんが・・・・・・やはりあのドラゴンゾンビが通常の個体と違うのは間違いありません」

 

「ほう。その違いってのはなんだ?」

 

「スキルか魔法か、方法までは分かりませんが・・・・・・他の魔物が混ざっています」

 

 

 

いつもの笑みこそ浮かべたままだが、真剣な声色で青娥さんが答えた。カリオン様はそれを聞くと目を細めながらさらに訊ねる。

 

 

 

「混ざっている、とはどういうことだ」

 

「言葉通りの意味ですわ。種族は不明ですが、なにかしらの魔物を混ぜられあのドラゴンゾンビは強化されていました。それによって、通常の個体が持たないスキルと魔法を使っていたのです」

 

「アンデッドを操るスキルと『自己再生』だけならまだしも、エクストラスキル『並列演算』に『詠唱破棄』、あと上級魔法『水氷大魔嵐(アイスブリザード)』まで使いやがったらしいな」

 

「それと『侵食魔酸弾(アシッドシェル)』、『呪怨束縛(カースバインド)』もですね。それ以外にもいくつか魔法を確認しました。なんだか魔術師(マジシャン)っぽいスキル構成と魔法ですし、もしかすると混ざっているのは人間か亜人かもしれません」

 

 

 

口元に手を当て、考え込むような仕草をしつつ青娥さんが呟く。

俺は黙って二人の話を聞いていたが、少し疑問に思うところがあったので、二人の会話が一時途切れたそのタイミングで小さく手を挙げた。

 

 

 

「・・・・・・あの、青娥さん。そのドラゴンゾンビがネームドだった可能性は無いんですか?名付けをされると魔素量が増えて、個体にもよるけど通常とは違った成長をするんですよね」

 

「いや、アクト。こいつがそう言うんだからそれは無ぇ。こいつの解析スキルの精度は俺様が保証する」

 

 

 

カリオン様が俺を見据え静かに否定する。何故そう断言出来るのか俺は一瞬不思議に思ったが、すぐにその理由を察した。そう言えば俺が名付けによってスキルを獲得した時、それがどんなスキルなのか青娥さんに調べてもらったんだっけ。

 

 

 

「・・・・・・も、申し訳ありませんカリオン様。余計な口出しで会話の邪魔を・・・!」

 

「ちょっとカリオン様、私のアクトくんを苛めないでくださりますぅ?」

 

「いや俺様何もしてねえだろうが!寧ろお前のこと褒めてんだぞ!」

 

 

 

全く、と呆れた様子でカリオン様が息を吐いた。その様子を見て青娥さんはくすくす笑う。そして何故か俺の頭を撫でる。カリオン様の前だし近くにフラメアたちもいるしで、俺は恥ずかしさからその手をやんわりと振り払った。

 

 

 

「ふふふ、冗談ですわ♪さて、とりあえずドラゴンゾンビについて現状分かることはこれくらいですね。直接魂に(・・)触れられればもう少し何か分かるかもしれませんが」

 

「なんだ、殺して調べねえのか?」

 

「アクトくんが頑張って捕まえてくれた魔物ですよ?流石に申し訳無いじゃありませんかぁ。それに、今後何かに使えるかもしれませんし、暫くは生かしておきますよ」

 

 

 

意外そうな顔をしたカリオン様にそう答えながら、青娥さんは俺をちらりと見て小さく笑う。それより、今さらっと気になることを言ったな・・・・・・『魂に触れられれば』って。スキルか魔法を使えばそんなことまで出来るのだろうか。しかし、これ以上話の腰を折るのも申し訳無いし、これは後で聞くことにしよう。

 

 

 

「それはさておき。やはり今回のドラゴンゾンビは以前アクトくんと一緒に出逢った嵐蛇と同じと見て良いでしょう。つまり、先程も言った通り何者かによって作り出された個体という訳です。『麻痺吐息』を使っていたので、恐らくエビルムカデを混ぜられたのでしょうね」

 

「俺様が知らんだけかもしれんが、魔物を融合させる魔法なんざ聞いたこと無ぇからな。その能力からして恐らくユニークスキル・・・・・・似たスキルはそう発現しねぇし、お前の見立てでほぼ間違い無いだろうよ」

 

「流石にダンジョンを作った存在と同一人物かまでは分かりませんけれどねー・・・・・・ん、これも美味しいですよアクトくん♪」

 

 

 

そこまで言ってから、青娥さんはポップコーンシュリンプを一つ口へ運ぶ。味の感想を俺に伝えながら、青娥さんは指先に付いた油をちろりと舐めとる。その動作により見せた彼女の赤い舌に少しドキりとしたが、なんとか表情に出さないようにして俺はどうも、と軽く返した。

 

 

 

「あぁ、それとダンジョンについてですが一つ補足を。核となる魔物の強さがワンランク程上がっているとスフィアさんが言っていましたが、それは少し違います」

 

「ほう?」

 

「ダンジョンから離れたことでドラゴンゾンビが元の強さに戻ったのですが、核として存在していた状態との魔素量差から見て、恐らくダンジョンの核に設定されると、その個体の素の魔素量の何割かが加算されるのだと思います」

 

「それじゃ、俺たちが戦った時のドラゴンゾンビは特A+じゃなかったんですか?」

 

 

 

青娥さんの言葉に俺はついそう訊ねた。変身したアルビスや俺よりもあのドラゴンゾンビは強かった。てっきり俺たちより一つ上のランクかと思っていたのだが。

 

 

 

「えぇ。とは言っても、特A+にかなり近い魔素量でしたけれどね。大鬼の狂王(オーガロード)槍脚鎧蜘蛛(ナイトスパイダー)はドラゴンゾンビと比べて魔素量が少なかったので、核となった際の強化によりランクが上がっていたのでしょう」

 

 

 

青娥さんの説明に俺は成程、と静かに頷く。A-ランクからAランクまでと、特Aランクから特A+ランクまでの魔素量差は後者の方が大きいということだろう。それは俺でも何となく分かる。

 

 

 

「ふむ・・・・・・ダンジョンについてはまだ分からねぇこともあるが・・・・・・とにかく、お前たちの働きでそいつを一つ潰せたことは確かだ。フォスにとっても良い経験になっただろう。今回は世話になったな、改めて感謝する」

 

「ふふふ、お気になさらず。ダンジョン探索はこちらからお願いしたことでもありますので。それに、ユーラザニアとは良い関係でありたいですからね♪」

 

 

 

カリオン様からの感謝の言葉を受け、青娥さんは笑顔でそう答える。良い経験になったのは俺たちも同じだし、こちらこそカリオン様に、ユーラザニアに感謝したいくらいだ。

 

そんなことを考えていると、向かいの席に座っていたフォビオが俺の傍まで歩いてきた。すると寄り掛かるように俺の頭に肘を乗せ、にやりと笑う。

 

 

 

「邪仙は気に入らねぇが・・・・・・アクト、お前やガビルたちは別だ。競い会う相手として、そして我ら獣王戦士団が背中を預けるに値する友として認めてやるよ」

 

「フォビオ・・・・・・はは、ありがとな。こちらこそ、これからもよろしく」

 

 

 

隣に立つ彼を見上げ、俺も笑顔で返した。と、その時。離れたところにいたスフィアがガビルの髪を掴みながらふらふらとした足取りでこちらへやってきた。

 

 

 

「おぉーい!アクト、フォビオぉ!お前ら、ンなとこに集まってなぁに話してやがんだよぉ!」

 

「あだだだ・・・・・・スフィア殿、少し飲み過ぎでは?」

 

 

 

真っ赤な顔でにやにや笑いながらスフィアが叫ぶ。ガビルはまだ平気そうだが、スフィアは駄目だ。目が据わっているし完全に酔っぱらっている。

 

 

 

「チッ、邪魔すんじゃねえよスフィア!てめぇはガビルと向こうで馬鹿やってろ!」

 

「ん~・・・・・・?なんだよアクト、お前全然飲んでないじゃんか!ユーラザニアの酒が飲めないってのかぁ!?」

 

「無視すんじゃねえよコラ!」

 

 

 

こちらに絡んでくるスフィアにキレるフォビオの姿に俺は思わず苦笑した。しかし、今のスフィアはなるべく相手にしたくない。髪を掴まれ頭をぐわんぐわん揺らされているガビルの為にも、彼女をなんとかしてくれないかと期待を込めアルビスの方を見る。

 

 

 

「・・・・・・・・・そう言われてみれば、酒には全く手を付けていませんね?」

 

「お前もかよ!」

 

 

 

しかし駄目だった。妙な間の後、意地の悪そうな笑みを浮かべアルビスは俺にそう言った。よく見るといつの間にか巨大な樽を抱えてがぶがぶと中身を飲んでいる。まさかあの中身、全部酒なの?

 

 

 

「なんだアクト。お前酒が飲めんのか」

 

「い、いえ。そういう訳では・・・・・・ただ、あまり得意でないと言うか、飲んだことがないと言うか・・・・・・」

 

「アクトさんアクトさんっ!これどうぞ!」

 

 

 

意外そうな顔をするカリオン様に言葉を濁していると、傍で食事をしていたフラメアがそう声を掛けてきた。そちらに振り向くと、なにやら液体の入ったジョッキを俺に差し出している。

 

 

 

「フラメア?これは・・・・・・」

 

「果実酒です!度数もそんなに高くないし、甘さもあるので麦酒(エール)よりは飲みやすいですよ!」

 

「ユーラザニアで採れた果物で作ったお酒です!アクトさんにも是非味わって欲しいです!」

 

 

 

こちらも酔っているのか、顔をやや朱色に染めたフラメアがにこりと微笑みながら俺に答えた。彼女に続いてフォスからもそう言われては流石に断り辛い。

 

・・・・・・そもそも、今の俺は人間じゃなくて魔物なんだし、律儀に元の世界のルールを守らなくてもいいのかもしれない。もしかするとこっちの世界じゃ別に未成年でも酒を飲んでも許されるのかもしれないしな。

 

 

 

「・・・・・・そうだな。折角の機会だし、頂くよ」

 

「やったです!それでは、どうぞどうぞ!ぐいっと!」

 

「あぁ・・・・・・・・・んっ・・・・・・?」

 

 

 

喜びながら捲し立てるフォスに苦笑しつつ、フラメアから受け取ったジョッキに口を付ける。そしてそれをゆっくり傾けた。

 

 

 

・・・・・・・・・意外と飲めるぞ?

 

 

 

「・・・・・・お、おぉ?なんか普通に飲めたわ」

 

「ふぁー!良かったです!」

 

「味はどうですか、アクトさん?」

 

「えっと、美味しい・・・・・・と思う」

 

 

 

喜ぶフォスと感想を訊ねてきたフラメアから酒の入ったジョッキに視線を戻す。フラメアの言う通りアルコール感はあまり無く、ただ自然なリンゴの甘味と香りが心地良い。リンゴの果実酒ということはシードルという物だろうか。

 

微炭酸でクセは無く、喉越しも良い。酒というよりは寧ろジュース感覚でごくごくと飲めてしまいそうだった・・・・・・と、そんなことを考えている内にジョッキが空になった。

 

 

 

「おぉ、初めてだというのに良い飲みっぷりである!」

 

「きゃー♪これでアクトくんも、大人になっちゃいましたね♡」

 

「みっ・・・耳元で変なことを変な声で言わないでくれますぅ!?」

 

 

 

初飲酒を終えた俺を見たガビルが声を上げる。すると、隣にいた

青娥さんが俺の耳元で悩ましい声でそう囁いた。その声色とくすぐったさから俺は慌てながら彼女から距離を取る。

 

 

 

「なんだよ、飲めるんじゃねえか。うっし、そんじゃあ今度はアクトも付き合えよ」

 

「スフィア殿、そろそろ酒は控えた方が良いのでは・・・・・・随分ペースが早いようであるし・・・・・・」

 

「うっせー!ガビルももっと飲めよ!オラッ、麦酒!」

 

「と、とりあえず乾杯しましょ!ねっ、アクトさん?」

 

 

 

スフィアに恐る恐る忠告するガビルだったが、その言葉はあっさり一蹴され麦酒の追加を飲まされることとなった。二人のやり取りに苦笑していると、こちらと同じような顔をしながらフラメアがジョッキに酒を注いでくれる。フラメアに礼を言っていると、青娥さんがグラスを片手に俺の隣に歩いてきた。

 

 

 

「アクトくん、今日はお疲れ様でした・・・・・・乾杯♪」

 

「青娥さん・・・・・・ははっ。青娥さんこそ、お疲れ様でした。えっと・・・・・・乾杯」

 

 

 

いつもの笑みを浮かべながら、青娥さんは両手で持ったグラスを俺に向ける。それと彼女を交互に見つめた後、俺は口元を緩めて自分のジョッキを青娥さんのグラスにかちんと合わせた。

 

美味い料理に美味い酒。それらを味わいながら青娥さんやガビルにシーザー、さらにフォビオやフラメアたちといった、ここで新たに知り合った友人たちと俺は笑い合う。こうして、ユーラザニアでの楽しい夜は更けていくのだった。




転スラ世界だと何歳から飲酒しても大丈夫なんでしょうかね。
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