転生したら蜥蜴人族の友人と邪仙の恋人ができた件   作:乃出一樹

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お待たせしました、第81話となります。

GWは特にどこも行かず、友人たちとだらだら飲んだくれております。自分はお酒そんなに強くありませんけど。


兎人族(ラビットマン)たちからの依頼①

道中で出会った伏せ耳の兎人族(ラビットマン)たちに森の中を案内されること数十分。俺たちは遂にフラメアの故郷である、兎人族(ラビットマン)の里に到着した。

 

里の入口から中に少し入ったところでコビーたちは馬車を止め、色々な荷物を降ろし始めた。どうやらこの辺りで商売をするらしい。そんな彼らを横目で見つつ、俺は青娥さんたちと共に馬車から降りた。

 

 

 

「ここが兎人族(ラビットマン)の里か・・・・・・」

 

 

 

そう呟いて、俺は辺りを見回す。ジュラの大森林、シス湖の南西に佇む一つの岩山。その中に兎人族(ラビットマン)の里はあった。

 

岩山の内部は大きく削られ、空間が広がっていた。入口からちらりと見るだけでも多くの兎人族(ラビットマン)が行き来している。内部の岩肌にはいくつも穴が開いており、そこから兎人族(ラビットマン)が出てくるのが見えた。恐らくこの穴のほとんどが彼らの家なのだろう。

 

里に入る前、洞窟暮らしのようなものだとフラメアは言っていたが、あまり息苦しさは感じない。ほぼドーム状の岩山ではあるが、内部にはいくらか植物が生えているし、また外の景色が見えるほどに岩山の壁が大きくくり貫かれている。そのお陰で解放感があるのだろう。今気付いたが、感覚的にはドワルゴンに近い。

 

まぁ、あの国と比べるとこちらは文化レベルが大分低いが。

 

 

 

「ふむ、中々良いところであるな。我等リザードマンの住処、シス湖には劣るが」

 

「あはは。ありがとうございます、ガビルさん」

 

 

 

 

「フラメアお姉ちゃーーんっ!」

 

 

 

さりげなく自分たちの住処を自慢するガビルにフラメアがそう返していると、幼さを感じるいくつかの声がフラメアを呼んだ。声の方へ振り向くと、兎人族(ラビットマン)の子供たちがフラメアに駆け寄って来ていた。

 

 

 

「お帰り!フラメアお姉ちゃん!」

 

「ふふっ、皆ただいま。元気にしてた?」

 

「うん!」

 

「あら、フラメアちゃんじゃないの」

 

「帰ってきたんだな!」

 

 

 

子供たちに迎えられたフラメアはその場で屈み込み、子供たちと目線を合わせる。そうして優しく微笑みながら、子供たちの頭を撫でた。すると子供たちだけでなく、大人の兎人族(ラビットマン)たちも彼女の周りに集まり各々親しげに声を掛けていく。

 

族長になる気は無いと言っていたが、その人柄か里の皆からは慕われているらしい。そんな目の前の彼女の姿がなんだか微笑ましくて、思わず口元を緩めた、その時。

 

 

 

 

 

「──フラメアッ!」

 

 

 

子供たちのものとは違う、低い男の声が響いた。それにフラメアはびくりと体を震わせ、恐る恐る声の方を見る。

 

 

 

「と、父さま・・・・・・」

 

 

 

そこに立っていた人物を見たフラメアがやはりと言うような顔で呟く。フラメアと同じ茶髪、白くぴんと立ったウサ耳。そしてどこか苦労人っぽい雰囲気を醸し出す男。どうやら彼が兎人族(ラビットマン)の族長にして、フラメアの父親らしい。

 

族長はフラメアを真っ直ぐ見据えずんずんと近付いて行く。明らかに穏やかとは言えない雰囲気の族長を見て、フラメアの周囲に集まっていた人たちが慌てて距離を取る中、彼女の目の前までやってきた族長は怒りを滲ませた表情で口を開いた。

 

 

 

「やっと帰ってきたのか・・・・・・また誰にも何も言わず勝手に里を脱け出して!」

 

「あー・・・・・・その、ごめんなさい・・・・・・?」

 

 

 

居心地が悪そうに苦笑しながらフラメアは族長に謝罪する。それを聞いた族長は更に何か言おうと口を開き掛けたが、それを飲み込むと深い溜め息を吐いた。

 

 

 

「何故疑問系なんだ・・・・・・まぁいい。とにかく、無事に帰ってきてくれて何よりだ・・・・・・心配したんだぞ」

 

「・・・・・・・・・うん。ただいま、父さま」

 

「あぁ・・・・・・お帰り、フラメア」

 

 

 

目を細め、優しい声色に変わった族長を見て、フラメアは安心したのか表情を和らげる。道中では頭が固いなどと愚痴をこぼしていたが、嫌いではないと言っていた通り案外親子仲は良好なのかもしれない。

 

 

 

「素敵なお父様ですね、フラメア様」

 

「ん?そういえばこちらの方たちは・・・・・・」

 

「御初に御目に掛かります、族長様。私の名は青娥。こちらに居られる上位魔人のアクト様に使える者でございます」

 

「へっ!?じょ、上位魔人!?」

 

 

 

声を上げて仰天し、族長は後退る。距離を取って俺や青娥さんたちを凝視する自身の父親の姿を見て、フラメアは小さく笑っていた。

 

 

 

「じょ、じょじょじょ・・・・・・上位魔人が何故この里に・・・・・・」

 

「アンタの娘を部下にしたいんだとよ」

 

「な、なんだってぇえええええええッ!!?」

 

 

 

里まで案内してくれた伏せ耳の男からそう告げられ、族長は再び驚愕する。フラメアの父親なのだし、族長には後で本当のことを話しておいた方がいいだろうか。

 

 

 

「俺たちは先に長老の所に行く。族長はフラメアから詳しい話を聞いてから来い。だが、あまりモタモタするなよ」

 

 

 

伏せ耳の男はそう族長に告げると、仲間たちと共に歩き出す。五人で広がって歩く彼らは周囲にいる立ち耳たちに「退け」だの「邪魔だ」等と乱暴な物言いと態度をしながら族長の元へ向かった。

 

 

 

「全く、伏せ耳ったらまた偉そうに・・・・・・」

 

 

 

先程フラメアに声を掛けていた立ち耳の一人が小声で吐き捨てた。するとそれを皮切りに周囲に集まっていた立ち耳たちが伏せ耳たちへ対する陰口を叩き出す。そんな立ち耳たちと、その場を去っていく伏せ耳たちを交互に見て、フラメアは溜め息を吐いた。

 

 

 

「・・・・・・ごめんなさい皆さん。嫌なところを見せちゃって・・・」

 

「あー、気にしなくていいよ。けど・・・・・・いつもこんな感じなのか?」

 

「はい、恥ずかしながら・・・・・・実は里にいる立ち耳と伏せ耳って仲がそんなに良くなくて・・・・・・勿論、全員がそうって訳じゃないんですけど」

 

 

 

申し訳なさそうにフラメアはそう答えた。実は長老も伏せ耳らしく、族長であるフラメアの父親は伏せ耳派と立ち耳派に板挟みにされているらしい。

 

すると、俺の後ろで話を聞いていたガビルが呆れたように鼻を鳴らした。

 

 

 

「ふん、長老派と反りが合わぬ等とは道中で聞いていたが、ここまでとは・・・・・・種族内で対立するなど、なんと愚かなことよ。我等リザードマンはいくつかの氏族に別れているが、皆手を取り合って生きていると言うのに」

 

「へぇ、リザードマンって氏族なんてあったんだ?」

 

「うむ。水産業を生業とする氏族、畜産業を営む氏族、更には山間で採取をする氏族等だな。それぞれの氏族は我輩の叔父御たちが纏めているのである」

 

 

 

初めて聞いたリザードマン事情に俺は目を丸くする。ガビルと出逢って、シス湖で共に暮らすようになってから一ヶ月以上経つが、まだまだ知らないことが沢山あるな。ちなみにシス湖にある住処で暮らすリザードマンたちは本家的な扱いらしい。それとシス湖で魚や貝を獲る為に、ガビルたちの住処に滞在する水産業を生業とする氏族もそこそこいるそうだ。

 

 

 

「・・・・・・あ、あの~・・・・・・」

 

 

 

その時、俺たちが会話している間ずっと黙っていた族長が申し訳無さそうに小さく片手を上げ訊ねてきた。そう言えばこの人がいたなと思い出し、俺はそちらに振り返る。

 

 

 

「あー、すみません族長・・・・・・さん。こっちだけで話しちゃって」

 

「いっ、いえいえいえ!お気になさらず!それより・・・・・・彼の言っていたことは本当なのでしょうか?本当に私の娘を部下に・・・・・・?」

 

 

 

不安そうな表情で族長さんは俺を見つめた。そんな顔にもなるだろうな、と俺は一人考える。自分の娘が何処の誰とも知れない男に連れて行かれるかもしれないのだから。まぁ、部下にするというのは嘘なのだけれど。

 

 

 

「・・・・・・青娥さん。フラメアの父親でもあるんだし、族長さんには全部話しても良いですか?」

 

「んー、そうですね・・・・・・まぁ別に問題無いでしょう」

 

「フラメアも、良いか?」

 

「はい!父さまにも協力してもらった方がやりやすいと思いますし!」

 

 

 

青娥さんとフラメアに確認を取った俺は族長さんへと向き直る。どういうことなのかと眉を顰めている彼を見て、どう伝えたものかと頭を掻く。結局、青娥さんとフラメアを交えて、族長さんへ事の次第を説明することになるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・失礼します」

 

「・・・・・・・・・入れ」

 

 

 

年老いた男の声に促され、族長とフラメアを先頭に俺と青娥さんは目の前にある部屋へ足を踏み入れる。部屋と言ってもドア等は無いし、里全体の造りが基本的に岩山をベースにしていることもあり、一見は少し大きめの洞穴にも思えた。

 

 

 

ここは兎人族(ラビットマン)の里の上層階。族長へ事情を説明し終えた俺たちは、族長とフラメアに連れられて長老の間へやって来ていた。俺たちは、と言ったがあとは青娥さんだけで、ガビルとシーザーは一緒に来てはいない。全員で行くことも無いだろうと二人はコビーたちのところに残っている。もし何かあれば俺の『魔物召還』で呼び出せるし問題は無いだろう。

 

 

 

さて。その長老の間だが、里全体をほぼ見渡せるくらい高い場所にある。里でここより高い場所は他には見張り塔だけらしい。そういえば外から里を見た時、岩山に煙突のようなものがあった気がする。恐らくあれが見張り塔なのだろう。

 

 

 

「長老。我が娘フラメアと、客人を連れて参りました」

 

「うむ・・・・・・」

 

 

 

部屋の中央辺りまで歩いて行った族長とフラメアは立ち止まるとそこで座り込む。フラメアは膝を付いて、族長は胡座だ。男女によってこういった場合の座り方等が決まっているのだろうか。

 

と、俺がぼんやりそんなことを考えている時、族長の声に短く応える者がいた。部屋の奥、他の場所より豪華に装飾されたそこにその人物が座っている。他の兎人族(ラビットマン)たちよりも大柄な体格で、口元に立派な髭を蓄えた男だ。髪や髭が白くなっているところを見るに相応に年老いているのだろう。長老と呼ばれたその男は鋭い眼光でフラメアと族長さんを見据えると、ゆっくり頷いた。

 

それと、この長老の間には里まで案内してくれた五人の伏せ耳たちの姿があった。彼らはまるで俺たち四人を取り囲むかのように部屋に広がっている。いや、実際その通りなのだろうが。

 

 

 

「お久しぶりです長老様。族長の娘、フラメアです」

 

「漸く帰って来おったか。全く、ネームドだからと好き勝手しおって」

 

「立ち耳風情が・・・・・・」

 

 

 

長老が吐き捨てた後、わざと聞こえるくらいの声量で伏せ耳の一人が呟く。どうやら俺が思っていた以上に立ち耳と伏せ耳の仲は悪いようだ。後ろにいる俺からはフラメアと族長の顔は見えないが、きっと穏やかではない表情をしているのだろう。

 

 

 

「・・・・・・まぁ良い。今はお前のことよりも優先することがある」

 

 

 

そこで長老は言葉を区切り、族長とフラメアの後ろに立つ俺と青娥さんに視線を向ける。長老だけでなく伏せ耳たちの視線もこちらに集中した。

 

 

 

「お主たちが報告にあった上位魔人とその従者じゃな?」

 

「はい、御初に御目に掛かります長老様。私の名は青娥。こちらに居られるアクト様に仕えさせて頂いております。この度は突然の訪問となってしまい、申し訳ありません」

 

 

 

頭を下げ、青娥さんは長老にそう答える。ちら、と不安そうな顔でフラメアがこちらに振り返ったのを見て、俺は彼女に問題無いと告げる代わりに小さく頷いてみせた。

 

 

 

「良い、顔を上げよ。若い衆から話は既に聞いておる。次期族長であるそこのフラメアを部下にしたいそうじゃな」

 

「えぇ。フラメア様の能力をアクト様は高く評価していまして・・・・・・」

 

 

 

顔を上げた青娥さんは営業スマイルを浮かべながら長老に説明する。さて、青娥さんから話し合いの流れの予想をある程度聞かされてはいるが、どうなることか。

 

 

 

「族長となられるフラメア様を引き抜かれることに抵抗があることは理解致します。ですが、アクト様という強者がこの里の後ろ盾になられると考えれば、皆様にとっても利があるお話かと」

 

「利がある、か・・・・・・」

 

 

 

長老はぼそりと呟くと口を閉ざす。その様子が少し気にかかり眉を顰めていると、やがて長老は口元をつりあげこう言った。

 

 

 

 

 

「・・・・・・はてさて。そこのアクトという男。本当に上位魔人なのかのう?」

 

 

 

長老は、そして伏せ耳たちもどこか侮るような目で俺を見る。

 

・・・・・・成程、こうなるか。

 

 

 

「ちょっ・・・・・・長老!なんてことを言うんですか!アクトさんの力は本物・・・・・・!」

 

「黙っておれ!お前の魂胆は分かっておる・・・・・・族長の役目を果たすのが嫌でこのような芝居を打ったのじゃろう!」

 

 

 

フラメアの言葉を遮り長老が怒鳴る。あぁ、流石にその辺は勘付かれれるよな・・・・・・

 

と、その時。伏せ耳の男がにやにや笑いながらこちらに近付いてきた。

 

 

 

「どうせあのリザードマンとレッサードラゴンの威を借るただの人間なんだろう?本当に上位魔人だと言うのであれば、証拠を見せてみろ!証拠を!」

 

「分かった」

 

「はっ?な、なに・・・・・・?」

 

 

 

詰め寄る伏せ耳の男に向き直ると彼は分かりやすく狼狽えた。全く動揺もせず即答した俺の姿に伏せ耳の男だけでなく長老も目を丸くしている。

 

俺が特に慌てていないのは、この展開を青娥さんが予想していたからだ。

 

フラメアのことを知る者からすれば、彼女が族長になることに前向きで無いことも当然知っている。そんなフラメアが飛び出した里に突然帰ってきて、上位魔人にスカウトされたから族長にはなりません!・・・・・・なんて言い出したら、まぁ族長の役目から逃れる為に考えた嘘だと思うのが普通だろう。

 

おまけにその上位魔人と名乗る相手の外見がただの人間で、魔素や妖気も感じなかったらより疑念が強まる筈だ。一応、今の俺は妖気を抑えているとは言っても、フラメアと大して変わらないくらいまでにはそれを発したままでいるのだが・・・・・・『魔力感知』などのスキルを持たない伏せ耳たちにはそれが分からないのだろう。よって、恐らく向こうはこちらの話を素直に聞き入れはしない筈・・・・・・というのが青娥さんの考えだった。

 

 

 

「俺が上位魔人だって証拠が欲しいんだろ?なら俺の力を見せてやる。それが一番手っ取り早い・・・・・・ほら、来いよ」

 

 

 

俺は目の前に立つ伏せ耳の男に、片手を使って掛かってこいとジェスチャーを送る。

 

とはいえ、一番手っ取り早く相手にこちらの実力を理解させるには、戦うよりも俺の妖気を解放すればいいだけだ。しかし、フラメアから聞く限り兎人族(ラビットマン)はとても臆病で弱い種族。『魔力感知』を持たない者でもあまりに巨大な魔素や妖気なら感じることが出来るそうだが、それだけの妖気を発したら里に暮らす全ての兎人族(ラビットマン)が怯えてパニックを起こしかねないし、最悪失神する可能性もあるとのこと。

 

この場にいる伏せ耳たちだけならともかく、族長さんや他の兎人族(ラビットマン)たちに迷惑を掛ける訳にはいかない。なので仕方なく、俺はこの方法を取ることにしたのである。最も、これは青娥さんの入れ知恵なのだけれど。

 

 

 

・・・・・・こんなことならガビル・・・・・・いや、シーザーだけでもいいから一緒に来てもらうんだったな。

 

 

 

「ふ、伏せ耳でも随一のこの俺に勝てるとでも思ってんのか!?」

 

「やっ、やめてください!そんなことしたら怪我しちゃいますよ!」

 

「・・・・・・く、くくく・・・はっはっはっ!やはりハッタリか!」

 

 

 

慌てるフラメアの姿を見て勘違いした伏せ耳は平静を取り戻し笑い出した。フラメアは間違いなく伏せ耳の男を心配しているのだが、彼にフラメアの気持ちなど伝わる訳も無く。伏せ耳の男は再び余裕そうな笑みを浮かべると、腰に下げていた剣を引き抜いた。

 

 

 

「今更後戻りは出来ねえよ次期族長!」

 

「大丈夫だよフラメア、ちゃんと手加減するから」

 

「お、お願いしますよ・・・・・・?」

 

 

 

一人盛り上がる伏せ耳の男を無視して、俺はフラメアを安心させようと笑ってそう告げる。苦笑しながら俺とそう話すフラメアを見て、無視されたと思ったらしい伏せ耳は怒りで表情を歪めた。

 

 

 

「な・・・・・・舐めるんじゃねぇええええええええッ!!!」

 

 

 

怒りを露にして、伏せ耳の男は叫びながら剣を振り下ろす。それとほぼ同時に、族長の悲鳴に近い制止させようとする声がその場に響いた。そして伏せ耳の剣が俺の目前に迫り──

 

 

 

 

 

「ん」

 

「・・・・・・へ?」

 

 

 

その一撃を、俺は簡単に手刀で受け止めてみせた。信じられない光景だったらしく、伏せ耳の男は間の抜けた声を漏らす。

 

彼だけで無く、この場にいるフラメアと青娥さん以外の全員が驚いているようだが、これくらい別になんてことは無い。ただ右手を『気操法』で少しだけ強化し、それで伏せ耳の剣を防いだだけだ。

 

 

 

「どうした、もう終わりか?」

 

「う、ぐ・・・・・・・・・・・・だりゃあああああああああああああっ!!!」

 

 

 

俺の安い挑発を受け、伏せ耳の男はヤケクソ気味に剣を振り回し始める。しかし、その攻撃は全て俺の右手にいなされていく。

 

・・・・・・・・・どこか既視感があるなー、と思っていたが、アレだ。『ドラゴンボール』で超サイヤ人の悟空が同じく超サイヤ人状態のトランクスの剣を受け止めている時のシーンだわ、これ。あの時の悟空は人差し指一本で受け止めてたけど。

 

 

 

「ぐ、ぐぐぐっ・・・・・・!当たりさえ、当たりさえすればキサマなんか・・・・・・!」

 

「・・・・・・もういいか」

 

 

 

フリーザ様みたいなセリフを吐いた伏せ耳に内心苦笑しつつ、俺はそう呟く。次の瞬間、俺は伏せ耳の振るう剣を人差し指と中指で挟むと、少しだけ力を込めてそれをへし折った。

 

 

 

「げぇええっ!?」

 

 

 

ぽっきりと折れた自身の得物を見て伏せ耳の男は目を見開く。呆然とする彼の姿にもう戦意は無いと判断した俺は、彼を放置し残りの伏せ耳たちと長老を見回した。

 

 

 

「これでもまだ足りないか?・・・・・・なら、次は長老さんが相手になります?」

 

「ぬ、うぅ・・・・・・!ま、待て・・・待ってくれ。先程の無礼を詫びさせて欲しい・・・・・・!」

 

 

 

俺と視線を合わせた長老はびくりと体を揺らした後、待ったと言わんばかりに片手を前に突き出す。俺の強さを認めたのか、長老は姿勢を正し頭を下げた。

 

 

 

「た・・・・・・確かに、お主は我ら兎人族(ラビットマン)よりも強いようじゃ。じゃが、それだけでは上位魔人であるとは認められぬ」

 

「長老、この期に及んでまだそのような・・・・・・!」

 

「族長よ。兎人族(ラビットマン)の弱さは自身がよく理解していよう?フラメアを除けば、里の者たちは精々がゴブリン辺りより少し強い程度。長くを生きた儂や、今アクト殿と手合わせした者は一族の中ではマシな方じゃが、それでもたかが知れておる。儂らに勝てるからと言って、それが上位魔人であるという証拠にはならん」

 

 

 

呆れた様子で訴えかけた族長さんに長老は冷静にそう返す。成程、確かに長老の言葉にも一理あるか。戦ってみた所感、兎人族(ラビットマン)の中では強い方だと言う伏せ耳の男だが、Cランクの牙狼族やリザードマンよりも弱い。恐らくホバーリザード辺りになら勝てるだろうが・・・・・・ランクで言えばD-くらいだろう。その程度の相手なら上位魔人で無くとも倒せる魔物はいくらでもいるし。

 

 

 

「そこでじゃ。お主の力を確かめる為に一つ頼みたいことがある」

 

「頼み?」

 

 

 

うむ、と長老が頷いた。ちらりと傍に青娥さんを見ると、彼女は笑みを浮かべたまま小さく頷く。長老の話を聞いても良いだろうと判断した俺は続きを彼に促した。

 

 

 

「実は最近、里から少し離れたところに『地獄蛾(ヘルモス)』が棲み着きおってのう・・・・・・」

 

「えぇっ!?ヘルモスが!?」

 

『アクトくん、アクトくん』

 

 

 

地獄蛾(ヘルモス)』、という知らない魔物の名が上がり、フラメアが声を上げて驚く。そんなに危険な魔物なのかと俺が眉を顰めていると、青娥さんが『念話』を使って語りかけてきた。

 

 

 

地獄蛾(ヘルモス)というのは虫型の魔物でして。幼虫の頃はほぼ無害で弱いんですけど、成虫になるとBランクに分類される狂暴な魔物になるんです』

 

『へぇ、文字通り蛾のモンスターってことか。ありがとうございます、青娥さん』

 

 

 

『念話』に応じた俺は視線を合わせることなく青娥さんに礼を言った。Bランクの魔物か。それに蛾ということは空も飛んでいるのだろうし、兎人族(ラビットマン)では手も足も出ないだろう。

 

 

 

「しかも、つがいなのかは分からぬが二匹もおるんじゃ。里の者が狩り等で外へ出掛けた際に何度か襲われてな。既に数名犠牲者も出ておる・・・・・・」

 

「そんな、私がいない間にそんなことに・・・・・・」

 

 

 

犠牲者と聞いてフラメアの表情が曇る。Bランクの魔物が二匹もいたら兎人族(ラビットマン)たちではどうしようもないだろうな。正直、数名の犠牲者で済んでいるのが不思議なくらいだ。

 

 

 

「今はまだ蓄えがありますが、いずれ食糧を調達出来ずに里の皆が餓えてしまいます。せめて里近辺には近寄らせないようにと、ここ数日は戦える者たちでいくつかの班を作り、彼らに辺りの見回りと警備を任せておりました」

 

「あっ、もしかして途中で伏せ耳たちと会ったのは・・・・・・」

 

「はい、彼らもその班の一つです。あの辺りの見回りを任せておりました」

 

 

 

頷いて族長さんが俺にそう答えた。だから全員が剣やら何やらで武装していたんだな。

 

と、俺が一人納得していると、長老が神妙な顔付きで口を開いた。

 

 

 

「このままではいつ里が奴らに襲われるか・・・・・・二匹のヘルモスが相手では、例え里中の兎人族(ラビットマン)全てで立ち向かったとしても勝てるか怪しい・・・・・・もしお主が本当に上位魔人であるのならば、どうか御力添え頂けませぬか!」

 

「アクト殿、私からもお願い申し上げます!」

 

 

 

長老に続くように族長さんもばっと頭を下げた。どう返答したものかと悩んでいると、さらに長老が言葉を続ける。

 

 

 

「ヘルモスを倒し、里の危機を救って頂けるのであれば!次期族長は勿論、我ら兎人族(ラビットマン)一同、お主・・・・・・いえ!貴方への忠誠を誓いましょうぞ・・・・・・!」

 

 

 

最早先程までとは別人かと思うほど、弱々しい態度で長老はそう告げた。その言葉を聞いて他の伏せ耳たちも慌てて俺に頭を下げる。

 

 

 

「えー・・・・・・っと・・・・・・」

 

 

 

どうしたものかと思い、青娥さんに視線を向ける。青娥さんは俺に気付くとただにこりと微笑んでみせた。俺の好きにしろ、ということだろうか。

 

次に、フラメアを見た。白い耳が垂れ下がり、不安からか僅かに震えている。そして、祈るような眼差しで俺を見つめていた。

 

 

 

・・・・・・ここまで来て、見てみぬ振りは出来ないよな。

 

 

 

「・・・・・・・・・分かった。ヘルモス退治、やってやるよ」

 

「おぉっ!引き受けてくださるか!」

 

「いやぁ心強い!アクト殿、感謝致します!」

 

 

 

俺の言葉を聞いた長老は表情をぱっと明るくさせる。族長さんも嬉しそうな顔をしながら立ち上がると、こちらに近付き俺の手を取った。

 

 

 

いきなりヘルモスとかいう魔物を倒すことになったり、兎人族(ラビットマン)全てが俺に忠誠を誓うだとか、何だか更に妙な展開になってきて少し困惑してるけど・・・・・・

 

 

 

 

 

「アクトさん・・・・・・ありがとうございます!」

 

 

 

・・・・・・まぁ。友達(フラメア)が笑ってくれたのだし、とりあえず良しとしよう。




フラメアの父親が漫画の方と違って大分マイルドな対応をしてますが、これはこちらの時系列がまだオークロード戦前ということで、彼から見たフラメアがまだそこまで問題行動(謁見式から逃げるなど)をしていないから、ということになっております。
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