転生したら蜥蜴人族の友人と邪仙の恋人ができた件   作:乃出一樹

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お待たせしました、第82話となります。


兎人族(ラビットマン)たちからの依頼②

ジュラの大森林。その中央辺りに広がるシス湖から見て南西に位置する兎人族(ラビットマン)の里。

 

そこから少し離れた木々の間を素早く飛んで行く二つの影があった。

 

 

 

 

 

「・・・・・・付いて来てくれてありがとな、シーザー」

 

「ガァウッ!」

 

 

 

その影とは、ドラゴニュートのユニークであるこの俺、アクト。そしてレッサードラゴンのシーザーである。

 

 

 

先程、色々あって兎人族(ラビットマン)の里で地獄蛾(ヘルモス)という魔物の討伐を依頼された俺たち。相手は二匹いるとは言えBランクの格下だし、今回は向かう先もダンジョンではないので特にこれと言った準備等はせず、事のあらましをガビルとシーザーに報告してからすぐにヘルモス退治へ俺たちは出発した。

 

そうそう。先程二つの影と言ったが、この場には俺とシーザーの他にあと二人いる。

 

 

 

「ひ、ひぃいいい・・・・・・!」

 

「は・・・はや、速いぃい・・・・・・!」

 

 

 

その二人とはフラメアの父親である族長さんと、俺に剣を折られた伏せ耳の男である。二人はどこか怯えた様子でシーザーに乗って・・・・・・もとい、しがみついている。

 

何故この二人が俺たちに同行しているかと言うと、ヘルモスが棲み着いた場所への案内をしてもらう為・・・・・・と、言うのは建前で。実際は俺が本当に二匹のヘルモスを倒せるか確認する為の見張りのようなものだ。長老が伏せ耳に俺の案内役をするよう命令した際、青娥さんから『念話』で恐らくそういう腹だろうと教えてもらったのである。

 

しかし、長老派閥の伏せ耳だけでは不安だからとフラメアに頼まれ、彼女の代わりに族長さんもこうして付いて来てもらった。本人は物凄く嫌そうだったけれど。シーザーを連れてきたのはこの二人を運んでもらうのと、念の為に護衛役としてだ。

 

 

 

ちなみに今回付いて来ていないガビルは、万が一こちらと入れ違いになったヘルモスが里に襲撃した際、それを撃退する為に向こうへ残った。それと青娥さんはヘルモスが棲み処にいなかった場合のことを考えて俺たちとは別の場所を探索している。もし青娥さんがヘルモスを発見したら、再び持たされた魔封牢を使って連絡を取り合う手筈になっている。

 

 

 

「族長さん、ヘルモスが棲み着いたっていう場所まであとどのくらい掛かります?」

 

「もっ、もうすぐですぅ・・・・・・っ!」

 

 

 

シーザーにしがみついたまま、族長さんは震えた声でそう答えた。どうやら兎人族(ラビットマン)にとって、レッサードラゴンの飛ぶスピードは恐怖を感じるレベルらしい。同じくシーザーにしがみついている伏せ耳も涙目になる程のようだ。

 

 

 

「少しだけスピードを落としてあげるか、シーザー」

 

「グルル・・・・・・」

 

 

 

目的地がもう近いのならと、俺はシーザーにそう声を掛けた。頷き、ゆっくりと速度を緩めていくシーザーに族長さんはほっと息を吐く。

 

 

 

「す、すみませんアクト殿・・・・・・」

 

「いや、気にしないでください。無理して付いて来てもらってる訳ですし」

 

 

 

そう言いながら、俺は腰に下げた魔封牢へちらりと視線を向ける。青娥さんからの連絡は今のところ無い。里に残ったガビルからも同じく。俺たちの向かう先でヘルモスを見つけられれば話は早いのだが。

 

 

 

『・・・・・・おっ?なぁ大将、あれ見てくれよ』

 

「ん?」

 

 

 

そんなことを考えていた時、シーザーが『思念伝達』で呼び掛けてきた。何事かと思い彼の視線の先を追った俺は、そこにあったものを見て眉を顰めた。

 

 

 

「あれは、血・・・・・・?」

 

 

 

そこには地面を赤く濡らす水溜まりがあった。族長さんたちにもそれの存在を伝え、皆でその血だまりへ近付き詳しく確認する。

 

 

 

「なんでこんなに血が流れてるんだ・・・・・・魔物か何かが死んだのか?」

 

「む、これは・・・・・・アクト殿、見てください」

 

 

 

族長さんが近くに落ちていた何かを拾い上げ、それをこちらに差し出した。途中でへし折れた跡のある棒状の白い物体・・・・・・血肉が付着していることと、落ちていたのがこの場所だったことから、答えは直ぐに出た。

 

 

 

「もしかして、生き物の骨ですか?」

 

「はい。恐らくは、この場に撒き散らされた血と同じ主のものでしょう」

 

 

 

そう答えながら族長さんは周囲を見回す。彼と同じように俺も辺りをよく見てみると、他にも骨がいくつか散らばっていた。それを見たシーザーが『思念伝達』を俺に繋いだ。

 

 

 

『確かヘルモスって魔物は肉食なんだろ?もしかしてこれって奴が餌を食った跡なんじゃねえか?』

 

「そっか、それならこの近くにヘルモスがいるのかもしれないな」

 

 

 

語り掛けてきたシーザーに俺は『思念伝達』を使わずにそう返した。『思念伝達』を持たない族長さんと伏せ耳にもある程度会話の内容を把握してもらう為である。

 

それはさておき。案外早く依頼が終わりそうだと俺が口元を緩めた時、血だまりと落ちている骨を静かに眺めていた伏せ耳が口を開いた。

 

 

 

「・・・・・・ヘルモスじゃ無ぇな」

 

「はっ?」

 

 

 

ぼそりと呟いた伏せ耳に思わず振り向く。伏せ耳は俺の視線に気付くと、血だまりに顔を向けて言葉を続けた。

 

 

 

「確かにヘルモスは肉食だ。しかし、こうまで綺麗に獲物を食い尽くすことは無い。例え二匹掛かりだったとしてもだ」

 

「そうですね・・・・・・私も、これはヘルモスの仕業では無いと思います。血の量やそこに落ちている骨の長さからして、ここで食われた生き物はそれなりのサイズだった筈。しかし、それにしては残された骨の数が少ない・・・・・・何者かは骨を好んで食べた・・・・・・のでは無く。きっと、骨など気にせず肉を貪っただけなのでしょう」

 

「ヘルモスも骨など好んで食わんし、そもそもこれだけの獲物を骨ごと食い千切るほど口が大きくないからな。普通の兎や人間の腕程度なら噛み砕いて食ってしまうかもしれないが」

 

 

 

族長さんも伏せ耳の意見に同意らしい。俺は詳しくないから何とも言えないが、長くこの森で暮らし、俺よりも魔物にも詳しい彼らが言うのであればそうなのだろう。

 

 

 

「じゃあ、これは今回の件とは関係無いってことか・・・・・・」

 

「だと思います。ジュラの大森林にはヘルモス以外にも強力な魔物が多く生息していますし、そいつらが──・・・・・・ッ!?」

 

「っ!」

 

 

 

その時。族長さんと伏せ耳がびくりと体を揺らした。すると慌てた様子で二人は同じ方向へばっと振り向く。

 

 

 

「族長さん、伏せ耳?どうした?」

 

「な、何か・・・・・・来る・・・・・・!」

 

「何か、って・・・・・・」

 

 

 

俺の問いに震えながら伏せ耳が答えた。恐らくこれは『危険察知』が発動したのだろう。二人が危険を感じたモノが何なのか気になり二人の視線を追ったところ、木々の奥から二匹分の大きな羽音と鳴き声が響いた。

 

 

 

「ギィイイイイイイイイイッ!」

 

「へ、ヘルモスだっ!」

 

 

 

こちらへ向かって来るようにして現れたその魔物たちを見て伏せ耳が叫んだ。成程、あれがヘルモスか。確かに巨体な蛾と言った姿をしている。無理な人はとことん無理そうだ。

 

 

 

「あいつらに『危険察知』が発動したのか・・・・・・」

 

 

 

呟きながら俺は二人の前に出る。二人にとっては『危険察知』が発動する程に恐ろしい相手なのだろうが、今の俺なら油断しなければ問題無く倒せる魔物だ。しかもこちらにはシーザーもいる。族長さんと伏せ耳を守りながらでも簡単に倒せるだろう。

 

そう考え、俺が口元を緩めた時だった。

 

 

 

「・・・・・・・・・ち、違う・・・・・・」

 

 

 

すぐ後ろに立つ族長さんが震えた声でぼそりと呟いた。その一言が気になった俺は『魔力感知』でヘルモス二匹の動きを捉え警戒を続けたまま、族長さんに顔を向けた。

 

 

 

「は?違うって、何が・・・・・・」

 

「奴らでは・・・・・・『危険察知』が発動したのは、ヘルモスに対してでは無いッ!」

 

 

 

それは、族長さんが叫ぶのとほぼ同時だった。ヘルモスたちの後方、木々の奥から何かが勢い良く飛び出してきた。何事かと驚いた俺はその何かを見て目を見開く。

 

 

 

「あれは、触手・・・・・・!?」

 

 

 

それは二本の触手のような物だった。先端には顔を思わせる模様があり、全体がドス黒く光り禍々しさを感じさせる。

 

二本のそれはヘルモス目掛け真っ直ぐ伸びると、それぞれヘルモスの体や羽根に巻き付いた。動きを封じられ地面に落ちたヘルモスはばたばたともがいていたが、次の瞬間二匹に異変が起こる。

 

 

 

「ヘルモスの体が、崩れてる・・・・・・?」

 

 

 

その様子を見て俺は静かに一人ごちた。何が起きているのか分からないが、触手に触れられた箇所が変色し、ぐずぐずと崩れ出したのだ。

 

 

 

「ギ、ギィ・・・・・・」

 

「い、一体何が・・・・・・!?」

 

 

 

あっという間に弱り果てて動けなくなったヘルモスたちの姿に伏せ耳と族長さんは呆然と立ち尽くす。すると、ヘルモスたちに巻き付いていた触手が消え、それらが伸びてきた方向から複数の足音が近付いてきた。

 

 

 

 

 

「ブフゥー・・・・・・!」

 

「奴らは・・・・・・『豚頭族(オーク)』!?」

 

「『豚頭族(オーク)』・・・・・・?」

 

 

 

どすどすと重い足音を立てて現れた集団を見て、族長さんは目を見開いた。族長さんの言葉を俺は静かに繰り返しながら、目の前に現れた集団・・・・・・『豚頭族(オーク)』と呼ばれた魔物たちに視線を向ける。

 

茶色の体毛に覆われた恰幅の良い体に、豚のような猪のような頭部。『ドラゴンクエスト』シリーズに登場する『オーク』にそっくりな姿だ。しかし、そちらと違って全員ががっしりとした鎧で全身を武装している。

 

オークについては以前、爺さんから少し聞いたことがある。確か、シス湖より南の荒野地帯に暮らす種族だったか。ランクは通常のリザードマン以下のD。だが・・・・・・

 

 

 

(二体だけ、他の連中より強いな。明らかにDランクじゃない)

 

 

 

『魔力感知』の範囲を広げ、オークたちの数とそれぞれの魔素量を測定する。連中の数は22体。その数にも驚きはしたが、それ以上に気になったことがある。その内の二体だけ、他のオークたちと比べると魔素量がかなり多いのだ。

 

A-ランク・・・・・・には流石に届いていないだろうが、シーザー以上の魔素量だ。他のオークより体格も大きいし、よく見ると身に纏っている鎧も少し違う。もしかするとオークの上位種なのかもしれない。

 

 

 

「な、何故こんな所にこれだけの数のオークが・・・・・・!」

 

 

 

驚愕している族長さんと伏せ耳の様子からして、やはりこれだけのオークたちがここにいるのはおかしなことらしい。

 

 

 

・・・・・・そう言えば、フラメアは俺たちと一緒にいた間はBランクの魔物程度じゃ『危険察知』は発動しなかったな。それを考えると、俺とシーザーがいるのにヘルモス二匹くらいで族長さんたちの『危険察知』が発動する訳が無い。間違いなく、『危険察知』はこのオークたちに反応したのだろう。

 

 

 

「ブフッ、フゥウウ・・・・・・」

 

 

 

俺がそんなことを考えていると、オークの一匹がゆっくりと動き出す。そいつにつられるように他のオークたちも歩き始めた。例の魔素量の多い二匹はその場に留まったままだが、俺たちは更に警戒を強めた──次の瞬間。

 

 

 

「ウゥウウ・・・・・・・・・ウガァアアアアアアアッ!!!」

 

「なっ!?」

 

 

 

なんと、オークたちは地面に落ちた二匹のヘルモスに殺到したのだ。そして正しく獣と言った咆哮を上げながらヘルモスに掴み掛かると、オークたちはヘルモスに思い切り喰らい付いた。オークたちの予想外の行動に俺たちは皆目を見開く。

 

 

 

「・・・・・・族長さん。オークって、虫が好物なんですか?」

 

「い、いえ!オークたちは雑食ではありますが、流石に虫までは食べない筈・・・!」

 

 

 

ヘルモスたちに群がるオークたちから視線を逸らさぬまま族長さんに訊ねると、彼は怯えた声色でそう答えた。ちらりと後ろを見ると、伏せ耳も目の前の光景に絶句している。まぁ、無理も無い。正直俺も目の前で起こっている出来事をあまり見ていたくはない。

 

 

 

「・・・・・・・・・兎人族(ラビットマン)が二匹。それとレッサードラゴンに、人間か」

 

 

 

巨体な虫を貪るオークたちに俺たちが動揺していると、魔素量の多い二体のオークの片方がぼそりと呟いた。はっとしてから、俺はそちらに視線を向ける。その時、伏せ耳がそのオークへ声を上げた。

 

 

 

「お、おい!貴様らオークがこんなところで何をしている!貴様らの縄張りはここよりもっと南だろう!?」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 

 

しかし、オークは伏せ耳の問いに答えずただこちらを静かに見据えるのみ。無視されて苛立つ伏せ耳が更に何か言おうとしていたが、俺はそれを制して代わりに口を開いた。

 

 

 

「なぁ。お前って本当にオークなのか?他の連中より体はデカいし、何より魔素量がシーザー以上だぞ」

 

「なんですって!?そんな、有り得ない・・・・・・オークの上位種である『猪人族(ハイオーク)』だってCランクだと言うのに!」

 

「ま、まさかあの二匹はネームドなのか・・・・・・!?」

 

 

 

俺の言葉を聞いて族長さんが驚愕する。『危険察知』が発動したと言っても、相手の実力を測れる訳では無い。二体のオークがそれ程の相手だと知って族長だけでなく伏せ耳も驚くのを見てオークは小さく笑った。

 

 

 

「グフフ・・・・・・どうやらただの人間では無いようだ。冒険者か・・・・・・良いだろう、教えてやる。我等は『豚頭将軍(オークジェネラル)』!ネームドでは無く・・・・・・オーク、そしてハイオークを凌駕した存在だ!」

 

「『豚頭将軍(オークジェネラル)』・・・・・・?」

 

 

 

まだ俺のことを人間だと勘違いしているようだが、それは今どうでもいい。目の前の魔物は自身をオークジェネラルと名乗った。初めて聞く魔物の名に困惑しつつ族長さんを見ると、彼は小さく首を振った。恐らく彼も知らない魔物なのだろう。

 

 

 

「そ、そのオークジェネラル・・・?が、二人で何をしているんだ。これだけのオークを引き連れて・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・知る必要は無い」

 

 

 

知らない魔物に困惑しつつも、族長さんは伏せ耳のした質問を改めてオークジェネラルに投げ掛ける。しかしオークジェネラルは冷たくそう言い捨て答えない。

 

その時、ヘルモスに群がっていたオークたちがゆっくりと立ち上がりこちらに向き直った。オークジェネラルへの警戒を解かぬままそちらをちらりと見ると、オークたちの足元にヘルモスの姿は無く、そこにはヘルモスの体液といくつかの脚や触覚、羽根の残骸のみがあった。

 

その惨状を見て、先程の血だまりはこのオークたちの仕業だったのだと俺は確信する。ヘルモスを喰い尽くし、およそ正気とは思えない目でこちらに視線を向けるオークたち。そいつらの後ろに立つオークジェネラルは腰に下げていた斧を手に取ると、口元を歪め、そして叫んだ。

 

 

 

 

 

 

「これから──我等に喰い殺される貴様らにはな!!!」

 

「ブォオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!」

 

 

 

オークジェネラルの声が合図となったのか、20体のオークたちが咆哮を上げてこちらに殺到する。ヘルモスの次は俺たちを喰おうとするオークたちの迫力に気圧された族長さんと伏せ耳が短く悲鳴を上げたが、俺とシーザーは臆すること無く奴らに立ち向かった。

 

 

 

「そっちがその気ならこっちだって!シーザー!」

 

『おう!任せなぁ!』

 

 

 

『思念伝達』で威勢良く答えたシーザーは大きく息を吸い込むと、口から炎を吐き出した。レッサードラゴンの固有スキル、『火炎吐息』である。

 

シーザーのスキルによって放たれた炎は一瞬でオークたちを飲み込む。DランクのオークたちがB+ランクであるシーザーの攻撃を受ければ一たまりも無いだろう。

 

 

 

「ブギャアアアアアアアアアッ!!!?」

 

『へっへっへっ!見たか、この豚野郎共・・・・・・おわっ!?』

 

「ウォオオオオオオッ!」

 

「シーザーッ!」

 

 

 

俺の予想通り、炎を浴びたオークたちは悲鳴を上げてのたうち回る。身に纏った鎧のお陰か、全員生き残ってはいるが、かなりのダメージを与えた筈だ。

 

苦しむオークたちの姿にシーザーが得意気に笑ったその時、炎の奥から何かが飛んで来た。反応が遅れたシーザーの前に俺は飛び出すと、それを蹴り飛ばす。見ると、それは先程オークジェネラルが手に取った斧だった。

 

 

 

『す、済まねえ大将!』

 

「気にすんなって。シーザー、お前はこのまま普通のオークたちを頼む。あの二体は俺が・・・・・・!?」

 

 

 

オークジェネラルたちは俺が倒す。そう伝えようとしたその時。オークジェネラル二体が急激に魔素を高めた。それを感じた俺がそちらへばっと振り向くと、奴らの全身から立ち上る妖気がぐにゃぐにゃと蠢き徐々に形を作っていった。

 

 

 

混沌喰(カオスイーター)ッ!!!!」

 

 

 

オークジェネラルたちがそう叫ぶと同時、奴らの妖気で形成された触手のようなモノが勢い良くこちらへ放たれる。その形状を見て俺は先程の出来事を思い出した。ヘルモスたちを捕まえたあの触手・・・・・・オークジェネラルが『混沌喰(カオスイーター)』と言ったあれが、あの時の触手と全く同じなのだ。

 

混沌喰(カオスイーター)』・・・・・・あれがスキルなのかアーツなのかは分からないが、あれに捕まるとどうなるかは知っている。俺なら耐えられるかもしれないが、シーザーは怪しいし、族長と伏せ耳では間違いなくヘルモスのように体が崩れ落ちてしまうだろう。それなら・・・・・・

 

 

 

「シーザー!二人を乗せて飛べ!」

 

『おうっ!』

 

 

 

迫る『混沌喰(カオスイーター)』に視線を向けたまま俺はシーザーにそう指示を出す。『思念伝達』で答えたシーザーはすぐさま後ろにいる族長さんと伏せ耳の元へ駆け寄り二人を背中に乗せ始めた。

 

その間にもオークジェネラルたちの放った計六本の触手がこちらに迫る。俺はシーザーたちの盾となるかのように触手の正面に立ち、全身に闘気を纏った。

 

 

 

「はぁっ!」

 

「なに・・・・・・?」

 

 

 

混沌喰(カオスイーター)』の触手が俺に絡み付こうとしたその時、オークジェネラルが訝しげにそう声を漏らす。俺の発する闘気が触手を弾いたからだ。表情があまり読み取れないが、恐らく困惑しているだろうオークジェネラルたちへ俺はにやりと笑ってみせる。

 

 

 

「悪いな。お前らじゃ俺を倒せねえよ」

 

「・・・・・・・・・ならば!」

 

 

 

少しの間の後、オークジェネラルたちは俺目掛け突進してきた。一体は巨体な剣、もう一体は先程斧を投げていたので素手・・・・・・と思ったが、炎を突っ切って来る途中で味方である一体のオークを掴むと、なんとそいつをこちらに投げ付けてきた。

 

 

 

「仲間じゃねえのかよ!」

 

 

 

驚き半分呆れ半分。そんな気持ちになりつつ、こちらに飛んでくるオークを闘気弾で撃ち落とす。その間にもオークジェネラルたちは『混沌喰(カオスイーター)』を発動し続けていた。通じないことは理解しているだろうが、それでもそれを続けているのは、恐らく俺の動きを止める為。

 

 

 

「ブガァアアアアアアアアアッ!」

 

 

 

どうやら俺の考えは正解だったらしく、動きを止めていた俺に接敵したオークジェネラルが剣で斬り掛かって来る。俺は『混沌喰(カオスイーター)』を体に纏った闘気で防ぎながら、右足に闘気を集中させ、振り下ろされる剣目掛け脚を振り上げた。

 

 

 

「オラァッ!」

 

「なんだと・・・・・・!?」

 

 

 

オークジェネラルの剣と俺の蹴り。ぶつかり合い、勝ったのは俺の蹴りだった。粉々に砕かれた自身の得物を見たオークジェネラルは先程以上に動揺を隠せないでいる。素手のオークジェネラルもそうなのか、味方の剣が砕かれたのを見て『混沌喰(カオスイーター)』を解除していた。

 

 

 

「これで分かっただろ、お前らじゃ俺に勝てないって。今ならまだ見逃してやれる・・・・・・早く自分たちの住処に帰りな」

 

 

 

右足を地に戻した俺は闘気を纏ったままそう告げる。今の言葉は本心だ。先に喧嘩を売ってきたのは向こうだが、こちらとしてはオークの国と事を荒立てるつもりは無い。フラメアたち兎人族(ラビットマン)に迷惑を掛ける訳にはいかないからな。

 

部下と思われる普通のオークたちも、大火傷はしているかもしれないが全員生きている。さっき闘気弾で撃ち落とした奴も、多分まだ生きている・・・・・・筈だ。加減はしたし。これで俺との実力差を理解して引いてくれれば良いのだが。

 

 

 

「・・・・・・・・・出来ぬ」

 

「なに?」

 

「今更・・・・・・後戻りは出来ぬのだァアアアアアッ!!!」

 

 

 

しかし、俺の願いは届かずオークジェネラルは諦めてはくれなかった。どこか悲壮さを感じさせる声でそう叫びながら、目の前のオークジェネラルは再び『混沌喰(カオスイーター)』を発動させた。三本の触手が勢い良く向かってくるが、結果は先程と同じで俺には触れられない。それでもなんとか喰らい付こうとしたのか、オークジェネラルは触手を長く形成し、俺が身に纏っている闘気ごと絡めとるように巻き付けてきた。

 

 

 

「それは俺に通じないって、分からないのかよ」

 

 

 

どれだけやろうと、闘気越しでは俺にダメージを与えることは出来ない。随分と触手を伸ばしぐるぐると巻き付けたようだが、精々が俺の視界を封じるくらいだ。呆れながら俺が呟くと、遮られた視界の向こうでオークジェネラルが小さく笑う。

 

 

 

「グフフ・・・・・・そうだな。確かに貴様には我等の力は通じぬ・・・・・・だが、奴等はどうかな?」

 

「あ?・・・・・・っ!」

 

 

 

「う──うわぁああああああああああああああッ!!?」

 

 

 

気付いた時には少し遅かった。族長さんと伏せ耳の悲鳴が空から響き、ばっと顔を上げる。周囲に纏わり付く触手で視界は悪いが、僅かな隙間から少しだけシーザーたちの姿を確認出来た。『混沌喰(カオスイーター)』の触手に追われるその姿を。

 

 

 

「しまった・・・・・・!くそっ、やめろ!」

 

 

 

それを見た俺は慌てて『混沌喰(カオスイーター)』の拘束を吹き飛ばし、シーザーたちへ触手を伸ばしているオークジェネラルの元へ駆け出す。

 

くそ、空を飛べるシーザーなら安心だと完全に油断していた。実際、シーザーだけなら問題無かったかもしれないが、今は族長さんと伏せ耳の二人を乗せているのだ。触手を回避する為に無茶な動きは出来ないし、全速力で飛ぶことも出来ないだろう。このままでは『混沌喰(カオスイーター)』の触手に捕まってしまう。

 

 

 

「掛かれェ!」

 

 

 

俺が思案していると、オークジェネラルの一声によりシーザーの炎に焼かれていたオークたちが俺に突っ込んで来た。既にそれなりのダメージを負い、さらには自分たちより格上の相手に全く恐れることなく挑めるのかと俺は内心驚く。

 

しかし、こちらも怯んではいられない。

 

 

 

「邪魔だッ!」

 

「グォオオアアアアアアアアアッ!!?」

 

 

 

俺は一旦足を止め、オークたちの足元に三発の闘気弾を撃ち込んだ。闘気弾は地面に着弾すると、ドッ!と大きな音を立て爆発する。三発分の爆風に飲み込まれ、オークたちは全て吹き飛ばされた。

 

 

 

「ヌゥウウ・・・・・・!」

 

「だぁあああああああっ!」

 

 

 

オークたちを蹴散らされ、オークジェネラルは忌々しそうに唸る。そして再び接近してきた俺を睨むと、『混沌喰(カオスイーター)』を発動させたまま殴り掛かって来たが、それを躱して懐に潜り込み、奴の腹に拳を叩き込んだ。

 

 

 

「ゴハァッ!?・・・・・・ぐ、がっ・・・・・・アァアアアアアアアアッ!!!」

 

「正当防衛だ、悪く思うなよ・・・・・・はっ!」

 

 

 

鎧に穴が空き、口から血を吐く程のダメージを負ってもオークジェネラルは止まらない。声を上げながら真下にいる俺目掛け拳を振り下ろそうとするが、俺はそれより早く突き出した拳を開き、掌から闘気を放出した。

 

 

 

「ギャアアアアアアアアアアアアッ!!?」

 

 

 

腹に風穴を開けられたオークジェネラルは断末魔の悲鳴を上げながら地面に倒れた。一瞬、起き上がろうとしたのか手首が動いていたが、すぐにぴくりとも動かなくなる。これで一安心と息を吐く俺に、シーザーからの『思念伝達』が届いた。

 

 

 

『た、大将!悪い、手を貸し──あぐっ!?』

 

「シーザー!?」

 

「グ、グルルォオオオオオ・・・・・・!」

 

 

 

慌てて上空を見ると、族長さんたちを乗せたシーザーが『混沌喰(カオスイーター)』に捕まった瞬間を目撃した。必死に回避しようとしたのだろう、族長さんたちは無傷だが、シーザーの翼と前足が触手に絡め取られている。『思念伝達』を飛ばす余裕も無いのか、苦し気に呻き声を上げていた。

 

混沌喰(カオスイーター)』の出所は、剣を持っていた方のオークジェネラルだ。たった今倒したオークジェネラルとオークたちに注意が向いている隙にシーザーたちを狙ったのだろう。

 

シーザーたちを捕らえ、余裕が出来たのか。こちらに振り返ったオークジェネラルがにやりと笑ったのを見て、俺は思わず歯を噛み締め、それから叫んだ。

 

 

 

「何やってんだテメェ!!!」

 

「ッ──!?」

 

 

 

怒りのままに、俺は両手から闘気流を撃ち出した。突然の攻撃に反応が遅れたオークジェネラルは声を上げる間もなくそれに飲み込まれ吹き飛ばされていく。木々の向こうへ飛んで行ったが、闘気流を直撃させた際の手応えからして恐らく死んでいるだろう。

 

オークジェネラルが息絶えたことで、シーザーの翼と足に纏わり付いていた『混沌喰(カオスイーター)』の触手が消滅した。しかし、触手に掴まれていた部分は既にぼろぼろと崩れており、シーザーは翼を羽ばたかせることが出来ずに落下し始める。

 

 

 

「ひぃいいいいいいいいっ!?落ちるぅううううっ!」

 

「シーザー!族長さん、伏せ耳ッ!」

 

 

 

俺は慌てて『飛空法』で上空へ飛び上がると、悲鳴を上げている族長さんたちを乗せたシーザーを受け止めた。すると、『混沌喰(カオスイーター)』によってダメージを受けた箇所が視界に映る。足はまだ付いていたが、翼は完全に崩れ落ちていた。

 

 

 

「シーザー、大丈夫か!?」

 

『へ、へへ・・・・・・済まねえ大将。迷惑掛けちまったな』

 

 

 

脂汗を浮かべながらも、シーザーは気丈に笑ってみせた。どうやら命に別状は無さそうだが、それでも急いで怪我の治療はしなければならない。そう考えた俺は腰に下げていた魔封牢を手に取り青娥さんへ繋いだ。

 

 

 

『はいはーい!どうしましたかアクトくん?私の声が聞きたくなっちゃったのかな~♪』

 

「大変なんだ青娥さん!すぐにこっちへ来てください!」

 

『──分かりました。少しだけ待っていてくださいね』

 

 

 

ふざけていた青娥さんだったが、俺の様子から何かあったのだと悟ったのだろう。一瞬で真剣な表情に切り替え、そう告げると通信を切った。

 

 

 

・・・・・・オークたちは倒した。慌てていたせいで詳しい事情は話せなかったが、青娥さんも呼んだ。すぐに俺たちの居場所を割り出して『空間移動』で助けに来てくれるだろう。

 

今度こそこれで一安心の筈だと、シーザーたちと共にゆっくり地上へ着陸しながら、俺は深く息を吐くのだった。




豚頭将軍という存在が特殊な種族なのか、それとも職業(クラス)なのかよく分かってないんですよね、私・・・
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