転生したら蜥蜴人族の友人と邪仙の恋人ができた件 作:乃出一樹
今回は普段より少し早めにお届け出来ました。
ブルムンド王国。ジュラの大森林に隣接する国の一つで、人口は約百五十万人程度の小国だ。
農耕や牧畜が行われているものの、自国で消費する程度の生産量しかなく、他に目立った産業は無いのどかな辺境の国らしい。
とはいえ、青娥さんが暮らしている人間の国だ。封印の洞窟で出逢ったカバルさんたちも所属しているという
「・・・・・・まさか、こんな流れで来ることになるなんてなぁ」
俺は苦笑しながら、街の中央付近に聳える王城を眺めていた。
青娥さんに連れられてやってきたここは、ブルムンドの首都であるロンドという街。街並みはシンプルな石造りの建物が中心で、俺の視線の先にある城以上に高い建物は無い。
「ほらほらアクトくん。そんなところでぼーっとしてちゃダメですよー。こっちこっち」
と、ぼんやりしていると青娥さんが俺に声を掛けてきた。そちらを見るといつものように微笑んで、こっちに来いと手招きしている。俺は返事をしてから青娥さんの隣に小走りで向かった。
「すみません、街並みを眺めてて」
「んー・・・?ドワルゴンと比べたら大して面白くもなんともない、普通の街だと思いますよ?」
俺の言葉に首を傾げて青娥さんは呟く。確かに青娥さんの言う通り、ドワルゴンと比べるとここは普通の街に思える。けれど、中世をイメージしたファンタジー作品に存在するような街で個人的にはとても好きな街並みだ。少なくとも、ドワルゴンよりは落ち着く場所だと思う。
「面白みは少ないかもしれないけど、素敵なとこだと思います。だから青娥さんもここで暮らしてるんじゃないんですか?」
「・・・・・・そうかもしれませんね」
少し眉を下げて青娥さんはくすりと笑った。知ったような口を利いてしまい一瞬怒らせてしまったかと不安になったが、そういう雰囲気では無い。俺は内心ほっとしつつ、改めてロンドの街並みを見回した。
石造りなだけあって、建物は堅固そうだ。それと街中をパトロールしているのか、武装した人も見掛ける。装備が各々で全く違うので、恐らく国の兵士では無く冒険者なのだろう。多くの魔物が生息するジュラの大森林が近いからこのような警備態勢になっているのかもしれない。
ここまで見ると国全体が物々しい雰囲気になっているように思えるが、実はそんなことは無い。石造りの建物ばかりだが、街のあちこちには緑も多いし、なにより暮らしている街の住人たちの表情も明るい。
「そこのお兄さん!ちょっと寄っていきなよ!」
よく通った声に振り向くと、屋台を出しているふくよかな中年の女性がこちらに手を振っていた。どうするかと隣にいる青娥さんに視線を向けたところ、彼女はにこりと笑って頷いた。きっと好きにしていいということだろう。折角なので少し見ていくことにした。
「こんにちわ」
「いらっしゃい!あんまり見掛けない顔だね、他所から来たのかい?」
「えぇ、まぁ・・・・・・」
流石に「ジュラの大森林から来ました!」、「ちなみに魔物です!」なんて言える訳も無い。とりあえず、俺は愛想笑いを浮かべて言葉を濁した。
「そうかい、観光か何か・・・・・・おや、青娥ちゃんじゃないの!」
「はい。こんにちわ、おば様」
その時、俺の背後にいた青娥さんに気付いたおばさんが目を丸くした。呼ばれた青娥さんはいつもの笑みを浮かべ会釈する。
「えっと、知り合いなんですか?」
「えぇ、よくこの辺りでパンを売っているおば様です。美味しいので何度か買いに行く内に仲良くなったんですよ」
そう言われて屋台をよく見ると、確かに様々なパンが並んでいた。焼き立てなのか、とても良い匂いがする。
「お兄さん、青娥ちゃんの連れかい?」
「あー・・・・・・一応、青娥さんの弟子・・・みたいな感じです」
「あれまぁ!いつの間に弟子なんて取ったんだい?あたしゃてっきり彼氏かと思ったよ!」
あっはっはっ、とおばさんは豪快に笑う。そのやり取りを見て、俺は封印の洞窟でカバルさんから似たように揶揄われた時の青娥さんを思い出した。あの時のように機嫌を悪くしていないかと、恐る恐る青娥さんの様子を伺ってみたが、今回は眉根を寄せて苦笑しているのみであった。
「もう、おば様ったら・・・・・・今日もパンを買わせて頂きますので、アクトくんを困らせるのはやめてくださいな」
「ふふっ、ごめんよ!それと毎度あり!」
財布をどこかから取り出す青娥さんを見て、おばさんは謝罪しつつも楽しそうに笑った。今の様子や先程の冗談を軽く流した辺り、本当に親しい間柄なのだろう。
二人を見つめそんなことを考えていると、青娥さんが俺の分までパンを買ってくれていた。申し訳無いからと遠慮したのだが、「ここのパンは本当に美味しいからアクトくんも是非」、と勧められたので、ここは青娥さんの好意に甘えることにした。
「お兄さん、格好いいからサービスだ!もう一つ持ってきなよ!」
「いいんですか?ありがとうございます」
気前の良いおばさんからパンをもう一つ受け取った俺たちは、お礼を言ってその場を後にした。再び歩き出した俺は買ってもらったばかりの、ふわりと甘い香りのするパンにかぶりつく。
しっとりとしていてふかふかな優しい甘さの生地の中にザクザクとした食感が混ざる。どうやら胡桃が入っているようだ。胡桃を噛んだ時の食感が楽しい。そしてとても美味しい。文明レベルは俺の元いた世界よりこちらの世界の方が低いけれど、あちらで食べていたパンとそう大差無い出来だ。
あっという間に胡桃パンを食べ終えた俺に、青娥さんはサービスでもらったパンも食べて良いと差し出した。礼を言ってそれを受け取り食べようとしたその時、俺はあることを思い出した。
「・・・・・・そう言えば青娥さん。ブルムンドに来た目的ってなんなんですか?」
「あれ?言ってませんでした?」
「うん、行き先だけ告げられてほぼ拉致られたので」
冗談交じりにそう言いながら青娥さんをじとっと見つめると、彼女は「そうでしたっけ?」等ととぼけていた。全く悪びれる様子の無い彼女に思わず苦笑する。まぁ、もう慣れたことだし別に怒っている訳では無いからいいのだけれど。
「ふふふ、ごめんなさい?今日は
青娥さんは小さく笑ってから謝罪し、それから目的を告げる。
「
「違いますよ。ギルマスのフューズさんにオークロードのことを報告しておこうと思いまして」
ギルマス・・・・・・
「ここブルムンドもジュラの大森林のすぐ傍ですからね。万が一のことを考えて報告くらいはしておいた方がいいと思いまして。後で『奴の存在を知っていたのなら何故俺に言わなかった!?』・・・・・・なーんて小言を言われては堪りませんし」
恐らくギルマスと思われる人の物真似をしてから青娥さんは肩を竦めた。それを見て俺は口元を緩めたが、青娥さんに小言を言えるそのフューズという人は実は凄い人なのでは?と思い至りすぐに真顔となった。一体どんな人なのだろう・・・・・・
「本当は『空間移動』で
「俺としてはブルムンドの街並みが見れて良かったですけどね・・・・・・ふふ」
愚痴っぽく話しながら口を尖らせる青娥さんがどこか可愛らしくて、俺は口元を緩める。
・・・・・・何で口元緩んだ?と、自分の反応が理解出来ず一瞬で真顔になった。いや、青娥さんは確かに可愛い、というか美人だけれども。
冷静に思い返してみると、最近の自分は少しおかしい気がする。おかしいというか、どうも青娥さんに甘過ぎるというか。
突然魔王に会いに行くだとか、ダンジョンに潜ってそこのボスを捕まえろだとか。そんな無茶苦茶なことを言われたり、揶揄われても大して不快と思わない。それどころかユーラザニアで頭を撫でられた時は、恥ずかしさは勿論あったけれど、同時に妙な嬉しさも感じていた。そして、青娥さんの言動、一挙手一投足に気を取られる・・・・・・心をざわつかせる自分がいるのだ。
どうしてそんなことになるのか。いつからそんなことになっていたのか。頑張って考えていたが、やや混乱してきた頭では答えは出ない。このままでは青娥さんの顔をマトモに見れない。何故かそう思った俺はぐるぐるした思考を一旦リセットする為、無理矢理話題を捻り出して青娥さんに話し掛けた。
「あ、あー・・・・・・あの。青娥さんって、転移する時にスキルの『空間移動』と魔法の『
「あ、気付きました?そうですね、ギルドまでもう少し歩きますし・・・・・・アクトくん、少しお勉強しましょうか」
俺の動揺は悟られなかったらしく、青娥さんはいつもの笑みを浮かべて俺の疑問に答え始めた。
なんでも、異空間を通して今いる場所と転送先の座標を繋ぎ、一瞬で移動する・・・・・・これが転移の原理らしい。その異空間を通る際に有機物は大量の魔素を浴びるのだとか。異空間が魔素で満ちているからだそうだが、そのため魔素への抵抗力を持つ強力な魔人や魔物かつ、結界を自力で張れる者でなければ転移は危険なのだ。『
しかし青娥さんは『
ちなみに、『空間移動』の場合だが。魔法と違ってスキルであるそちらは発動の為に理論を理解したり詠唱を行う必要は無く、自動で結界も張られるので、青娥さん一人で転移するのであれば魔法を使うよりも楽で消費も少なくて済むそうだ。
だが、自身以外の誰かを連れて転移する際は、その人に毎回結界を張ることになって手間なんだとか。スキルは普通、魔法の『
「はー・・・・・・青娥さんはぽんぽんやってたから特に気にしなかったけど、転移って結構複雑というか、かなり難しいことだったんですね。凄いな、青娥さんは」
「ふふん、実はそうだったんですよ♪青娥さんは凄いのです♪」
説明を聞き終えた俺が思わず息を吐くと、青娥さんは得意気に笑った。と言っても、鼻につく感じでは無い。わざとらしさのある、こちらの笑いを引き出させるような演技だ。青娥さんの優しさと、それから可愛らしさに頬が緩み掛けたが、なんとか気を引き締め直してそれを防ぐ。
「・・・・・・けど、便利ですよね『空間移動』って。俺も覚えられるかな」
「そうですねぇ。『脱獄者』の権能に『空間制御』が、それと『魔物師者』には『魔物召還』がありますし、アクトくんにも空間系能力の適性はあると思うんですよね。ガビルさんはどうか知りませんけれど」
『空間制御』に『魔物召還』・・・・・・確かにどちらも空間に関するスキルだ。『魔物召還』に至っては自分は無理だが、名付けをしたガビルとシーザーは転移させることが出来るし。
・・・・・・・・・そうだ、ガビルで思い出した。
「青娥さん、そろそろガビルにあの時の話は嘘だったって謝ってくださいよ。ほら、前に青娥さんがガビルを気絶させた時、それをオーガのせいにしたやつ」
「あー・・・・・・そんなこともありましたねぇ」
「そんな他人事みたいに・・・・・・青娥さんがそんな嘘吐くからガビルの中でオーガの印象が最悪になってるんですよ!」
その結果がラビットマンの里でのガビルの発言である。普段はとても優しいガビルが、いつの間にかオーガという種族全てを見下すまでになっていた。
正直、俺だってオーガという種族を良く思っていないところはある。けれど、あのケーニッヒとかいう魔人に襲われていたオーガ・・・・・・青髪は間違い無く良い奴で、俺の友人だ。出来れば、ガビルも彼とは仲良くして欲しい。せめて、青髪とその仲間たちくらいは信じてあげて欲しいと思うのだ。
「んー・・・・・・まぁ、その内なんとかしますよ。その内」
「本当かよ・・・・・・」
視線を逸らす青娥さんにそう返し、溜め息を吐く。この顔は面倒臭がってる顔だな・・・・・・あまり期待出来なさそうだ。
「本当ですって!私を信じて・・・・・・って、あら。お喋りしてたらいつの間にか着きましたね」
「えっ?」
「ほら、アクトくん。ここがブルムンドの
青娥さんの言葉に正面を見上げると、そこには一つの建物があった。周囲にある他の建物と比べ、随分立派だ。どうやら青娥さんと喋っている間に目的の
「ここが・・・・・・」
「総本山であるイングラシアの物と比べると小さいですが、まぁそれはどうでも良いですね。さぁ、中に入りましょう?」
青娥さんは扉に手を掛けゆっくり開くと、こちらに振り向きそう促す。俺はそれに頷くと、開かれた扉の中へゆっくり足を踏み入れた。
「おぉー・・・・・・」
建物の内装は、いかにもファンタジーな作品でよく見られるギルドのそれであった。いくつか並べられたテーブルと椅子。何かしらのやり取りをするのであろう複数の受付カウンター。壁に取り付けられた掲示板に貼り出されているのは、
「・・・・・・おっ、あそこにいんの青娥じゃねえか?」
「えっ!?本当だー!青娥さん、久しぶりー!」
「はーい、どうもー♪」
俺が
そんな青娥さんの後を付いて行き、俺は受付カウンターの前までやってきた。そこには冒険者なのかどうかは分からないが、一人の男がカウンターに肘を付きながら受付嬢と雑談をしている。ここでギルマスを呼び出してもらうのかと思っていたが、青娥さんは受付嬢ではなく、そこにいた男にひらひらと片手を振って呼び掛けた。
「どうも~♪」
「・・・・・・急にギルドが騒がしくなったと思ったら・・・・・・お前か、青娥」
「え~、何か冷たくないですかぁ?久しぶりに遊びに来ましたのに」
男の雑な反応に青娥さんは頬を膨らませる。それを見て溜め息を吐く青娥さんの知り合いらしい男を俺は観察した。
腰に剣を下げたその男は中年くらいの年齢で、背は俺や青娥さんより低い。それと隻眼では無いが片眼に傷があり、どこか油断のならない目付きをしていた。
「遊びに来るとこじゃねぇんだよ、
「あー・・・・・・初めまして。アクトと言います」
「アクト?・・・・・・あぁ、お前が」
俺が自己紹介したところ、目の前の男はそう呟きこちらをまじまじと見つめてきた。妙な反応に俺が首を傾げると、男は小さく笑って「すまん、気にするな」と告げる。そして俺に向き直ると、今度は自身の名を名乗った。
「俺の名はフューズ。そこにいる青娥、それとここの馬鹿共を纏める、ブルムンドの
『