転生したら蜥蜴人族の友人と邪仙の恋人ができた件   作:乃出一樹

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お待たせしました、第89話となります。

今回も少し早く更新出来ました。次回はどうなるか分かりませんけれど。


冒険者試験③

ジーギスさんによって召還されたBランク試験の相手、下位悪魔(レッサーデーモン)。俺は警戒しながら、目の前で浮遊する魔物を見上げる。

 

下位悪魔(レッサーデーモン)・・・・・・悪魔。ユーラザニアでフォスたちとの会話で少し触れていたが、まさかこんなに早く出逢うことになるとは。

 

 

 

「はぁ、はぁ・・・・・・!」

 

 

 

その悪魔を召還したジーギスさんは、杖に寄り掛かるようにして荒く息を吐いていた。何度も召還魔法を使った反動か、それとも悪魔の召還だけコストが大きいのかは分からないけれど。

 

 

 

「ふ、ふふふ・・・・・・さぁ、どうする。降参したいのであれば受け入れてやるぞ?安心しろ、少なくともC+ランクの冒険者としては認められるさ・・・・・・ごふぉっ!?」

 

「降参した方がいいのはジーギスさんなのでは・・・」

 

 

 

今にも倒れそうな顔で降参を勧めてくるジーギスさんに俺は苦笑しつつそうツッコんだ。動かないレッサーデーモンを見るに、どうやらジーギスさんは俺が降参するのかどうか決めるまで待つつもりのようだ。案外優しい人なのかもしれない。

 

そんなジーギスさんのお陰で僅かだが時間が手に入ったので、俺は改めて目の前の敵を観察した。

 

異様な雰囲気を放つレッサーデーモンの魔素量だが、『魔力感知』によればBランク相当の反応を示している。より正確に計ったところ、ワイトやブラッドボアよりは多めだと思う。B+ランクの少し手前と言ったところか。

 

しかし。もし仮にこの場にレッサーデーモンよりランクの高い魔物が・・・・・・例えば牛頭族や馬頭族あたりも一緒にいた場合。その時俺はそちらよりもレッサーデーモンの方を警戒していただろう。それだけの何かが、この悪魔という種族にはあった。

 

 

 

・・・・・・まぁ、それでも俺が勝つと思うけれど。

 

 

 

「・・・・・・俺は大丈夫です。続けさせてください」

 

「ふぅ、ふぅ・・・・・・よくぞ言った・・・・・・!」

 

 

 

俺の答えを聞いたジーギスさんは息を整えて不敵に笑う。その時、背後からチャキリと剣を抜く音がした。ちらりとそちらを見ると、フューズさんがレッサーデーモンを真っ直ぐ見据え剣を構えていた。先程の言葉通り、万が一の場合は俺を助けるためにレッサーデーモンといつでも戦えるよう準備しているのだろう。

 

そして、俺と同じくフューズさんのそれを確認したジーギスさんは、俺を真っ直ぐ見据え声を上げた。

 

 

 

「覚悟はいいな・・・・・・?行け、レッサーデーモン!」

 

「───!」

 

 

 

ジーギスさんの指示を受け、いよいよレッサーデーモンが動き出す。レッサーデーモンは宙を滑るようにしてこちらへ迫ると、俺目掛け拳を振り抜いた。

 

しかし、それが当たる直前で俺が横に飛んで躱したことで、奴の拳は空振りし地面に突き刺さる。レッサーデーモンから距離を取ろうとすると、レッサーデーモンは直ぐ様こちらに向き直り片手を向ける。そして掌に魔素を集中させ、球体の炎を形成し俺へ撃ち放った。

 

 

 

「魔法・・・・・・!これは、『火炎大魔球(ファイアボール)』か」

 

 

 

真っ直ぐに飛んでくる火炎を躱しながらそう判断する。青娥さんがガビルとの可愛がり・・・・・・じゃなく、修行の際に使っていた魔法だ。青娥さんも本気では無かっただろうし比べること自体が間違っているが、あの時の炎より一回りほど巨大な火球だ。

 

そんな魔法すらも回避されたレッサーデーモンだが、その不気味な表情は全く崩れない。俺との距離を詰めながら再び『火炎大魔球(ファイアボール)』を放つが、今度は威力をやや抑えた小さめの火球にして連続で撃ってきた。俺のスピードを見て、まずは攻撃を命中させて動きを止めようとしているのだろうが・・・・・・

 

 

 

「戦い慣れてる・・・・・・?」

 

 

 

なんとなく、そんな感じがした。ランク差もあってか、やはり牛頭族と馬頭族より単純なパワーは劣っている。だが、奴等とレッサーデーモンが戦った場合、勝つのは恐らくレッサーデーモンだろう。出会ってからまだほんの少しだが、奴等よりもレッサーデーモンの方が技量と知能はずっと上だと俺は判断した。

 

 

 

「どうしたアクト?逃げ回るので精一杯か!」

 

 

 

レッサーデーモンの猛攻をひたすら回避するだけの様子を見て、ジーギスさんはどうやら俺が苦戦していると思っているらしい。しかし残念ながらそんなことは全く無く、悪魔に興味があったので少し様子を見ていただけだ。普段だったらこんな舐めプはしないが、今回は生きるか死ぬかの緊迫した戦いではないし、フューズさんも控えているので少し余裕なのである。

 

 

 

「・・・・・・これなら良い経験になるかもな・・・・・・・・・あのー、ジーギスさん!」

 

「なんだ、降参か!」

 

「いえ、そうじゃなく。この討伐部門の試験って一人で受けるんですよね?そうなると、ジーギスさんみたいに召還魔法を使って戦う人はどうしてるんですか?」

 

 

 

魔方陣の中を移動しながら、俺はジーギスさんに少し遠回しな質問をした。勿論、その間もレッサーデーモンの攻撃は続いている。

 

 

 

「ん?あぁ、それなら問題無いぞ。確かに試験は複数人で受けることは出来ないが、試験中に契約している魔物や精霊を呼び出して共に戦うことは禁止していない」

 

 

 

召還魔法を使える奴なんて滅多にいないがな、と最後にジーギスさんは付け加えた。それから何故そんなことを聞くのか?とでも言いたげな視線を向けてくる。

 

 

 

「そうですか、良かった。教えてくれてありがとうございます!・・・・・・よし」

 

 

 

レッサーデーモンの『火炎大魔球(ファイアボール)』をひらりと躱し、俺はジーギスさんにお礼を言った。その後レッサーデーモンに向き直る。

 

 

 

・・・・・・ジーギスさんと話している間に、こっそり『思念伝達』を使って二人(・・)からは了承も得ている。準備は済ませた。

 

俺は『火炎大魔球(ファイアボール)』を連射しつつ距離を詰めてくるレッサーデーモンへ口元を歪めて見せ、そして叫んだ。

 

 

 

「頼んだぜ、シーザー!」

 

「グルァアアアアアアアアアアアアッ!!!!」

 

 

 

俺はスキル『魔物召還』を発動し、シーザーを目の前に召還した。現れると同時に勇ましく咆哮を上げたシーザーに流石に動揺したのか、レッサーデーモンは攻撃の手を一時止め、その場に硬直する。

 

 

 

「なにぃ!?」

 

「れ、レッサードラゴンだと!?」

 

「あの兄ちゃん、B+ランクの魔物を従えてんのかよ!」

 

 

 

ジーギスさんだけでなくフューズさん、それと周囲にいる人たちも突然現れたシーザーに驚きを隠せないらしく、様々な声が上がった。

 

実は、ジーギスさんにさっきの質問をしている最中、俺はガビルとシーザーへ『思念伝達』を繋ぎ今の状況を簡単に伝えておいたのだ。何故そんなことをしたかと言うと、レッサーデーモンの強さを見てシーザーの修行として丁度良い相手になるのではないかと思ったからである。

 

そしてシーザーをこっちに少しだけ呼んでもいいかと二人に訊ねたところ、すぐに了承を得ることが出来た。まだオークたちの調査隊は戻ってきていないから動きは無いし、ガビルさえあちらに残っていればリザードマンたちからすれば問題無いとのこと。何よりシーザー本人が来たがっていたのでガビルとしても断る理由はなかったのだろう。

 

 

 

『大将、あいつがその悪魔か?』

 

「あぁ。ランクはBらしいけど、結構手強いと思う」

 

『へぇ・・・・・・そうこなくっちゃな』

 

 

 

手強いと聞いたシーザーはレッサーデーモンを見据えにやりと笑う。

 

シーザーは、ユーラザニアでの活躍に満足していなかった。後になってガビルから聞いたのだが、なんでもガビルと共に挑んだフォビオとの戦いで自分の攻撃が全然通用しなかったことを悔しがっていて、さらに兎人族(ラビットマン)の一件ではオークジェネラルに簡単にやられてしまったことも気にしている様子だったらしい。

 

とは言え。フォビオはシーザーどころかガビルにとっても格上の相手だったし、その戦いの最中に『火炎吐息(フレイムブレス)』を会得。オークジェネラルの時は自分はボロボロになりつつも族長さんと伏せ耳を守り切った。それにダンジョンへ向かう途中や、兎人族(ラビットマン)の里への道中では俺やガビルと一緒にコビーたちのキャラバンの警護にあたり、襲ってくる野生の魔物を撃退もしてくれた。

 

特に、ダンジョンの最奥に待ち受けていた腐肉竜(ドラゴンゾンビ)との戦い。これらを思い返せば十分活躍してくれたと思うのだが・・・・・・どうもシーザー本人は納得がいかないらしく、より強さを求めるようになったそうだ。

 

そのことがあり、俺はレッサーデーモンの相手にシーザーを呼んだのである。フォビオや腐肉竜(ドラゴンゾンビ)等のように格上の相手ではなく、かといってその辺にいる雑魚でもない。レッサーデーモンはまさに、今のシーザーにとって相応しい修行相手と言えた。

 

そんなシーザーと相対するレッサーデーモンだが、その表情は全く変わっていない。しかし、確実にシーザーを警戒しているようではあった。

 

 

 

『大将は手を出さないでくれよ?アンタが動いたらすぐに終わっちまうからさ』

 

「分かってるよ。けど、危なくなったら無理矢理にでも助けに入るからな」

 

『了解。まっ、そんな心配要らねーけどなぁ!』

 

 

 

俺にそう答えてシーザーはレッサーデーモンに突っ込んで行く。迫り来るシーザーに対し、レッサーデーモンは一瞬だけぴくりと反応してからは微動だにしない。受け止める自信があるのだろうか。

 

いや、流石にそれは無理だろう、と俺は口元を緩める。しかし次の瞬間、予想を越えた出来事が発生した。

 

 

 

 

 

『んっ!?』

 

「えっ」

 

 

 

なんと、シーザーの攻撃がレッサーデーモンの身体をすり抜けたのだ。慌ててシーザーは空中でブレーキをかけ、レッサーデーモンに向き直る。彼は目を丸くしており、俺と同じく動揺を隠せないようだった。

 

 

 

「な、なんで!?間違いなく直撃した筈なのに・・・・・・もしかして何かのスキルを・・・・・・?」

 

「おい・・・・・・おい、アクト!」

 

 

 

困惑していると、魔方陣の外からフューズさんが声を掛けてきた。俺はレッサーデーモンから視線を外さないようにして、そちらへ移動する。

 

 

 

「驚いたぞ・・・・・・まさかお前も召還魔法を使えるなんてな。しかもレッサードラゴンを呼び出すとは」

 

「魔法じゃなくてスキルですけどね・・・・・・って、それより!なんですかあれ!シーザーの攻撃が効かないんですけど!?そういうスキルですか!?」

 

 

 

視線の先でシーザーが攻撃を繰り出すが、やはり効果は無いようだ。よく見ると、攻撃を受けた箇所が煙のように揺らめいているように見える。やはり何かのスキルなのだろうか。

 

 

 

「あぁ、スキルではなく耐性だ。悪魔たちは皆『物理攻撃無効』という耐性を持っているんだよ」

 

「『物理攻撃無効』!?」

 

 

 

そういえば、フォスがこんなことを言っていたような気がする。確か、『魔法は物理現象にはなりません。なので『悪魔』や『精霊』のような精神生命体にも効果的』、とか。いや、効果的というか、それしかダメージを与える手段が無いの間違いでは?

 

 

 

「それじゃ、レッサーデーモンは魔法が使えないと倒せないってことですか!?」

 

「いや、そんなことは無い。一部のスキルによる攻撃は効くし、他には闘気による攻撃も有効だな」

 

 

 

慌てる俺にフューズさんはそう答えた。どういうことかと眉を顰めた俺が訊ねるより先に、フューズさんが説明を続ける。

 

 

 

「簡単に言うと、闘気が纏ったパンチや斬撃は単純な物理攻撃じゃなくなるのさ。勿論、完全に耐性を貫通する訳じゃないから、攻撃する側の技量によって与えられるダメージも変わってくるぞ」

 

「そ、そうだったんですか・・・・・・」

 

 

 

闘気がそんなに便利な技能だったとは。青娥さんから教わっておいて本当に良かった・・・・・・いや、俺はスキルで耐性無視出来るけど。

 

だが、シーザーは違う。『気闘法』も会得していなければ、俺のように耐性を無視するスキルや魔法は持っていないのだ。一応、一つだけ通用しそうなものはあるが・・・・・・

 

 

 

「ガァアアアアアアアアアアアッ!!!!」

 

 

 

考え事をしていた俺だが、シーザーのその咆哮を聞いて意識を目の前の戦いに戻す。見ると、シーザーの口から放たれた炎がレッサーデーモンを飲み込んだところだった。

 

そう、俺の言う通用しそうなものとは、アーツである『火炎吐息(フレイムブレス)』。これは物理攻撃ではないので、『炎熱耐性』でも持っていない限りレッサーデーモンが相手でもダメージを与えられる筈だが・・・・・・

 

 

 

「・・・・・・・・・!」

 

 

 

やはりそう簡単に倒せはしない。レッサーデーモンは顔の前で腕をクロスさせた防御の姿勢でブレスを受けた。身体を焦がされるレッサーデーモンだったが、すぐに上空へ飛び上がり『火炎吐息(フレイムブレス)』から抜け出してしまう。逃がすまいとシーザーはブレスの照準をレッサーデーモンに合わせようとするが、飛び回りながら放たれたレッサーデーモンの『火炎大魔球(ファイアボール)』を数発食らい、追撃を阻止されてしまった。

 

 

 

『ぐ・・・・・・ッ、くそっ!』

 

「シーザー交代だ!いくらなんでも相性が悪い!」

 

 

 

ダメージを受けて後退るシーザーに俺はそう叫んだ。しかしシーザーはレッサーデーモンを睨み付けたまま『思念伝達』を俺と繋げる。

 

 

 

『まだだ!まだやらせてくれ大将!』

 

「けど、シーザー・・・!」

 

『頼む!俺はまだ負けちゃいねぇ!』

 

 

 

食い下がりながらシーザーはレッサーデーモンに突っ込んで行く。しかし、何故か前脚を使った物理攻撃を行っていた。時折ブレスも攻撃に織り混ぜてはいるが、何故効かないと分かっていることをしているのだろう。

 

 

 

『畜生・・・・・・何度も側で見てるんだ。理屈だって聞いてる。俺にだってきっと出来る筈だ・・・!』

 

 

 

前脚による打撃は無効化され、唯一のダメージソースであるブレスも躱されたり、命中してもすぐに抜け出されてしまい大きなダメージにはなっていない。レッサーデーモンに翻弄されているシーザーだが、そんな彼の心の声を聞いて俺ははっとした。

 

まさか、シーザーは闘気を使おうとしているのか?俺とフューズさんの会話が聞こえていたのかは不明だが、ブレスだけでは決定打に欠けると理解し、俺やガビルが会得した『気闘法』をこの土壇場で使おうとしているのだろう。

 

 

 

「シーザー!もし闘気を使おうとしてるんならやめろ!修行もしてないのにいきなり出来る訳無いだろ!」

 

『そんなの分から、ぐはっ!?』

 

 

 

シーザーが言い終える前にレッサーデーモンに殴られて『思念伝達』による会話を中断させられた。さらに追撃の『火炎大魔球(ファイアボール)』を食らってしまう。『物理攻撃耐性』と『炎熱耐性』を持つシーザーだが、何度も攻撃を受けたことでかなり消耗し始めていた。

 

 

 

「シーザー・・・!」

 

『へ、へへ・・・・・・大丈夫だって。今回は昨日やこないだのダンジョンみたいに命が掛かった戦いじゃねぇんだ。死ぬことはねぇよ』

 

 

 

口元を少し緩め、シーザーは『思念伝達』で俺にそう告げる。しかし、その身体はもうボロボロで、立っているのもやっとのように見えた。

 

 

 

「けど・・・・・・!」

 

『・・・・・・悔しかったんだ』

 

 

 

もう諦めるよう説得しようとしたその時、シーザーがぽつりと呟いた。その声を聞いた俺は思わず言葉を止める。

 

 

 

『ユーラザニアで、御主人と一緒に戦ったのにフォビオに負けて・・・ラビットマンの里に行った時は、オークジェネラルとかいう野郎に殺されかけて大将の足を引っ張っちまった。ダンジョンで戦ったドラゴンゾンビとの戦いは、その二つに比べればマシだったとは思う。それでも、実力不足は感じたぜ』

 

 

 

それは、絞り出したかのような声だった。シーザーとはまだ出会ってから・・・・・・そもそも、話すようになったこと自体が本当に最近ではあるけれど、彼のこんな声は聞いたことが無い。

 

シーザーが語った話はガビルから既に聞いていたことだ。しかし、シーザー自身から改めて聞かされると印象がまた違う。『思念伝達』は心の会話。だからこそ、シーザーの思いが言葉から強く感じるのかもしれない。

 

 

 

「・・・・・・・・・」

 

『悪魔が並の魔物とは違う存在だってのは、何となく分かる。ランクだけで見れば俺が上かもしれねえが、ハッキリ言ってあっちの方が強ぇ。けどよ、だからってこの戦いにまで負ける訳にはいかねぇ・・・・・・俺は御主人の相棒で、大将の仲間のドラゴンだからな!・・・・・・成り立てだけどよ』

 

 

 

最後にそう付け加えてシーザーは小さく笑った。何も言わずにいる俺をちらりと見てから、シーザーはレッサーデーモンへと向き直る。

 

 

 

『こいつは覚悟だ。アンタたちとこれからも一緒に戦っていく為に、この程度の相手になんか負けられねぇ・・・・・・それが無くちゃ倒せないってんなら闘気だろうと魔法だろうと使いこなして、俺は絶対に勝つんだよぉおおおおおおっ!!!』

 

 

 

それからそう言い放つと、再びシーザーはレッサーデーモンに突撃して行った。俺は慌てて制止の声を掛けようとして──直前で口を閉ざした。

 

 

 

「・・・・・・おい、止めなくていいのか?」

 

「・・・・・・はい」

 

 

 

フューズさんに短く答え、目を伏せる。

 

本当は、止めた方が良いに決まっている。誰の目から見てもこの戦いはシーザーが不利だ。

 

けれど、あんな話を・・・・・・彼の思いを聞いてしまっては何も言えない。こうなったら彼の好きにさせてあげよう。勿論、これが命を掛けた戦いではないというのが大前提ではあるのだが・・・・・・

 

 

 

友達が、シーザーがあれだけの覚悟を持って戦いに臨むのならば。彼の友達として信じてあげようと思ったのだ。勝利を。

 

思考を終えた俺は深く息を吐く。そして目を開くと、シーザーへ向け大きく叫んだ。

 

 

 

 

 

「────頑張れ、シーザー!!!」

 

『────!』

 

 

 

俺のその叫びとほぼ同時だった。一瞬だけ、シーザーの身体が淡く輝いたのだ。何事かと驚く俺だったが、次の瞬間に起きた出来事を見てさらに驚愕する。

 

 

 

 

 

『うぉおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!』

 

「・・・・・・・・・ッ!?」

 

 

 

なんと、シーザーがその咆哮と共に振るった前脚による攻撃がレッサーデーモンに命中したのだ。レッサーデーモンは動揺した様子で後退し胸元に手をやる。そこには赤い爪痕が残っている。致命傷とまではいかないが、決して浅くはない傷だった。

 

 

 

『へ、へへへ・・・・・・!何となく、いけそうな気がしてたんだよな』

 

 

 

見ると、シーザーの両爪が倍以上に伸びていた。いや、そうではない。爪自体が伸びているのではなく、闘気を纏っているのだ。

 

 

 

「あれは闘気か!?まさかこんな土壇場で・・・・・・」

 

「さっき身体が光ってたけど、その影響・・・?」

 

 

 

もしかして・・・・・・俺のスキル『魔物師者』が持つ権能、『才能開花』の力なのか?それによって、シーザーが『気闘法』を、『気操法』を会得したのだろうか。

 

 

 

『名付けて『闘気竜爪(ドラゴンクロー)』!見たか悪魔め、もうさっきまでみたいにはいかねぇぞ・・・・・・やられた分、全部纏めてお返ししてやらぁ!』

 

 

 

早速その技に名前を付けたシーザーは挑発的に笑いながらレッサーデーモンに突っ込んで行く。シーザーの爪──『闘気竜爪(ドラゴンクロー)』を恐れているのか、レッサーデーモンは先程までとは変わって警戒した様子だ。

 

 

 

「───・・・!」

 

「ガァアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」

 

 

 

距離を取ろうとするレッサーデーモンへシーザーはブレスを放つ。防御の姿勢でその直撃を受けたレッサーデーモンはすぐに炎から抜け出してしまうが、シーザーはそれを読んでおり、ブレスをすぐ中断しそちらへ向かって行く。

 

 

 

『食らいやがれっ!』

 

「────!」

 

『ぐおっ!?』

 

 

 

勝負を決めようと『闘気竜爪(ドラゴンクロー)』を繰り出したシーザーだが、レッサーデーモンもこのまま簡単にはやられてはくれない。直前で『火炎大魔球(ファイアボール)』を放ち、シーザーの顔面へ直撃させる。ダメージはそこまででも無いようだが炸裂した炎によってシーザーの視界が遮られ、その一瞬でレッサーデーモンがシーザーの両前脚を掴んだ。

 

 

 

「はっはっはっ!これではその爪で攻撃は出来まい!」

 

 

 

離れたところから戦いを見守っていたジーギスさんが勝ち誇ったように笑う。レッサーデーモンもジーギスさんと同じ考えなのか、僅かに口元をつり上げている。しかし、攻撃を封じられている筈のシーザーも彼らと同じように余裕そうな笑みを浮かべていた。

 

 

 

「・・・・・・・・・ガァアアアアッ!」

 

「───ッ!?」

 

「なっ!?」

 

 

 

するとシーザーは大きく口を開け、勢い良くレッサーデーモンの首に噛み付いた。爪ではないと言うのに自身の身体を傷付けられたレッサーデーモンは先程以上に動揺し、更には痛みから苦悶の声を漏らす。

 

 

 

『『闘気竜牙(ドラゴンファング)』!誤算だったな!闘気を纏えるのは爪だけじゃねぇんだよ!』

 

 

 

レッサーデーモンに聞こえているかは分からないが、シーザーはそう心の中で言い放つ。どうやら牙にも闘気を纏えるようになったようだ。

 

と、その時。レッサーデーモンはシーザーの前脚から手を離して彼の頭部を殴り付けた。ゴッ、という鈍い音が響くが、シーザーはレッサーデーモンの首に食らい付いたまま離れない。

 

恐らく、レッサーデーモンとしてはこのままだと首を噛み千切られるかもしれないと思っての行動だったのだろうが・・・・・・それは悪手だった。これで、シーザーの前脚が空いた。

 

 

 

『オラァッ!』

 

「ッ・・・!?」

 

 

 

前脚が解放された瞬間にシーザーは両爪・・・『闘気竜爪(ドラゴンクロー)』をレッサーデーモンの身体に突き刺した。傷口、さらにレッサーデーモンの口から血が溢れる。

 

 

 

『これで、終わりだッ!』

 

 

 

そしてシーザーはその宣言と共に、レッサーデーモンに食らい付いたまま『火炎吐息(フレイムブレス)』を放射した。全力で放たれたであろうその炎はレッサーデーモンの全身をあっという間に包み込み、爪と牙によって生じた傷口から入り込み内部まで焼き尽くす。

 

 

 

「────ッ!・・・・・・・・・ッ・・・・・・」

 

 

 

レッサーデーモンはなんとか炎から逃れようと、手足を振り回して必死に抵抗する。しかし、最早手遅れであった。大きなダメージを負ったその身体ではシーザーを引き剥がすことは叶わず、やがてレッサーデーモンは黒焦げた肉塊となり、地面にどさりと倒れた。

 

 

 

『はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・・・・やっ、た・・・・・・!は、ははははっ・・・勝ったぜ・・・!』

 

「シーザー!」

 

 

 

レッサーデーモンが動かなくなったことを確認すると、シーザーは満身創痍と言った様子でその場にへたり込む。その姿を見た俺は呼び掛けながら急いで彼の元に向かった。

 

 

 

『よぉ大将・・・・・・見てたか?俺が悪魔をぶっ倒したところを・・・』

 

「あぁ。よく頑張ったな、シーザー」

 

「・・・・・・・・・見事だ」

 

 

 

満足気に微笑んでいるシーザーを労っていると、その言葉と共にジーギスさんがこちらにやって来た。シーザーと二人でそちらに向き直ると、ジーギスさんは小さく頭を下げた。

 

 

 

「邪仙の・・・・・・青娥の連れだと言うからろくでもない輩だと決め付けていた。これまでの非礼を御詫びする」

 

「え、あー・・・・・・そんな、気にしないでください」

 

 

 

謝罪をしてきたジーギスさんに俺は苦笑しながらそう返す。まぁ、これに関しては青娥さんにも問題があるし・・・・・・なにより、こうして話してみてジーギスさんは悪い人では無いと分かっていたので俺としてはもう良いのだ。

 

 

 

「どうだジーギス。レッサーデーモンを倒したのはそこのドラゴンだが・・・・・・そいつを使役するアクトも、相応の実力があると俺は思っている」

 

「・・・・・・そうですね。彼ならば問題無いでしょう」

 

 

 

いつの間にか傍に来ていたフューズさんの言葉にジーギスさんは静かに頷く。なんの話か一瞬理解が遅れたが、すぐに二人の考えを察した俺は緩みそうになる口元を抑えつつ訊ねた。

 

 

 

「それって、つまり・・・・・・」

 

「あぁ、合格だ。今後、あなたの身分は自由組合(ギルド)が保証する。無論、Bランクの冒険者としてな」

 

『うぉおおおおおーーーーっ!!!』

 

 

 

ジーギスさんがそう告げた瞬間、この試験を観戦していた人たちから拍手と歓声が巻き起こった。俺は少しだけそれに驚きながらも、祝ってくれている人たちに軽く手を振ったり頭を下げて応える。そうしていると、シーザーがこちらに頭をすり寄せてきた。

 

 

 

『良かったな大将!』

 

「ありがとうシーザー。お前が頑張ってくれたお陰だよ」

 

『へへっ、何言ってんだ。大将なら一人ででもあんな奴倒せただろ?』

 

 

 

まぁ、それはそうなのだけれど。しかし、シーザーが頑張ってくれたのは事実だ。今度何かお礼をしたいなと考えながら俺はシーザーの頭を撫でた。

 

 

 

「では、一度エントランスに戻ろう。これからお前のギルドカードを作成しなければならんしな」

 

「分かりました」

 

 

 

そう促したフューズさんに返事をすると、彼は小さく頷いてから先に歩き出した。青娥さんもまだ帰ってきてないし時間潰しには丁度良いだろう。そう考えてフューズさんに続いてエントランスへ向かおうとしたその時。

 

 

 

『・・・・・・・・・あっ、そうだ。なぁ大将、俺ちょっと気になってることがあるんだけどよ』

 

「ん?」

 

 

 

何かを思い出したかのようにシーザーが短く声を上げ、俺に呼び掛ける。どうしたのかと俺が振り返ると、シーザーは首を傾げてこう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『いやな────俺、どうやってシス湖に帰ればいいんだ?』

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・えっ・・・とぉ・・・・・・」

 

「・・・・・・どうした、アクト?」

 

 

 

シーザーに問われた俺は何も答えることが出来ず、思わず頭を抱えてその場に蹲った。流石に気になったのか、フューズさんも立ち止まってこちらの様子を窺っている。

 

・・・・・・しまった。呼んだはいいけど帰すことについてすっかり忘れてた・・・!こ、これどうするんだ・・・?『魔物師者』に送還の権能は無かった筈。呼んでおいて「自分の力で帰ってくれ」、だなんて言う訳にはいかないし!冒険者試験は突破したけど、まさかこんな問題に直面することになろうとは・・・!

 

 

 

『た、大将?おーい?』

 

「本当にどうしたんだお前!?」

 

「ど、どこか怪我でもしたのか・・・・・・?」

 

 

 

俯いたままの俺を心配してか、シーザーだけでなくフューズさんとジーギスさんも声を掛けてくる。俺は彼等に返事をすることも出来ず、『空間移動』を使える青娥さんが早く戻って来てくれることを一人必死に祈るのであった。




シーザー強化回でした。
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