転生したら蜥蜴人族の友人と邪仙の恋人ができた件   作:乃出一樹

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お待たせしました、第90話となります。

転スラ四期と劇場版二作目の制作決定!嬉しいですね。四期はやるだろうとは思っていましたが、劇場版まであるとは流石に驚きました。


失われた笑顔

冒険者になる為の試験に無事合格し、晴れてBランクの冒険者として認められた俺だったが、試験の後に予想外のトラブルに見舞われた。

 

それは、シーザーをシス湖に帰す方法が無いということ。俺のスキル『魔物師者』には召還した魔物を元いた場所に帰す権能が無かったのである。

 

こちらで呼んでおいて自力でシス湖まで帰れ、等と言う訳にはいかない。シーザーには申し訳無いが、魔法もしくはスキルで転移が出来る青娥さんの帰りを待つしか無いと思っていたその時、そんな俺たちに手を差し伸べてくれる救世主が現れた。

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・よし、やってみろ」

 

「は、はい!・・・・・・行くぞシーザー・・・送還!」

 

『う、おッ──!』

 

 

 

ジーギスさんに促された俺は念じ、魔素を込めて『魔物師者』を発動する。するとシーザーの全身が光に包まれ、次の瞬間にはその場から姿を消していた。どうなったのか緊張しつつシーザーからの反応を待っていると、すぐに『思念伝達』が繋がった。

 

 

 

『・・・・・・・・・おっ!帰れた!帰れたぜ、大将!』

 

『そ、そっか・・・・・・良かったぁ・・・』

 

 

 

『思念伝達』でシーザーからそう告げられ、俺は安堵して深く息を吐く。その隣で、満足そうな顔でジーギスさんが静かに頷いていた。

 

そう。その救世主とは試験官であるジーギスさんである。

 

討伐部門の試験官であるジーギスさんは召還魔法を得意としており、先程の試験中でも自身が召還した魔物を元いた場所へ送還させていた。流石に『空間移動』のスキルや『ワープポータル』等の魔法は使えないそうだが、それらの知識と理論は押さえているそうで、ギルドカードが作成される間に俺に教えてくれていたのだ。

 

そしてジーギスさんとの勉強会が始まって約二時間。遂に俺の『魔物師者』の権能『魔物召還』が送還の力を得て、シーザーをシス湖へ帰すことに成功したのである。

 

 

 

『へへ、俺も一安心だ。んじゃ、また後でな大将!』

 

『あぁ、本当にありがとなシーザー。ガビルたちによろしく』

 

 

 

そう告げて『思念伝達』を切る。それからジーギスさんに向き直り、俺は静かに頭を下げた。

 

 

 

「すみませんジーギスさん、本当に助かりました・・・」

 

「なに、気にするな。新米冒険者を鍛えるのも俺の役目だ」

 

 

 

ジーギスさんは小さく笑ってそう答えると、俺の肩をぽんと叩いた。初対面の時とは違って随分気さくに接してくれていると思う。表情も柔らかくなっているし、冒険者としてだけでなく、一人の人間として、俺を本当に認めてくれたのだろう。

 

 

 

「さて、それじゃあエントランスに戻るか。もうお前のギルドカードも出来ているだろう」

 

「そうですね。結局二時間もフューズさんを待たせちゃったな・・・・・・」

 

 

 

苦笑しながらそう呟き、俺はジーギスさんと二人でエントランスに向かった。フューズさんは先にあちらに戻っている。自由組合支部長(ギルドマスター)である彼は色々と忙しいのだろう。

 

と、試験会場からエントランスまでは大した距離では無かったのですぐに到着。中に入って辺りを見回すと、試験を受ける手続きをした受付の前にフューズさんが立っており、こちらに気付くと軽く手を上げた。

 

 

 

「おう、アクト。どうだ、ちゃんとあのレッサードラゴンを送還できたか?」

 

「はい。ジーギスさんのお陰で何とか」

 

「ふっ、謙遜するな。お前が優秀だったんだよ」

 

 

 

フューズさんに答えたところ、隣のジーギスさんがそう褒めてくれた。少し照れ臭くなった俺は頬を掻いて、それから話題を変えようとフューズさんに話し掛ける。

 

 

 

「い、いえ・・・そんなことは・・・・・・あー、ところでフューズさん?もしかしてずっとここで待っててくれたんですか?」

 

「ははっ、まさか。生憎と自由組合支部長(ギルドマスター)はそう暇じゃない。今は受付に用があったんだよ」

 

 

 

それより、とフューズさんは上着の内ポケットを漁る。そこから何か小さい物を取り出して俺に差し出した。

 

 

 

「ほら、こいつがお前のギルドカードだ。受けとれ」

 

「へぇ、これが・・・・・・!」

 

 

 

差し出されたそれを受け取り、まじまじと見つめる。材質は分からないが、その硬さからして少なくとも紙類では無いらしい。俺の記憶にある、両親が持っていた運転免許証等のカードと同じ形だが、サイズはそれらよりやや大きい。とは言え、片手で十分持てる程度のサイズである。流石に顔写真は入っていないが、冒険者としての俺の情報が記されているようだ。これが、今後の俺の身分証明書となる。

 

 

 

「ありがとうございます、フューズさん!」

 

「礼は要らんさ。こちらとしても、優秀な冒険者が増えるのは大歓迎だからな」

 

 

 

感謝する俺に、フューズさんは少しだけ顔を綻ばせてそう返した。

 

その後、ジーギスさんは他の人の試験があるからとそこで別れ、残った俺はフューズさんに連れられ別室へと向かうことに。なんでも冒険者になったばかりの新人に伝えておかなければならないことがいくつかあるらしく、試験に合格した者へ自由組合支部長(ギルドマスター)であるフューズさんが直々に講習会のようなものを開いているそうだ。

 

そこでフューズさんから教わった内容は主に三つで、冒険者としての心構えや、ギルドカードを紛失した場合の再発行方法。それと、国からの召集命令について。最初の二つも大切ではあるが、なにより注意しなくてはならないのが三つ目の召集命令だろう。

 

強力な魔物との戦いなどが起きた時、国家との協定に基づく動員が発令されることがあるという。その場合、自由組合(ギルド)所属の一割の人数が国家の指揮下に入ることになっているそうだ。オークロードがもしブルムンドにとっての脅威となる場合はほぼ間違いなくそれが発令されるだろうとのことで、その際はBランク以上の実力を持つお前は必ず参加して欲しい、とも言われた。

 

以上の説明を終えたフューズさんは短く息を吐き、ソファに身体を預けた。

 

 

 

「・・・・・・伝えておくことは以上だ。何か質問はあるか?」

 

「いえ、大丈夫です」

 

「なら良い・・・・・・・・・それはそうと、青娥の奴はまだ帰ってこないのか」

 

 

 

身体を起こしたフューズさんは部屋に備えられている時計を見る。別室に来てからもうすぐ三十分といったところか。

 

 

 

「俺が試験を受けていた時間や、ジーギスさんから色々と教わっていた時間と合わせると、もう三時間くらいになりますね」

 

「まぁ、ジュラの大森林は広いからな。あのバカ三人を探すのに手間取っているんだろうよ」

 

 

 

そう言ってフューズさんはソファから立ち上がる。俺も地図でざっと見ただけで全体を目と足で確かめたことは無いが、確かにジュラの大森林は広大だ。強い魔物たちも生息しているし、あそこで人探しなど普通は出来ないだろう。それこそ、青娥さんのように強くて『魔力感知』等の便利な力でも無い限り。

 

 

 

さて。立ち上がったフューズさんに促され、俺はその部屋を後にする。いくつか言葉を交わしながら二人でエントランスまで戻ってきたところで、フューズさんからこう訊ねられた。

 

 

 

「・・・・・・それでアクト。青娥の奴はまだ戻ってきてないが、これからどうする?」

 

「そうですねぇ・・・・・・」

 

 

 

僅かに俯いて俺は思案する。青娥さんがあとどのくらいで帰ってくるか分からないので下手に動き回ったりしない方がいいのかもしれないが・・・・・・正直、ずっとここで待機しているのは退屈なんだよな。フューズさんやジーギスさんと色々話すのはとても楽しいけれど、二人は忙しいだろうし。

 

 

 

「・・・・・・それじゃ、少しロンドの街並みを見て来ようと思います」

 

 

 

こちらに転移してきた際に青娥さんと一緒に歩いたが、それは自由組合(ギルド)までの道だけで、ロンドのほんの一部に過ぎない。ドワルゴンだけじゃなく、他の国の街並みもよく見ておきたいのだ。

 

 

 

「そうか。もし青娥の奴が帰ってきたらそのように伝えておこう。あいつなら街中にいるお前を探すことくらい簡単だろうしな」

 

「いいんですか?すみません、お願いしますね」

 

「おう。お前なら心配要らんだろうが、気を付けろよ」

 

 

 

俺が礼を言うと、フューズさんは片手を上げてそう告げる。俺はもう一度彼に頭を下げてから、自由組合(ギルド)を後にするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自由組合(ギルド)から出た俺は、とりあえず適当に歩き回ることにした。街の地図も無いし、どこに何があるのか全く分からない異邦人・・・いや、異世界人だし仕方ない。それに、あてもなくふらふらと散歩するのも楽しいものだ。迷った時は・・・・・・まぁ、誰かその辺にいる人に道を聞けばいいだろう。最悪、空を飛んで自由組合(ギルド)を探せばいい。

 

そう決めた俺は、青娥さんと歩いてきた道とは反対の道へ足を進めた。ドワルゴン程ではないが、沢山の人が行き交う通りをきょろきょろと見回しながら歩いていく。魔法で空調管理をしているとは言え洞窟のようなあちらと違って、ここはのどかで自然な空気でとても安らぐ。いや、ドワルゴンも十分も綺麗な空気だけれども。

 

と、内心で誰に対してか分からない弁解をしていると、人が数人並んでいる露店が目に入った。店の横にある看板に描かれた絵を見るに、どうやら牛鹿の串焼きを売っているらしい。美味しそうな匂いにつられてそこに近寄ってしまったが、手持ちが無いことを思い出してピタリと足を止めた。

 

 

 

「やっぱりこういう時の為に金は欲しいな・・・・・・」

 

 

 

思わず苦笑し、惜しみながらも露店から離れる。折角冒険者になったことだし、後で修行の合間にでも自由組合(ギルド)で依頼を受けてお金を稼ぐのもいいかもしれない。いつまでも青娥さんからお小遣いを貰う訳にもいかないからな。

 

その後、俺は少し歩いた先で二つの道具屋を見つけた。道具屋と一括りにしたが、両店の扱う商品はかなり違っている。何故なら、一つは日常品専門の日常道具屋で、もう一つは魔法品専門の魔法道具屋だからだ。ドワルゴンにも当然これらの店はあったのだろうが、あの時はあまりゆっくり出来なかったのもあって見付けられなかったな。

 

それを思い出した俺は、とりあえず両方の店を覗いてみることに。最初に入った日常道具屋の方は雑貨屋といった感じで、服や食器に、他にはテーブルや椅子、ベッドやマット等があった。そこまで珍しいモノが置いてある訳では無かったが、可愛らしいデザインの家具や、魔力によって光るランタンやランプなど、ファンタジー感のあるものが多く、見ているだけでも十分楽しかった。

 

一方、魔法道具屋にはポーションや怪しげな薬、さらに魔法使いが持っていそうな木の杖や魔法の指南書等が売られていた。薄暗い店内を歩きながらそれらの品物を眺めていると、魔法を使うようには見えない客が気になったのか、店主のお婆さんが話し掛けてきた。その人と少し会話をしたところ、今は上質なポーション類の流通が止まっているため、どの店も下位ポーションや劣化ポーションくらいしか置いておらず、それらもかなり値上がりしているらしい。

 

そう言えば、戦争の準備がどうこうでポーションが足りてない、なんて話をドワルゴンで耳にしたっけ。すっかり忘れていたが、ブルムンドでもその影響があるらしい。まぁ、国の兵士でもない俺には関係の無い話だろうけれど。

 

それはさておき。どちらの店にも興味深い商品がいくつもあったが、金が無ければ買い物は出来ない。店の人たちには申し訳無いが、ウィンドウショッピングを楽しんで俺は二つの店を後にした。

 

 

 

そうして、楽しく街をぶらぶらと歩いて三十分以上は経っただろうか。

 

 

 

「・・・・・・・・・ん?」

 

 

 

視線の先で、見覚えのある三人組が歩いていた。目を凝らしてよく確認したところ、やはりあの三人──カバルさんとギドさんにエレンだった。しかし、彼等を迎えに行った筈の青娥さんの姿が無い。それと、三人はどこか元気が無いようにも見えた。

 

それらのことが少し気にはなったが、とりあえず三人に声を掛けてみるとしよう。

 

 

 

「カバルさーん!」

 

「・・・・・・ん?おぉっ!?アクトじゃねえか!」

 

 

 

俺が呼び掛けると、振り向いたカバルさんは目を丸くして驚いた。カバルさんに続くようにしてギドさん、エレンも俺の姿を見て驚き、それから三人でこちらに駆け寄って来る。

 

 

 

「本当だぁ!アクトさんじゃなーい!」

 

「こないだ振りでやすねぇ!」

 

「驚いたぜ・・・・・・お前、こんなところで何してんだ?」

 

 

 

そう話し掛けてくる彼等は、以前封印の洞窟で出逢った時と同じ笑顔を浮かべている。先程、元気が無いように見えたのはもしかすると俺の勘違いかもしれない。

 

そう結論を出し、俺は青娥さんについてカバルさんに訊ねることにした。

 

 

 

「あー、色々ありまして・・・・・・それよりカバルさん、青娥さんがどこにいるか知りません?フューズさんに頼まれて、カバルさんたちを迎えに行ってたと思うんだけど」

 

「っ・・・・・・」

 

 

 

だが、やはり先程の様子は見間違いなどでは無く。青娥さんの名前を出した瞬間、カバルさんたちの表情が曇った。彼等のその反応を見た俺は心が波立ち、思わずカバルさんに一歩詰め寄る。

 

 

 

「・・・・・・どうかしたんですか?まさか、青娥さんに何かあったんじゃ・・・!」

 

「だ、大丈夫、心配すんな!青娥は何ともねぇよ!」

 

 

 

カバルさんは首を降ってそう否定する。ギドさんとエレンもその言葉に同意しており、一先ずはそれを信じ、冷静になろうと俺は深呼吸した。

 

 

 

「そ、そうか。良かった・・・・・・でも、それなら青娥さんはどこに・・・?」

 

 

 

少し落ち着きはしたが、それでも不安は拭えない。もう一度カバルさんたちに訊ねると、彼等は互いに顔を見合わせ言葉を詰まらせる。

 

 

 

「ね、ねぇ・・・・・・どうするの?アクトさんに何て言うのよぉ・・・!」

 

「ンなこと俺に言われたって・・・!」

 

「というか、そもそもどこから話せば良いのやら・・・・・・」

 

 

 

近くにいる為こちらに丸聞こえだが、三人は小声でそう話し合う。うんうんと唸っていた彼等だが、その時カバルさんがあっと声上げ手を叩いた。

 

 

 

「そうだ!アクトに青娥の様子を見てきて貰えばいいんじゃねえか!?」

 

「いぃっ!?アクトくんにそんなことやらせるんでやすかぁ!?」

 

 

 

カバルさんの提案にギドさんはぎょっとして目を見開く。エレンも信じられないと言った顔をしているが、何故そんな反応をするのだろう?

 

 

 

「リーダー酷ぉい!今の青娥さんには誰も会わせられないわよぉ!」

 

「あ、あの・・・・・・?」

 

 

 

どういうことか意味が分からず俺は困惑する。そんな俺に、カバルさんはエレンの苦情を無視して向き直った。

 

 

 

「・・・・・・アクト。詳しい事情は、ギドが言ったみてぇにどこから話せば良いか分からねぇし、長くなりそうだから一先ず後にするぜ。つーか、俺たちもまだ心の整理が出来てねぇしな・・・」

 

「は、はぁ・・・・・・」

 

 

 

本当に一体何があったのか、カバルさんは悲しげな表情を浮かべた顔を俯かせた。その事情とやらが凄く気にはなるが、それは最悪青娥さん本人の口から聞けば良いだろう。とりあえず、俺はカバルさんの言葉の続きを待った。

 

 

 

「いいかアクト。青娥は今・・・・・・かなり辛いことがあって落ち込んでる」

 

「落ち込んでる・・・・・・青娥さんが?」

 

 

 

カバルさんが嘘を言っているようには見えなかったが、俺には少し信じられなかった。いつも笑顔を浮かべ、自由奔放なあの青娥さんが落ち込んでいる姿を想像出来ないのだ。

 

 

 

「俺たちも一応励まそうとしたんだけどよ、聞く耳持たずって感じでさ。だが、弟子のお前ならあいつも話を聞いてくれるんじゃねえかな」

 

「そうねぇ・・・・・・アクトさんなら青娥さんをなんとか出来るかも!」

 

「どうかなぁ・・・」

 

 

 

カバルさんたちはこう言っているが、俺では青娥さんを励ますことは出来ないと思う。俺より付き合いの長いカバルさんたちでも無理だったのなら俺でも無理だ。

 

 

 

「・・・・・・まぁ、とりあえず会ってはみますよ。一応気になるし」

 

「よし、それじゃあ姉さんの家の場所を教えやすよ。本当は案内してあげたいんでやすが、こっちも早くギルマスに報告しなきゃならないことがあるんで・・・・・・すいやせんね」

 

 

 

そう言えば三人は仕事帰りになるんだったか。それなら仕方ないと、謝るギドさんに気にしないで欲しいと返す。その後、三人から青娥さんの家までの道を教えて貰い、彼等にお礼を言ってから青娥さんの家へ向かった。

 

 

 

 

 

そして、そこに着いた頃には既に日も傾き始めていた。

 

ロンドの西側の外れ。俺と青娥さんが転移してきた場所とほぼ反対側のそこに、青娥さんの暮らす家があった。ロンドに多く見られる石造りの建築で、緑色の屋根の二階建て。ここまで来る途中で見掛けた他の民家より少し大きく見えるが、豪邸という程では無い。ファンタジー作品でよく見られるような家で、個人的に好みの外観だ。

 

 

 

「ここが青娥さんの家・・・・・・青娥さんが住んでるだけあって良い家だな」

 

 

 

そう一人ごちながらドアの前に立つ。と、その時。俺はあることに気付いた。

 

・・・・・・そう言えば、女の人の家に入るの初めてだな。急に緊張してきた俺は心を落ち着かせる為に深呼吸をして、それから今度こそドアをノックした。

 

 

 

「・・・・・・・・・よし・・・・・・青娥さーん、いますかー?俺です、アクトですー」

 

 

 

ノックして声を掛けてみたが、中にいるであろう青娥さんからの返答は無い。どうしたものかと思いつつ何となくドアノブを回してみたところ、なんとドアが開いてしまった。どうやら鍵が掛かっていなかったらしい。

 

刑事ドラマなんかでよくこういうシーンがあるよな。で、中に入ると死体が・・・・・・ってのが定番のパターンだが、今回家の中にいるのは青娥さんなのでそれは絶対に無い。ちなみに俺はよく『相棒』を観てた。

 

それはさておき。青娥さんから返事が返ってこないので、俺は仕方無く了承無しに家に上ることにした。申し訳無いとは思ったが、青娥さんの様子がどうしても気掛かりだったのだ。勝手に家に上がり込んだことを青娥さんが怒るのであれば、そのお叱りは甘んじて受け入れよう。

 

そういえば。先程のカバルさんたちの話を聞く限り、三人を連れてロンドに帰ってきた時の青娥さんはまともに会話が出来る状態では無かったという。少しでいいので今は落ち着いてくれていると良いのだが。

 

 

 

 

 

「お邪魔しまーす・・・・・・青娥さーん?入りますよー?」

 

 

 

その声にも返事は無く、俺はゆっくりと家の中に足を踏み入れた。家の中は明かりは点いておらず少し薄暗い。しかし全く見えないということは無く、室内の様子はしっかりと分かった。

 

 

 

青娥さんの家の中は、散らかっていた。勿論、それは青娥さんの片付けが出来ていないからだなんてそんな理由ではない。誰かが暴れた結果、家の中にある家具等が室内に散乱しているのだ。

 

床に落ちている割れた花瓶。破られ、踏まれた後のある散らばった本・・・・・・他にも様々な物が辺りに散乱しており、それらがこの場で何者かが暴れたことを物語っている。そして、その犯人はここの家主である青娥さんなのだろう。

 

室内の惨状を呆然と眺めていた俺だが、ふと窓際に目が止まる。窓際にはテーブルと椅子が置かれており、そこに青娥さんが座っていた。彼女の表情は、やや俯いている為に窺えない。

 

声を掛けようとしたその時、こちらに気付いたのか青娥さんがゆっくりと顔を上げる。そこで目にした青娥さんの表情に、俺は目を見開き声も無く驚愕した。

 

 

 

 

 

「青娥、さん・・・・・・?」

 

「────・・・・・・あぁ、アクトくんですか」

 

 

 

彼女の顔を見て、俺は言葉を失った。

 

そこには、普段見せてくれている優しい笑顔は影も形も無く、陰鬱とした雰囲気を漂わせた青娥さんがいた。心此処に在らずといった様子で、こちらを向いてはいるものの、その瞳が何を映しているのか分からない。

 

まるで存在感が無く、一瞬別人かと錯覚して動揺していた俺に、青娥さんは感情の無い声でこう言った。

 

 

 

「よくここが分かりましたね。まぁ、どうせカバルさんたちかフューズさん辺りに聞いたんでしょうけど」

 

「あ、の・・・・・・青娥さ──」

 

「───ごめんなさい。ちょっと・・・・・・一人にしてくれますか」

 

 

 

再び俯いて、俺の言葉を遮るように青娥さんはそう告げた。

 

たったそれだけのやり取りだった。それだけで俺は青娥さんに何も言えなくなり口を閉ざす。初めて彼女に拒絶されて、どうすればいいのか分からなくなる。

 

一瞬で全身を混乱と不安に支配された俺は、逃げるように青娥さんの家から出て行くしかなかった。




ドラゴンボールDAIMA、これからどうなるのか楽しみです。
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