転生したら蜥蜴人族の友人と邪仙の恋人ができた件   作:乃出一樹

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お待たせしました、第92話となります。

グラブルの転スラコラボ、楽しみではあるのですが・・・きっとガビルは出ないんだろうなぁ・・・


青娥とシズ②

茶を淹れてくると言ったフューズさんが部屋を出てから十分程。一人の女性従業員らしき人と戻ってきた彼は、二人で持ってきたトレイをテーブルに置いた。

 

フューズさんは女性に短く礼を言って部屋から下がらせる。彼一人では持ちきれなかった複数のトレイを見ると、紅茶の入った人数分のカップと沢山のクッキーが入れられた皿があった。なんだかんだでちゃんとエレンたちの為に用意してくれたのだろう。

 

早速そのクッキーに手を伸ばすエレンたち。俺はそれを横目で見た後、ソファに腰掛けたフューズさんに気になっていたことを訊ねた。

 

 

 

「そもそも、シズさんはどうしてブルムンドに?青娥さんに会いに来た訳じゃなかったんですよね」

 

 

 

フューズさんはあぁ、と頷いた。それからカップを手に取り口へと運ぶ。中に注がれた紅茶を一口飲み、一息吐いてから答えた。

 

 

 

「会いたかったとは言っていたがな・・・・・・言っておくが、ジュラの大森林を調査する為に俺が呼んだ訳でもない。シズにはこっち側に来る目的があったのさ」

 

「目的・・・・・・?」

 

「とある魔王に会いに行くつもりだと言っていた」

 

「えぇっ!?」

 

 

 

予想外の返答に驚いたのは俺だけではなかった。俺の隣に座っていてエレンが声を上げてばっと立ち上がる。フューズさんの両隣に座るカバルさんとギドさんも目を見開いていた。

 

 

 

「会ってどうするつもりだったかまでは分からんが、とにかくその魔王の元へ行く為にジュラの大森林を越える必要があったんだよ。ついでだからブルムンドに立ち寄って、俺と青娥に顔を出しておこうと思ったらしい」

 

「そ、そんなこと・・・シズさんもリムルさんも言ってなかったわよぅ!?」

 

「・・・・・・ん?」

 

 

 

その時、エレンの口から聞き覚えのある名前が飛び出した。思わずエレンに向き直るが、彼女は俺の視線に気付かずフューズさんと会話を続ける。

 

 

 

「あいつのことだ。お前たちを巻き込みたくなかったんだろう・・・・・・俺にだけ告げたのは、自分に万が一のことがあった際に青娥に伝えてもらおうと思ってのことだろうな」

 

「シズさん・・・・・・私たちにもっと力があれば・・・」

 

「・・・・・・その、カバルさん。今エレンが言ったリムルって奴なんだけど」

 

「ん?・・・・・・あぁ、そうか。アクトは知らねぇよな」

 

 

 

悲痛そうな面持ちでエレンは俯く。彼女をちらりと見てから、俺はカバルさんに声を掛けた。カバルさんがそれに反応し喋り始めると、エレンは我に返った様子でソファに座り直した。

 

 

 

「俺はリムルの旦那って呼んでんだけどよ。その正体はなんと──!」

 

「もしかして、スライムだったりします?」

 

「そう──って、なにぃいいいいっ!?」

 

「えぇえええええっ!?なんで分かったのぉ!?」

 

 

 

答えると、カバルさんだけでなくエレンたち全員が驚いた様子でこちらを見る。するとフューズさんからリムルとはどういう関係なのか訊ねられたので、俺は皆にドワルゴンでリムルと出逢った時のことを説明した。リムルの中にいるヴェルドラさんのことだけは一応伏せて。

 

それとこの際なので、俺が魔物──ドラゴニュートであることもカバルさんたちに話しておいた。青娥さんの友人であるカバルさんたちにならそれを知られても問題無いと思ったからである。

 

俺の正体を知った三人はやはり驚いていたが、それでも最後には「アクトはアクトだしな」、と受け入れてくれた。それがとても嬉しくて、思わず俺は口元を緩ませた。

 

 

 

「しかし、まさかアクトくんとリムルの旦那が知り合いだったとは・・・・・・驚きやしたね」

 

「俺だって、まさかこの話にリムルが関わってるなんて思わなかったし驚きましたよ」

 

 

 

頭を掻きながら苦笑するギドさんにつられるようにして俺も小さく笑う。その時、俺とギドさんのやり取りを見ていたカバルさんがフューズさんに声を掛けた。

 

 

 

「ギルマス、ここからは俺たちがアクトに話すぜ。シズさんと最後まで一緒にいたのは、リムルの旦那を除けば俺たちだけだからな」

 

「看取ってあげることは出来なかったけどね」

 

 

 

カバルさんがそう言った後で、エレンがどこか悲しげに小さく笑う。看取ることも出来なかったとは、一体シズさんはどんな最期を迎えたのだろう。それを知る為にもカバルさんたちの話を聞かなければ。

 

 

 

「そうだな。アクトもジュラの大森林で何があったのか早く知りたいだろうし、俺に報告したのと同じ内容を話してやれ」

 

「あいよ」

 

「じゃあアクトくん。少し長くなりやすが、いいでやすかね?」

 

 

 

そう訊ねてくるギドさんに俺は無言で頷いて答える。それを見たカバルさんたちは三人で一度顔を見合わせ、それから俺に向き直ってジュラの大森林で起きたこと・・・・・・英雄シズエ・イザワ、最後の冒険を語り始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺たちと封印の洞窟で出逢い、その後青娥さんにロンドまで送ってもらったカバルさんたちは真っ直ぐフューズさんのいる支部長室へと向かった。彼に依頼された封印の洞窟の調査結果を報告する為だ。

 

そして、三人で他愛も無い会話をしながら支部長に入ったその時、そこで白い仮面で顔を隠した少女──英雄と呼ばれたシズエ・イザワと出逢ったという。最も、その時は彼女がそれだとは全く気付かなかったらしいけれど。

 

ギルドやロンドで見たことのない、しかし只者ではない風格を持った仮面の彼女に驚きながらも、フューズさんに促されて三人はシズさんの前で封印の洞窟の調査結果を報告した。それを聞いたフューズさんは少し考えた後で再びジュラの大森林の調査をカバルさんたちに言い渡す。その指示に三人がげんなりしていると、後ろで話を聞いていたシズさんから声を掛けられたのだと言う。自分もジュラの大森林に同行しても構わないだろうか、と。

 

そこでそれぞれ自己紹介をし、三人は彼女をシズさんと呼ぶことに。そしてシズさんの同行をカバルさんはあっさりと許可した。冒険は人数が多い方が楽しいし、雰囲気からして強そうで、かつ悪い人じゃ無さそうだったからだそうだが、ギドさんとエレンもそれに同意し四人はパーティを組むこととなった。

 

フューズさんもシズさんの同行を承認し、カバルさんたちに一日だけ休みを与えたそうだ。これについては俺もフューズさんから直接聞いたっけ。当然、カバルさんたちはこれに滅茶苦茶文句を言ったらしい。言うまでも無いが、抗議の声は受け入れられなかった。

 

最終的にフューズさんの指示に渋々従い、冒険の準備をしたり、四人で食事をしたりして与えられた一日の休みをカバルさんたちは過ごす。短い時間ではあったがシズさんと楽しく英気を養ったその翌日、カバルさんたちは再びジュラの大森林へと向かった訳だが・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

『うぉおおおおおおおおッ!!!』

 

 

 

前回の調査以上に散々だったそうな。なんでも巨体妖蟻(ジャイアントアント)という魔物の群れに追い掛け回されたのだと言う。カバルさんがそいつらの巣に剣を突き刺した為にそうなったしまったそうだが、何故そんなことをしたんだ・・・・・・後で訊ねてみたのだが、カバルさんには笑って誤魔化された。

 

ちなみに、これの前にも突然落ちてきた蜘蛛に驚いたエレンに押されたギドさんが誰が仕掛けたか分からない落とし穴に引っ掛かったりいくつかのトラブルがあったらしく、シズさんに呆れられていたそうだが。

 

 

 

『死んだらカバルの枕元に化けて出てやるんだから~!』

 

『ふははははそりゃ無理ってもんだ!何故なら俺も一緒に死ぬからな!』

 

『・・・・・・私が足止めをしよう』

 

 

 

話を戻して。全力で逃げながらエレンとカバルさんがそんなやり取りしていると、シズさんが一人で巨体妖蟻(ジャイアントアント)の群れに立ち向かった。ギドさんが無茶だと引き留めようとしたが、シズさんは異名の由来ともなった爆炎と剣を用いて巨体妖蟻(ジャイアントアント)たちを圧倒する。

 

 

 

『・・・・・・ッ!?シズさんまだだ!』

 

『っ!』

 

 

 

しかし、一匹だけ倒し切れていない巨体妖蟻(ジャイアントアント)がいた。少し離れて戦いを眺めていたカバルさんがそれをシズさんに伝えるが、油断していたのかシズさんは反応が遅れてしまう。慌てて巨体妖蟻(ジャイアントアント)へシズさんが向き直ったその時。

 

 

 

『───伏せろ』

 

『──っ!?』

 

 

 

その声があった次の瞬間、空から黒い稲妻が降り注ぎ巨体妖蟻(ジャイアントアント)を倒してしまったのだ。その威力は凄まじく、炸裂すると共に砂煙を巻き起こす。ダメージこそなかったものの、近くにいたシズさんは堪らずその場に座り込み、身に付けていた仮面も吹き飛んでしまう程だったそうだ。

 

予想外の展開に呆然としつつも、とりあえずシズさんに駆け寄るカバルさんたち一行。やがて砂煙が晴れたそこにいたのは──・・・

 

 

 

 

 

『・・・・・・スライム?』

 

『む、スライムで悪いか』

 

 

 

そう、スライムのリムルだ。たまたま近くにリムルの暮らす町があったらしく、騒ぎを聞き付けて助けに来てくれたらしい。

 

 

 

『ほら、仮面。そこのお姉さんのだろ?』

 

 

 

驚くカバルさんたちを尻目に、リムルは器用にシズさんの仮面を持ち(咥えて?)、それを彼女に返そうと近寄っていく。座り込んだままのシズさんはエレンに背中を支えられながら、リムルを見つめた。

 

 

 

『すまんな、使い慣れないスキルだったんで加減が分からなかった。ケガしなかったか?』

 

『えぇ・・・大丈夫。助かったよ、ありがとう』

 

『・・・・・・!』

 

 

 

仮面を受け取り、微笑むシズさんを今度はリムルが静かに見つめる。何やら考え込んでいる様子だったらしいが、疲労困憊のカバルさんたちに気付くと、リムルは自分たちが暮らしている町に案内すると言ったそうだ。人の良いカバルさんたちだが、魔物たちの暮らす町となると流石に警戒したらしい。けれどシズさんがリムルは信用できると判断したことで、彼の町に向かうことを決めたとのこと。

 

案内されてカバルさんたちが辿り着いた先はテントがいくつも立てられている、森を切り開いて出来た広い土地。なんでも家はまだ建設中だとリムルが言っていたらしい。

 

町に着くとリムルの部下であるリグルドというホブゴブリンにテントに通され、一先ず食事にしようと森で獲れた肉や野菜をカバルさんたちはご馳走になったそうだ。ちなみに、どうやっていたのかは分からないそうだが、シズさんはなんと仮面越しに肉を食べていたらしい。スキルか魔法でも使っていたのだろうか。

 

それはさておき。食事の途中で改めて自己紹介をすることになったそうなのだが、リムルはその時こう言ったという。

 

 

 

『俺はスライムのリムル。悪いスライムじゃないよ!』

 

『プッ・・・・・・!』

 

 

 

リムルのその言葉を聞いて、何故か吹き出すシズさんにその場にいた全員の視線が集中した。俺もドワルゴンでリムルのそれを聞いた時は思わず笑ってしまったが、ずっと歳上である筈のシズさんにも通じるネタだったのだろうか。

 

 

 

食事を終えたカバルさんたちはその日、リムルの勧めで彼らの町で身体を休めることにした。エレンが言うには、シズさんはリムルと二人で何やら話をしていたらしい。後になって・・・リムルと別れる直前にエレンがその時話した内容を聞いたそうだが、どうやらリムルの暮らしていた異世界について話していたそうだ。

 

フューズさんが言っていたように、シズさんは俺やリムルよりもずっと歳上で、最低でも五十年前にはこちらの世界にやってきている。きっと、自分がいなくなった後の・・・未来の日本がどうなっているか気になったのだろう。満足のいく会話だったのか、エレンたちの元に戻ってきたシズさんは、嬉しそうに微笑んでいたそうだ。

 

 

 

そして、カバルさんたちはリムルの町で一夜を明かし・・・・・・その翌日、悲劇が起きた。

 

 

 

 

 

『・・・・・・っ!?』

 

『シズさん・・・?』

 

『う・・・・・・うぐっ・・・!そん、な・・・・・・もう──・・・!』

 

 

 

冒険の準備を終えたカバルさんたちが町から出発しようとしたその時、突然シズさんがその場に蹲ったのだ。どうしたのかとカバルさんやリムルたちが駆け寄ろうとすると、シズさんの全身から炎が巻き起こり、巨大な火柱を形成した。

 

 

 

『・・・・・・シズ?シズエ・イザワ?』

 

『まさか・・・・・・爆炎の支配者か!?』

 

 

 

カバルさんたちはその時になってようやくシズさんの正体に気づいたという。しかし、それに気付いたところでどうしようも無い。

 

いつの間にか仮面が外れていたシズさんはその素顔を露にする。その瞳は妖しく輝きながら虚空を見つめており、正気でないことは誰の目にも明らかだった。何が起きているのか誰も理解出来ずにいる中で、彼女はまるで何かに引っ張られるように宙へと浮き上がる。

 

次の瞬間、自身から発生した火柱にシズさんが飲み込まれた。彼女を助け出す為にリムルたちが駆け寄ろうとするとその火柱が霧散する。だが、そこにいたのはシズさんではなかったのだ。

 

 

 

『イフリート・・・!』

 

 

 

それを見上げて、信じられないといった様子でカバルさんが呟いた。

 

イフリートとは、炎の上位精霊なのだとか。そのランクは特Aクラスと言われており、並の冒険者では到底太刀打ちできる相手では無いし、召還することすら難しい。先にカバルさんたちからこれについて聞いていたフューズさんによれば、イフリートはシズさんの肉体を依代とし受肉したのだろう、とのこと。しかし俺はそれよりも、何故それほど強力な精霊が突然現れたのかが気になった。それについて訊ねたところ、フューズさんはどこか渋い顔をして、後で話すと俺に告げた。

 

 

 

カバルさんたちの話は続く。シズさんの身体を依代として現れたイフリートは火炎蜥蜴(サラマンダー)というBランクの中位精霊を複数体召還して襲い掛かってきた。

 

三人共一時は死を覚悟したそうだが、シズさんを助けたいという思いで恐怖を押し殺しイフリートたちに立ち向かうことを決意する。出逢ってまだ一日ではあったが、シズさんと仲良くなったリムルも三人と同じ気持ちだった。

 

 

 

『行くぞ──!』

 

 

 

リムルの一声によって、シズさんを取り戻す戦いの火蓋が切って落とされた。

 

戦闘が始まってすぐ、イフリートが火球の雨を降らせる。それを見たカバルさんは慌ててエレンとギドさんの盾となるよう防御を。一方リムルは牙狼族の亜種、嵐牙狼族(テンペストウルフ)のランガという仲間の背に乗りそれらを回避した。

 

火球を躱しつつ、リムルは『水刃』という圧縮した水の刃を放つスキルで応戦したそうだが、それはイフリートの眼前で蒸発してしまう。有効打が思い付かず頭を悩ませるリムルだったが、エレンが放った元素魔法、『水氷大魔槍(アイシクルランス)』がサラマンダーにダメージを与えた瞬間を目撃する。悪魔や精霊等の精神生命体には闘気の他に魔法も有効なのだ。

 

するとリムルはエレンが放った『水氷大魔槍(アイシクルランス)』を飲み込んでしまったと言う。恐らく、それはリムルのスキル『捕食者』によるものだろう。体内に吸収した対象を解析し、それがスキルを持っていれば同じモノを獲得出来るというユニークスキルだ。まさか魔法まで吸収出来るとは思わなかったが。

 

水氷大魔槍(アイシクルランス)』を吸収したリムルはそれを解析し魔法について理解したのだろう。エレンの『水氷大魔槍(アイシクルランス)』よりも強力な『水氷大魔散弾(アイシクルショット)』という魔法を発動し、サラマンダーのほとんどを倒すことに成功した。

 

しかし、その攻撃に生き残った一匹のサラマンダーがなんと自爆。リムルとランガには届かなかったようだが、カバルさんたちはその爆発に飲み込まれてしまった。咄嗟にカバルさんが防御したので致命傷は避けられたが、そのダメージは凄まじく三人は倒れ、気絶してしまい──・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・で、目が覚めた時にはリムルの旦那がイフリートを倒した後だったって訳だ」

 

 

 

苦笑しながらカバルさんはそう言った。エレンとギドさんも同じように苦笑しつつ頷く中、フューズさんは静かに紅茶を飲む。

 

 

 

「そんなことが・・・・・・大変だったんですね、カバルさんたち。それで、リムルはどうやってイフリートを?」

 

「それが、リムルさんにはイフリートの炎が効かなかったらしいんでやすよ」

 

「だから炎なんて気にせずにイフリートを丸呑み出来ちゃったのよね!」

 

 

 

イフリートはどうなったのか、それを訊ねるとギドさんとエレンからそのように返された。それだけでは今一よく分からなかったので詳しく教えて欲しいと俺が頼むと、カバルさんたちは再びその戦いについて・・・・・・それと、その後に起きたことを語り出した。

 

 

 

 

 

 

サラマンダーの自爆でダメージを受け気絶していたカバルさんたちが目を覚ますと、そこはテントの中。目の前にはリムルがおり、三人の傷はリムルの持っていたフルポーションで回復したという。

 

リムルは目を覚ました三人に戦いが終わったことを告げたという。その言葉に驚きながらも、自分たちが気絶した後に何があったのかカバルさんが訊ねたところ、リムルは僅かに表情を曇らせつつ語り出した。

 

まず、リムルはランガに命じて気絶したカバルさんたちを安全な場所へ避難させたそうだ。そして、リムルはたった一人でイフリートとの戦いに臨む。

 

するとイフリートはいきなり広範囲の炎を巻き起こしリムルを飲み込んだのだ。灼熱の渦に囚われ、流石にリムルも一瞬諦め掛けたそうだが、なんと彼は『熱変動耐性』という熱気や冷気を無効化する耐性スキルを持っていたらしい。

 

それによってダメージを一切受けることなくリムルは炎の渦から脱出し、『粘糸・鋼糸』というスキルを使ってイフリートを拘束。そしてイフリートだけを『捕食者』で取り込み、依代となっていたシズさんを助け出すことに成功したのである。

 

 

 

しかし、イフリートから解放されたシズさんが目を覚ますことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・そんな、一体どうして・・・・・・イフリートはリムルが倒したんだろ?」

 

「・・・・・・アクト。お前はさっき、イフリートがシズを依代にしたと話した時にこう聞いたな?『何故それほど強力な精霊が突然現れたのか』・・・と。その問いに今答えよう」

 

 

 

カバルさんの話をそこまで聞いた俺は思わず呟く。カバルさんたちは辛そうな顔をして口を閉ざしてしまったが、彼らの代わりにフューズさんが口を開き俺の言葉に答えた。

 

 

 

「普通、精霊や悪魔ってのは戦う時に魔法で呼び出すものだ。お前と戦ったジーギスがレッサーデーモンを呼び出したようにな」

 

 

 

昼間、冒険者試験でジーギスさんと戦った時のことを思い出す。ちなみに、ジーギスさんの召還したレッサーデーモンを倒したと聞いたカバルさんたちは滅茶苦茶驚いていた。正確には俺じゃなくてシーザーが倒したのだけれど。

 

 

 

「だが、シズはちと特殊でな・・・・・・あいつは自分の身体に精霊を、イフリートを宿していたんだ」

 

「身体にって・・・・・・そんなことが出来るんですか?」

 

「さてな。少なくとも俺はシズ以外にそんな事例を聞いたことが無い。もしかすると、魔王の力なのかもしれん」

 

 

 

何故そこで魔王が出てくるのか。不思議そうな顔をしている俺に気付いたのか、フューズさんはさらに続ける。

 

実は、シズさんの身体に宿っていたイフリートは、シズさんが会いに行くつもりだったという例の魔王の配下だったそうだ。なんとその魔王はシズさんをこちらの世界に召還した張本人で、どうやったかまでは分からないものの、当時まだ幼かったシズさんにイフリートを憑依させたらしい。

 

シズさんは召還されてから数年間は魔王の元で暮らしていたが、やがて当時の『勇者』と出会い保護される。それからしばらくの間、『勇者』がいなくなるまでその人の元で修行を受けた。それだけでなく、シズさんは勇者から『抗魔の仮面』というマジックアイテムを贈られる。普段から彼女が身に付けていたという仮面がそれだ。

 

フューズさんも詳しくは知らないそうだが、その仮面には魔素を抑える効果があるのだとか。それの力と『勇者』との修行によって、シズさんはこれまでイフリートの暴走を防いでいたようだ。

 

二十歳手前くらいの少女の外見で成長が止まり、以降何十年も若い姿でいられたのは、その身に精霊を宿していたからだろうとフューズさんは以前シズさんから聞いたらしい。しかし、年老いたシズさんには抗魔の仮面を持ってしても、その身に宿るイフリートを抑え込むことが限界になっていたそうだ。

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・それでイングラシアを出て、魔王レオン・クロムウェルに会う為に最後の冒険に出たんだ。何かをする為に・・・・・・青娥にも内緒でな」

 

 

 

魔王レオン・クロムウェル。その男がシズさんをこの世界に呼び出し、イフリートを憑依させた張本人だ。ちなみにかなり有名な魔王らしいが、今は一旦そいつについては置いておこう。

 

 

 

「しかし、結局は会えなかったって訳だ。シズが何十年も若い姿でいられたのは・・・いや、生きていられたのは同化していたイフリートの影響・・・・・・そいつがいなくなったことで、これまでの無理も祟って身体が限界を迎えたんだろう」

 

「リムルの旦那もそう言ってたな・・・・・・」

 

「しかし、リムルの旦那がいなければ、シズさんはイフリートに身も心も乗っ取られて最悪の事態になっていたと思いやす。これしか、無かったんでやすよ・・・」

 

 

 

フューズさんの言葉の後、カバルさんとギドさんがそう話した。重苦しい空気が流れる中、俺はカバルさんに訊ねる。

 

 

 

「それじゃあ、シズさんは目を覚まさないまま亡くなったんですか?」

 

「うぅん、ちゃんと起きたみたい。リムルさんしか傍にいない時に・・・」

 

 

 

俺を見つめてエレンがそう答えた。向き直ると、エレンはリムルから聞いたというシズさんの最期を語る。

 

 

 

目覚めたシズさんは、自分の身体がもう限界だということを悟った。そして、なんとリムルに吸収されることを望んだのだ。

 

シズさんは、この世界が好きでは無かった。この世界の土に還るくらいなら、リムルの中で眠りたいと言ったという。

 

シズさんの最後の願いをリムルは了承した。そしてリムルに自身の身体と、抗魔の仮面を託したそうだ。

 

 

 

シズさんの身体をリムルが飲み込んだ後、カバルさんたちがそこへやって来た。そこにいたのは小さめではあるが、シズさんそっくりの少女。『捕食者』によってシズさんを飲み込んだリムルは彼女にそっくりな姿に変身出来るようになったらしい。

 

リムルは三人に断りも無くシズさんを飲み込んだことを謝罪した。思うところが無かった訳では無いが、エレンたちはそれを快く許したという。それが、シズさんの願いだったのならと。

 

そして、リムルはエレンたちと別れる前に、シズさんの最後の言葉を伝えてくれたそうだ。

 

 

 

『最後は、こんな奇跡みたいな出会いがあった』

 

 

 

何十年も戦い続け、青娥さんや多くの人々を救い続けてきた英雄シズエ・イザワ。

 

魔王によって異世界に召還され、『勇者』によって育てられたという数奇な運命を辿った彼女が最期に残したのはそんな言葉だったという。

 

 

 

顔も知らず、出逢ったことの無い女性。俺は目を閉じ、その人のことを想う。

 

青娥さんの恩人で、青娥さんの大切な友人。彼女がいなければ、もしかしたら俺は青娥さんと出逢えなかったかもしれない。であるのならば、シズさんは俺にとっても大切な恩人だ。

 

 

 

今の自分が在るのは貴女のお陰でもあると、俺は言葉に出さずシズさんに感謝する。そして、せめて安らかに眠っていて欲しいと、心の中で祈っていた。




シズさん生存√にしようかとも思ったんですが、その場合だと今後の展開を考えるのが自分の力では難しいと判断し諦めました・・・
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