転生したら蜥蜴人族の友人と邪仙の恋人ができた件 作:乃出一樹
先週と今週はインフルエンザによる休みが多くて仕事が大変でした・・・
フューズさんから託された、シズさんからの伝言を青娥さんに伝えることが出来た俺は、青娥さんの家で一夜を過ごすこととなった。少しではあるが青娥さんは元気を取り戻したし、もう心配は要らないだろうと俺は帰ろうとしたのだが、今日は一緒にいて欲しいと青娥さんに言われてしまい仕方なく彼女の家に一泊したのである。
いや、流石に俺も女の人と同じ屋根の下で二人きりというのは不味いと思ったよ。けど、普段とは違う・・・瞳を潤ませ、どこか不安気な表情をする青娥さんに服の裾を摘ままれてそう言われたらとてもじゃないが断れなかったのだ。
・・・・・・まぁ、泊まるところの宛が無かったので助かりはしたのだが。
青娥さんのような美人と二人きり、ということもあり健全な男子高校生の俺は少しドキドキしたものの、特に何も無く時間は過ぎていった。最も、俺は妙なことをするつもりなんてないし、青娥さんだって俺のことは何とも思っていないだろうから、何も起きなかったのは当然と言えよう。
とはいえ、二人きりであることに関してはいつものように揶揄われるかもしれないと思っていたのだが、意外にも青娥さんは一晩中大人しかった。流石にふざけるほどの元気はまだ無かったのだろう。ただ、互いに入浴を済ませ、就寝前に他愛も無い話をした際には、何度か自然な笑みを見せてくれていた。
そして翌日。俺は青娥さんと共に自由組合までやって来ていた。
「おはようございまーーっす!」
「うぉおおっ!?」
ばん!と、勢い良く支部長室の扉を開け放って青娥さんは元気良く挨拶した。それに驚いたフューズさんは声を上げながら、目を丸くしてこちらに振り返る。
「せ、青娥!?」
「はーい、青娥さんですよー♪」
「すみません・・・失礼します・・・」
許可も無くずかずかと支部長室に入っていく青娥さんの後に、頭を下げながら俺も続く。勿論青娥さんは一階にある受付に声も掛けていない。俺はフューズさんも忙しいだろうし受付の人に確認を取った方がいいのでは?と言ったのだが、いつもこんな感じだから大丈夫、と軽い口調で返されてしまった。
「お前って奴はいつもいつも・・・!・・・・・・・・・ふっ、そうだな。お前はこうでなくっちゃな」
「ふふふ・・・・・・御迷惑お掛けしました♪」
初めは戸惑っていたフューズさんだったが、青娥さんの様子を見てやがて口角を上げる。青娥さんも小さく笑い、そう言ってぺこりと頭を下げた。
それから俺と青娥さんで昨夜のことをフューズさんに簡単に説明していると、急に支部長室の外がどたばたと騒がしくなった。何事かとドアの方に視線を向けると、丁度あの三人が部屋に駆け込んで来る瞬間だった。
「ギルマス!今、下の連中から青娥が来たって・・・・・・」
「って、青娥の姉さん!アクトくんもいるでやすよ!」
「良かったぁ~!青娥さん、元気になったんだぁ!」
雪崩れ込むようにして支部長室にやってきたカバルさん、ギドさん、エレンの三人は青娥さんと俺を見つけるとわっと声を上げる。そんな三人にフューズさんは呆れたように溜め息を吐き、青娥さんはひらひらと片手を振った。
「ったく、朝からうるせぇ奴らだ・・・」
「あら。これがエレンさんたちの良いところじゃないですか」
「はは、そうかもですね」
青娥さんの言葉に俺も同意した。どこか抜けている印象のある彼等だが、誰からも好かれるような不思議な雰囲気がある。きっと彼等だからこそ、青娥さんだけでなくシズさんとも仲良くなれたのだろう。
「やるじゃねぇかアクト!まさか本当にあの状態の青娥をなんとかしちまうなんてな!」
「いやぁ、大変なことを任せちまってどうなるものかと不安でやしたが・・・・・・凄いでやすねアクトくん!」
そんなことを考えていると、カバルさんが笑いながら肩を組んできた。ギドさんもこちらに近寄り、初めは申し訳無さそうな顔で頭を掻いていたが、すぐに笑顔を浮かべ俺を褒めてくれた。
「いや、俺は大したことは何もしてませんよ。青娥さんが強かったことと、あと・・・・・・シズさんの、お陰です」
シズさんが優しい想いを遺して。それを受け取った青娥さんが立ち上がった。ただそれだけのことなのだ。俺はほんの少し、その手助けをしただけ。
「そうか、シズさんの・・・・・・」
「会ってみたかったな、俺も」
そう呟いて、青娥さんに視線を向ける。昨日までの陰鬱とした雰囲気はどこかへ消え失せ、エレンと楽し気に会話していた。
「・・・・・・良い人だったよ。シズさんは」
「えぇ、本当に・・・・・・あっしとしても、是非アクトくんにも逢わせたかったでやすよ」
カバルさんとギドさんも青娥さんの方に視線を向け、どこか遠い目をしていた。青娥さんにシズさんの面影を重ねているのだろうか。
「・・・・・・青娥がいつも通りに戻ったところで、だ。青娥、アクト。お前らはこれからどうする?」
すると、黙っていたフューズさんが口を開いた。俺たちがそちらに振り返ると、フューズさんは短く息を吐いてソファに座り直した。
「これから、ですか・・・」
「そうですねぇ。アクトくんがブルムンドに何も用事が無いのなら、ジュラの大森林に戻ろうかと。元々オークロードのことをフューズさんに知らせに来ただけですし」
返答に困っていた俺の代わりに青娥さんがそう答えた。そう言えば、そんな目的でブルムンドへ来たんだったな。
「オークロードか・・・・・・イフリートとどっちが強いんだろうな」
顎に手を当てオークロードの強さを想像するカバルさん。ギルドにいるほとんどの人たちはまだオークロードの出現について知らないそうだが、カバルさんたち三人にだけはフューズさんが知らせておいたらしい。
「私はもう強敵との戦いは遠慮したいわぁ・・・」
「全くでやす。流石に暫くはゆっくりしたいところでやすよ」
疲れたような表情をするエレンとギドさんを見て思わず苦笑した。先日戦ったオークジェネラルは魔素量からしてB~B+ランクだろう。そいつらや他のオークたちを統率していることを考えるに、オークロードは最低でもAランクはある筈だ。イフリートは特Aランクなので、俺の予想が正しければそちらには及ばないにしろ、強敵であることには変わりない。
「そうか、ジュラの大森林に戻るか。自由組合に寄せられたクエストがそこそこ溜まってるからアクトに手伝って貰おうと思ったんだがな」
「ダメで~す。アクトくんは私の弟子だから私の許可無く持ち出しは禁止で~す」
残念そうにフューズさんが呟くと、青娥さんが頬を膨らませながら俺の腕を抱き締めた。青娥さんの突然の行動・・・というか腕に伝わる二つの大きな膨らみの柔らかさに滅茶苦茶びっくりしたが、俺はなんとか平静を保ってみせた。
「そ、そういう訳みたいなんで・・・・・・正直自由組合での仕事にも興味はありますけど」
「・・・・・・少し、冒険者の仕事をしてみますか?」
「えっ?」
ドギマギしながらフューズさんに返答したところ、少し申し訳無さそうな顔をして青娥さんがそう訊ねてきた。もしかして、俺を気遣ってくれているのか?
「・・・・・・いや、大丈夫です。今はオークロードをなんとかするのが優先ですから」
「そう・・・ですか。なら良いんですけれど」
俺の返事を聞いた青娥さんはどこか不安そうに呟く。俺の勘違いでなければ、今の提案は青娥さんなりの優しさなのだと思う。俺はなんだか嬉しくなって、つい口元が緩んだ。
「・・・・・・ありがとう、青娥さん」
「・・・いえ、気にしないでください」
「んんっ!・・・あー、なぁお前ら。あっちに戻るにしたってもうすぐ昼時だろ。せめて昼飯くらいこっちで食ってけよ」
青娥さんとそんなやり取りをしていると、フューズさんが一つ咳払いをしてそう告げた。そう言えば、もうそんな時間だ。今朝は二人共起きるのが遅かったので、自由組合に来るのがこんな時間になってしまったのだが・・・・・・これは、ブルムンドでゆっくりしていけというフューズさんなりの気遣いだろう。
「おっ!それなら俺たちも一緒にいいか?」
「て言うかぁ、アクトさんの手料理食べてみたーい!」
すると、カバルさんとエレンが声を掛けてきた。何故俺の手料理を?と、俺が首を傾げていると、ギドさんがこそこそと耳打ちしてきた。
「ほら、アクトくん。昨日あっしの家で青娥の姉さんに料理を作りたいからって、その下準備になにかの生地を作ってたでしょう?で、その生地を使う料理に二人が興味津々なんでさぁ」
ギドさんの言う通り、俺は昨夜青娥さんの家に向かう前に彼の家で餃子の生地を作っていた。買い物中にカバルさんたち三人の内、誰かの家のキッチンを借りられないかと相談したところ、カバルさんとエレンがギドさんの家を挙げたのである。
ギドさんは文句を言っていたが、他の二人の家はとてもじゃないが誰かを上げられる状況ではないとのこと。そういう訳で、俺はギドさんの家のキッチンを借りることになったのだ。
「あー・・・生地ならまだ余ってるし、ギドさんたちにはお世話になったし、俺なんかの料理で良ければいくらでも作りますけど・・・」
そこまで言って、俺はちらりと青娥さんを見る。オークロードのこともあるので、青娥さんに判断を委ねようと思ったのだ。視線を向けられた青娥さんは一瞬目をぱちくりさせると、すぐににこりと微笑んでこう答えた。
「・・・・・・・・・ふふ、そうですね。カバルさんたちにもお礼がしたいですし、お昼くらいご馳走してあげましょうか」
「やったー!」
青娥さんの許しが出て、エレンが両手を上げて喜ぶ。カバルさんとギドさんも嬉しそうだ。
「よーし、そうと決まりゃあ早速青娥ん家に行こうぜ!」
「すいやせんね青娥の姉さん。お邪魔しても・・・?」
「え~?ウチですかぁ?」
不満そうに眉を寄せる青娥さんにギドさんは頭を軽く下げ、カバルさんは手を合わせて頼み込んだ。最終的にまぁいいですけど、と青娥さんは了承したのだが。昨日寝る前に片付けしておいて良かった。
「それじゃあ青娥さん家にゴーゴー!」
「っとと・・・・・・待ってくれエレン。餃子を作るのはいいけど、流石にこの人数じゃ足りないよ」
エレンに手を引かれながら俺はそう告げる。確かに生地や肉種は余っているが、元々青娥さんにだけ振る舞う予定だったのでそこまで量に余裕がある訳では無い。
「そんなら途中で色々材料買ってこうぜ。その、ギョーザ?ってのだけじゃなく、他にもアクトが作るメシを食べてみたいしな」
「そうでやすね。勿論、金はリーダーが出しやすよ」
「そこは俺たちが、だろ!」
「・・・・・・はははっ」
声を荒らげてカバルさんはギドさんに突っ込んだ。ふざけ合う二人と、その様子を見て溜め息を吐きつつもどこか楽し気なエレン。彼ら三人を眺めていると、思わずこちらも笑みがこぼれてしまう。本当に楽しい人たちだ。この三人がブルムンドに・・・青娥さんの傍にいてくれて本当に良かった。そして、シズさんの最後の冒険の仲間であったことも。
そのお礼も兼ねて、今日は腕によりを掛けて美味しい料理を作るとしよう。皆に振る舞う料理は何にしようか思案しながら、俺はカバルさんたちに連れられて支部長室を後にするのだった。
「・・・・・・へっ、相変わらず喧しい三人だぜ」
アクトを連れて支部長室を後にするカバルたちの背中を見ながら、この俺・・・フューズはそう呟いた。
これで漸く落ち着いて書類仕事が出来る・・・・・・そう思い自分のデスクに戻ろうとした時。
「あぁ、すみませんフューズさん。少しよろしいですか?」
「ん?」
呼び掛けられて振り返ると、そこには青娥がいた。アクトたちには付いていかずこの場に残ったらしい。何故、と疑問に思いつつ俺は要件を聞いた。
「昨日、アクトくんが家に来ました。一度目は夕暮れに・・・その時はすぐに帰ったんですけれど、夜に再びやってきまして。それで、その・・・色々と話をしまして。シズさんのこととか」
「あぁ、そのことか・・・・・・なんだよ、勝手にお前らの昔の話をしたことに怒ってんのか?」
「いえ、そうじゃなくてですね・・・」
俺の言葉を否定すると、青娥はそこで言葉を濁した。とりあえず昔のことをアクトに教えた件については許してくれるらしい。しかし・・・となれば要件はなんだ?
「その・・・・・・一度目はともかく、どうしてアクトくんを私の元へ行かせたんです?あの時の私が、なんというか・・・荒れてる状態だったのは分かっていた筈でしょう?・・・・・・私が言えたことじゃないですけど、アクトくんに危害が及ぶかもしれないとは思わなかったんですか?」
「・・・・・・なんだ、そんなことか」
不思議そうに、それとどこか申し訳無さそうに青娥はそう俺に訊ねた。こんな顔も出来たのかと少しだけ驚きつつ、青娥の知りたかったことに少し拍子抜けしながら、俺はこう答えた。
「だってお前──アクトに結構絆されてんだろ」
「・・・・・・・・・はっ!?」
予想外な答えだったのか、青娥は目を丸くして声を上げた。驚く青娥の姿がどうにも新鮮で、俺はついにやりと口元を歪めてしまう。
「正直、お前がここにアクトを連れてきた時はそんなこと微塵も思っちゃいなかったさ。そりゃあ殴る蹴るだのの酷ぇことはやってねぇだろうとは信じてたぜ?一応、お前もシズの弟子だからな」
まぁ、修行中にそれより酷い目に合ってる可能性もあるが。とは言えアクトの様子を見る限り、そう酷い扱いはしてないのだろう。
「最も・・・カバルたちがアクトをお前の家に行かせたと聞いた時は焦ったぜ。お前の懸念通り、アクトが何かされるんじゃないかってな。これでもお前とは四年近い付き合いだ、どうしようもない悪人じゃないとは分かっているが、シズほど優しい訳でもない。だが・・・・・・アクトは怪我一つ無くここに戻ってきた。」
その時のアクトの様子が脳裏に浮かぶ。心配する俺を見てきょとんとした顔で首を傾げていたっけな。どうしてそんな心配するのだろうって言いたげだった。
「いくら弟子とは言え、知り合って一月程度のガキが家に押し掛けてきたら・・・しかもそんな不安定な精神状態だったんなら攻撃してるだろお前。少なくとも俺やカバル辺りだったら間違いなくやってたぞ」
「いや、そんなこと・・・」
「あるね。賭けてもいい。で、結局お前は一度目どころか二度目でも手は出さず、それどころかアクトの言葉を・・・いや、想いを正面から受け取った。そして、こうやって立ち直れた訳だ。俺やカバル辺りだったらシズからの伝言だ、なんて言ってもマトモに取り合わなかった筈だぜ」
「え、えぇ・・・・・・!?」
あからさまに困惑した様子で青娥は目を泳がせる。少し、ほんの僅かではあるが、何故か頬が赤くなっているようにも見えた。
「つーか、シズからの伝言を聞く前にアクトの作った料理を食べながら色々話してたんだろ?その時点でアクトに大分心開いてんじゃねぇか。それとさっき、アクトが冒険者の仕事に興味があるって分かったら、なんともばつの悪そうな顔でジュラの大森林に戻るの取り止めようと・・・・・・」
「~~~~~っ!」
「・・・って、おい!?青娥・・・・・・行っちまった」
俺が最後まで言い終わる前に青娥の姿がふっと消えた。恐らく『空間移動』を使って逃げたのだろう。で、アクトたちの後を追ったのだろうな。仕方の無い奴だと苦笑し、俺は部屋の窓から空を見上げる。
・・・・・・アンタは知ってたんだろうな。あいつのこんな一面をよ。
そう、心の中で語り掛けた。俺にとっても大切な師であった、あの心優しい英雄に。
初対面でのやり取りとこれまでの日々、そして今回の出来事によって青娥はアクトにかなりの好印象を持っています。なお、フューズに指摘されるまでそのことに自分でも気付いていませんでした。