転生したら蜥蜴人族の友人と邪仙の恋人ができた件   作:乃出一樹

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お待たせしました、第99話となります。

今回、ちょっとアレです。


原初の青、襲来②

レインさんの予想外な提案により、俺たち三人はロンドから離れた平原にやって来ていた。移動手段は勿論青娥さんの『空間移動』である。ちなみにレインさんは青娥さんに頼らず一人で移動していた。やはり彼女も青娥さん同様に、空間系のスキルか魔法を有しているのだろう。

 

 

 

「・・・・・・この辺りなら、アクトくんが本気で暴れても大丈夫でしょう」

 

 

 

辺りを見回しながら青娥さんが呟く。一応俺も周囲を確認してみたが、村や町等は見当たらない。

 

 

 

「しかし・・・・・・本当にやるんですか?レインさんと・・・」

 

 

 

こちらに近寄りながらどこか不安そうに青娥さんが訊ねてきた。実は青娥さんは、俺がレインさんと手合わせ・・・模擬戦をすることにあまり乗り気ではないのだ。

 

万が一があったらどうするのかと青娥さんはレインさんに訴え掛けていた。それだけ俺とレインさんとでは実力に差があるということなのだろう。しかし、レインさんは自分の目で俺の実力を確かめてみたいと譲らなかったのだ。

 

結局は、絶対に手加減するとレインさんが約束し、さらに俺がレインさんと模擬戦を受けるつもりだったこともあり、青娥さんは渋々了承した。

 

 

 

「ごめんなさい青娥さん。青娥さんと同じくらい強い人なら今の俺じゃ絶対に勝てないけど、折角の申し出だし戦ってみたくなっちゃって」

 

「全く、いつからこんなに戦闘狂になっちゃったんです?・・・・・・危ないと思ったらすぐに棄権してくださいね」

 

「・・・・・・心配してくれたんですか?ありがとうございます」

 

「・・・・・・・・・・・・もう」

 

 

 

そう俺が礼を言うと、青娥さんは一瞬目を丸くする。それからどこかばつの悪そうに視線を彷徨わせた後で、眉尻を下げて照れ臭そうにはにかんだ。どうしよう、俺の師匠が凄く可愛い。あれ、年上の女性に可愛いなんて言ったら失礼だったりする?

 

 

 

「青娥様、アクト様。そろそろよろしいでしょうか」

 

 

 

そんなことを考えていた時、レインさんから声が掛かる。俺は慌てて思考を切り替え、レインさんに振り返る。

 

 

 

「っと・・・・・・はい、俺はいつでも大丈夫です」

 

「では、念の為にルールを確認しますね」

 

 

 

そう言って、青娥さんは事前に決めておいた模擬戦のルールを俺たちに改めて説明し始めた。

 

ルールと言っても簡単なものだ。レインさんは本気を出さない。気絶した方の負け。どちらかが降参を宣言したら即座に戦いをやめる。以上である。

 

 

 

「・・・・・・本当に気を付けてくださいね、レインさん」

 

「えぇ、心得ておりますわ。青娥様は心配性ですね」

 

 

 

青娥さんが不安そうに念を押すと、くすりと笑いながらレインさんは答えた。青娥さんの様子が気になりつつも、俺とレインさんは一定の距離を取り、戦闘開始に備える。

 

 

 

「さて・・・・・・戦う前にアクト様に質問です。私は魔法を得意としておりますが、魔法使いが戦いにおいて嫌うことは何だと思いますか?」

 

 

 

向かい合うレインさんからそう投げ掛けられ俺は思案する。青娥さんからは戦闘の技術しか学んでいないが、前世でゲームや漫画から得た知識から考えると・・・・・・

 

 

 

「・・・・・・近距離の戦闘に持ち込まれること、ですか?」

 

「正解です。よって、アクト様は距離を詰めて自身の攻撃を叩き込む為の・・・私はアクト様との距離を保ちながら魔法を撃ち込む為の手段と技量が問われる戦いとなります」

 

 

 

頷き、語りながらレインさんは片手をすっと頭上に掲げる。それに対しこちらが直ぐ様身構えると、レインさんは目を細めてにこりと微笑んだ。

 

 

 

「僅か一月程度とは言え、青娥様に育てられたのですから・・・・・・これくらいで終わらないでくださいね?──『水氷魔槍雨(アイシクルレイン)』」

 

「ッ!?」

 

 

 

レインさんが腕を振り下ろすと同時、俺の身体よりも大きい氷の槍が正しく雨のように降り注いだ。俺は一気に闘気を全開にし、レインさんの魔法を回避する。直後、俺の立っていた場所にズガガッ!と氷の槍が突き立てられた。

 

 

 

「お見事。今の攻撃を回避するとは」

 

 

 

魔法の威力に俺が冷や汗を浮かべる中、レインさんは涼しげに笑っている。魔法使い相手に距離が離れているのは不味い。とにかく距離を詰めようと、俺は闘気を纏い『飛空法』を使って彼女へ突っ込んだ。

 

 

 

「『飛空法』ですか。中々の速度ではありますけれど・・・」

 

 

 

余裕そうな表情を崩すことなく、レインさんは俺を見据えながら右手を軽く引いて真っ直ぐ突き出す。その瞬間、一本ではあるが先程のものより巨大な氷の槍がこちらに放たれた。

 

 

 

「とぉっ!?」

 

「『水氷大魔槍(アイシクルランス)』───それくらいであれば、十分捉えられます」

 

 

 

俺は咄嗟に身体をよじらせ、凄まじい速度で放たれたその魔法を躱す。しかし、レインさんは次々と同じ威力、同じ速度で氷の槍を連射し始めた。

 

 

 

「ほらほら、どうしたんです?全く接近出来ていませんよ」

 

 

 

強力な攻撃を繰り出しているにも関わらず、レインさんは汗一つ流さずに軽い口調でこちらを煽る。これでは近付くどころか躱すだけで精一杯だ。直撃こそしていないが、既に何発かは身体を掠めている。手加減してくれてこれなのだ。さっきの言葉通り、レインさんがその気になれば俺などすぐに撃ち落とせるのだろう。

 

 

 

「なら・・・・・・闘気で!」

 

 

 

接近戦から遠距離戦に切り替えた俺は、ばっと両手を前に突き出すファイナルフラッシュの構えで全力のエネルギー波を放った。俺のエネルギー波はこちらに放たれた氷の槍を飲み込み破壊していく。それを見たレインさんは『水氷大魔槍(アイシクルランス)』の連射を中止した。

 

 

 

「ふむ・・・もう少し強めでも平気そうですね・・・・・・『水氷大魔嵐(アイスブリザード)』」

 

 

 

呟き、レインさんは自身に迫る闘気流に片手を向ける。すると彼女の全身から目に見える程の高密度な魔素が吹き出した。青と黒が混ざり合ったような色をしたそれに俺が目を奪われていると、レインさんは白銀の渦を撃ち出した。

 

水氷大魔嵐(アイスブリザード)』・・・確か腐肉竜(ドラゴンゾンビ)も同じ魔法を使っていたな。だが、あちらよりも威力は上だ。あの時の撃ち合いはある程度拮抗していたが、今回はすぐに押され始めている。

 

 

 

「押される・・・・・・!?くそっ!」

 

 

 

そう吐き捨てた俺は闘気の放出を中断し上空へ飛び上がる。抑える力が無くなったレインさんの魔法が、ゴッ!と音を立てながら、ほんの少し前まで自分のいた場所を通り過ぎていく。

 

 

 

「直撃したらヤバそうだな・・・・・・さて、今度はこれだ!」

 

 

 

苦笑した後、俺は地上にいるレインさんを見据える。しっかり狙いを定めると、俺は空中を飛び回りながら連続で気弾を発射した。

 

 

 

 

「はぁあああああああああああああッ!!!」

 

 

 

『ドラゴンボール』の『ベジータ』のように、俺は両手から次々と気弾を撃ち出した。レインさんから狙いを付けられないように高速飛行しながらの攻撃になってしまったが、大量の気弾は俺の狙い通りに飛んで行く。やがて気弾はレインさんに連続で着弾し、大爆発を起こした。

 

 

 

「ふーっ・・・、どうだ・・・?」

 

「・・・・・・・・・・・・ふふふ、残念」

 

 

 

しかし、この攻撃もレインさんには通じなかった。爆発によって生じた煙が晴れると、そこには結界らしきもので自身の身を守るレインさんがいた。

 

俺の持つユニークスキル『復讐者』。それの権能の一つである『突破』は、攻撃を妨害したり無効化する等の力を無視することができる。しかし、それはスキルと耐性による効果にしか発揮されない。恐らくレインさんの結界は魔法かなにかで作り出したものなのだろう。

 

結界と言えば、『脱獄者』の『脱獄』であればそれを越えられる。が、どうやらあれは俺本体にしか効果はないらしい。つまり

撃ち出した気弾ではレインさんの結界を貫通することは出来ないのだ。

 

 

 

「その程度の威力では、この結界は破壊出来ませんよ?」

 

 

 

レインさんのその言葉に俺は歯噛みした。だが、これが事実なのだと自分に言い聞かせ気を落ち着かせる。

 

まさかここまで実力に差があるとは・・・・・・しかもこれでまだ全力ではないのだ。疑っていた訳ではないが、レインさんが青娥さんと同等の力を持っているのはやはり本当なのだろう。

 

 

 

「・・・・・・どうやったって勝ち目は無い、よなぁ」

 

 

 

それに気付いた俺は自嘲気味にそう呟いた。しかし、このまま負けを認めるのはなんというか・・・・・・少し悔しい。

 

俺の持てる力全てを出し切ったとしてもレインさんに勝つことは不可能だろうが、一発攻撃を当てることくらいは出来るかもしれない。降参するのはもう少し後でも良いだろう。まだ『加速』も『思考加速』も使っていないのだ。これらも併用すれば・・・・・・

 

 

 

「なにか策を考えているのでしょうけれど・・・・・・隙だらけですよ?」

 

「痛ゥッ!?」

 

 

 

その時、太腿に鋭い痛みが走った。思案するのを一旦止め、俺は慌てて視線を下げる。すると、二、三十センチ程の氷の針が俺の太腿に突き刺さっていた。

 

 

 

「『水氷極細槍(アイスニードル)』。ほらほら、止まったままだとハリネズミになってしまいますよ?」

 

 

 

笑顔のまま恐ろしいことを言いつつ、レインさんは氷の針を・・・『水氷極細槍(アイスニードル)』を飛ばしてくる。直撃こそ少ないが、氷の針によるほとんどの攻撃を俺は躱し切れずにいた。。サイズが小さく、氷で形成されている為に透き通っていて視認しにくいというのもあるが、放たれる速度が速すぎるのだ。レインさんの手元が僅かに光ったことくらいしか目で確認出来ない。

 

 

 

「あだっ!?くっそ・・・!」

 

 

 

俺は高速で飛び回りながら身体に刺さった氷を引き抜く。それと同時に『魔力感知』と『思考加速』を発動させた。使うのが遅すぎると言われてしまうかもしれないが、この二つを同時かつ全力で使用すると脳への負担が大きすぎるので、ギリギリまで使いたくなかったのである。ともかく、この二つのスキルを併用したことで、なんとか『水氷極細槍(アイスニードル)』の直撃は避けられるようになった。最も、まだ何発かは身体を掠めてはいるけれど。

 

それはさておき、だ。

 

レインさんは攻撃を躱せるようになった俺を興味深そうに見上げている。とりあえず、これ以上の力を見せる気はまだ無いらしい。今の状態のレインさんならば、こちらの見せていない手札を一気に切ることで攻撃を当てられるかもしれない。

 

 

 

「よし・・・・・・行くか!」

 

 

 

考えを纏めた俺はそう呟いて、空中から地上にいるレインさんに向け飛んで行く。レインさんは『水氷極細槍(アイスニードル)』を撃ち続けてくるが、俺はそれらに気弾で対抗する。この魔法はサイズが小さい分さっきの『水氷大魔槍(アイシクルランス)』より大分威力が低いようで、そこまで力を込めていない気弾でも十分に破壊できた。

 

 

 

「はぁああああ・・・・・・!」

 

 

 

俺は片手で気弾を連射しつつ、もう片方の手に闘気を集中させる。気弾で攻撃を防ぎ、撃ち漏らしたものは回避しながらレインさんとの距離を縮めていく。そんな俺を見たレインさんは『水氷極細槍(アイスニードル)』を撃つのを止めた。

 

 

 

「動きが良くなりましたね。先程より冷静に、しかも私の攻撃の全てを目で追っていない辺り、『思考加速』と『魔力感知』を使っているのでしょう・・・・・・しかし、それだけでは私には届きません。『水氷大魔槍(アイシクルランス)』」

 

 

 

レインさんは静かにこちらの様子を分析すると片手をこちらに向け、再び『水氷大魔槍(アイシクルランス)』を発動させた。ドドドッ!と、三本の巨大な氷槍が俺に迫る。それらを『思考加速』で見切った俺は二本をなんとか躱し、回避が難しいと悟った残る一本は正面から迎え撃った。

 

 

 

星皇剣(スターセイバー)ッ!!!」

 

 

 

『身体強化』を発動させつつ、闘気を纏って蒼く光り輝く脚を振るい、俺は氷槍を粉砕した。僅かに脚がビリビリと痺れたが、これくらいなら問題ないと判断しレインさんに向き直る。

 

 

 

「おや。素敵なアーツを持っていますね」

 

「行けぇッ!」

 

 

 

本気では無かったとはいえ、自身の魔法を力尽くで打ち破った俺を見たレインさんはどこか楽しそうに微笑む。そんなレインさんの言葉に答えることなく、俺は闘気を圧縮させた気弾を投げるようにして放った。

 

これまで撃っていたものよりも大きく、闘気が強く込められた気弾に一瞬警戒したレインさんだったが、その気弾は軌道が逸れたことで彼女に当たることはなかった。レインさんは気弾を一瞬視線で追ったが、その場からは動かない。

 

 

 

「まだまだ!」

 

「外した・・・?それとも、私の気を引くため・・・?まぁ、どちらでも構いませんが」

 

 

 

レインさんは首を傾げながらも視線をこちらに戻す。気弾を外した俺は闘気を全開にして突っ込むが、それに合わせてレインさんが『水氷大魔槍(アイシクルランス)』・・・いや、これは『水氷魔槍雨(アイシクルレイン)』か。大量の氷の槍を俺目掛け発射する。

 

・・・・・・これは、このままじゃ回避し切れないな。

 

 

 

「『加速』ッ!」

 

 

 

そう判断した俺はここまで温存していた『加速』を発動させた。迫りくる氷槍の雨の隙間を縫うようにして飛行し、攻撃を躱しつつレインさんとの距離を詰めていく。

 

 

 

「あら、まだ速くなるのですね。流石、青娥様に目を掛けられるだけのことありますが・・・・・・」

 

 

 

目を丸くするレインさんだが、大して驚いたり慌てた様子は見せずに呟く。すると、再びレインさんが高密度の魔素をぶわりと吹き出させた。同時に『魔力感知』によるレインさんの反応が強大になる。

 

 

 

「ふふ、これくらいの速度しか出せないのなら──!?」

 

 

 

あと数秒で接敵できるかというところで、レインさんが次の一手を打とうと魔素を込めた片手を頭上へ掲げた。その時。何かを感じ取ったのかレインさんはばっと背後を振り返る。

 

 

 

「これは、さっきの闘気弾・・・・・・!?」

 

 

 

レインさんの視線の先には先程俺が撃った闘気弾・・・もとい『繰気弾』があった。レインさんの不意を突く為に一度は外したと思わせて、間を開けてから再び操作してレインさんに向かわせたのだ。

 

かなりの力を込めた俺の『繰気弾』だが、直撃させてもレインさんの結界はびくともしない。しかし、それは想定内である。

 

 

 

「もう!鬱陶し──!?」

 

 

 

周囲を飛び回り結界に攻撃してくる『繰気弾』に苛立ち、レインさんの目付きが鋭くなる。『繰気弾』を撃ち落とそうとしたのか、もう片方の手をそちらに向けたレインさんだったが、その瞬間に俺は『繰気弾』を炸裂させた。爆発によって生じた音と煙がレインさんの言葉と視界を遮る。

 

勿論、この爆発でもレインさんは傷一つ負わないだろう。だが、それでも別に構わない。俺の狙いは、そう。

 

 

 

「・・・・・・少し侮りすぎましたね。それと、面白いアーツに気を取られてしまいました」

 

 

 

ただレインさんに接近する、それだけなのだから。

 

 

 

「おおぉおおおおおおおおおおッ!!!」

 

 

 

レインさんが『繰気弾』に気を取られている隙に俺は彼女のすぐ側へと降り立っていた。俺は声を上げながら『身体強化』と『加速』を発動、さらに全力の闘気を右脚に込め、ハイキックの要領でレインさんに『星皇剣(スターセイバー)』を繰り出した。

 

その最中、『思考加速』を発動させたままだったのでレインさんの様子を詳しく観察することができた。至近距離まで俺の接近を許してしまったと言うのに、その表情からはいまだ焦りを感じられない。きっと自分の結界は絶対に壊れないという自信があるのだろう。

 

その考えは正しい。俺の持つスキルやアーツをフル活用しても、レインさんの結界を破壊することは出来ないだろう。

 

 

 

すり抜けることは出来るけれど。

 

 

 

「────!?」

 

 

 

その瞬間、ずっと余裕そうにしていたレインさんの表情が崩れた。驚くのも無理は無い。格下だと侮っていた相手が自分の結界を破壊せずに通過してきたのだから。

 

ユニークスキル『脱獄者』、『脱獄』。その力によって俺はレインさんの展開していた結界を突破したのである。

 

それを目の当たりにしたレインさんは目を見開いて驚愕している。俺の脚はレインさんの眼前に迫っており、もう回避は出来ない・・・・・・そう確信していた。

 

 

 

 

 

「──ふっ!」

 

「なッ!?」

 

 

 

しかし、俺の一撃はレインさんの左手であっさりと受け止められる。手加減などしていない、本気の攻撃だった。それをレインさんは華奢なその手で防いだのである。よく見ると左手に凄まじい妖気を込めているようだった。いや、そもそもあそこから即座に反応し動けたというのか。

 

 

 

「・・・・・・マジかよ」

 

「────ぃ・・・」

 

 

 

思わず苦笑してそう呟く。ただ妖気を込めただけの手でアーツを止められるなんて・・・・・・今の俺とレインさんの間にはそれだけの力の差があるということだろう。

 

悔しくもあったが、俺は素直にレインさんの実力を認めて心の中で尊敬した。すると、レインさんがなにやらぼそりと呟いた。何を言ったのかよく聞こえなかったので、首を傾げつつ耳を澄ました瞬間。

 

 

 

 

 

 

 

「滅茶苦茶痛ェんですけど!?このクソガキィ!!!」

 

「ぎゅっ」

 

「あっ」

 

 

 

凄まじい衝撃と共に形容し難い痛みが股を襲い、俺は声にならない声を口から吐き出した。レインさんが声を荒らげて汚い言葉を吐いたり青娥さんが間の抜けた声を漏らしたような気もするが、そんなことを気にする余裕など欠片も無い。

 

 

 

「お゛ッ・・・・・・んう゛ぅううう・・・ッ!?」

 

 

 

浮遊感。それを感じたのは一瞬で、視界が乱れながら俺は地面に転がる。レインさんの脚で蹴り飛ばされたのだと遅れて理解すると同時に、男にしか理解出来ない恐ろしい激痛を受け堪らず呻き声を上げた。

 

呼吸がままならない。『思考加速』は勿論、他のスキルも維持出来ない。腹痛や吐き気までしてきた。そして視界が涙で滲む。

 

俺はみっともなく股間を両手で抑えながら泣き出しそうになったが、ある声を聞いたことで我に返った。

 

 

 

 

「あ・・・アクトくん・・・?」

 

 

 

それは青娥さんの声だった。蹲っている為に彼女の表情を見ることは出来ないが、どこか不安そうな声色だったように思える。

 

理由は分からない。けれど、何故か青娥さんの前で情けない姿を見せたくなくて。俺は歯を食い縛ってなんとか立ち上がった。

 

 

 

「ふーっ・・・!ふーっ・・・!ふ、んんん・・・・・・!」

 

 

 

がくがくと両足が震える。痛みから涙は止まらず、呼吸も思考も乱れたまま。それでも俺はファイティングポーズを取り、レインさんを見据える。先程の致命的(男にとっては)な一撃を受けて立ち上がれるとは、ましてや悲鳴の一つも上げずのたうち回らなかったことが意外だったのか、レインさんは苛立った表情から一転驚いたように目を丸くして真顔になる。

 

・・・・・・が、その数秒後。

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・へぇ・・・・・・♡」

 

「ッ──!?」

 

 

 

ぎぃ、と。レインさんが不気味に微笑んだ。その笑みを見て、俺は背筋に氷柱を押し付けられたかのような悪寒が走る。怒っている、とかそういうものではない。なんと言うか、そう・・・面白い玩具を見付けた時の子供のような無邪気な笑顔。だが、その裏に恐ろしい何かを感じ取ってしまった俺は一瞬で心が折れた。この人には絶対に勝てないと。

 

 

 

「す、みません・・・!こうさ──」

 

「だーめ♡」

 

「~~~~っ!?」

 

 

 

降参を告げようとしたその時、『空間移動』を使ったのか一瞬にしてレインさんが俺の目の前に現れた。俺が反応するより先に、可愛らしくそう言いながらぴとっと唇に指を当てる。すると即座に俺の口周りが凍り付いた。

 

 

 

「ん、む・・・!?む~~~っ!」

 

 

 

混乱しながらもとにかくレインさんから距離を取ろうとするが、何故か足が動かない。見ると、いつの間にか両足も凍らされていた。

 

 

 

「ふふふ・・・ここまで追い詰められても降参しないとは、流石は青娥様の弟子。不屈の闘志を持っているのですね。では、心苦しいですが・・・・・・えぇ、本当に心苦しいですが、私も心を鬼にして決着を着けると致しましょう。と、言う訳で──」

 

「ちょっ・・・!?レインさん、これ以上は──!」

 

 

 

わざとらしく眉を下げ、困ったような顔をしながらレインさんはそう告げた。それからゆっくりと右脚を引く。青娥さんの慌てた声を聞きながら、俺は必死に首を横に振ってやめてくれと願う。

 

 

 

「──はい、トドメ♡」

 

 

 

しかし、そんな俺の願いは届くことはなく。レインさんはにっこり微笑んで、右脚を俺の股間目掛け振り上げた。ぶん、と空気を裂くと同時に強い風圧を股下から受ける。

 

横から悲鳴にも近い青娥さんの声が響く中、俺は何か大切なモノが潰れる音と感覚がしたのと同時、意識を手放すのだった。




念の為に言っておきますが、そういう性癖がある訳ではないです。はい。本当に。
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