仗助と育朗の冒険 BackStreet (ジョジョXバオー) 作:ヨマザル
プロローグ
1991年10月某日朝 [M県S市杜王町 住宅地]:
激しく暑かった杜王町の夏はようやく終わり、そろそろ肌寒くなってきていた。あと3週間もすれば、紅葉も始まるだろう。すでに朝などは、凍えるほどに寒くなっていた。
『Mori Mori Mori Mori モリオウチョウRadio~~……お早うございます。あなただけのカイ・ハラダです。さて、朝のうちはすっかり寒くなって参りましたが……』
ラジオからは、いつもの人気DJの挨拶の言葉が流れ始めていた。
その日の朝、東方朋子は、自宅のダイニングでコーヒー片手に、新聞を読みふけっていた。
何時も早起きの父親は、少し前に出勤して行き、もういなかった。小学生の息子、ジョースケはまだ起きて来ない。
出勤の支度を整え、息子が起きるのを待つこのわずかな時間こそが、朋子に取ってのささやかな至福の時なのであった。
「あら?この場所は」
朋子は、新聞の地方欄に小さく書かれた『ある記事』を見つけ、眉をひそめた。
その小さな記事は、ある先進医療研究所が、岩盤と共に崩落し、多大な死者を出したことを報じていた。記事曰く、その先進医療研究所は、 杜王町から150キロほど北方に行った、ほとんど人がいない海岸沿いに建っているのだと言う。
記事は短く、事実だけが簡潔に書かれていた。その被害の大きさの割に、不自然な程簡素な記事だ。
だが、朋子が眉をひそめたのは、『記事の不自然さ』に対してではなく、『事故の起こった場所』 についてであった。
そこは、朋子とゆかりのある場所だったのだ。かつて出会った、『忘れがたい男との思い出の場所』に近かったのだ。
「ジョセフ……」
無意識に、朋子がその男の名前を口に出した。
ほぼ同時に、2階から騒々しい物音が聞こえ始めた。
ジョースケだ。
朋子は慌てて新聞をたたむと、朝食の準備を始めた。7歳の息子を持つ親にとって、朝からじっくりと感傷にふけるなどと言うぜいたくは、許されない。
ちょうど朋子が、目玉焼きに塩をふってひっくり返したところで、階段を駆け下りてきたジョースケがひょっこりと顔を出した。
「カアァ――チャァ―――ン!おはよぉ―――――― ッ!!」
「おはようッ!朝ごはんできてるよ、早く食べなァァ」
朋子は、子犬のように飛びついてきたジョースケの頭をなでた。そして、朝から元気一杯のジョースケをなだめすかし、なんとか手を洗わせる。
二人は、アレコレとたわいもないことを話しながら、仲よく一緒に食事の準備をして、食卓についた。
口に食べ物を頬張ったまま、しきりに話しかけてくるジョースケの相手をしている内に、朋子は新聞記事の事を忘れた。
そして、二度と思い出すことは無かった。
――――――――――――――――――
1999年2月某日 [M県 O海岸]:
杜王町からしばらく北へ車を走らせたところに、めったに人がこない風光明媚な海岸がある。
その海岸近くの海に、一本の矢が浮かんでいた。
その矢は、ひどく古ぼけていた。
だが、その鋭い穂先だけは、キラキラと光っていた。穂先の一部は黒ずんでおり、それは、矢がつい最近、実際に使われ、何か生物を貫いたことを暗示していた。
ザザザザザッ
不意にその矢が、海岸線めがけて海中を動き出した。
海岸線の上には、道路が走っていた。
道路は、別荘地帯を抜け風光明媚な海岸線をドライブできるよう、10年前に、観光用に作り始めたものだ。しかし実際は、その道路を走るものはほとんどいなかった。バブルが弾けたこともあり、計画はほどなく中断。道路は、ここから10数Mほど北に行ったところで、ぷっつりと途切れていた。
2週間も前にふった雪が、まったく道路から取り除かれていない。市も、その道路を整備をする気が、ほとんどないのであろう。
その道路の上に、一台の車が止まっていた。
矢は、その車が止まっている海岸線めがけて、独りでに海中を進んでいく。
……いや、そうではない。
車の運転手には、その矢が何かに運ばれているのがハッキリと『見えて』いた。それは、普通の人間には『見えない』。ある『特殊な才能』を持つものだけに、『見える』ものだ。
彼には、矢が、『ラジコン程の小さな葉巻型の潜水艦』によって引っ張っているのが、『見えて』いた。
その潜水艦を軍事マニアが見れば、『おやしお型潜水艦』と言う、当時最新鋭の潜水艦のミニチュアであることがわかるであろう。
だがそれはラジコンなどではない。その『普通の人間には見えない潜水艦』は、彼、虹村形兆の生命力・精神力が具現化した、『パワーを持ったビジョン』であった。
それは、
その能力を持つ者の傍らに寄り添い(Stand By)……
その者に運命に立ち向かう力を与える(Stand Up To)……
それは、スタンド(幽波紋)と呼ばれる、彼自身の能力が生み出したビジョンなのだ。
ブルブルブル……
その潜水艦の上に、同じく小さなヘリコプターが飛んでいた。AH-64Dアパッチ・ロングボウだ。
シュルルルルッ
ヘリコプターからロープが伸びた。そのロープを伝って、小さなオモチャの人形のような兵士達が、降りてきた。
兵士達は、使い手の几帳面な性格を反映してか、一糸乱れずキビキビと動いていた。そして、潜水艦が引っ張ってきた矢を受け取ると、それを手分けをして、手際よくロープで縛り上げていく。
スタンドの兵士たちが、作業を終えた。ヘリは矢を引き上げ、クルリと向きを変えて陸地へ向かった。
潜水艦も、ヘリコプターも、兵士たちも、ロープさえも、どれも虹村形兆の能力:スタンド が具現化されたビジョンだ。みな、虹村形兆の意思で、自由に動かすことが出来る。
彼は、自分の『スタンドの軍隊』に、バッド・カンパニーと言う名前を付けていた。
「やっとみつけたか……一つしかないから、ほっとしたぜ」
虹村形兆は、ヘリコプターが運んできた矢を受け取ると、車をUターンさせた。そして、彼が住む町、杜王町へと戻っていった。
――――――――――――――――――
1999年9月末日 [アメリカ SW財団オフィス]:
(やあぁ〰〰れやれじゃの、コヤツラ、ちょっとは大人しくできんのかい)
SW財団特殊生物UNITのリーダー、ケイト教授はため息をついた。
教授の背後では、いい年をした壮年の男二人がワチャワチャと口論していた。
二人の口論は白熱し、今にも殴りあいの喧嘩に発展しそうなほどだ。だが、良く聞くとじつに下らない会話だ。さっき見た女の子のどっちが可愛かったとか、自分に気がある目つきだったとか、なかったとか、そんな話なのだ。
(コヤツラ、本当にバカなのかもしれん)
ケイト教授は、もう一度大きくため息をついた。
だが、そろそろ仕事の時間だ。
ケイトは気を入れ替え、手にした紙を丸めてパンパンと男達の頭をはたいた。
「お前たち、お黙り。とっとと今回の依頼を伝えるよ」
男たちが、ぶぜんとした表情で黙った。
ケイトは、腕を組んで男達の前を一、二往復し……口を開いた。
「今回の仕事は、ある人物を探し出して『保護』する事さ―――簡単な仕事じゃあないよ。なにせ相手は、『現代の狼男』だからね」
男達が、目を丸くした。
「はっ?」
「おいおい婆さん、与太話は止してくれよ。送り狼なら、ワザワザ探さなくても、アンタの目の前にいるぜェェ〰〰」
「ヒヒヒッ」
「笑うんじゃあないッッ!真面目な話、『狼男』に何の不思議があるってんだい?」
そもそもアンタ達は、吸血鬼と戦った男じゃあないか。
ケイトは二人をピシャリとやり込めた。
二人は、『吸血鬼』と言う言葉に、目に見えて緊張していく。ヘラっとした締まりのない顔が、あっという間に真剣な顔つきに変わる。
ケイトはコホンと咳払いをして、説明を続けた。
「いいかい、『吸血鬼』と同じように、『狼男』も実在するのさ。実はね、『狼男』ってのは、とっくにその正体が分かっているのさ」
「ほんとかよ?」
「ほんとよ……、それは、プラーガって呼ばれる、太古の寄生動物のことさ……コイツは宿主の体を作り変えて、宿主を狂暴な化け物に作り変えちまう……狼男とは、このプラーガに寄生された、哀れな犠牲者のことだったのさ」
その話を聞き、逆に二人は、リラックスし始めたようであった。
「なぁぁんだ、じゃあ『吸血鬼』や『石仮面』には、かんけーねーんだな?」
「俺たちへの依頼は、そのプラーガだか、サナダムシだかの退治なのかよ」
「うへぇ〰〰、ゴメンこうむりたいゼ」
ブヒヤヒャャ
男たちは、バカっぽく大笑いした。
ケイトは、自分の手をピシャリと打ち合わせ、笑い声を止めた。
「……『バオー』………ソイツが、アンタ達のターゲットの名前さ。『バオー』は、プラーガを人工的に進化させた生物兵器よ……」
ケイトは部屋を暗くし、用意したスライドを映し始めた。
「このスライドは、日本の諜報機関が入手したものよ……撮影者は不明。10年前、アンタ達が吸血鬼と関わっていた頃に、撮られたものらしいわ……これをみれば、アンタらにも、『バオー』の危険性が理解でしょう」
スライドには、この『バオー』に寄生された生物が姿を変えていく様子が、段階的に表示されていた。
被寄生者の体がその内側から膨れ上がり、肌が蝋人形の様に青白く光り初め、異形の怪物に代わっていく。
その様を、スライドは克明に映していく……
スライドは変わり、完全に変態した被寄生者が、素手で凄惨な破壊を行っていく様子が、次々に映されていった。
いつしか、二人の額から、冷や汗が流れ始めた。
スライドには、バオーに寄生された男が、砲弾を避け、戦車におそい掛かり、そして完璧なまでに戦車を破壊する様子がうつされていた。
しかも標的となった戦車は、西ドイツの名機、レオパルト2だ!世界有数の強力な戦車が、1人の生物によって溶かされ、千切られ、あっという間に鉄くずになって行く……
「おいおい、こりゃあ、マジかよ」
「さすがの俺様も、こんな奴とまともにやったら、チョットだけ、ほんのチョットだけ手こずっちまうゼ」
「……開発当時は、このバオーの力を制御出来れば、核兵器に匹敵する戦力がえられると、騒がれたものよ。その戦闘力はご覧のとおり……と、言っても、このスライドは『プロトタイプのバオー』を撮影したものらしいわ。その後研究をつづけ、完成された『バオー』が、どれほど恐ろしい能力を持っているのか、想像もつかないわ」
ケイトは説明を続けた。
「バオーが開発されたのは今から8年も前よ。開発は日本とアメリカの政府の息がかかった秘密組織が担当していたわ」
「していた?」
「そうよ……その組織、今はないの。このバオーに寄生された少年が、1人でその組織をつぶしたからね」
ケイトは、ため息をついた。気の進まない任務を伝えるときは、いつも心が、『ドライアイスに触れた』ように、冷たく、傷む。
「この少年は、その戦いの後で姿を消したわ。……でも実は、『彼は今も仮死状態で生存している』ようなの。それを、信じるべき証拠が、最近見つかったのよ」
「へぇ……」
「……すでに何者かが、彼を蘇生させようと動き出しているわ。……ライバルを出し抜いて、『後90日以内に少年を確保、保護、回収する事』が、アンタたちのミッションよ」
「90日以内?」
「そうよ……」
ケイトは、ますますつらい気持ちで、次のスライドを見せた。
そこには、おびえる男が、1人で独房の隅に座っているところが移っていた。男は、プラカードを持たされていた。
『実験初日』と、そのプラカードには書かれていた。
「今から見せるスライドは、『バオーを移植した被験者』の経過を観察したものよ……SW財団の協力者が、とあるDRESSの拠点を探索した時に、発見したものよ」
「人体実験?穏やかじゃネーな」
「そうね……この先のスライドを見れば、ますますそう思うはずよ」
カシャ
次のスライドでは、男はまだまだ元気そうであった。彼は、『実験100日目』というカードを持っていた。
カシャ
その次のスライドでは、男は体中をかきむしり、苦しんでいるように見えた。その足元には、『実験120日目』と書かれているカードが転がっている……
カシャ
その次のスライドでは、男の体が風船のように膨れ上がっていた。カードはなく、スライド上に手書きで『実験150日目』とある。……顔中から脂汗を流し、ほとんど動けない男の目には恐怖と……あきらめ、そして狂気の色が浮かんでいるように思えた。
カシャ
そして、次のスライドはで……男の体が、文字通り『爆発』していた。そして、男の体から、無数の、ヒルに似た動物が、四方八方に飛び散っている様子が映っていた。スライドには『実験終了、153日目』と書かれていた。
「うげっ……グロいゼ」
髪を逆立て、ピアスをした男が、心底からイヤそうに言った。
「そうね、そしてこれは、今回の保護対象の少年、橋沢育朗クンの運命でもあるわ……」
ケイトが、鎮痛な声で言った。
「彼の中にいるバオーはすでに成体よ。我々の試算によると、彼が目覚めた後、90日以内に『寄生虫バオー』は成虫になり、卵を産むようになるの。……その卵はすぐに孵化して、彼の体内から幼生体が爆発するように飛び出てくるわ……」
「なん?だってェェ???」
「そうなのよ、じきに『膨大な数の寄生虫バオーの幼生体』が、宿主を喰らいつくして、外に出てくるのよ。厄介なことに、幼生体は非常に感染力が強いの。相手が鳥類や哺乳類のような恒温動物なら、どんな生き物にも取りつく事が出来るようよ」
ケイトはそこで言葉を止め、男たちの様子を確認した。
男たちは、唖然としてケイトを見詰め返している。
「幼生体は宿主に寄生すると、またすぐに成長して繁殖していく……すぐに寄生虫バオーは、その数を倍々ゲームのように増やしていくわ………もし、この子がそうと知らず、たとえば東京のど真ん中でバオーに喰われたら……」
ケイトは身震いした。
「そうなったら、最悪、この地球上のすべての生き物が、このバオーになっちまうって事かよ」
男は、目深にかぶったテンガロン・ハットの縁をくちゃっといじりながら言った。
その声は、少し震えていた。