仗助と育朗の冒険 BackStreet (ジョジョXバオー) 作:ヨマザル
「ふぅっ……スタンドの操作って、想像していていたよりも消耗するのね」
スミレは、一度スタンドをひっこめると、汗を拭き、ホコリをぬぐい、一息ついた。
ほんの数分、スタンド操作に集中していただけなのに、もうくたくただ。
だが、あまりノンビリもしていられない。
スミレは、もう一度スタンドを出現させた。目を閉じ、スタンドの操作に集中する……
やった……今度は、一度目と違って一発で扉の向こう側にWitDを発現させ、先ほど見つけたクリップまで誘導することができた。ほんの短い時間で、スミレはスタンドの操作を急速に習熟してつつあった。
「クリップ……力の弱いWitDでも、ギリギリ動かせるわね……」
WitDは、その前足でクリップをつかむと、ゆっくり少しずつクリップを伸ばし、針金を作った。
それを苦労してドアノブまで運ぶ。ドアノブの中に、クリップでできた針金を少しづつ、少しづつ送り込み、鍵穴の形状を探っていく……
完全な暗闇・静寂の中にいるスミレは、WitDの操作に完全に集中することができていた。
鍵穴の形状を微細な針金の振動で察知しながら、カギが合うように、クリップの形状を鍵穴に合わせていく……
そして、その『瞬間』は突然現れた。
キュイイーンッ
不意に、スミレがスタンド越しに感じていた『WitDの周りの空間』が、鮮明度を増した。まるで、近眼の人間が眼鏡をかけたように、世界が変わって見える。
集中すれば、WitDの百分の一ミリ以下の細かな動きまで、手に取るようにわかる。わかるだけでなく、気が付くと、クリップの針金を、髪の毛一本以下の精度で調整することができている。
スミレは胸を高鳴らせた。
もう少し、あと一息で鍵が開く……
カチャリ
驚くほどあっけなく鍵が回り、スミレを閉じ込めていたドアが開いた。ドアの隙間から光がこぼれ、新鮮な空気が部屋に流れ込んでくる。
音をたてないように気を付けながら、スミレはドアをそっと開けた。
ドアの外では、WitDが、光を放ちながら優雅に舞っていた。
――――――――――――――――――
1999年11月8日(早朝) [とある廃墟]:
バシュッ!
マーチンのザ・サンが放った光線を脇腹に受けながらも、バオー……オリジナル・バオーは、ひるまず突進した。
バオーは、素早くジャンプし、マーチンの放つ光線を避けた。
マーチンの防御をかいくぐり、爪をふるう。
マーチンの腹を、切り裂いたッ
「ギュアアアアスッ!」
『これで終わりだッ』
育朗が叫んだ。
バオーは反対側の手を、振り上げた。
その手から出現させた刃で、マーチンの首を切り落とすッ
「ヴァルンッ」
バオーは、まだカタカタと言っているその首をつかみ上げた。
その首が、ドロドロに融解した。
そこに、バオーと化したヒグマ、レッド・ヘルムがおそいかかった。
巨大熊の爪牙の一撃が、バオーの顔面をおそう!
「バルバルバルッ!」
バオーが前転して、レッド・ヘルムの爪牙を避ける。
「ヴォォオオオオオオ!」
レッド・ヘルムの爪牙は、バオーの背後の大木をまるでマッチ棒のようにへし折った。
『ううぅっ……ものすごいパワーだ』
育朗がつぶやいた。
『あの破壊力はモノスゴイ』
「フフフ、同じ寄生虫バオーに強化された者同士なら、当然元々の力が強い方が勝ってわけ」
ネリビルが笑った。
「それにアナタ、マーチンちゃんを殺るまでに負傷しすぎよ……レッド・ヘルムッ!育朗をバラバラにしておしまいッ!」
「ヴァル・ヴァル・ヴァル・ヴァル!」
レッド・ヘルムが吼え、そして背中から巨大な『斧』を、何本も出現させた。
「これが、レッド・ヘルムのリスキニハーデン・セイバー・フェノメノンよ。フフフ……ごめんね、これ……アナタのものより……何倍も、『太くて大きい』のぉ~~」
ネリビルは卑猥なポーズをして、育朗を挑発した。
「バルッ」
バオーは腕から刃を出現させ、レッド・ヘルムに斬りかかったッ!
オリジナル・バオーの刃とモデュレイテッド・バオーの斧、互いの刃がぶつかり、押し合った。
リスキニハーデン・セイバー同士の、つばぜり合いだ……
『クッ……強い』
だが、レッド・ヘルムにくらべ、体格が劣るバオーが、圧力に押され、一、二歩、後ずさった。
「ホラホラ……頑張らないと、真っ二つに斬られちゃうわよンッ」
ネリビルが煽った。
(押しては勝てないッ、ならば……ここはあえて『引く』ぞ)
バオーは、あえてレッド・ヘルムとの鍔迫り合いから、力を抜いた。
のしかかってくるレッド・ヘルムの圧力をかわして、後ろに飛びすさる。
そして、サッカーのスライディングタックルのような体勢で、レッド・ヘルムの後ろ右脚首を蹴り飛ばした。
レッド・ヘルムはバランスを崩し、バオーもろとも地面に突っ込んでいった。
ドドオォ――――ン!
土埃が立ち込める中、レッド・ヘルムは苛ただしそうに咆哮をあげ、立ち上がった。
驚いたことに、レッド・ヘルムの本体には傷一つない。
しかし、背中の『斧』がすべて、根本から切り裂かれていた。
地面に突っ込んだすきに、バオーが切り落としたのだ。
一方バオーは……オリジナル・バオーも立ち上がった。
バオーは、全身に切り傷を受け、さらに左腕が斬り飛ばされていた。
レッド・ヘルムの『斧』を切り落とそうとしたときに、逆に斬られたのだ。
『やはり、強い』
育朗が、顔を歪めた。
(モデュレイテッド・バオー……確か、バオーとしての能力を抑えて、安定性を向上させたと言っていた。ならば、バオー固有の能力はコチラが上のはず。バオー…………ここはお前に託すッ)
「バルバルバルバルバル!」
バオーが叫び、レッド・ヘルムの周囲を飛び回る。
頭部への蹴りッ
残った右腕のリスキニハーデン・セイバーを、振るう。
レッド・ヘルムが反撃しようとする間を与えず、オリジナル・バオーは、その能力をフルに発揮してレッド・ヘルムを攻め続けた。
手数で、力に対抗するのだ。
「ヴァル!」
業を煮やしたレッド・ヘルムが、爪牙を大振りする。
バオーは身をかがめ、爪牙を簡単にかわした。
一方、空を切った爪牙の勢いで、レッド・ヘルムがたたらを踏む。
チャンスだ。
『よしッ、シューティングビースス・スティンガー!』
育朗の声に従い、バオーはレッド・ヘルムの顎めがけて、発火能力を持つ毛針を放った!
「グァアアッ」
レッド・ヘルムの顎に、目に毛針が刺さり、炎を上げるッ。
だが、レッド・ヘルムは、目の負傷も、炎も、ものともしなかった。
対抗して、全身から毛針を放った。それも、バオーに倍する量だッ
バシュッ!バババババッ!
レッド・ヘルムが放った毛針によって、バオーの放った後続のシューティングビースス・スティンガーは、すべてが弾き返された。
しかも弾き返された毛針の一部がバオーに命中し、空気と反応して発火していく……
『ううぅ……炎が、僕をおそうッ!』
バオーは、火のついた上着を抛り出した。
ほうりだした上着は、見る見るうちに炎を上げ、燃え尽きていった。
『シューティングビースス・スティンガーは効かないか……ならば次だ、喰らえッ、メルテッディン・パルムッッ!』
2匹の『バオー』 ――オリジナルとモデュレイテッド―― は互いの手を組み合わせて、押し合った。
その手から、バオーの特殊な体液がにじみ出る。その体液はバオーの体表で成分を変え、酸になったッ! これが、メルテッディン・パルムだっ!
互いの酸が飛び散り、周囲の木や草が、しゅうしゅうと白煙を上げて溶けていく……
しかし、ほとんどのものを溶かしてしまうメルテッディン・パルムは、互いに効かなかった。
否、実際は、酸はバオー達を溶かしていた。
しかしバオーは、体が溶けるよりも早い速度で、次から次に新しい装甲が生産しているのだ。
そのため、酸では、互いにダメージを与える事が出来ないのだ。
『グォオオオオ……これならどうだ、とっておきだ……くらえ、ブレイク・ダーク・サンダー!』
育郎のスタンド、ブラックナイトの顔が現れた。と、同時に、バオーがまるで白鳥が舞うように両手を広げ、頭を下げた。
バオーの右腕が発光し、電撃を放つッ!
バリィィィィッ!!
「無駄よッ、ノー・ミィーニングゥ」
ネリビルが叫んだ。
同時に、レッド・ヘルムの背中が背びれのようなものが隆起、発光し始めた。
その背びれが光り、スパークが飛ぶ。背びれから、バオーへ電撃が飛ぶっ。
バリ!バリバリッ!
『くっ……』
ブラック・ナイトが顔をゆがめた。
電気は電圧の高い方から低い方へと、流れる。
当然、全身の筋力が大きいほうが、作り出せる電圧も高い。
ザバァアアアアンッ!
雷撃が、レッド・ヘルムからバオーに向かって、流れていた。
バオーはぐらっと揺れ、全身からしゅうしゅうと煙を吐き出した。
とっておきの武装現象である、電撃:ブレイク・ダーク・サンダーさえも、撃ち負けたのだ……
「ハハハハハッ」
ネリビルが笑った。
「ごめんねぇ、言ってなかったけど、レッド・ヘルムの素体は、ただのクマじゃあないのよ。実は彼には、あらかじめ生体改造を施してあるってわけェ……だから、モデュレイテッドには発現しえない、『オリジナルしか持っていない能力』も使えるって理屈よぉっ」
(だめだ……基本性能ですべて相手が上回っている……しかもあの分厚い筋肉と装甲、普通に戦っては勝てない……ではどうする?)
大勢を立て直すため、バオーはいったん飛び上がった。近くの木の上に着地する。
すぐにまた飛び上がり、バオーは高い木々のてんぺんに近いところまで、木を登った。
(考えろ、どうすれば致命傷を与えられるのかを)
木の上で、育朗は必死に考えた。
木の上なら、レッド・ヘルムの攻撃も届かない。少しは考える時間が取れるはずだ。
だが、そのもくろみは甘かった。
「ヲオォォーン!」
レッド・ヘルムは爪牙をふるい、バオーのよじ登った大木を、簡単に打ち砕いたのだ 。
『くっ』
バオーは、やむを得ず大木から飛び降りた。そこを、レッド・ヘルムの爪牙がおそうッ!
(やるしかないッ!!この力に対応するには、やはりスピードだ。パワーは速度の2乗に比例するはず)
おそい掛かるレッド・ヘルムの攻撃を、バオーはすべて いなし、そらし、まともに受けずにかわしていく。
「しゃらくさい、力で圧倒してしまいなさいっ」
ネリビルの命令にこたえ、レッド・ヘルムはいったん距離を取り……
バオーに向かって、突進してきた。
まるで新幹線が正面から突っ込んできたのかと、間違うばかりの圧力の暴力が、バオーに迫るッ!
(そして、技だ。ボクシングのカウンターや、柔道の投げ技のように相手のパワーを逆用するッ)
『セイバー・オフッ!』
バオーは、リスキニハーデン・セイバー・フェノメノンの刃を、レッド・ヘルムに投げつけた。
バオーの腕から外され、飛んでいった刃は、狙い正しく、レッド・ヘルムの額に刃が突き刺さった。
しかし……しかし、レッド・ヘルムの突進は止められないッ。
「ヲオォォォ―――」
バオーは全身をまりのように丸め、レッド・ヘルムのぶちかましを受け止めた。
10トンを超えるレッド・ヘルムの激突を正面からくらったバオーは、まるでバレーボールのアタックのように吹き飛んでいく。
ベシバキッ………
ドグガァアァァァ――ンン!
吹き飛ばされたバオーは、杉の立ち木に叩きつけられた。バオーを支えようとした立ち木は、軒並みへし折れてしまった。
これらの木は、ただの野山の立木ではない、どの木も樹齢300年は越えるかという大木だ。
その大木が、まるでボーリングのピンのように何本もなぎ倒されていた。
オリジナル・バオーの骨格は強化され、皮膚は強靭なプロテクターとなっている。
しかし、それでもなお、レッド・ヘルムのぶちかましはバオーの体をえぐり、激しく負傷させていた。
「ガ・ギ・ギ・ギ・ギィ」
バオーは、折れた立木の隙間から立ち上がった。
レッド・ヘルムに向かって、へし折れた立ち木を蹴り飛ばす。
バオーが蹴り飛ばした枝は、レッド・ヘルムが爪牙の一発で粉々に粉砕した。
「レッド・ヘルムは、あんたができる事ならなんでもできるわよ、育朗」
ネリビルがせせら笑った。
「まぁ、元々の素体がヒグマと人間じゃ、勝負にならないわね。あなた、良くやったわ」
『いや……人間には……あきらめず困難に立ち向かい、勇気と知恵で乗り越えることができる力があるッ、先人から積み上げられ、継がれてきた経験と技術があるッ……それが人間の力だ!』
育朗が叫んだ。
『僕は、あきらめないッ』
「ハンッ……笑わせないでよ」
ふらふらと立ち上がったバオーに、再度レッド・ヘルムが突進する。
「ニ・ン・ゲ・ン?違うわ。アンタは“元”人間よ……アンタは、私たちと同じ"モンスター"よ」
ネリビルが嘲った。
「モンスターが、ニンゲンの振りをして格好つけてるんじゃあないわよぉおおおッ!」
バオーは四足になり、後方にジャンプした。
そして…… 空中で体勢を立て直すと、立ち木を右手と両足でつかみ、蹴ったッ!
反動をつけ、勢い良くレッド・ヘルムへ向かっていく。
(もっと速度を……回転だ。バオーの突進に、回転の速度を上乗せしたカウンターだッ)
育朗の思いにこたえるように、バオーは、空中で体をそらせ、大きく手を振りかぶって回転するッ。
「ウォオオオム!」
バオーのリスキニハーデン・セイバーが、さらに長さを増す。
バオーは、まるで一振りの回転する刃となり、レッド・ヘルムに正面から向かっていったッ!
『……どうだッ』
メザァアアアン!!
レッド・ヘルムの右上半身が、バオーによって切り離された。
しかし、 しかし、 レッド・ヘルムは、弱った様子もなくまた立ち上がった。
メメタァアア
そして、バオーに切断されたレッド・ヘルムの右上半身からは、赤肌色の滑っとした触手が生えた。
レッド・ヘルムは、初めこそ少し戸惑ったように触手をぺチン、ぺチンと動かしていた。
だが、すぐにその使い方を理解し、失った前足と同様に自由自在に使い始めた。
「育朗……今のは恐ろしい技だったけど、モデュレイテッドの回復力を甘く見たわね」
ネリビルが言った。
「同じ手は二度と聞かないわよ……もう勝ち目はないわ、降伏しなさい」
「Vauuuuuu!」
レッド・ヘルムが跳躍し、オリジナル・バオーに突撃するッ!
『まだだ…一緒にいくぞ、バオー!』「ヴォオオオオム!」
とっさに、バオーは、レッド・ヘルムの振り下ろす左前足を掴んだ。
瞬時に、身をひるがえす。
そして、片手での一本背負いをレッド・ヘルムにしかけた。
グツギャアァァァンッッ!
レッド・ヘルムは、バオーの投げによってその巨体を宙にまわせ、激しく背中を打ち付けた。
『ここだっ』
バオーはすかさず、レッド・ヘルムの手をつかみ、その頭に両足をかけた。
柔道で言う、腕ひしぎ十字の格好に持っていく。
「ヴォーム!」
レッド・ヘルムは触手を、バオーの胴体に巻きつけて、ひきはがそうとした。
そして同時に、バオーの右足に噛みつくッ!
『クソッ』「ウォオオオオオム!」
バオーは、無事な左足で、レッド・ヘルムの頭部を蹴った。
そして、足を噛み千切られる前に、バオーの左足が、レッド・ヘルムの顎を蹴り砕くことに成功した。
バオーは左足でけった反動を利用し、全身を巻き込むようにひねり、……逆に、レッド・ヘルムの右腕を、ねじきった。
そのままチョーク・スリーパーに移行し、レッド・ヘルムの首を直角にひねる。
レッドヘルムは、どうっと倒れた。
すぐに立ち上がろうとバタバタともがくが、その手足は、空しく土を掘り返すだけであった。
『とどめッ!』「バルッ!」
バオーは、レッド・ヘルムの傷口に手を突っ込む。
それは、捩じり切った右手のあった後だッ!
「ギィイイイイ!」
泣きわめくレッド・ヘルムを押さえつけ、バオーはレッド・ヘルムの体に、右腕をずぶずぶともぐりこませた。
そのたびに、レッド・ヘルムが、悲鳴を上げた。
「バルバルバルバルバル!」
バオーが叫ぶと同時に、レッド・ヘルムの胴体の内側から、4本のリスキニハーデン・セイバーが飛び出す。
それは、レッド・ヘルムの胴体につきいれられた、バオーの腕から飛び出したものだ。
それぞれの刃は真っ白に輝き、高圧電流が放電されている。
次の瞬間、その傷口から白煙が上がり、……レッドヘルムは黒焦げとなった。
「バカな……複数のアームド・フェノメノンを、同時に使えるなんて……」
マキシムが、おののきの声を上げた。
レッドヘルムは、それでも生きていた。
だが、激しい痛みに身を悶えさせ、苦しげに呻いていた。
◆◆
「バルッ……」
バオーは苦しむレッド・ヘルムに近づき、その首をそっと抱えた。
バオーとレッド・ヘルム、同じ寄生虫バオーの素体となったモノ同士が視線を合わせた。
バオーは今、苦しみながら死んでいく同胞の悲しみのにおいをかいでいた。
その悲しみのにおいは、バオーを介して、育朗の心にも響いた。
『苦しめてスマナイ……君は悪くない……悪いのは君を改造し、バオーを寄生させたドレス。せめて……安らかに逝ってくれ』「バル……」
バオーの指先から、小さな針の様なものが飛び出した。
その針は、レッド・ヘルムの首筋にもぐりこんだ……
すると、たちどころにレッド・ヘルムは大人しくなり、幸せそうに目をつぶり、そして『眠るように』死んでいった。
「何?……あんな能力知らないわ……あれは、まさかバオーの新しい武装化現象なの?」
またしても、ネリビルはおののいた。
『名付けて、バオー・ブル・ドーズ・ブルーズ・フェノメノン(Bull doze blues phenomenon)』
育朗が悲しげに言った。
今、バオーが指先から放った針には、『バオーの体液を変質化させた薬』が入っていた。
バオー・ブル・ドーズ・ブルーズ・フェノメノンとは、その薬によって相手に麻酔をかけたり、眠らせたりする、静かなる武装化現象であった。
バオーは、レッド・ヘルムを静かに横たえた。
そして、ヨロヨロしながらゆっくりと立ち上がった。その装甲はところどころ破壊され、動くたびに、その奥から赤い肉が見えていた。
バオーは満身創痍の状態で、レッド・ヘルムに斬られた自分の左腕を拾い、元通りにくっつけた。そして、振り返った。
バオーの顔の上に被さるように、育朗の、ブラック・ナイトの 貌が、被さった。
┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨
『これで終わりだ。もうこれ以上やらせないッ 守るッ スミレを、仲間をッ!』
育朗が、叫ぶ。
「ヒッ!」
鬼気迫る様子で迫ってくるバオー:育朗の姿に、ネリビルは思わず後ずさった。
『どこだ、スミレは、どこにいる』
バオーが、ネリビルの首をつかんだ。
『本当はこんなことはしたくない……でも……話さないなら、君を……溶かすッ』
「ヒッ、止めて…… ヒッ ヒヒヒヒヒ」
ネリビルが、イヤイヤと手を振った。
『話せ……頼む。話してくれ』
「ヒッ……」
ネリビルが口を開けた。
ガボンッ!
その口から、蛆虫達が飛び出し、バオーの顔面に飛びつくッ。
『!?なっ』
突然、蛆虫に顔面をおそわれたバオーは、電池が切れたようにくずれ落ちた。
アームドフェノメノンが解け、バオーは、育朗の姿へ戻っていく。
「はぁっ……はぁっ……」
間一髪、ギリギリのところで助かったネリビルは、腰が抜け、無様に地べたに這いつくばった。
「ギリギリよ……これ以上はできないわ」
◆◆
「まさにギリギリか……いいところで、間に合ったようだなぁ」
二人組の男たちが、森の奥から現れた。
二人とも、派手なヒップホップ風のブカブカな服を着ている。話し方からすると、アフリカ系アメリカ人のようだ。
二人組の1人は、2M近くある巨体だった。
その後ろに、そばかすだらけのパッとしないイタリア系の少年が後をついてきていた。
「テイラー……あんたのユンカーズを飲み込むなんて最悪の経験だったわ……もう絶対やらないわよ」
ネリビルが、恨み言を言った。
「そう嫌うなよ……傷つくじゃあないか」
テイラーと呼ばれた、2M近くある方の男が肩をすくめた。
「なぁ、オルダス」
「別に……俺のスタンドじゃあないしな」
残る1人のアフリカ系アメリカ人、オルダスも、テイラーとは異なる理由で肩をすくめた。
「何を言われても俺はハッピーだぜ。ほしいものは、手に入れたからな」
そういうと、オルダスは背後に引いてきたミカン箱大のケースを、一瞥した。
「しかし、正に一石二鳥ってやつだったな。これで究極の戦闘生物と、その素体を、同時に手に入れる事が出来た……それにしても、マキシム、マーチンとレッド・ヘルムを連戦で破るとは、まさに究極の戦闘生物の素体に、ふさわしいな。さぞかし預言者様も、ウチのボスも喜んでくれるだろう 」
オルダスは、無造作に研究所の扉を開けた。不思議な事に、扉の向う側には海が浮かんでいる。
「ボスが呼んでいる……俺は、ドアーズで一足先に帰って報告をしなきゃならん、後は任せたぜ……イヤ、ドッピオは俺についてこい。ボスはいつも通り、お前の口から直接報告が聞きたいだろうからな」
これは好きにつかいな―― オルダスは、ポケットから一つかみのコインをテイラーに渡した。
「3日間だ、3日間だけドアーズを貸してやるよ」
そう言うと、オルダスは、ドッピオと呼んださえない青年とともに、ドアの向こうへと消えていった。
一度しまったドアを再びあけると、今度はその先には普通の部屋があった。
ネリビルとテイラーは、意識を失った育朗を、協力して建物の中に運び込んだ。
「ところで、明日からSW財団の奴らは、俺に任せな」
テイラーが言った。
「俺のユンカーズで奴らを食い尽くしてやるからよォ」