仗助と育朗の冒険 BackStreet (ジョジョXバオー)   作:ヨマザル

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栗沢スミレ その1

1999年 11月 9日 午後[M県K市 名もなき高原]:

換気ダクトを抜けて建物から脱出したスミレは、WitDで探知した育朗の居場所を目指して、森の中を歩いているところであった。

 

ドガアァァァァ―――ンッッ!

突然、先の方で爆発音が聞こえた……ような気がした。

(何?)

スミレは、先を急ぐ足を止め、耳を澄ませた。爆発音は、スミレが目指している方向から聞こえたように思えた。

(今の音は…育朗の居場所を探知した場所?……そこで爆発が起こったの?)

 

WitDで探索すべき時だ。

 

スミレは嫌な予感を押し殺し、手に持っていたサバイバルナイフをシースに収めた。このナイフは通風口から逃げ出す時に、物置にしまわれていたものを見つけ、ちょっと拝借したものだ。

「よいしょ……なかなか大変ね…」

そしてスミレは手じかな木にしがみ付き、その上によじ登った。 幸い、その木は下から見ていたよりも手がかり、足がかりとなる枝や木のコブなどがおおく、思っていたよりも登りやすかった。

木の上はうっそうと葉に覆われ、下から見上げられても見つかる心配はほとんど無さそうであった。

ここに隠れていれば、周囲に気を払うことなく、スタンドの操作に集中できるはずだ。

スミレは木の上に体のおさまりがいいところを探し、そこによりかかるとWitDを飛ばした。

樹上で目をつぶり、WitDの操作に集中する。スミレのスタンド:WitDは小さく、速度も遅く、力もない。だが決して誰にも怪しまれずに周囲を探索する事ができる。こんな森の中で、誰も一匹の蝶に気を留めるわけがない。深い森の中の探索に、WitDは最適なのだ。

WitDは森の中をヒラヒラと飛んでいき、ついに爆発が起こったと思われる場所に到着した。その場所の光景をWitDを通して確認して、スミレは震えあがった。

コ” コ” コ” コ” コ” コ” コ” コ” コ” コ”

――そこでは、大規模な爆発と崩落が起こっていた――

川沿いにあったらしき大きな岩が崩れて、周囲を埋め尽くしていた。焼け焦げた巨木がなぎ倒され、土は掘り起こされ、瓦礫があたり一面に散らばっていた。

そして、そこには、1人の大柄な男が気を失って倒れていた。男の全身はボロボロだ。ピクリとも動かない。

もしや……

WitDが恐る恐る近づき……スミレは止めていた息を吐き出した。その男は、育朗ではなかった。

スミレは、WitDを倒れている男の鼻先にそっと移動させた。そして、男の息が力強く規則正しいのを確認してさらにホッとした。どうやら、ひどい怪我を負ってはいるが、この男の命には別状ないようだ。

「うわぁ……」

倒れている男の『髪型』を見て、ウゲェっとスミレはぼやいた。それは、まさにヤンキー漫画に出てくるような、絵に描いたような見事なリーゼントだ。

この男は、億泰君も真っ青なドヤンキーだ……

 

リーゼントの大柄な男……

もしかして、彼は噂に聞く、葡萄ヶ岡学園の『東方仗助』ではないだろうか?

スミレの通う高校は仗助とは違っていたが、その高校でも時折名前を聞くほど、東方仗助は地域の有名人だった。スミレも、彼の名前を憧れを込めてつぶやく女の子に、何人もあったことがある。

実は彼が、『超強力なスタンド使い』だということは、億泰から聞いていた。そうであれば、彼が近隣の高校にまで噂がとどろくほどの有名人だったことも、納得いく……まるで都市伝説のような数々の逸話も、超キレやすいと噂されるそのおっかない性格を含めて……だ。

確たる根拠はないが、スミレは初めてみるこの男が『東方仗助』である事に、不思議なほどの確信を持っていた。

常識的に考えれば、杜王町にすむ彼が、こんな山奥に倒れているのは、信じがたい。ここは、杜王町から150Kmは離れたところなのだ。だがもしかしたら、スミレと同じように、『東方仗助』も、この森に、スタンド使いとしての何か特殊な用事で来たのかもしれない。

と、WitDのすぐ近くで微かに人の声が聞こえた。

スミレはWitDを仗助の鼻から、近くの花へと飛ばした。WitDを花にうずもらせながら、スミレはスタンドの『耳』に神経を集中させた。

やがて話し声が、聞こえ始めた。

 

「……と……この辺……だ」

「……いぞ。待ち………び……ところだ」

「やっ……失礼しました」

しばらくすると、人声はだんだん大きくなり、そしてWitDのすぐ近くまでやってきた。三人の男がいるようだった。

「さすがの威力ですね。……『素体』がすっかりこの下に埋もれてちまってまさぁ……こりゃあ、掘り出すにはユンボか、とんでもねーパワー型のスタンドが必要ですぜ」

軽い口調でそう言ったのは、黒人の大男だ。

「パワー型のスタンド……もう一度、あ……貴方様の出番でしょうか?」

太ったインド系の男が、三人の最後尾を歩いている奇妙な格好をした長身の男の方を向き、ひざまづいた。

 

(うわっ……)た

その、長身の男を目にしたスミレは、なぜだか『猛烈な恐怖』に襲われた。

┣¨ ┣¨ ┣¨ ┣¨ ┣¨ ┣¨ ┣¨ ┣¨ ┣¨ ┣¨

 

その男は……その男をWitD越しにその男を見ているだけなのに、スミレは 男から発せられる独特な雰囲気にのまれていた。

スタンドの感覚越しに感じる男の『色』は、完全なる漆黒、暗黒色だッ!

「いや、いや、チャダよ……今の私に、そこまでの力はないよ」

その男は自らしゃがみこみ、ひざまづいている男と目線を合わせた。

「パワーが必要な局面では、むしろお前の『能力』を期待しているよ」

「ハッ」

チャダと呼ばれた男が、さらに深く頭を下げた。

コ” コ” コ” コ” コ” コ” コ” コ” コ” コ”

スミレは、その奇妙な格好をした男から目を離すことが、出来なかった。

その男は、ウェーブのかかった金髪の、浅黒い肌の美男子であった。だが、その全身には、まるで蜘蛛の巣のような、網状のタトゥーが入れられている。

何故なのか、スタンド越しに見ているだけなのに、この男が少し動くだけで、男が普通の言葉を話すだけで、これほどまでに恐ろしいのか! まるで、周囲の温度が下がったかのように、寒気を感じるのかッ!

男が涼やかに言った。

「私はまだ、『本調子』じゃあないんだ……知ってるだろう?例の力を借りて、この世にかりそめの姿を現しているだけなのだからね……」

男は、背中から『黄金の羽』を出現させた。スタンドの羽だ。その羽を揺らすと、控えていた二人の男が、ビクリと身をよじらせた。

男は、少し悲しげにスタンドの羽をなぜ……そのスタンドを消した。

「今の私は、スタンド、オエコモバを持つエルネスト、それ以上でも、それ以下の存在じゃあないのさ……今の私の力では地中を掘り起こして『素体』を確保する事は無理だよ……そのつもりもない。それよりだ、奴との連絡は取れたか?」

「奴とは?」

「奴よ、今SW財団の者どもと一緒にいる奴よ。もう一度聞く、奴とは連絡取れたか?」

「はっ ディ……エルネスト様、貴方からのメッセージは伝えました。だが、まだ奴からの返答はありません」

「わかった、まあSW財団の奴らの目を盗むのも難しいのだろう、これ以上は接触をさけ、しばらくは奴からの連絡を待ってくれ」

「わかりました……エルネスト様」

「フン……その間に、こちらの彼の……東方仗助の処理だけでもしておくかな」

エルネストは、倒れている東方仗助を見下ろした。しばらく黙って仗助を見ていた後、エルネストは懐に仕舞い込んでいた瓶を、取り出す。

仗助の額へ、瓶からつまみ上げた『なにか』を、ポトリと落とした。

すると、たちまち仗助は身をそらせて何事かを叫びだし、そして、すぐにおとなしくなった。

スミレには、それが非常に『邪悪な』ものだということが感じられた。

     ◆◆

「GuGiGyaaaaa!」

不意に自分の生身の耳元に叫び声が聞こえた。スミレは我に返り、周囲を見回した。

(何の声?)

┣¨ ┣¨ ┣¨ ┣¨ ┣¨ ┣¨ ┣¨ ┣¨ ┣¨ ┣¨

叫び声をたどって足元を見ると、木の根元に、爬虫類のような緑色の鱗をもつ人型の怪物が立っているのが見えた。

それは、長い腕に巨大な爪を持ち、牙の生えたトカゲ然とした顔は大きく、ひらべったい。額からうねって伸びる突起は、頭側部めぐって背中までつながっていた。

怪物は木の上にいるスミレを見上げ、大口を広げ、ヨダレを撒き散らし……そして、『飛び上がった』。

「GuGiyiiiiiiii !」

飛び上がった怪物は、スミレのいる枝のすぐ下に飛びつき、そして素早く幹を登ってきた。

「来るなあぁ!」

スミレは、木の枝の隙間からにょきっと顔を出した怪物の頭を、必死で蹴った。

「ギジャァアアッ」

ちょうど片手を木から離していた怪物は、スミレからの思わぬ攻撃にバランスを崩し、木の下に落ちるッ!

「ギイャアウ!」

地上に蹴り落とされた怪物は喚き、後ろに飛び退いた。その反動を利用して、再度跳ね上がる。ッ

 

(速いッ!止められないッ!!)

ガボッ!

スミレは、咄嗟に棒切れを拾い上げた。その棒切れ顔の前にかざすと、ごちそうを差し出されたかのように、怪物が噛みついた。

棒切れは、スミレの手から簡単に奪い取られた。

棒は、怪物の頑丈なアゴにとらえられ、瞬く間に細かく噛み砕かれた。

あわてて、スミレは何とか逃げだそうと中腰になった。

そこに、怪物が裏拳を叩きつけた。

バキッボキッィィ!

「うぅううッ!」

とっさにガードしたスミレの右手が折れ、ぐにゃりと曲がった。

不安定な木の上でバランスを崩し、今度はスミレが、登っていた木の上から地上に叩き落とされたッ!

「いやあぁ――――」

あまりの痛みに絶叫を上げながら、スミレは落ちていった。

 

ドガッ!

「うっ……」

スミレは 、樹上から地面に落ちた。

だが不幸中の幸い、大きな怪我はなかった。スミレが落ちたのが、柔らかな潅木の上だったからだ。

だがしかし、怪物も、すぐにスミレを追って飛び降りてくるに違いない!

(うぅうう……来るッ!怖いッ!)

 

絶体絶命の状況だった。

たとえば、普通の女の子がドーベルマンに襲わればどうなるか。その女の子はなすすべもなく、無残にかみ殺されてしまうはずだ。

ましてやこの怪物は、この人型のトカゲ然とした怪物は、ドーベルマンなど足元にも及ばないほど獰猛なプレデターであった。たとえ一撃でもその攻撃を食らってしまえば、その瞬間にお終いなことを、スミレは本能で理解していた。

(……もしあの鉤爪を喰らったら、きっと、何の抵抗もできないままこの怪物に食われてしまうに違いないわ)

しかも、いかにスミレがマタギとして訓練を積んでいたとしても、今は銃を持っていない。スミレが頼りにできる武器は、わずか一振りのサバイバルナイフだけなのだ。

怪物と、スミレの目があった。

怪物は、まるで笑っているかのように大口を開けた。

ダラダラと、涎がその口から滴り落ち、スミレのすぐ足元を濡らした。

「ギャァアアア……」

「ああっ……育朗、お願い、私に力を……」

スミレは、シースからサバイバルナイフを再び取出し、身構えた。

ナイフを両手で持ち、祈るように体の前に掲げる。

と、その時、WitDがまるで閃光のように一瞬、スミレの額にあらわれた。

すると、スミレの脳裏に、『片手のない怪物が、木の上から飛びおり、スミレに向って大きく口をあける絵』が ―――ビジョンが―― 見えたッ!

(5秒後、怪物が右側に飛びおりて噛みついてくる!)

ザァザザッ!

直後、スミレの見たビジョン通りに、怪物が飛びおりて飛び掛かってきたッ。

(見えたッ!)

一瞬早くその様子を予知していたスミレは、かろうじて怪物の突撃を避した。

しかし、続けての怪物の蹴りまではかわせないッ。

 

「グウゥアア!」

 

何とか先ほど骨折した右手で蹴りをブロックする。

蹴りの衝撃と、右手がちぎれそうなほどの痛みが、スミレをおそう。

ガンッ!

どこか遠くで、自分の体が壊れる音が聞こえた。

地面に突っ伏したスミレに向って、怪物がおそい掛かるッ。

(ダメ!避けられない!!)

と、その時、怪物の顔面に小さな影が飛び掛かった。

見慣れた、リスのようなその姿は……

「インピン!」スミレが叫んだ。

「イーダァァァッ!」

インピンは怪物の顔面を蹴り、怪物の顔を駆け上がった。

 

怪物が左腕を振り回し、インピンを捕まえようとするッ!

 

しかし、インピンはちょこまかと動き、巧みに怪物の手を避け ――怪物の左目に、後足から飛び出した針を突き立てた!

「ギィイやアアアアッ!」

怪物が左目を抑えた。

 

その隙に、インピンは意気揚々と近くの木に飛び移った。

「プーダァ」

樹上に隠れる直前、インピンはスミレに向って振り向き、自慢げに鳴いた。

(!? 今ヨッ!)

WitDがまた一瞬だけスミレの額にあらわれ、閃光を発した。閃光の奥に、未来の様子を見せる。

スミレの脳裏には、『怪物が左目を抑えたままぐるりと回り、見当違いの方向へ爪を振り回す』という未来の絵が、はっきりと見えた。

怪物が、再びおそい掛かってきた。

チャンスだ。

事前に怪物の動きがわかっていたスミレは、かろうじて爪の一撃を避けた。

怪物は、WitDの力で予期した通りの軌道でおそいかかって来た。

怪物の一撃を避けられたのは、本当にギリギリであった。

 

必殺の一撃を避けられた怪物は、バランスを大きく崩し、つんのめった。

スミレは、体勢が崩れた怪物の首筋に向かって、全身の力を込めて サバイバルナイフを打ち下ろした。

「ギィイイイィイ」

首筋にナイフの一撃をくらい、怪物が地面に突っ伏した。うつぶせのまま、バタバタと手足を振り回す。

まだ、致命傷では、ない。

「喰らいなさいッオオオオおぉおおお!!!!!」

スミレは歯を食いしばって怪物に馬乗りになり、二度、三度とナイフを打ち下ろした。

もう一撃、さらにもう一撃、もう一撃ッ……

スミレが攻撃するたびに怪物は悲鳴を上げ、手足をバタバタと暴れさせた。

だがその動きも次第に弱弱しくなり ――やがて、怪物は動かなくなった。

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