仗助と育朗の冒険 BackStreet (ジョジョXバオー)   作:ヨマザル

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山岸由花子 その1

1999年 11月 10日 朝 [M県S市 杜王町 ]:

 

「ユカコ、《お》電話よぉ~」 

階下から母親が、ニヤニヤしながら山岸由花子を呼び出した。

 

「わ……わかったわッ」

二階の自屋で本を読んでいた由花子は、寝そべっていたベッドから飛び上がった。階段を飛び下りるようにして、玄関へ走る。

 

今どき珍しいことに、山岸家の電話は玄関の横にしかない。しかも、玄関の隣は母親の私室だ。

必然的に、そしてオゾマシイことに、山岸家にかかってくる電話はほぼ全て母親がとる、と言うわけだった。

由花子も大学生の兄と中3の弟と一緒にだいぶ抗議をしたのだけれど、電話機を追加するための交渉の場で、弟が『このせいで彼女と別れた』とウカツに口にし、それですべてがオジャンになった。

弟は、後でキッチリシメておいたが……

 

由花子は母親から電話を奪い取ると、ニヤニヤしている母親を睨みつけた。母親が後ろに下がったのを確認してから、いそいそと受話器に出る。母親が『《お》電話』とワザワザ《お》を付けるときは、電話の相手は決まっている。

「……はい、由花子です」

(こんな時間に電話してくるなんて、康一君らしくないけど、どうしたんだろう? もしかして、寝る前に私の声が聞きたくなったんだったりして……フフッ)

 

「由花子さん、こんな夜遅くにごめんね……実はさっき承太郎さんから連絡があってね――」

電話越しに聞こえる康一の声……由花子はうっとりと目をつぶって、その声を堪能した。

 

「いいのよ康一君、 電話をくれてありがとう。時間なんて気にしないでよ」

由花子は弾んだ声で康一と話をしていた。だが、話が進むにつれてその声が硬い声に変わる。

「…………そう、わかったわ ……… 私も協力する」 

由花子は、しきりに礼を言う康一に 水臭いわね と優しく言って電話を切った。そして母親のところに行き、『これから外出しなければならない』と説明を始めた。

 

――――――――――――――――――

 

 

1999年 11月 10日 早朝 [M県K市 名もなき高原]:

 

ずっと昔から、『怪物』が自分の中に巣くっているのを、知っていた。

ずっと、自分の中の『怪物』が、自分の感覚を、感情を、痛みを、共に感じているのを。知っていた。

 

そして、『怪物』が『自分の体を少しづつ変えていく』のを、確かに感じていた。

恐ろしかった。

『怪物』の事を知ってから、常にどこかに、じわじわと感じる恐怖心があった。それは、幼いころに経験した、徐々に割れていく氷の上にいる感覚と同じものだ。氷がゆっくり割れる。だんだん、だんだん、ゆっくりと、危機が迫ってくる、だが逃げるすべがない、あの感覚……

 

だがその一方で、自分と『怪物』は共に戦い、お互いの感情を、力を、命を、そして運命を長い間共有してきたのもまた、事実であった。

戦いの中で、『怪物』の意思と、自分の意思が混ざり合い、一つになる……そんな経験を何度もしていた。

わかっていた。自分もまた、間違いなく『怪物』なのだ……と。

この真っ暗闇の中、最後を迎える時に一緒にいるのも、たぶんお互いだけだ。

 

……それもまた、良いかもしれない。

 

そう、この『怪物』は、ただの『怪物』ではない、自分にとっては、一番近しい『相棒』でもあるのだから。

 

だが今、男は、自分の体の中にいる『相棒』が、ぐったりと動かないでいる事に気が付いていた。

 

男は、相棒に向かって、そっと語りかけた。

 

『………お前も、もうおしまいなのかい?………そうさ、こうやって人知れず暗闇で終わるのが、僕たちにふさわしい終わり方なのかもしれないね』

男はそう語りかけた。そして、あきらめと、奇妙な満足感の入り混じった気持ちで、眠りにつこうとした。昔のように。

 

だが、だが、その時、男の心にある少女の面影が浮かんだ。

その顔が、男を心地よい眠りから引き戻した。男は自問自答し、奈落に引き込まれるような心地よい、眠りの誘惑に抗った。

(……駄目だ! このまま心地よい微睡の中で過ごすことを、誰が許す?僕は、僕たちはそれを許さない! せめてあの子を、スミレを守りきらねば……)

 

男は、橋沢育朗は、漆黒の闇の中で意識を取り戻した。

体はピクリとも動かせない。

息苦しく、そして目を開けても何も見えない。

そこは、まさに漆黒の闇の中だった。

 

当然だ。地面の下に埋められているのだから。

息さえも、満足にできない。

(相棒、もう少しここで頑張ってくれ……僕は、行くよ……)

『ブラック・ナイト!』

育朗は、自身のスタンド能力で『幽霊』となって、するりと岩をすり抜けた。

『幽霊』は多量の土砂をもぐり抜け、再び地上に出て、あたりを見回す。月明かりに照らされ、『育朗』の目に映った光景は、気が滅入るものだった。

 

育朗の本体が埋もれているハズの土の上には、巨大な岩塊がデンと鎮座していたのだ。

一体何百トンの重量なのか……いくらバオーと言えど、この岩塊をどけて地上に出るのは難しい。仮に何とかして地上近くまで来ることが出来たとしても、この岩塊を砕いている間に、酸欠で死んでしまうだろう。

いや、今だって危ない……残っている酸素は、例え仮死状態であっても、それ程長く持つとは思えない。おそらく、後3時間ぐらいか?

 

自分1人の話なら、この土砂の下で『相棒』とともに終わるのもよかった。誰にも迷惑をかけない安らかな死……それが得られるなんて、自分にとっては望外の幸せだ。

だが逝く前に、スミレだけは助けておきたかった。彼女を助け、せめて自分の短い命にも意味があったと思いながら、逝きたいのだ……

 

(だめだ、僕1人では脱出できない……助けが必要だ)

助けを求める『育朗』の脳裏に、これまでに知り合った強力なスタンド使い達の顔が思い浮かんだ。

きっと、ハイウェイ・スターなら、僕の体を再び見つけてくれるだろう。

シルバーチャリオッツなら、この岩塊を切り刻める。

ザ・ハンドなら、削り切ってしまえる。

そして、東方仗助のクレイジー・ダイヤモンドの能力ならば、きっとこの岩塊を砕き、弱った育朗の体を、回復させられるはずだ。

 

僕は彼らのことはよく知らない。でも、彼らは僕を助けてくれる。

なぜだかわからないが、それは確信できる。

 

まだ希望は残っている。

 

育朗は助けを求め、周囲の探索を始めた。

 

――――――――――――――――――

 

 

1999年11月10日  早朝 [屍人崎]:

 

 

「いいな……誰も、動くんじゃあねーぞ」 

ホル・ホースは冷や汗をかきながら、アミを除く1人1人に順繰りに指を向けていった。

早人には見えないが、その指にはホル・ホースのスタンド エンペラーの拳銃があるはずだ。

「俺の許可がでねーうちに、ちょっとでも動いたら、ソイツは脳天に風穴が開くことになる。わかったかッ!」

 

早人は、ホル・ホースから少しだけ離れた処 に立っていた。

疲れはてていた、もう3時間は立ちっぱなしなのだ。早人はアミをだっこしながら、岩場に寄りかかってぐったりしていた。

「ぶーぶー……あけちゃメ……」

アミは、たまに寝言を言いながら、早人の腕の中でスヤスヤと寝ていた。

ずっと抱っこしているので、早人の腕はジンと痺れ、もうほとんど感覚がなかった。

「……どうぞ」

未起隆がトレーを手に持って近寄ってきた。そして早人に、配給――パンと暖かい白湯、それから固形ミルク――を手渡した。未起隆はホル・ホースの指示により、皆に配給食を配る役目を引き受けさせられていたのだ。

 

「ありがとう、未起隆さん」

 

「いえ……今の僕に出来るのは、この位だから」

未起隆が、力なく微笑んだ。

「……早人クン、疲れていると思うけど、もう少しでSW財団の救援が到着します。それまでの我慢ですよ……ところで、アミちゃんは元気ですか?」

 

「うん……寝ています」

 

「少しだけ、抱っこを代わりますよ」

アミの抱っこして、その寝顔を眺め、 未起隆が笑みを浮かべた。

「アミちゃんが起きたら、その固形ミルクをお湯にとかしてあげて下さい」

未起隆は、そっと眠っているアミの頬に触れた。

「ちゃんとお湯は冷ましてからあげてくださいね。肌と同じ温度になったら飲みごろです」

 

(アミちゃん……)

早人は複雑な思いでアミを見ながら、そっとアミの頭を撫でつづけた。

まさか、アミにスタンド使いの素質があるなんて、思ってもみなかった……

 

(この子のスタンドは一体どんな能力なのだろう。でも、今はみんなには黙っていよう。アミちゃんが疑われないようにしてあげないとね……)

安らかに眠るアミの寝顔を見ていると、こんな時なのに心が落ち着いていく……

 

「未起隆さん、ありがとう」

 

「どういたしまして」

しばらくして、未起隆はアミを早人に返した。そして、隣にいるアリッサの処へと別のトレーを運んでいく。

 

アリッサは、苦虫を噛み潰したような顔で、未起隆を睨みつけた。

「フン……やっぱりあんた達は、グルだったって訳ね」

配給を受け取ったアリッサは、未起隆に向かってはき捨てた。

「いいタマじゃない。ずっと私たちをだまし続けてたのね!」

 

「僕は、何にも知りませんよ――僕は、『裏切り者』じゃあない……デス」

さすがの未起隆も、一瞬、顔を真っ赤にした。その後、その怒りを飲み込み、冷静な口調で話を続けた。

「アリッサさん、こんな時だからこそ、今こそ、いがみ合うんじゃなくて、皆が冷静になるべき時だと思うんですよ」

 

「なっ……」

 

「失礼しますよ……」

アリッサが反論を考えている間に、未起隆はプイッとアリッサに背を向けた。そして、別のトレーを持って、隣のピーターの元へ向かった。

 

その様子を見ていた早人は、アリッサの暴言に眉をしかめていた。

(アリッサさん……なんでこんなに怒りっぽい人がSW財団のリーダーなんだろう?少しヒステリー気味な所もあるし………)

 

早人はアリッサの様子をこっそり観察した。

率直に言って、アリッサは有能なリーダーだ。でも、親しみを感じるタイプではない。どちらかと言えば、冷酷なタイプだ。早人は、 昨日のアリッサの言動――アミが泣くせいでゾンビがやってくる―― と、『ゾンビのいる山の中にアミを置いて行こう』と言ったことを、どうしても許し、忘れる事ができなかった。

 

早人は、アミを優しくなぜた。

(こんな小さな子を置いて行こうとするなんて……あの人は、冷血で自分勝手だ)

……だが、いくら自分勝手だからと言って、自分たちを裏切ってDRESSの側につくだろうか?

早人には良く判らなかった。

それに、そんなことをして、アリッサに何の得があるのだろう?

 

未起隆は、隣のピーターに配給を配っていた。

ピーターはアリッサと違い、大人として落ち着いた風であった。

いたずらに騒ぐことなく、ピーターは冷静に配給を受け取った。未起隆に礼を言い、シンディの手当てをした時の未起隆の手際の良さを褒めた。

「いや、未起隆クンは本当に良くやってくれている。君がやってくれなかったら、シンディは助からなかったよ……」

 

「いえ、ピーター先生の指導のお蔭デス」

未起隆は、頭を下げた。

 

危機に陥っても、ピーターは冷静で、紳士的だ。

だが早人は、そんなピーターを不振のこもった目で見つめていた。

(ピーターさん……山を歩いて下りてきたんなら、山を登っていたポルナレフさんたちに会わなかったのかな?なんで血が付いたシャツを着ているんだろう?誰の血?)

正直、早人はピーターがいうように『仗助が殺られた』とは信じていなかった。

(ピーターさん……僕は信じません。仗助さんが死ぬなんてありえないです……きっとピーターさんが間違えたか、嘘をついているか どっちかだ)

正直、早人はピーターが嘘をついていると考えていた。いや、そう思いたかった。

ピーターが嘘をついているのならば、仗助が生きている可能性があるからだ。

 

だがその一方で、早人は、ピーターが嘘を言っていればいいな……と思っている自分を、自分の願望を、客観的に認識できていた。

 

 

ピーターの隣は、シンディだった。

シンディはぐったりと横たわり、岩に上半身をもたれかけていた。未起隆の懸命な手当てのおかげで、シンディの容体は、だいぶ安定してきたようだ。

 

未起隆は、再び丁寧にシンディの傷口を確認し、頭の横に白湯を置いた。

「ずいぶんしっかりしてきましたね。もう大丈夫ですよ」

 

「フフ……ありがとう」

受け答えるシンディの声も、だいぶしっかりしていた。この分ならすぐに元気になるだろう。

「アナタは命の恩人だわ。いつか、ちゃんとお礼をするわね」

 

「では、無事に杜王町にかえったら、美味しいパスタをご馳走して下さい。杜王町には、それは素晴らしいレストランがあるんですヨ」

 

「……フフフッ、それは楽しみね」

 

早人は、シンディに『ナイフが突き刺さった』時のことを、思い返した。

(シンディさん……無事で良かった。考えるんだ、誰も気が付かないうちにシンディさんにナイフを突き刺すことが出来るなんて、誰だ?)

 

最後に残ったホル・ホースに配給を配ると、未起隆は無言で、ホル・ホースと早人の間に座り込んだ。

ホル・ホースはずっと顔をひきつらせ、冷や汗を何度もぬぐいながら、一行をじっと睨みつけていた。

はたから見ていても、今にもきれそうなほど緊張している。

(ホル・ホースさん。本当に余裕がなさそうだ……暴走して銃を乱射されたら、僕たちはどうすればいいんだろう)

 

「ホル・ホースさん……少し休みましょウ」

 

「うるせぇ――ゾ。宇宙人野郎ッ、黙ってろ」

ホル・ホースは未起隆に向かって、ヒステリックに叫んだ。

 

未起隆は肩をすくめ、しゃがみこんだ。何を考えているのか、膝を抱えてじっと地面を見つめている。

 

早人は、その様子をじっと隣で見ていた。

(未起隆さん……なんだか、未起隆さんは信用できそうな気がしてるんだけど……)

 

誰が『裏切り者』なのか早人なりに考え、整理していく。本当なら、今まで一緒にサバイバルをしてきた仲間は誰1人疑いたくない。だが、ここにいる誰か一人が、シンディを刺したことは間違いないのだ。

早人が考え、整理した結果は以下のようになった。

 

 怪しい人 : アリッサ、ピーター、そして ホル・ホース

 信用している人 : シンディ、未起隆

 守らなくてはいけない人 : アミ

 

 

(思い出せ……シンディさんがナイフを喰らったとき、そのナイフの柄はどちらを向いていた?)

早人は仲間を1人、1人を順番に見詰め、必死に考えをめぐらせていた。

(今まで一緒にいて、何か『不自然』な言動をとる人は、いなかったかな?)

 

――――――――――――――――――

 

 

1999年11月10日  早朝 [A山近郊 T鉱山跡]:

 

今まで闇に閉ざされていた林道が、朝日に照らされた。廃村からDressのアジトへと至るその林道は、ほぼ獣道同然に荒れ果てていた。だが、これから負傷した体を押して、この林道を登って行かなければならない。

スミレを追いかけるのだ。

 

噴上はまだ痛む体を無理やり動かし、寝転がっている億泰に向って手を差し伸べた。

「オラッ、億泰ゥ……肩をかすぜ」

クタクタに疲れ切ってはいたが、テイラーの養分を吸って回復していた噴上は、億泰よりは余力を残していた。

 

 

「無理すんな、俺を置いて行けよ~お前は早くスミレ先輩達と合流して、仗助を助けに行け」 億泰は噴上の手助けを断り、自分は後から行く と言い張った。

墳上と違い、ユンカーズに吸いとられたパワーが、回復していないのだ。

 

「てめー、ふざけてんじゃねーゾ」

噴上は、億泰の抗議を無視して、肩を担いで歩き続けた。

 

「いや、俺はちょっと休んでから行くぜ~~。クヤシイが、今の俺はセンリョクにならねぇからよぉ」

 

「……そうだな、確かに、ちょっと怪我したくれーで泣き事をほざく奴はいらね――なぁ……センリョクにならねぇ―――」

噴上は、いらいらとした口調で言った。

 

「だから、お前1人で行けよ……俺は後から追っかけるぜ」

億泰は、力なく首を振った。

 

何を言ってやがる。噴上は億泰の襟を掴み、締め上げた。

「確かにへタレてる奴はセンリョクにならねぇ〰〰。だがよぉ……『無敵』の右手だッ。あの仗助を倒しちまう程の敵と戦うにゃあ……絶対にお前のスタンドが必要だぜ。お前の、『無敵』の右手がよぉ」

だから、俺が連れてってやるゼ。

噴上は、億泰の右肩を担ぎ上げた。そして、ハイウェイ・スターが億泰の左肩を担ぐ。

億泰の両側を、生身の体と、スタンドで支え、一歩、一歩進んで行く。

 

「へっ…………馬鹿野郎が」

億泰が、ニヤっと笑った。

 

厨二……いや、ヤンキー臭丸だしな会話をしながら、二人はゆっくり、ゆっくりと進んだ。半死半生のネリビルとテイラーをおいて、荒れ果てた廃村を出ると、切り立った山の間を縫うようにわずかに残る林道を、進んでいく。

事前のハイウェイ・スターの調査によれば、この林道跡を抜ければ、目指す組織の建物に到達するはずなのだ。

 

「仗助の奴を助けたらよぉ、一発ぶん殴ってやるぜェ~~あの野郎、1人でカッコつけやがったからよぉ~~」

億泰が言った。

 

「『左手』で、か?」

 

「『右手』でだ……おっと、スタンドでじゃね~~~奴は俺の拳で直接、思いっきり殴ってやるぜぇ」

億泰が笑った。

 

だが次の瞬間……

 

「!?グハッ!!」

突然、億泰が白目をむいた。体をビクビクと痙攣させ始める。

そして、驚いている噴上の目の前で、あっという間にぐったりと頭を垂れた。

 

「……おい、どうしたんだよ」

噴上は億泰の様子を確認し、顔色を変えた。億泰の様子がおかしい。

「お前、ガタガタ震えてるじゃねーか……どうしたよ、寒いのか?」

 

「うぅううっっ」

億泰は、何かを話そうと必死にのどをかきむしり……そして、意識を失った。

「冗談はよせッ つまんねーぞ テメぇー!!」

噴上は、意識のない億泰を肩からおろした。その体をそっと地面に横たえて、様子を確認する。

まだ息はある。

心臓もしっかり脈打っているようだ。

だが、億泰はまったく反応しない。

声をかけても、頬を叩いても、ピクリともしない。

 

コ” コ” コ” コ” コ” コ” コ” コ” コ” コ”

 

噴上は、億泰の服に『人差し指大の穴』が開いているのを見つけた。脇腹だッ。

あわてて傷口を確かめると、そこには、

‐黒く

‐濡れている

‐剛毛の生えた

巨大な昆虫の足が刺さっていた。

 

「!?馬鹿な……」

噴上は、あわてて億泰の脇腹に刺さっていた足を引き抜いた。傷口は小さいッ。だが億泰は白目をむき、ピクピクと体を震わせている。意識がほとんどないようだ。

(こりぁああ、毒か……?)

 

「クククク」

下方から笑い声が聞こえた。

墳上は、林道の下を覗き込む。するとそこには、うつ伏せとなったネリビルが、笑っていた。二人を追って、両腕で這って来たのだ。

「彼、ウェブスピナーにやられたのね」

 

「お前、意識があったのか……答えろッ!億泰がどうなったのか……どうすれば奴を助けられる?」

噴上は、ハイウェイ・スターをネリビルの目前に出現させた。

 

「ハ ハハハッ――ひゃひゃひゃッ――ヒヒヒ」

ネリビルは壊れた時計のように、カタカタと首を振って笑った。

「かわいそうにィ。ウエブスピナーの毒、は犠牲者をゆっくり麻痺させるわ……やがて、息をするための筋肉まで麻痺していき、最後には心臓まで麻痺するのぉ」

助かる手段はないわ……ネリビルが楽しそうに笑い、右手に掴んだ『何か』を噴上に向かって投げつけた。

 

ビュンッ

 

「クッ…『ハイウェイ・スター』ッッ」

墳上はスタンド:ハイウェイ・スターを飛ばし、ネリビルの頭を殴りつけた。

 

「ギャビィィィ……」

ネリビルは吹っ飛び、今度こそ確実に昏倒した。

 

一方、左手に痛みを感じた噴上は、自分の手を確認した。そして、最後にネリビルが投げたモノが何かを知って、頭を抱えた。

「やっちまったぜ……チクショウ……」 

 

コ” コ” コ” コ” コ” コ” コ” コ” コ” コ”

 

親指大の太さの黒い剛毛の奥から、毒々しい黒と黄色の縞模様の地肌がのぞく。『それ』が、噴上の左手の甲に、おぞましくも突き刺さっていた。

 

そう、『それ』はウェブスピナーの爪だ。

 

そうと認識した途端、左手がカッと熱を放ち、吐き気がこみ上げてきた。

「うぅ……うっ……」

噴上の視界が暗転した。

 

そして、何もわからなくなった。

 

――――――――――――――――――

 

 

1999年11月10日  朝 [屍人崎]:

黙って互いをにらみ合う時が、何時間も続いていた。

いつの間にか日がのぼり、少しづつ暖かくなってきた。

 

「……」

早人は、かじかむ足を小刻みに動かし、少しでも早く体を暖めようとしていた。

 

「……あんた、どうして私たちを裏切ったのよ」

長い沈黙の時間を破り、アリッサがホル・ホースを詰問した。

「あんたが昔、DIOに雇われた暗殺者だったってのは、知ってるわ、でもその契約はとっくに終わったんでしょ、どうして?」

 

「へっ?」

ホル・ホースはあっけにとられた顔で、マジマジとアリッサを見つめかえした。肩をすくめ、バカらしそうな口調で言った。

「オイオイ、よく考えろよ。俺がSW財団との契約を破棄して『裏切った』だと?何をどう勘違いしたらそう思えるんだぁ?………言っちゃあ悪いが、アンサンたちを殺るのなんて簡単なんだぜェ。もし俺がアンサンの敵だったら、もうとっくに殺ってるゼェ」

 

「何を言ってるのよ。今も、私たちにスタンドを向けてるクセに」

アリッサが鼻を鳴らした。

 

「そりゃあ仕方がねー。この中に『裏切り者』がいるんだからよォ――」

ホル・ホースは額の汗をぬぐった。

 

「ねぇ、ピーター……誰が……誰が、『裏切り者』なのか、本当に知らないの?」

シンディが尋ねた。ナイフを喰らったシンディは、呂律が回っていない。つっかえ、つっかえゆっくりと話していた。

「あなた、何か聞いて無いの?」

 

「わからないんだ」

ピーターは、かぶりを振った。

「わ……私がその話を聞いたのは本当に偶然だったからね。聞こえたのは、『SW財団のヤツラに忍び込ませた奴と、連絡とれたのか?』って言葉だけさ」

 

「……つまり……私たちの中に、恐ろしい能力を持つ裏切り者がいることはわかっているけど、それが誰だかわからないって事ね」

シンディは喘ぎ、喘ぎ言った。

 

「それだ、そいつが問題だゼ……」

ホル・ホースは、遠慮なく1人1人をにらみまわした。

「DIOのスタンドは『時間を止める』能力を持ってやがった。思い出せヤ……さっきシンディの胸に『ナイフ』が突然突き刺さったよなぁ……いいか、時を止めている間にナイフを突き刺すってのは、ありゃあDIOがよくやっていた手だぜ……つまり、どうやってかしらねーがお前らの誰かがDIOのスタンドの力をほんのチョッピリ、使えるってぇことだ」

 

「ほんのチョッピリ?」

 

「もし裏切り者の能力が長いこと『時間』を止められるって事なら、僕たちはもうとっくに全滅してる って事が言いたいのかい?」

 

「その通りだぜェ、ピーター」

ピーターの言葉に、ホル・ホースはうなずいた。

そして、SW財団の三人をにらみつけた。

「悪いが、アンタたちを監視する必要がある」

 

「アンタだって、怪しいわよ……」

 

「スタンドは1人に一体だ。だから俺と未起隆は、裏切り者の『容疑者LIST』にはいないって訳よ」

 

「どうかしら?あんたの言葉をどうやって信じろって言うのよ」

アリッサが疑わしそうに言った。

「そのルール、例外はないの?」

 

ホル・ホースの目がすっと細くなった。

「Ms.アリッサよー、アンサンこそ自分が『裏切り者』じゃあないって言う証拠を出せや」

 

「な!……私たち……私とシンディ、ピーターの身元はSW財団の綿密なチェック済みよ」

ありえないわよ アリッサが鼻を鳴らした。

 

「ハッ…そりゃどうかな?……昔、DIOはSW財団の身元チェックを受けた船員の中にゃ、スタンド使いを紛れ込ませたことがあったぜ。身元調査なんか、ごまかすのは簡単なんだよ。――しかも、その時やぁ《船長》がそのスタンド使いだったんだぜ……どう思うよ、『調査隊のリーダー』さんよォ――」

 

「そんな……」

未起隆が困惑した。

「じゃあ、誰でも可能性があるってことじゃあないですか」

 

未起隆の発言を機に、皆が一斉に話し始めた。

皆が一斉に自分じゃあないと、身の潔白を必死に主張し始める。皆が自分は裏切り者ではないと断じ、そして相手に対しては、辛辣な疑問を投げかけ始めた。

次第に、お互いの声が少し甲高くなり、大きくなり、言葉が刺々しくなっていく……

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