仗助と育朗の冒険 BackStreet (ジョジョXバオー)   作:ヨマザル

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空条貞夫の孤闘 -1986- (NEW!)

1985年7月某日:アメリカ ルイジアナ:ラフィエット

 

「………あぁ……すまんな………急に予定の無かった追加公演が決まってね……スポンサーの都合で、どうしても断れない………つまり、まだ帰れないんだ」

空条貞夫は、電話越しに謝罪した。

 

……電話越しに沈黙が漂う……

 

電話の向こう側には、息子がいた。

『………そうか、仕方ない………俺はいいさ……でもオフクロには、直接あやまっといたほうがいい…………言っておくけど、おふくろ、ずいぶん前から楽しみにしていたんだゼ………父さんが誕生日に帰ってきてくれるのを』

やがて、沈黙を破り、息子の承太郎が答えた。もう母親の誕生日に帰ってこないことは、予想していたのだろう。いたって冷静な口調だ。

 

昔はもう少し寂しがってくれたのに……と寂しく思いつつも、息子が素直に話を聞いてくれたことに、確かにほっとしていた。

 

だがホッとした自分に、罪の意識も感じている。

 

「そうだな……じゃあ、電話を切るよ……またな……」

 

実家への電話をきると、貞夫は安っぽいモーテルのベッドに腰をおとした。

タバコの煙で赤茶けたモーテルの壁をぼうっと眺め、貞夫はしばらく物思いにふけった。

 

義父:ジョセフ・ジョースターと共にドレスの日本支部の一つを壊滅させてから、3年が経っていた。

ドレス本体の所在を示す手がかりは、まだ無い。

手を尽くしてはいたが、いまだに貞夫はDressの影を見つけられずにいた。

 

貞夫は冷蔵庫に行き、クァーズの缶を取りだした。ベッドに腰掛け、タブをこじあけると、一息に飲み干す。良く冷えたクァーズののど越しに、ささくれだった気持ちがほんの少しだけ、おさまっていく。

 

ベッドに腰掛け、缶ビールを片手にぼうっととしていると、再び電話がなった。

妻からか………淡い期待をいだきながら受話器を取る。

違った。電話から聞こえたのは、しわがれた声だ。義父:ジョセフ・ジョースターの声だ。

義父に依頼していた、調査結果が出たのだ。

 

「お義父さん、病気の具合はいかがですか」

尋ねると、いつも通りフンと鼻をならす音が聴こえた。だが、少し弱々しい。

義父は一年前に原因不明の高熱に倒れ、復帰したばかりであった。……一年前、大西洋に沈んだ沈没船から、『とあるモノ』が引き上げられたという噂をきき、調査に行ってすぐに、倒れたのだ。

 

『サダよ……貴様に父親呼ばわりされる筋合いはないワ』

グス……電話越しに、義父が鼻をすする音が聞こえた。

 

義父の憎まれ口に取り合わず、貞夫は、続く言葉を待った。

果たしてジョセフは、この電話をかけたそもそもの目的である、最新の『奇妙な』情報を話し始めた。ジョセフは、自分のネットワークを利用して、『奇妙な事件』が起こっていないかどうか、調べる。貞夫は、ジョセフの情報を調査し、DRESSの存在を探る糸口がないかどうか、調べる。

それが、演奏旅行とは別の、今回の訪米の裏の目的であった。

 

ノートを取り出して、ジョセフの話しの要点をまとめていた貞夫の指が、止まった。

ジョセフ曰く、ここから少しだけ離れた小さな町に、『幽霊屋敷』があるのだという。

「幽霊屋敷?」

興味をひかれ、聞き返した。

 

『そうじゃ……フム……そうじゃのぉ。ここは、調べてみる価値があると思うぞ、なぜならのぉ……”あれ”が運び込まれた形跡があるからじゃ………ワシラの探しておる”あれ”がのぉ……』義父が、のんびりと言った。

 

「あれ?」

 

『あぁ……”あれ”が、”ドレスの秘密兵器”が搬送された形跡があるんじゃ』

ジョセフは説明をつづけた。

その話を聞きながら、貞夫は手にしたノートに、『幽霊屋敷を調査、バオー搬入?』と赤字で書き込んだ。

 

――――――――――――――――――

 

その建物は、農場とはいえ、大邸宅であった。イタリア風ビクトリア様式とでも呼ばれる、アメリカの伝統的な形式の邸宅だ。その建物の中心には、ゴテゴテと装飾の施された巨大な時計塔が立っている。

その時計塔の両脇に、二つの三階建ての建物が伸びている。

中庭には、立ち枯れ果てた木が一本、残っていた。

 

「ここか?ジョースターさんがおっしゃっていた『幽霊屋敷』は?」

エジプト人の若者が、尋ねた。

その若者は、頭髪をいくつもの筒状にまとめ、ゆったりとしたケープのような服を着ていた。街中なら明らかに場違いなその格好は、しかし荒野の真っ只中に建つ古い農場の前では、似合っていた。

 

建物を見つめる二人の間を、風が吹き抜けた。風は埃や枯れ葉を巻き上げ、『幽霊屋敷』の庭を通りすぎていく。

 

「ぎゃうううっ」

若者がさげたバスケットの中から、不機嫌そうなうなり声が聴こえた。

若者はあわててふところからガム――コーヒー味なのだそうだ――を取り出すと、バスケットに押し込んだ。

すぐさま、クチャクチャとガムを噛む音、興奮しているらしき鼻息が、バスケットの中から聞こえてきた。

 

もう放してやったらどうだ?

貞夫の提案に、その若者:モハメド・アヴドゥルは首をふった。

「サダオ、それは出来ない。イギーは手におえないんだ」

 

貞夫は、目をむいた。ジョセフ・ジョースターが自分の代わりによこしたこのエジプト人の実力は、良くわかっていた。

そのアヴドゥルでさえ手に余るとは………少し信じられない気持ちでバスケットをマジマジと見ていると、そのカゴのすきまから、何か『砂』のようなものが、こぼれたように思った。

 

「サダ、潜入の前に、偵察に行くべきだ」

二人の背後に立っていたバックアップ隊のリーダー、ルディ・バロウズが言った。

 

貞夫達のバックアップチームとして、日米合同の超極秘チームがこの潜入作戦に同行していた。

バックアップチームは4名からなっている。

リーダーのルディとボビィ・バートンは、アメリカのFBIから、才堂 雅春は日本の警視庁特科中隊(SAP)から、そしてジン・チャンはSW財団からの出向者だ。

第二次世界大戦の闇をいまだに引きずる組織:DRESS。貞夫達は、DRESSの動きを、もう何年も追いかけていたのであった。

 

「もう少し情報を集めたほうがいい……ここは、慎重に行こうぜ」

旧友、ジン・チャンが貞夫の肩をたたいた。ジン・チャンもバックアップチームの一人として、この探索に参加してくれていたのだ。

 

「わかった。頼むぜ……」

貞夫はうなずいた。

 

貞夫の許可を得て、バックアップ・チームが少しづつ前方に展開をはじめた。

姿勢を低く、地に伏せるような格好で、ジリジリ進み、手にした観測機器を建物に向ける。

 

貞夫も、双眼鏡を手にとった。ゆっくりと『幽霊屋敷』の周囲を観察する。

『幽霊屋敷』の回りは高い赤茶色のレンガ塀にとりかこまれている。周囲には隣接する建物もない。

窓はくすみ、中のようすは見えない。

 

ルディが片手をあげた。ルディはバックアップ・チームをその場に残したまま、ジリジリと貞夫達の元へ戻ってきた。

「……確かに誰かに使われているな。サーモスコープで探ると、誰かが窓の近くに立っているのが確認できた」

 

ルディの報告に、貞夫は眉をしかめた。覚悟してはいたが、やはり『敵』は自分達がここにいることに気がついている……という事だ。

 

「……無線の類いは使っていない。だが、『放射線』が検出された。人体には影響ないレベルだが、気を付けたほうがいいダロウ……」

ルディはそう言うと、時計塔の上を指差した。

「放射線の発生源は、ちょうどあの時計の裏だ」

 

「わかった……潜入するのは今晩10時ではどうかな?夜に紛れて、近づこう」

 

アヴドゥルの提案に、貞夫は首をふった。

「いや……時間を置けば敵に対策をとられる……今、乗り込もう」

 

「…………そうか……そうだな。わかった」

貞夫の言葉に、アヴドゥルが頷いた。その顔が、不意に歪む。

「サダッ!気をつけろッ」

ボウッ

 

周囲の温度が高くなった。

アヴドゥルの『能力』 スタンドだ。スタンドにより、炎が産み出されたのだ。

「気を付けろッ!敵だッ………なにか『影のようなもの』が、屋敷から延びてきたぞ」

アヴドゥルはそう言いながら、バスケットのふたを開いた。

 

バスケットの中からは、ブサカワ……なボストンテリアが1頭、ぬっと顔を出した。不機嫌そうな様子だ。

アヴドゥルが連れてきたのは、犬であった。

犬は、ガルルとアブドゥルに対して唸った。見るからに機嫌が悪そうだ。犬は身を縮め、アヴドゥルの背中に襲いかかるそぶりを見せた。だが、不意にその姿勢を解いた。

犬はかわりに、そうっとアブドゥルの背後に隠れる。

 

「なん……だ?」

その犬の『奇妙』な動きにつられて、貞夫は農場の方を見た。

 

コ" コ" コ" コ" コ" コ" コ" コ" コ" コ"

 

いつの間にか、農場:幽霊屋敷の入口に、一人の男が立っていたのだ。

男は、ポケットに両手を突っ込み、ただ突っ立っていた。小柄な男。その男の『影』が、動いた。

 

『影』が、伸びる。

 

伸びた『影』の目が、無気味に光る。

 

ジュギュゥ――――――ン……

 

『影』が、バックアップチームに向かって伸びていく。まるで、蛇が体をくねらせていいるように、くねくねと動く。

 

「!?何かマズイッ……逃げろッ」

アヴドゥルが、叫ぶ。

 

「お前たち、下がれッ」

ルディが叫んだ。

その叫び声をスイッチにして、ジン・チャン達、前方に展開していたバックアップチームの面々が、あわてて動き出した。

 

グニュリ……

だが三人の動きよりも一瞬早く、『影』が伸び、偵察に出ていた三人に触れた。

 

「!?」

 

「!くらえイっ」

次の瞬間、アヴドゥルが叫ぶと、その前方に炎が出現した。

エジプト十字架の姿をしたその炎は、『影』 に向かって轟音をあげながら、飛んでいく!

 

『影』はグニャリとその進路を曲げ、炎をよけた。今度は貞夫達に向かって、『影』が延びていく。

『影』が一瞬、アヴドゥル達に、そしてつぎに貞夫に、触れた。

 

ガタリッ

 

『影』に触れた貞夫の視界が、揺れる。

地面につきだしている石に躓いたかのように、視線が下がり、地面が近くに見える。

 

「マジシャンズ・レッドッ!」

「ガルルルッ!」

 

アヴドゥルと、ボストンテリアが叫んだ。

 

すると何処からともなく『砂』が現れた。『砂』が近くの小石を飲み込む。そして、まるで大砲のような形に変化した。

砲台のさきから、小石が『影』の先の男に向かって、飛んでいく。

 

おなじく『炎』が現れ、『影』を焼き払うッ

 

二人が、それぞれの持つ『能力:スタンド』で攻撃をかけたのだ。

だが、その攻撃に移る直前に、スタンドの像が一瞬歪む。

 

そして……

 

『炎』は、急速にその範囲を狭めた。

 

『小石』は、まるで子供がパチンコで飛ばしたように、勢いを失い、放物線を描いて飛んでいった。

 

ベシッ

ジュッ

 

『小石』も、『炎』も、その本来の威力とは程遠いささやかな力で、目標を攻撃することとなった。

 

だが、そのささやかな攻撃でも十分な威力があったようだ。

 

「……ヒィィィィツ」

『砂』に攻撃された男は、二人と一匹に背を向けた。悲鳴を上げて『幽霊屋敷』に飛び込み、ドアを閉めた。

 

「逃がすかッ」

悲鳴を上げる男を追って、貞夫も走り出した。

だがすぐに、足が絡まる。貞夫はもんどりうって、勢いよく地面に頭を打ち付けた。

隣で走り出していたアヴドゥルも、やはりすっ転んでいる。

 

いや……

 

┣¨ ┣¨ ┣¨ ┣¨ ┣¨ ┣¨ ┣¨ ┣¨ ┣¨ ┣¨

 

「……アヴドゥル……お、おまえ……」

 

「サダ……いったいどうしたんだ、お前……その姿は」

 

「キャウン」

 

コ” コ” コ” コ” コ” コ” コ” コ” コ” コ”

 

二人は……二人と、一匹は顔を見合わせた……

貞夫の目に映ったのは、見慣れていたアヴドゥルの顔ではなかった。そこに見えているのは……まだ7歳ほどの、あどけない少年の顔であった。少年は、ついさっきまでアヴドゥルが着ていたゆったりとしたケープに包まれている……

 

アヴドゥルの目に映ったのも、やはり10歳ほどの、ティーンエイジャ―になる手前の日本の少年だった。その少年は、切れ長の鋭い眼をしており、貞夫が持っていたのと同じような刀を、大事そうに抱えていた。

 

そして、二人のすぐそばには、生意気そうな、生後半年ほどの子犬がきゃんきゃんと吠えている……

 

その背後には、ルディに似た金髪でにきびだらけの少年が、怯えてしゃがみこんでいる……

 

「クゥン……」

子犬が、鼻を鳴らした。

 

「お……お前、もしかしてイギ―……なのか?」

あどけない子犬に、アヴドゥルが戸惑った。

 

オズオズと子犬に向かって手を伸ばすと、イギ―は甘えて手に鼻先をこすりつけた。まるで猫のように、今にもゴロゴロと喉を鳴らしそうだ。

イギ―は、あどけない子犬になってしまったのだ。

「コイツ……コイツが『甘えてくる』だとぉ……」

アヴドゥルは、気味が悪そうに、そう言った。

 

一体……自分たちはどうなってしまったというのだ。

貞夫は、子供に戻ってしまった自分たちに、唖然とした。

 

「シクシク……ウェ――――ン」

「……サダ……いったいこれは?」

「ボク、どうしてここにいるの?おかぁさんは、ドコ?」

 

子供に戻ったのは、バックアップ・チームもであった。

いや、ルディを除く彼らの状態は、貞夫達よりも、深刻であった。

貞夫達の現在の年齢が10才前後だとすると、ジン・チャン達の年齢は、6才程度に見える………

影に接触していた時間が、長かったからであろうか。肉体だけでなく精神まで幼くされたバックアップチームの面々は、なすすべもなく泣くばかりであった。

 

「ウワッ」

「助けてッ!」

と、不意にバックアップ・チームの面々が、地面に引き倒された。

その体には、いつの間にかフックつきのロープが絡み付いている。

 

ジャリジャリジャリジャリッ!

 

ロープが引っ張られ、バックアップ・チームの面々が『幽霊屋敷』に引っ張られていく。

引っ張られた三人が、必死に手を伸ばす。

 

だが、その手に届かない……

 

「ウワァ―――ッ助けて、おにぃちゃんたちッ」

ジン・チャンの声だ。

 

「ジンッ!」

ジン・チャン達を追いかけようとした貞夫は、たたらを踏んで立ち止った。

 

貞夫たちに向かって、幽霊屋敷から何かが跳んできたのだ。

それは、今ジン・チャン達をとらえているフックと、同じものだッ

 

「くっ」

貞夫は、フックを避け様、居合い斬りを放つ!

 

ザッ

 

貞夫に裁ち切られたフックは地面に落ち、『まるで乾いた植木鉢に水をやったかのように』、消滅した。

 

だがその間に、バックアップ・チームの者たちが『幽霊屋敷』に引きずり込まれる……

 

「しまった……」

アヴドゥルが下を向いた。

 

とにかく、このままボーっとしていることは出来ない。彼らを助けなければ。

 

「追うぞ、アヴドゥル、イギー………ルディは、後方に1km下がって待機していてくれ」

貞夫が言った。

 

ルディは、確かに戦士として非凡な能力を持っていた。だが、あくまで普通の人間だ。

子供になってしまった今、足手まといとなる可能性の高いルディは、連れていくことはできない。

 

「……わかった、気をつけろよ」

ルディがうなづく。

 

「お前もな……俺たちが侵入してから、一時間たって何も起こらなかったら……町まで戻って、応援を呼んでくれ」

 

「うん……」

ルディがうなづいた。

「やってみるよ……」

 

「さだ、いこうッ!」

アヴドゥルが言い、ダボダボの服を切り詰めて走り出した。

 

子犬も……イギ―も、二人の後を追ってよちよちと歩き出す。

 

二人と一匹は『影』を操る男を追いかけて、『幽霊屋敷』に入った。

 

 

――――――――――――――――――

 

バタン

 

建物に入った瞬間、玄関のドアが勝手にしまった。

 

同時に、ドアの外からブルルルルンンと言う、車のエンジン音が聞こえた。

 

ドルルルル……

 

そのエンジン音は、どんどん遠ざかっていき、やがて、何も聞こえなくなった。

 

しまった。逃げられたのか……

貞夫は頭をかきむしった。

車で逃げたのは、あの、『影』を操る男に違いなかった。

 

「チッ」

貞夫とアヴドゥルはドアに取り付き、全力で引っ張った。だが、金属製のこのドアは、外から閂をかけられたのか、びくともしなかった。

 

「マジシャンズレッドッッ」

アヴドゥルが叫んだ。

するとアヴドゥルの横に、鳥の頭を持った怪人……の子供のような像が、現れた。その怪人は、高く両手を掲げ、ドアに手を触れた。その手から、チョロチョロとした炎が現れ、そして消えた。

怪人は、アヴドゥルの能力、炎を操るパワーを持ったビジョン(幽波紋)だ。

ジョセフ曰く、それはスタンドと言う、一種の超能力なのだそうだ。

 

「クソッ……だめだ、ドアが焼き切れない……マジシャンズレッドの力が……弱まっているみたいだ」

アヴドゥルは、悔しそうにドアを蹴とばした。

 

「……」

刀なら切れるだろうか……貞夫は、手にした刀に手をやった。だが、脱出より先に、やらなくてはならないことがある。まずは、屋敷に引き込まれたバックアップ・チームの面々を、助けなければ……

 

「……ぎゃうううっ」

イギーが、唸った。

 

その視線の先を見ると、血痕が点々とたれ、ロビーの横手にある扉に、伝わっているのが見えた。

アヴドゥルは貞夫にめくぱせをして、ゆっくりとそのドアに近づき、開けた。

 

ドアの奥は渡り廊下になっており、血痕はその廊下を渡って、突き当たりのドアまで延びていた。

「キュワワワワ……」

イギーが怯えたように唸り、アヴドゥルの肩に乗った。

 

「ハハハハ……お前が俺を頼るなんてな………もしかしたら、子犬のうちは、可愛い性格だったのか?」

アヴドゥルが笑った。だがその笑いが微かに震えているのに、貞夫は気づいていた。

 

「いぁあああああ――――!!」

建物の先から、絶叫が聞こえた。

 

「クッ!急げッッ」

二人と一匹は、絶叫が聞こえた場所めがけて、走っていった。

長い廊下を一気に駆け抜け、先を進む。

突き当りの階段がある踊り場の隅には、ドアがあった。

 

そのドアを開けた。

ドアの先は、食堂のようであった。その長いテーブルの上に、貞夫とアヴドゥルが『恐れていたもの』が見えた。

 

コ" コ" コ" コ" コ" コ" コ" コ" コ" コ"

 

「……ボビィ………」

そこには、バックアップ・チームの1人、ボビイ・バートンの惨殺死体があった……

 

大人の姿に戻ったボビイの血だらけの死体は、苦しそうな表情を浮かべ、テーブルに縛り付けられていた。

その口には、カーテンの切れ端のようなものが詰め込まれていた。

テーブルには、一面ボビィの血が垂れ、真っ赤に染まっている……

 

「………遅かったか………」

貞夫は、唇をかんだ。こうなってしまっては、もうどうやってもボビイは助からない……他の二人は、無事だろうか……

 

その時、ガチャリ……と部屋の反対側にあるドアが、開いた。

 

「そこまで……丸焼きにされたくなかったら、近づくな」

ドアを開けた人物に向かって、アヴドゥルが言った。

 

「………」

開いたドアの先には、くすんだ服装の小男が無言で突っ立っていた。

小男は、二つ穴をあけた茶色の紙袋をかぶっている。そしてその両手には、自分の身長ほどもある、赤黒い鉄でできた鋏が握られていた。

 

┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨

 

「……なんだお前は………お前が、ボビイをやったのかッ」

 

貞夫の詰問に答えるかのように、小男は巨大な鋏をシャキシャキと打ち鳴らす。

『ウィキィキィキィキィッッ』

小男は、涎を吐き垂らしながら、二人と一匹に向かって駆け出したッ!

 

「うっ……敵っ」

アヴドゥルが、吠える。

 

「ギャワワワワッ」

イギ―が、小男に向かってスタンド;ザ・フールを放つッ!

小柄な小男に向かって、子猫ほどの小さなスタンドが、襲い掛かるッ

イギーのスタンドも、小さくなっているのだ。

 

ジャキッ

 

小男:鋏を持つシザーマンが、ザ・フールに向かって鋏をふるう。

ザシュッ

 

だが、鋏は何もダメージを与えることなく、ザ・フールの砂の体をすり抜けた。

 

「焼き尽くしてやるぜッ!マジシャンズレッドォォッ」

アヴドゥルが叫ぶ。同時に、スタンド:マジシャンズレッドが出現し、炎を生み出す。

だが、生み出された炎は、焼き尽くすというには、ささやかすぎる大きさであった。

ほんの小さな炎が、シザーマンの右腕に触れる。

 

「Ztyaaaaaaaxtu!」

だが、シザーマンは絶叫した。

ささやかな炎が、それでもシザーマンの右腕を燃やしたのだ。

 

右手を失ったシザーマンが、わずかにひるむ。

 

すかさず、貞夫が駆けるッ

 

カチャッ

 

貞夫は、抱えた刀を、引き抜クッ。

シザーマンを、横なぎに一刀両断にするぅッ

 

その瞬間、シザーマンの姿が、掻き消えた。

 

「……これは?」

 

「スタンド……ということかな」

アヴドゥルが首をかしげた。

「つまり、あの化け物は……誰か本体が操っているってことかな?」

 

「ガルルルルッ」

 

「そうか、相手がナチュラルな化け物よりも、スタンドだってぇのなら、少しは気分がまし……か」

貞夫は鼻を鳴らした。

「とにかく、この屋敷から脱出して、あの『影』野郎をぶちのめさなきゃあならん」

 

「……でも、この幽霊屋敷は、僕らを摑まえるための罠だったってことが分かったね……だから、十分に警戒しながら探っていこうね」

アヴドゥルが言った。

 

「ガルルッ」

イギ―が、不満そうにうなった。

 

二人も、そしてイギーも、少しづつ、話し方が、その精神が、見た目相応になりつつある……

(まさか……な……)

貞夫は、嫌な予感を振り払い、幽霊屋敷の探索を、始めた。

 

◆◆

 

一時間後:

 

二人と一匹は、すっかりくたびれていた。

スタミナも子供に戻ったらしく、普段ならなんてことない移動が、体に響いていた。

 

探索は、あまりはかどっていなかった。

この幽霊屋敷には、部屋がいくつあるのか?

大邸宅なのはわかっていたが、ここまでとは思わなかった。

いくつかもの部屋を探索し、だが何も手がかりが無いままに次の部屋に移っていく。

そんなことの、繰り返しであった。

 

たいていの部屋には、ほとんど何の家具も、装飾もなかった。

 

ある部屋には、ベッドと小机、そして空っぽの本棚があった。

 

ある部屋には、椅子が一つ、ポツンと置いてあるだけであった。

 

そして、今開けた部屋には、一面に鳥の死体が散らばっていた。

 

「うっ……」

アヴドゥルが顔をしかめる。

「サダァ……気持ち悪いよ……」

アヴドゥルは、外見相応の子供のように、貞夫の手をぎゅっと握った。

 

子供っぽいその言葉に、貞夫はぞっとした。まさか、ついに精神まで子供に戻ってしまったのか……もしかして、自分も………

 

「ギャルッ」

イギ―が、鼻をクンクンと鳴らした。

砂が出現し、小さなスタンド……を出現させた。その猫なみの大きさのスタンドが、部屋の隅にひっくりかえって落ちていた大きな鳥籠を引きずってくる。

 

「おい、イギィー何をしているんだ?」

サダオの質問に、イギ―が得意げに吠えた。

 

良く見ると、ゆがんだフレームの奥に、一匹のカラスが閉じ込められていた。

 

「気を付けてよ……何か、変な病原菌に侵されているかも……」

 

「むっ?」

 

カラスは、弱弱しく頭をもたげ……

なぜか、笑ったように見えた。

 

バシュッ!

 

突然、カラスの体から醜く膨れ上がった人型の巨人が出現した。

『Xhatuxat!!!』

巨人は、意味不明な絶叫を上げた。そして、カラスが閉じ込められていたフレームを、まるで神のように引きちぎった。

同時に、巨人の背中から複数のフックが出現し、二人と一匹を襲うッ!

 

「ガッ……」

余りの至近距離の攻撃に、フックがよけられないッ!

二人と一匹の体に、フックが引っかかるッ!

「馬鹿なッ!では、このカラス野郎が、フックで俺たちを攻撃したのかよッ

 

「ぎゃわわわわわっ」

カラスが、してやったりと叫ぶ。

 

ヒト型の巨人が、フックの根元につけられたロープをつかむ。貞夫達ごと、ロープを振り回す。

貞夫、アヴドゥル そして イギ―の体が、宙を舞うッ!

空中で一瞬体が止まり、胃の中がでんぐり返るような不快感の後、グイッと引っ張られる。

床が、高速で迫ってくるッ!

貞夫は、必死に、頭と床のあいだに右腕を差し入れた。

 

ガチャァンンッ

 

二人と一匹は、激しく床にたたきつけられた。

かろうじて前回り受け身を取った貞夫は、それでもその威力に肺中の息をすべて叩き出され、喘いだ。喘ぐと、叩きつけられた痛みで体が悲鳴を上げる。

他の仲間を気遣う余裕は、なかった。

 

だがどうやら、アヴドゥルも、イギ―も、床にたたきつけられる直前に自らのスタンドを出して、身を守っていたようだ。

 

「大丈夫か……」

仲間に話しかけると、アヴドゥルもイギ―も、弱弱しく笑みを浮かべた。

 

『Vxuat!!!!』

再び、醜い巨人のスタンドが叫ぶ。

 

再び、アヴドゥルとイギ―が宙吊りになった。

貞夫はまだ床の上だ。

 

貞夫の体を拘束していたフック付ロープが、焼切られていたのだ。

アヴドゥルのおかげだ。

 

「うぉおおおおおっ!」

貞夫は雄たけびを上げながら、宙を舞うアヴドゥルとイギーを追って跳んだ。

宙で刀の鞘を掴み、鯉口をきる。

 

一息で刀を抜くッ!

 

ザシュッ!

 

「ガッ……助かった」

「ギャゥウウッッ」

 

アヴドゥルとイギ―は、床にたたきつけられる前にフックから解放された。

解放された一人と一匹は、勢いを失い、ふわりと天井に放り投げられた。

そして、自分のスタンドを使って、ブジに着地した。

 

一方貞夫は、再び刀をひらめかせ、飛んできたフックを、すべて空中で切り落としていた。

空中で刀を鞘に納め、床に手をつき、着地の衝撃を吸収する。

 

バタン

 

そのとき、ドアが開いた。

 

ドアの奥には、シザーマンがたたずんでいる。

背後には、スタンド使いのカラス、目の前にはシザーマン 挟み撃ちだ。

 

しかし、貞夫には仲間がいた。

 

「クッ!まじしゃんずれっどッ!!」

アヴドゥルがか細い声で叫んだ。

 

鳥頭の小人が出現し、シザーマンに組みかかるッ

 

『Xgutaxtu!!』

シザーマンは、どことなく嬉しそうに叫びながら、マジシャンズレッドに駆け寄った。ヒョィツヒョイッと跳び、躍り、跳ね上がって、手に持った巨大な鋏を、マジシャンズレッドに突き刺そうとするッ!

 

鋏は、マジシャンズレッドの手のひらを貫通したッ。

 

「うわぁああああっ!」

アヴドゥルが悲鳴を上げた。その手から、血が噴き出す。

 

『Bzyuuuu!!』

シザーマンも、悲鳴を上げた。その肩から炎が立ち登っている。

手を鋏で負傷しながらも、アヴドゥルが火をつけたのだ。

 

シザーマンが、ひるむ。

その一瞬のすきに、貞夫は体勢を整えていた。

刀を上段に構え……シザーマンを袈裟斬りにするッ!

 

『Bgaaaaaa!』

気味の悪い悲鳴を残して、シザーマンの姿がかき消えた。

 

その直後、刀を持っていた貞夫の手が、強くひねられた。

カラスのスタンドが放ったフックが、貞夫の刀をからめ捕ったのだ。

刀は宙を舞い……窓ガラスを突き破って、建物の外へ投げ出された。

刀を奪われた貞夫は、ひねられた右手首を、無事だった左腕と腹で抱えるようにし、かがみこんだ。

 

「ぎゃぅぅぅうううっ!」

イギ―が、叫ぶ。

砂のスタンドが、カラスの羽を切り裂くッ!

 

カラスが、悲鳴を上げた。

「アア”ァ”―――ッ」

そして、刀を追うようにして窓を突き破って外に飛び出し……墜落した。

 

「イッ……イギ――……ありがとうよ」

貞夫は、脂汗を流しながら、イギ―に礼を言った。無事な方の手で、差し出された頭をなでる。

 

『ぎゃううぅぅ』

褒められたイギ―は、床を転がって喜んでいる。

 

「さだ……だいじょうぶ?」

アヴドゥルが心配そうに尋ねた。

 

「……やっちまったよ……ちょっと手当てをさせてくれないか」

貞夫が言った。

その手首が、青黒くはれ上がっている。元の太さの、倍ほどに膨れ上がっていた。

(……チェッ、これでは、刀を振れない……か)

 

◆◆

 

「よし……これで、なんとかいけるかな」

なんとか手首を固定し終えた貞夫は、心配げに覗き込むアヴドゥルとイギ―に向かって、無理やりニヤリと笑って見せた。

 

あのスタンド使いのカラスが入っていたケージの骨組みを使い、手首の周りを補強したのだ。

まだうっ血している為、手首を心臓よりも下にもってくると、息がとまるほど痛い。

だが、なんとかなるはずだ。

 

ゆっくり、部屋を出る。

探索を続けなければ……

アヴドゥルとイギ―が、おそるおそる貞夫の後ろをついてくる。おそらくどちらも、例の『影』に、貞夫よりもほんのちょっぴりだけ、長く触れていたのだ。そのために、イギ―もアヴドゥルも、貞夫よりも子供に戻っているのだ。……おそらく、その精神状態までも……

 

と、貞夫は少し空気が動いているのを、感じた。立ち止まり、肌に触れる空気の動きを、探る。間違いない。わずかだが廊下に風が吹いている……

先ほどは感じなかったものだ。

貞夫はとりあえず、その風が吹いている元を探すことにした。

 

「さだぁ……」

アヴドゥルは、ぎゅっと貞夫の服の裾を掴んだ。

「そのきず、だいじょうぶ?」

 

足元には、イギ―が怖そうに体を擦り付けてくる。

「……くぅん……」

 

「ああ、心配するなよ」

貞夫はクシャッとイギ―の頭をなで、アヴドゥルの肩をたたいた。

「片手でも、刀が無くてもやれるさ……兄ィちゃんは、素手でも強いんだぞォ。たっぷり修行したんだ」

 

「修行ッ!」

アヴドゥルの目がぱぁっと輝いた。

「兄ィちゃん、ニンジャなの?ボク、聞いたことあるよ、ニンジャの修行は厳しいって」

 

「へへへ……そうだよ。兄ィちゃんはニンジャみたいなものさ。任せとけ」

 

アヴドゥルの目が、尊敬の色にそまる。

「………じゃあ、分身のジュツとか、使えるの?シュリケン、持ってる?」

 

「……へへへ」

貞夫が懐にしまっていたクナイを見せると、アヴドゥルは歓喜のあまりピョンピョンと跳び跳ねた。

 

 

――――――――――――――――

  ――――――――

   ――――

『いいか……『手の内』だ。しっかり刀を握るのだ……』

 

『はいっ!』

 

『そのまま、あと『2百回』木刀でその立木をたたけ』

 

『ハイっ!』

 

バシッ!!

『手が遅い、腰が入っとらんッ!もっと気合いを入れろッ!』

 

『ハイっッッ!!』

     ――――

    ――――――――

――――――――――――――――

 

貞夫は、子供のころを思い出していた。

 

空条家は、代々続く古武道の宗家であった。戦国時代以前からつづく実践主体の武道で、槍、刀と言った刃物の使い方だけではなく、無手での組撃ち術もまた、その流派の教えには入っていた。

 

貞夫も、幼いころから正式な伝承者となるために、毎朝のけいこ、夕刻のけいこ とけいこ漬の毎日を送らされていた。

 

稽古をつけてくれたのは、祖父であった。

祖父は厳しかった。道場での挙作、礼、言葉づかいと言ったことにも厳しかったし、それ以上に一つ一つの業について、呼吸のタイミング、目の動かし方、ほんの一寸したことまで、熱心すぎるほどに、叩き込まれていたのだ。

 

勢い、子供のころに子供らしい遊びをしたことなどない。

 

自分が古武道の党首に収まらず、彼らが最も嫌いそうな『音楽の世界』に飛び込んだのは、もしかしたら、ただ『家』からの反抗だったのかもしれない。

貞夫が、ティーンエイジャ―と呼ばれる年になった時、『音楽』と出会った。

最初は親への反抗心とただの興味本位で始めた『音楽』………………だが、貞夫は、いつしかその『音楽』に、すっかり魅了されていた。

 

貞夫は、全てをなげうって、ただサックスを掴んでニューヨークにわたった。自由の国アメリカ:ニューヨーク。貞夫は、ところ構わず楽器を吹かせてくれる所で吹きまくっていた。ほぼ勘当状態で『音楽の道』に入った貞夫には、頼れる人間などなかった。

だがあるとき、チンピラに絡まれていた美しい女性を助け……あれっ?

 

……あれっ?段々記憶がおぼつかなくなってきていた。

 

 

 

「!?さだお?」

 

サダオは回想から帰った。アヴドゥルが、心配そうな顔で、サダオの目を覗き込んでいる。

そうだ、今は思い出などにふけっている暇はないのだ。

サダオは気を取り直した。

 

二人と一匹は、空気の流れを追って、廊下を進んだ。

「2Fか?」

 

二階に上がり、また降りる。

「疲れてないかい」

 

「大丈夫サッ!ボクは元気だよッ」

アヴドゥルが目をキラキラさせて答える。

 

その時、イギーがクンクンと鼻をならした。

不安そうだ。

 

「どうしたんだい?」

そう尋ねた後で、サダオにもイギ―が嗅いだものが何か、わかった。

 

いつの間にか二人と一匹の周囲は、煙に囲まれていた。

この館が、燃えているのだ。

 

◆◆

 

サダオは、詰めていた自分の上着を切り取り、自分の鼻にあてた。アヴドゥルにもう一切れを渡し、イギ―を懐に入れる。

「アブドゥル、イギィ―大丈夫、ボクが守ってあげる。だからガンバルんだッ……姿勢を低くして、なるべく煙を吸い込まないように気を付けてッ」

 

「わかった。お兄ちゃン」

「ワンッ」

 

サダオは背後にアヴドゥルを従え、煙の切れ間を探して駆け抜けるッ!

階下からは、パチパチと炎がはぜる音が聞こえる。

主階段の踊り場は、すでに炎が充満していた。

サダオ達は、これまで走ってきた廊下を逆走して、廊下の突き当たりにあった階段を目指すッ!

 

「くっそ……」

だが、その階段に行きつくことさえ出来なかった。すでに、途中の廊下までが火に巻かれていたのだ。

 

ドガァァッ!!

 

不意に、燃え盛る横木が、サダオ達に振り墜ちてきた。

「ハッ!」

サダオは、何とか居合抜きを放ち、横木を両断した。

横木はバチバチと炎をあげ、燃えている。照り返しの炎が、サダオの肌を焼いた。

 

「どうしよう……」

アヴドゥルの声が不安げになった。

「ボク……ボクのスタンドじゃあ、こんなにおっきな炎はどうにもできないよ……」

 

「大丈夫だよ……」

パニックになりかけているアヴドゥルを、サダオは必死に慰めた。

だが、煙はどんどん濃くなり、火のはぜる音もそこら中から聞こえてくる。これでは、アヴドゥルの恐怖は増す一方だ……

 

バチバチバチっ!

 

その火のはぜる音にまぎれて、かすかに人の声が聞こえてきた。

「……  ……ッ! 」

 

ダ タッ

 

「……けてッ」

 

「助けてッ!」

 

「あれはッ!……イギィ――ッ、案内してくれぇッ」

サダオは、懐からイギーを出した。

 

「アオンッ」

イギ―はぷるっとしっぽを振ると、煙にもひるむことなく、走り出した。

煙うずまく主階段を上に上り、三階の廊下を走るッ!

 

「まっ、待ってよッ!サダオ兄ぃチャンッ」

 

「急げアヴドゥルッ!足を止めるな」

 

「アウゥツ!!」

イギーが二人を連れてきたのは、周囲と比べて頑丈で、巨大な扉の前だ。

 

「ウェー―――ンッ たすけてよぉおおおおッ」

扉の奥から、子供の鳴き声が聞こえた。

 

「今助けるッ少し下がってろッ」

サダオはそう叫び、扉を切り裂くッ

 

切り裂いた扉を押しのけ、部屋の中に入ると、そこには二人の子供がとらえられていた。

才堂 雅春と、ジン・チャンだ。

「大丈夫かッ」

 

「まじしゃんずれっどッ!」

アヴドゥルが、二人が縛り付けられていたロープを、焼切った。

 

「ウエェェ―――――ンッ」

才堂 雅春が鳴き声を上げた。本来は、死地に赴いても笑いながら突撃できる男だ。そんな豪胆な男が、今は子供のように泣きわめいている。……事実、見かけは6歳ぐらいの子供なのだ。

 

「サダ、助かったよ」

もう一人、ジン・チャンは子供ながらに落ち着いていた。

「ひどい怪我だなサダオ、手当てをさせてくれよ……」

コォォォォオオオオオォ―――――

ジン・チャンは、奇妙な呼吸をしながら、サダオの晴れ上がった手首に触れた。

ジン・チャンの手から流れ込む不思議な『気』の力で、サダオの手首の晴れが、少し収まってくる……

だが、ほんのちょっとだ。

 

「ゴメンよ……体が、子供になっちまったから、『波紋』の威力も子供なみに戻ってしまったみたいだ……」

ジン・チャンはすまなそうに言った。

 

「いいさ、これでもだいぶ良くなったよ」

サダオはにこっとした。

 

「サダ兄ィィッ!炎が……」

アヴドゥルが叫んだ。先ほど切り裂いた扉の近くまで、炎が迫ってきたのだ。

 

サダオは、ジン・チャンと共に泣き叫ぶ才堂 雅春をムリヤリ引っ張って、廊下に戻った。

 

「みんな、大丈夫だッ!」

 

サダオは、皆を励ましつつ必死に打開策を探った。

だがすでに、煙はもうもうと舞い上がり、周囲はほとんど見えない。足元さえもおぼつかない状況だ。

 

アヴドゥルが、才堂 雅春が、煙を吸い込んでせき込み始めた。

 

もうだめか……

煙の中に、美しい金髪の女性が笑う姿と、今の自分によく似た外観の男の子が睨みつける姿が、ふっと浮かんだような気がした。

 

「あきらめてたまるかッ!!!」

ジン・チャンが絶叫した。

「俺は、子供のところに帰るんだッ!」

 

その絶叫に、あきらめかけていたサダオの心に、再び火がともった。

 

「うぇぇ―――――ンッ! アァアア――――ンんッ!ゴワイィィ―――ッ」

才堂 雅春は、すっかりパニックになって手足をバタバタと暴れさせた。

 

「ウッ……ヒッ……」

その様子を見て、アヴドゥルが涙目になった。

 

「クッ」

バチィッ

ジン・チャンが再び『波紋』の呼吸を行う。その両手が、時折、パチ パチっと音を立てる。その両手が、太陽のエネルギーを湛えてうっすらと光る。

そして、ジン・チャンは才堂 雅春の頭にそっと触れた。と、才堂 雅春の頭ががっくりと垂れた。ジン・チャンが流す『波紋』の威力に、意識を失ったのだ。

 

「サダ、行こうッ」

 

「ヨシっ」

 

サダオは、才堂 雅春を肩に担ぎ、廊下から、まだ火にまかれていない客室に移動した。ジン・チャンがせき込むアヴドゥルの手を引いて、部屋に入ってくると、ドアを閉めた。すると、煙がほんの少しだけ、薄くなった。

 

「うぉおおおっ!」

サダオは、窓ガラスにはめられていた鉄格子を、必死に蹴り飛ばす。

 

ジン・チャン、アヴドゥルも、サダオとタイミングを合わせ、鉄格子を蹴るッ!

二度

三度

 

何度蹴りつけただろうか、やがて鉄格子はガタビシときしみだし……最後には、ポキリと折れた。

 

いつの間にか、部屋の周囲はすっかり煙にまかれ、真っ白になっていた。

サダオは、ベッドのマットレスをはぎ取った。

「ヨシっ!このマットレスにくるまって飛び降りるぞッ!アヴドゥルッッ!ニンジャならこんなの眠って立ってできるぐらい簡単だ。お前もできるなッ!」

 

「でっ……でも……」

 

「……大丈夫だ。ボクがついているから」

サダオは、アヴドゥルの手を取った。イギ―は、いつの間にかサダオの肩に乗っている。

 

「サダ、才堂 雅春は任せろッ」

ジン・チャンが波紋の呼吸をしながら言った。その体が、ぼんやりと光っているように見える。波紋だ。

「先に行くぜッ」

そういうと、ジン・チャンは意識を失った才堂 雅春をかかえたまま、窓の外に身を投げたッ!

地面に着地した衝撃を、『波紋』で和らげる。

 

「ヨシっ、オレらも続くぞ、しっかり捕まってろよっ!」

サダオは叫び、マットレスに体を包み、イギ―、アヴドゥルと共に三階の窓から、地面に向かって飛び降りた。

 

「ぐわっ!」

マットレス越しとはいえ、アヴドゥルとイギーの体重をささえ、背中から地面にぶつかったサダオに、強烈な衝撃が襲った。その衝撃は、一瞬、完全に意識を失ったほどであった。

 

「うっ……ウッ………」

意識を取り戻したサダオは、ヨロヨロと立ち上がった。

痛みで全身がガタガタだ。肋骨も、鎖骨も折れているようだ。

 

右手は、もう酷いありさまだ。晴れ上がった部分は青黒く染まり、血が噴き出ている。ピクリとも動かせない状態だ。全く感覚も無い。

 

もっとも、痛みも感じないから、好都合と言ったところでもあった。

 

「良かった、みんな無事か……今、少しだけ治療するよ……」

ジン・チャンが波紋を一行に流す。その力で、少しだけ体力が回復していく。

 

ジャリ……

 

誰かが近づいてきた。顔を上げ、誰が近づいてきたのか確認した貞夫の顔が、ゆがむ。

 

┣¨ ┣¨ ┣¨ ┣¨ ┣¨ ┣¨ ┣¨ ┣¨ ┣¨ ┣¨

 

「ハッ……生きてるのかよ……」

その男は立ち止まり、くわえていた煙草をベッと吐き捨てた。

 

「おかげさまでね……まさかとは思うが……あの火は君が……」

 

「そうだよ。俺が火をつけた」

ルディ・バロウズが言った。

懐から、拳銃を取り出し、一行に向ける。

不思議なことに、ルディの体は元の『大人の体』に戻っていた。

 

コ” コ” コ” コ” コ” コ” コ” コ” コ” コ”

 

「そうか……お前が、僕たちを罠にかけたのか……」

 

「ヘッ……その通りだぜ……」

ルディは笑い、無造作に引き金を引いた。

 

パンッ

 

だがその弾は、突然出現した『砂の壁』に取り込まれ、力なく地面に落ちた。

 

「アウッ」

イギーが、誇らしげに吠える。

『砂の壁』が、姿を変え犬のような、車のような姿になった。心なしか、その姿は少し力強さを取り戻しているようだ……

 

「……そうか、お前たち……お前たち全員 クソ スタンド使いだったよな」

ルディは再び笑った。

「そうだよな……じゃあ、俺も……」

 

「なんだとぉ……」

アヴドゥルが、いぶかしげな顔になった。

 

カシャン

 

周囲から、鋏がしまるような音がした。

 

カシャンッ

カシャンッ

カシャッ……

 

「ウワァァンッ……」

イギーが、鳴き声を上げた。

 

奴らが、そこにいたのだ。

そう、奴らが……

 

いつの間にかサダオ達の周囲には、『シザーマン』達が鋏を打ち鳴らしながら、立っていた。

4体もだ。4体の『シザーマン』達が、サダオ達を囲んでいる。

 

「……こっ、コイツだっ、コイツが……僕らを捕まえ、そしてボビィを……」

ジン・チャンが言った。

 

「ヒャハハハハッ……」

ルディが、笑う。

「どうよ、俺のスタンド、『シザーシスターズ』はよぉ……館では、楽しんでくれたか?……コイツラの能力は、単純でよォ……『一般人にも見える』って能力なんだよォ……だが、シンプルな分、射程距離も、パワーも中々なんだぜェ~~」

 

「お前、お前……がやったのか?自分の仲間を……」

ジン・チャンが睨みつける。

「よくも、そんな真似が出来たものだ……」

 

「なかまぁ?違うねッ!お前も、アイツらも、ただのカモだぁッ」

ルディがへへへへっと笑った。

「死ねよ、わが『ドレス』の事を探るネズミどもメッ!」

 

ルディの叫び声とともに、4体の『シザーシスターズ』が襲い掛かった。

これまでとは違い、驚くほどの素早さだッ!

 

「なっ!」

サダオは、皆を守ろうと刀を片手に飛び出すが、かろうじて一体の足止めが精いっぱいであった。

身をひねり、ヤギツバヤにつきだされる鋏を避ける。

「クッ!早いぞ……馬鹿な……」

 

「ブヒャヒャヒャッッ!奴らが遅いと思ったかぁ」

ルディが嗤う。

「ばかめっ!俺のスタンドは距離に応じて、出せるパワーとスピードが比例するのさッ。俺の目の前で操るコイツラは、最高の能力を持ってるぜェッ!」

 

アヴドゥル、イギー、ジン・チャンに向かって、『シザーシスターズ』が迫るッ!

 

「まじしゃんずれっどぉッ!」

「バッッ・ブウルルルゥッ」

アヴドゥルとイギーが、スタンドを出現させた。

『シザーシスターズ』は二人のスタンドに掴みかかるッ!

 

そして……

『シザーシスターズ』の残り一体が、生身のジン・チャンに襲い掛かかったッ!

 

「コォォォォォオオオッッ」

ジン・チャンはスタンドを持たない。だがすでに波紋を溜め、敵を待ち受けていたッ!

 

ボゴォッ

 

「くらえぃ!」

ジン・チャンの波紋の一撃が、『シザーシスターズ』の体を砕くッ!

 

同時に、マジシャンズレッドの炎が、ザ・フールの砂の牙が、そして貞夫の手刀が、『シザーシスターズ』を倒すッ!

 

ガシャリ……と『シザーシスターズ』の持っていた鋏が、地面に落ちた。

「や……やるじゃぁねぇか」

全てのスタンドを倒されたルディは、冷や汗を浮かべた。逃げ道を探すように、オロオロとあたりを見回す。

 

モチロン皆、裏切者をムザムザと逃がすほど、甘くなかった。

「キサマッ……この裏切者メッ!覚悟しろォォォッ!」

アヴドゥルが、残されたルディに向かって、マジシャンズレッドを放つッ!

 

「ブヒャヒャヒャヒャァッ」

迫りくるマジシャンズレッドを見て、ルディが、豚が殺されるような悲鳴を上げた。

 

だが……

 

(まてよ……なぜ、スタンドをすべて破られたのに、コイツにはダメージが無いんだ?)

サダオは、ふと湧いた疑問に、思わず足を止めた。周囲を確認し、その顔がこわばった。

「フセロッ!」

 

目の前に立つアヴドゥルとジン・チャンを引き倒すッ!

 

バビュゥウッッ!

 

ちょうど、『アヴドゥルとジン・チャンの首があった高さ』を、宙を飛ぶ鋏が、飛びぬけた」

 

ガチャンッ

 

飛びぬけた鋏が、互いにぶつかり……一つになった。

 

「ウォォォォッ」

サダオは、ブーメランのように弧を描き、自分にめがけて再び飛んできた二つの鋏の交点から、やっとのことでのがれた。

 

ガチャン!

 

またしても、飛びぬけた鋏が、一つになった。

 

融合した二つの鋏が、さらにぶつかり……ついに、4つの鋏が、一つの巨大な鋏となった。

「ケッ、やるじゃぁねーか……そのそっ首、ハネてやろうと思ったのによぉ~~~」

ルディが、その巨大な鋏を手に取った。

 

ジャキンッ

 

ジャキンッ

 

鋏を交差させるたびに、その体が……醜く膨れていく。いつの間にか、ルディの顔に『二つ穴をあけた茶色の紙袋』がかぶせられている。

シザーマンだ。

 

「ウギャギャギャギャッ」

ルディ=シザーマンは、これまでとは打って変わった素早い動きで、飛びかかってきたッ!

 

「ウォッ!」

不意を突かれた三人と一匹が、不覚を取る。

 

三人と、一匹の顔面に、これまでとは裏腹の超高速で鋏が飛ぶッ!

 

「ガッ」

「チッ!」

「クッ」

「ギャウゥゥッ!」

 

サダオは、おおきくとんぼ返りをうちながら、鋏をギリギリのタイミングで蹴とばした。蹴り上げた鋏を、シザーマンに向かって、蹴り返す。

鋏は、狙い過たずシザーマンの右手に突き刺さった。

 

『ブギィいぃぃっ!』

シザーマンは悲鳴を上げ……サダオに背を向けると、逃げ出したッ!

 

「糞っ!」

後を追いかけようとしたサダオは、すぐに舌打ちをしてあきらめた。

シザーマンの逃げ足は、驚くべき速さであった。

一方、サダオの足は、子供の足だ。

追いかけても、結果は見えていた。

 

「みんな、大丈夫か?」

サダオは振り返り、仲間たちの様子を確認した。

尋ねたその顔が、ゆがむ。

 

コ” コ” コ” コ” コ” コ” コ” コ” コ” コ”

 

アブドゥル、ジン・チャンの二人の手に、深々と鋏が突き立っていた。

 

イギーの額も、流血していた。

その横には、鋏が墜ちている。ザ・フールの砂が、その鋏を覆っていた。

恐らくイギーは、ザ・フールの『砂の壁』で、鋏を防御しようとしたのだろう。

だが鋏が、その強烈なパワーで『砂の壁』を突破しかけ……イギーの額に、チョッピリと傷をつけていたのだ。

 

「大丈夫か、お前たち……」

サダオが声をかける……だが、誰の反応もなかった。

「馬鹿な……」

 

┣¨ ┣¨ ┣¨ ┣¨ ┣¨ ┣¨ ┣¨ ┣¨ ┣¨ ┣¨

 

二人と一匹の顔が、苦痛に歪んだ表情で固まっている。その肌が、髪の毛か、毛皮が、光沢のある真っ白な色に変わっている……

二人と一匹は、文字通り石化していた。

 

「くそっ」

サダオは、三人の肌を傷つけた鋏を集め、踏みつけた。

その役目を果たしたからなのか、鋏のビジョンがボヤけ、消えていく。

 

「……お前たち………」

サダオは、ギリリと歯をくいしばった。

イギーも、アヴドゥルも凄腕のスタンド使いだ。ジン・チャンも中々の体術を使う。だから彼らは、子供に戻されていなければ、いくら不意をつかれたからとはいえ、こんな鋏などにやられることは無かったはずだ。

あのとき自分は、一行の一番はじに立っていた。だから、影に触れた時間も一番少なかった。

いま自分だけが助かったのは、完全に偶然のことなのだ。

 

「ジン・チャン……」

サダオは、沈痛な表情で石と化した旧友の肩に手をやった。すると……

バチッと、まるで何かに弾かれたかのような衝撃が、一瞬サダオを襲った。この感覚には、覚えがある。義父、ジョセフ・ジョースターから、冗談半分、半分本気で腹に突き入れられた拳に、こもっていたエネルギー……『波紋』だ。

『波紋』を受けたサダオの体力が、ほんの少し回復した。手足に力がみなぎっているのが、わかる。

 

もしや……サダオは、二人と一匹の脈、呼吸、体温などを確認し、ほっとした。大丈夫だ……全員まだ生きていのだ。ただ……『石』のように体が硬くなっているだけだ。

ならば、まだ希望はある。

 

ゴオォッ!

アブドゥルの前方に向かって、突然『炎』が噴き出た。

 

ドロリと、空中で何かが解け、地面に落ちた。

 

『ブギャァアアアッッ!』

サダオの背後から、悔しそうな声が上がる。シザーマン=ルディだ。

ルディは、全速力で逃げつつ、無防備なサダオの背中に向かって、『鋏』を投げつけたのだ。

 

「アヴドゥル……おまえ、そんな姿になっても、俺を守ってくれたのか……」

 

石化したもの達が、それでも出来る限りの力を尽くしてくれている。サダオは、立ち上がった。ならば、五体満足な自分が、シザーマン=ルディを倒さなくて、どうするのだ。

 

当然、残り一匹も、いまだに闘っていた。

サラサラサラ……

イギ――の背中に、砂が集まっていく。砂は大きな翼となり、折から吹き付けた風に乗り、イギ―を宙に浮かせた。

身動きのおぼつかないイギ―が、スタンドを使ってシザーマンを追いかけようと言うのだ。

 

「お前らッ!」

サダオは走った。全速力でルディを追う。子供の足だ。いくら走っても、大人のルディの方が早い。

 

だが……

 

人間よりも、風の方が、風に乗った犬の方が、早いッ!

 

「アギィイイイいいぃっッ!」

空中で、イギ―が叫んだ。イギ―は、完全に石化したわけではなかったのだ。

かろうじて動く前足、口を動かし、シザーマンに向かって、吠えた。

 

その時、一回りイギ―の体が大きくなっていることに、貞夫は気が付いた。

どうやら、『子供化』の能力には、制限時間があったようだ。いままさに、その制限時間がとけかかっている……と言う訳だ。

十分に近づいたイギ―は、空中から『砂の爪』を出現させ、シザーマンに向かって、爪を振るうッ

 

『ブギィぃぃッ!』

シザーマンは、まるでスーパーボールのように右に、左に跳ね、その『砂の爪』をよけざま、無数の『鋏』を投げたッ!

 

「ウォオンンッ!」

イギ―は、『砂の壁』をつくり、『鋏』を防ごうとした。だが、さっきと同じように、『鋏』の一つが『砂の壁』を通り抜け、イギ―を傷つけるッ!

「アウッ!」

瞬時に石化したイギ―は、バランスを崩して墜落し、地面にたたきつけられた。

 

『あっア”ッッアァァァ―――――ッ!』

シザーマンは喜び勇んでイギーに飛びかかる。懐から巨大な鋏を出現させ、イギーの首を刈ろうと、鋏を開く。

 

「させるかッ!」

貞夫が、追いついたッ!

 

貞夫は、シザーマンに向かって、回し蹴りを放つッ!

 

『ヴギィイイイッ』

まともに貞夫の蹴りを喰らったシザーマンは、まるでゴムまりのように吹っ飛んだ。

 

「逃がすかよッ!」

貞夫は、間を与えず追撃に移るッ!

 

だが、シザーマンはその『鋏』を素早く振り回し、貞夫が近づいてくるのを、けん制した。

チッ……

 

何か、あの鋏を防ぐものが必要だ。貞夫は上着を脱ぎ、左手に巻き付けた。

あのイギーの『砂の壁』をぶち抜いた鋏だ。こんな布では、到底防げないのは、わかっていた。だが、ほんの一瞬、全力の拳を突きいれる間だけでも、あの鋏を防ぐことができれば、それでいい。

「行くゾッ!!」

貞夫は、シザーマンに向かって、特攻した。

 

『ヴギィッ!』

シザーマンが、鋏を放った。

 

貞夫は、左手をかざして、飛んで来る鋏を布に絡めとり、その速度を受け流した。

シザーマンの懐に飛び込み、必殺の掌底撃ちを放っ!

 

スギィーーンッ!

 

シザーマンが、ぶっ飛んだ。

『あ……アギャッ……』

その顔から紙袋がぶっ飛び、ルディの顔が、現れた。

 

「チッ……手間を取らせやがって」

貞夫が、ゆっくりと、ルディに近づいてくる……

 

「ひぃぃぃっ!」

ルディは、恐怖のあまり尻もちをついたまま後ずさった。

「ゆっ……許してくれッ!なっ……お……俺は、何にも知らないッ!脅されて無理やりやったんだッ……なっ……仲間じゃないか」

 

「……おう……ゴタクは、後でゆっくり聞くぜ……お前の顔面をぶっ壊した後でなッ」

貞夫は念入りに、入念に、その顔面をボコボコに殴り付けた。

 

ルディが半死半生になった時、ようやく、貞夫はその手を止めた。すると、不意に、貞夫が腕に巻いた上着から、鋏がこぼれ落ちた。

その上に、ザ・フールの砂がサラサラと降り積もった。

最後の瞬間に、イギーが貞夫の腕をガードしてくれたのだ。……それがなければ、貞夫はシザーマンにやられていたに、違いなかった。

 

「……イギー……アヴドゥル……ありがとう……みんなのおかげで、助かったよ」

貞夫は、煙草を懐から取り出し、くわえながら言った。

 

その視線の先に、石化から戻り、本来の年齢に戻った仲間たちが、再び立ち上がるのが見えた。

 

「アギィツ」

イギーが、唸った。

 

パチンッ

アヴドゥルが、指を鳴らした。

すると、完全復活した『マジシャンズレッド』が出現し、幽霊屋敷の炎を消し止めた。

 

「さぁ、探索を開始しようか……」

アヴドゥルは淡々とそう言うと、再び幽霊屋敷に戻っていった。

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