真・女神転生 デビルアバター 【旧名 玉藻転生】   作:タマモナイン

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10月1日 朝の憂鬱

俺は自室でのファッションショーを終えてから、そのまま1階に下りた。

1階はいつもの如く人気が無く、リビングに着いた。

 

「やはり親父はいないか…。帰っているなら、ここでTVニュース流して新聞を読んでいるもんな…」

 

いつも変わらない光景に、物静かさを感じた。

俺の家族は親父だけである。親父はいつも長期の海外出張で、家に戻るのは必ず正月とお袋の命日である6月4日には必ず帰ってくるのだ。それ以外に家にほとんど戻らない。

母親の方は俺が10歳の時に死んだ。その詳細は親父の口からあまり語ることなく、俺ですらよく覚えていない。幼少期にお袋と過ごした思い出すら記憶が曖昧なのだ。

それは何故かと言うと、10歳の頃に記憶障害を負う程の大怪我を負った。それ以来10歳以前の記憶が未だに戻らない。

 

「――やはり思い出せないな。ふぅ…お袋に関する記録や写真とかは親父にほとんど処分されたんだよな」

 

親父がお袋に関する記述を消した理由があった。記憶障害を負った俺に母の死という辛い記憶を呼び覚まさない為の配慮だったらしい。

親父らしい気遣いだったが、別に俺は気にしない。おかげで親父不在の間は、俺の一人暮らしようなものだ。

たまに家中をお袋の関するものを探しているが、中々見つからない。

今お袋の持ち物が残っている物といえば、生前着ていた衣類とUSBメモリに保存されている"万色悠帯”だけである。

そういえば昨年のサバイバルキャンプで親父にお袋と10歳の俺のことを聞いてみた。

その時の親父は上機嫌だったのか珍しく答えてくれた。

 

「死んだ母さんはボン・キュ・ボンの万能サマナーだ。因みに小さいころの勇真は私でも手に負えないやんちゃだったぞ!はっはは」

 

と笑いながらサムズアップして答えたくらいだ。それ以外を聞こうとしたら上手くはぐらかされた。

しかし、思い出そうとしたら一段と空腹が激しくなってきた…。

 

「今はそんな思い出より飢えた腹を満たすことが最優先だ…」

 

俺は空っぽの腹を押さえたまま、裏口扉から少し顔を出して警戒するように周辺を見渡した。

周辺には近所の人は出歩いてなく、俺は今がチャンスだと言わんばかり外に出た。

さっさと朝の食卓を目指して、隣の家の裏口へ移動する。人に見られてもいいように、目立つ狐耳と尻尾はフードと長丈のパーカーでギリギリ隠している。

俺は隣の家の裏口玄関に着くと、インターホンを鳴らした。

 

「ぺぺさんいるか!俺だ勇真だ。親父から話を聞いているんだろう!?」

 

男らしくない甲高い声音で、インターホンのマイクに向かって叫んだ。

 

「あららら。聞き覚えがない可愛い女の子の声がしたと思えば!本当に勇真ちゃんなのね。今開けるから待ってね♡」

 

と、インターホンのマイク越しからテンション高い男の声が響いた。

しばし待つと、裏口の玄関扉がガチャッと開いた。中から奇抜な髪色とモデル体型の長身痩躯の男———この建物『喫茶COROL』のマスターであるペペロンチーノ=スカンジナビアが現れた。

この人は俺の姿を見ると、驚いた笑顔で出迎えてくれた。

 

「キャーッ!本当にこんな小さい可愛い女の子が、勇真ちゃんなんて信じられないわ!」

 

「くぅぅぅ……そんなにジロジロと見ないでくれ、ペペさん。いえ妙漣寺鴉郎さん……。私としたら、女性としての礼儀になってないでございませんでしたわ!ごめんあそばせ…」

 

あまりにも珍しく見る反応にイラっとしたので、わざっとペペさんの本名を皮肉めいて吐いた。彼は普段本名で呼ばれるのが好まないからだ。

だが俺の皮肉なんか気にせず、大人の笑みを見せつける。

 

「女になった勇真ちゃんは拗ねて可愛いわ。私、キュンとしちゃったわ♡」

 

訂正…逆効果だった。この人は俺の皮肉を愛嬌として受け取ってしまったか。

いつもそうだ……俺はこの人の度量に敵わない。

 

ペペロンチーノ・スカンジナビア———本名ごと妙漣寺鴉郎。俺にサマナーの仕事を紹介してくれる人であり、デビルサマナーのイロハを教えてくれた人である。

この人は俺の両親と古く?から付き合いがあり、サマナーである。

現在はサマナー稼業を休止しており、この喫茶店の経営に専念している。親父が不在の間だけ、三食の面倒を見てくれる。

俺は料理が下手で、この人がいなければ餓死してまうどころか路頭に彷徨ってしまう。ペペさんのおかげで今日も空腹を満たすことで出来る。

ペペさんは持ち前の面倒の良さと独自の顔芸とオネェ好調で人に接してくれる。ペペさんの人柄に訪れる常連客が訪れてくるが多い。

この人にはもう一つ裏の顔があって、悪魔討伐・怪異事件の仕事を斡旋してくれる仲介屋兼防具屋の経営者をしている。

ぺぺさんは仕事を引き受けるサマナーやバスターの力量を見て、彼らの実力に見合う仕事や防具を見繕ってくれるのだ。因みに毒島先輩にバニーシリーズを推奨させた確信犯でもある。

この人が制作してくれた薄手の防護素材と呪力で縫い合わせたジャケットのお陰で、今日まで生き延びれた。だが今回は狐っ娘になった俺にどんな装備が用意されているか正直不安である。

しかしだ…、恋い焦がれる乙女の表情でこっちを見るのはやめてください。もし近所の人に見られたらどうするんですか?変な誤解を生まれたらどうするんだ、この人。

呆れながらもジト目で睨んでしまう。

 

「そんなにときめいても、狐耳と尻尾はお触りを禁止!さっさと入れて!」

 

「ん〜も〜!勇真ちゃんのいけず〜」

 

ぺぺさんは少し口を尖らせた。

俺は構わず、ぺぺさんの背中を押して強引に中へ入った。最後は、バタンッと扉を閉めた。

 

 

――『喫茶COROL』の店内――

 

俺たちは『喫茶COROL』の店内に入っていく。

店内に行くと4人掛けのテーブルが6つ、カウンター席が6席の合計30人が店員である。営業時間内はほぼ全てが満席状態なのだ。勿論客の目当てはペペさんであるが、顔芸とは本人の目の前には言えない。

店は普段ぺぺさん一人で切り盛りしているが、忙しいときは俺が手伝いに行く。

仕事の手伝いは接客、給仕やレジなどの雑用である。

いつもペペさんにお世話になっていたので、手伝いを始めた頃は日頃のお礼として無償で仕事をしているつもりだった。しかしだ、ペペさんは”子供を無償で働かせる悪い大人にさせないでくれ”と言われた。働いた分きっちりとバイト代をくれた。

そうこう考えてると、エプロンを着たぺぺさんが俺に声をかける。

 

「勇真ちゃん、いつもの焼きバナナサンドとコーヒーでいいかしら?」

 

「ご馳走になります!」

 

いつものように返事を返すと、猫耳ニット帽を外した。猫耳ニット帽から解放された狐耳を露にすると、狐耳がピクピクと勝手に動いた。

狐耳が勝手に動くというのは、慣れないニット帽を被っていたという不快感の証拠だ。

 

「慣れない物を被ると、ストレスしか残らないな。やっぱストレスを解消するには、ペペさんが作ってくれた美味いものを食べるのが一番!」

 

「あら!そんなこと言われちゃうと、腕にかけて美味しいものを作ちゃうわ♡」

 

ぺぺさんは上機嫌になって朝飯を作っていく。ペペさんが料理する姿は女子力を感じさせるものがある。女子力という言い方は変かもしれないけど、俺から感じた本音で思っただけである。

それでペペさんの調理が始まる。一連の作業として、まず輪っか状に切ったバナナを包丁で軽くつぶして、次にシナモンシュガーをかけてプライパンで軽く焼いた。

次に焼いたバナナの身はパンに乗せて、オープンに軽く焼いた。そして、オープンから取り出した焼きバナナサンドを取り出してお皿に乗せた。

カウンターにいる俺のところまで、焼きバナナサンドの香ばしい匂いが届いてくる。

 

「やばいな…。相変わらずこの焼いたバナナのこんがりとした匂いが胃袋に食欲を注いでくれる…」

 

思わず涎が垂れそうな気分なるが、ここはぐっと辛抱だ。出来る朝飯に期待して、ペペさんの方をちらっと見た。

既に淹れたコーヒーをカップに注いでから朝飯を完成させた。朝飯を乗せたトレイを、俺がいるカウンターまで運んでくれた。

 

「はい、お待たせ。「COLOR」の看板メニュー”焼きバナナサンドとホットコーヒーのモーニングセット”よ!」

 

「待ってました!早速だけど頂きます!」

 

早速だが、目の前に皿に乗せられている焼きバナナを手に取って一口食べる。口の中がこんがりと焼けたバナナの甘さと香りが広がっていく。

 

「ホォフ!ホォフホォフ!うまい!」

 

「そうでしょうそうでしょう!COROR一番人気の看板メニューですもの!」

 

ペペさんは満足そうに顔を歪ませて笑った。この歪ませた笑顔は、ぺぺさん独自の顔芸である。

そんなことを気にせず、コーヒーを一口飲んだ。コーヒーの酸味が柔らかく、口の中で広がるほろ苦さ。上品な香りに誘われるように、コクの深さが感じる。

相変わらずコーヒーを淹れるのが美味いな、と素直に思った。

 

「それは当然でしょ。私は自分が淹れたコーヒーを飲んでくれる人のために一生懸命情熱を注いでいるんだから!」

 

「俺の心を読まないでくれっ!」

 

「あら…私、人の心読む術なんか使ってないわ。失礼な娘ね☆」

 

少し頬を膨らませて、オネェ口調で否定するペペさん。俺はこの人がエスパーじゃないかと思い、ジト目で睨んで黙々と食べ続けた。

 

「……」

 

「そんな怖い顔をしないの、勇真ちゃん。ストレスは美肌を悪くさせる要因よ」

 

心配して嘲笑って忠告するペペさん。いつもこんな感じで俺に接してくれるんだよな…、本当にこの人はお人良しだ。

 

「ペペさんは優しいな。こんな人外になった俺にいつもと変わらないように接してくれるんだから…」

 

「何言っているのよ…。勇真ちゃんは勇真ちゃんだし、自分で人外というのは止めなさい。それは自分は人であること捨てる意味なのよ…?」

 

何か物寂し気そうな顔をして、ペペさんは俺に告げた。

その言葉に心が深く突き刺さって痛かったが、同時に抱いていた不安が拭われた気分だった。

 

「うん、そうだね…。気を付ける…」

 

しんみりとした返事をしててコーヒーを一口飲むが、次にぺぺさんがとんでもないと言い放ってくれた。

 

「ええ…そうよ。第一”人外”を例えるならば、特にあの二人さんがそうじゃないかしら…?」

 

「ぶばぁー!」

 

思い切って飲んでいたコーヒーを盛大に吹いてしまった。

よりによって、ここの常連客であるあの二人が話に出るとは予想外である。

ぺぺさんは俺の反応を見て、飽きれてハンカチを出した。

 

「汚いわね、勇真ちゃん。ほらハンカチよ、これで口を拭きなさい」

 

「げっほげほ…、ありがとう…ってじゃないわ!」

 

ぺぺさんから渡されたハンカチを受け取りつつも、思わず叫んでしまう。

———危うく呼吸困難で死ぬところだった…。このシリアスな展開をブレイクさせる如く、”あの二人”を例えとして出るとは思わなかった。

 

「食事中にあの二人の話を出すのは止めてくれよ、ぺぺさん」

 

「いつも店の営業中に会っているじゃないの、勇真ちゃん」

 

確かにあの二人はここの常連客として会うのは会うが…。

 

「”人外”に例えにするならば、あの二人は規格外だよ!」

 

「確かに言われちゃうと、そっちのほうが頷けるね…」

 

俺の言うことにペペさんも納得してくれているみたいだ。

ま、どっちみっちあの二人組にはCOMPの受け取る時に会う予定だ…。

兎に角落ち着く為に再びコーヒーを飲む。

 

「とにかく食事中にあの二人の話題は言わないでくれ。今は朝飯を食べさせてくれ!」

 

「わかったわ。だけどね、勇真ちゃん…。あなたに謝らなければならないことがあるの」

 

ぺぺさんがそう言うと、真摯な表情で見つめてきた。一旦食べるのは止めて、真面目なペペさんを見た…。

俺は首を傾げながら訪ねる。

 

「ぺぺさんが俺に謝るってどういう意味だ?俺に悪いことでも何かしたのか?」

 

「あるのよ…。あの仕事を紹介しなければ、勇真ちゃんは悪魔人になることもなかったわ…(勇真ちゃんは【勇真】から【誘魔】になりかけているわね…)」

 

急にそんなことをペペさんに言われても、あれは不慮の事故だからしょうがない。後玉藻の前との融合も必然だったかもしれない。

そんなぺぺさんの顔を見るのが辛くなり、思わず横顔になって答えた。

 

「別にいいよ。ぺぺさんは何も悪くない。あの時は危険と感じながら不注意を怠った俺が悪いんだから…」

 

「こっちに見てくれないのね…。勇真ちゃん、本当にごめ…」

 

ぺぺさんの様子が変だと、確認すべくちらっと見た。

なんと!ペペさんは俺に対して、頭を下げようとしてるでないか。

俺はなりふり構わず立ち上がって静止する。

 

「ストップストップーーー!!」

 

叫んでいると、ぺぺさんの動きがピタっと止まった。

アブねぇ…セーフだぜ。もしペペさんが謝らせたなんて、他の人にばれたりしたら確実に俺は殺される…。

こう見てもこの人にお世話になったデビルサマナーやデビルバスターが数多く、密にペペの兄貴と慕っている人が多いだ。

だからこの人に頭を下げさせたら、俺の人生がすべて終わってしまう…。

ここは何とかして穏便に済まさなければならない。

 

「ペペさんの顔を見るのが辛かったんだよ…。笑いそうになるから!ぺぺさんがそんな真面目になるキャラじゃないでしょ!」

 

俺がそういうと、ぺぺさんは顔上げてポカーンと口を開けた。

その様子を見逃さず、スマホを出して日頃の仕返しと言わんばかりにシャッターチャンスを見逃さなかった。

 

「おっしゃぁ!ドッキリ成功だぜ。ペペさんの貴重な拍子が抜けた顔をGETゥゥゥ!」

 

「えっ…?……アッハハハハッ!もう勇真ちゃんのイケズッ!もう昔からいたずら好きなんだから!」

 

突然俺のドッキリに対して、ペペさんが開き直ってけたたましく笑った。俺も釣られるように一緒に笑い出した。

 

「あっはっはは!日頃からペペさんに手玉をとられているからね。俺もたまにこういう仕返しをしないと!」

 

この時俺はいつものペペさんに戻ったと、安堵感と勝利に酔いしれた。

俺はペペさんの間抜けな姿を収めたスマホの画面を本人の前に見せつけた。

そして、ぺぺさんも俺と同じように懐から一枚の写真を取り出して見せた。

俺はその写真を見た瞬間、絶望のどん底に落とされた。

 

「い、いつの間にそんな写真を!!」

 

俺が見た写真は、ベッドに上半身おっぱい丸出しで涎を垂らしたまま爆睡している俺の姿だった…。おまけにその写真には親父とペペさんまで写ってVサインしていた。

何たる不覚!俺が意識を失っている間に撮影したのかよ…。

ペペさんは俺の驚いた様子を見てにやりと笑った。

 

「幸せそうな寝顔が可愛かったから、つい撮影しちゃったの☆勿論撮影は左近さんの誘いがあってのことよ!」

 

ペペさんはそう言いながらウィンクした。俺はどうしてペペさんが親父と一緒にいるんだと疑問に思った。

ペペさんをジト目で睨んで問いただす。

 

「何故ペペさんが親父と一緒に写真に写っているんだ。撮影場所って俺の部屋だよな?」

 

「ええそうよ。勇真ちゃん、知りたい?」

 

ペペさんは不敵な笑みで流し目を送ってきた。

くそ…さっきの意趣返しかよ、明らか根に持っているようだ…。

それにあの目は、これから反応する俺の姿に期待している証拠だ。

悔しいが、それをNOと言わずYESと答えるのが俺のポリシーだ。

俺はペペさんが言われた言葉に頷く。

 

「ペペが隠している秘密を知りたい…」

 

「あらいやだ!勇真ちゃんが私の秘密を知りたいなんて…どうしましょう!まだ心の準備というか髪型とか決まってないし!」

 

いきなりときめく乙女のように恥ずかしがらないでくれ…!その姿に痛々しいで感じてしまうよ。

 

「ペペさん!ブラックジョークはそこまでにしてくれ。本題に入ろうぜぇ」

 

「…そうだったわね。思わず勇真ちゃんが大胆なことを言ってくれるから、つい取り乱しちゃったわ!」

 

また歪んだ笑顔になって誤魔化す…。ここで細かいツッコミを入れたい気分だが、この顔芸に貴重な時間を潰したくない。

さくさくと話を進めよう。

 

「何故親父と一緒に俺の部屋にいたんだ?というか…さっき裏口で、俺の姿を初めてみたようなリアクションはわざとか?」

 

「ま、それはそれとしてね…勇真ちゃん。左近さんから勇真ちゃんの身に起きた経緯を説明されるために、直接目で確かめたほうが早いだろうと呼ばれたわけなのよ。ついでに勇真ちゃんの装備の制作に3サイズを測らせて貰ったわ!3サイズB86W57H84よ!」

 

ペペさんはドヤ顔になって俺の3サイズを暴露した。

俺は鬼の形相になって、カウンターの上を両手でドンと叩いた!

 

「ぬあんですって…測ったな、シャア!」

 

「全ては女の子になった勇真ちゃんがいけないのよ。あなたの3サイズを呪うがいいわ…って、誰がシャアなの。あんな女たらしと私を一緒にしないで頂戴!」

 

ぺぺさんは不貞腐れた。

俺はペペさんの反応を見て、さっきまでの怒りが鎮火して顔を引きづってしまう。

 

「いやいや、そんなこと言ったらシャアに失礼だろう。ペペさんだって、老若男女問わず人心掌握するくらいに誑し込むくらいに話上手だろう」

 

いつものようにツッコんでしまう。だってこの人は、人の心を掴むような話題を話すことが好きなのよ。

 

「はいはい。私はここに来るお客さんと好きで世間話をしているだけなのよ。誑し込むのは勇真ちゃんだけで十分よ♡」

 

「そんなに胸を張って自慢しないでくれ、ペペさん」

 

俺の全てを見通しているかのように、ぺぺさんの優しい眼差しを感じた。だがその瞳に優しさと同時に、己に対する厳しさを感じる。

 

「(ペペさんは俺を悪魔人にさせた要因の一部が、自分自身にあると責任が根底に持っているんだろうな…)」

 

俺は何も言わず、座ってまだ食べ終えていない朝飯を黙々と食べ続けた。

ペペさんは話が落ち着いたところで、話を切り出した。

 

「そういえば、勇真ちゃん。食べ終えたら、地下の防具売り場に来て頂戴」

 

「もぐもぐ…ゴクン…。新しい防具?」

 

食べながら訪ねると、ペペさんは頷いた。

新しい防具っていったい何だろう…まさか毒島先輩とお揃いで、バニーシリーズなのかな?確か今バニーシリーズは絶版にだから、どこの防具屋にも置いてないはずだ。

 

「まさかと思うけど、バニーシリーズか?」

 

「それは冴子ちゃんに渡したので最後だから、もう在庫に置いてないわ。勇真ちゃんに渡すのは新作よ☆」

 

ペペさんが小悪魔的笑みで答えた。あの笑みは必ずサプライズがあるときだ。

一抹な不安を覚えるが、そんなことを覚える暇より朝飯を食べる時間に費やしたい。

俺はその後、黙々と食べ続け完食した。

 

「ご馳走様でした。とても美味しい朝ごはんでした…ありがとう」

 

「いいえ、どういたしまして…。後片付けは私がするから、食器はそのままでいいわ」

 

やはりペペさんの作る料理は何でも美味いな…。心が温まる気分だ。

 

「なるほど…、だから【COROL】か。———店の名前って、ラテン語で”温もり”というんだよね?」

 

「ご名答よ。博識ね、勇真ちゃん!」

 

笑顔で答えるペペさんの表情は、柔らかく穏やかだった…。

俺はこの温もりを決して忘れない。俺が人の姿でいられなくても、この温もりだけは人の心そのものだからな…。

俺が和んでいる途中、ペペさんが話を切り出してくる。

 

「勇真ちゃん、早速食後に悪いけどあなたに新しい防具の新作の試着をしてほしいのよ。下手したら寸法とかしなおす場合もあるから」

 

「えっ…ああ、分かった。いつもの地下の防具売り場にいけばいいのか?」

 

俺が頷くと、ペペさんは「STAFFROOM」と札があるドアの方に歩き出した。

それでぺぺさんがその扉のノブに触れる前、俺の方に振り向く。

 

「それじゃ、先に下のお店で準備してまっているから!」

 

ペペさんは俺に伝えると、扉を開けて中に消えていった。

あの人が消えていくのを確認した後、

 

「ご馳走様でした…。さていくか!」

 

ご馳走様を言った後、ペペさんの後を追うように俺は立ち上がった。

 

…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………

 

喫茶「COROL」の地下1階 アパレルアーマーショップ『鴉羽』

 

「来たわね、勇真ちゃん」

 

「渡される防具に不安…じゃなくて期待してるからね!」

 

ここは地下に隠れされた防音性と気密性に優れた部屋—————アパレルアーマーショップ『鴉羽』は、ペペさんが経営するもう一つの店である。

ここにくるのは久しぶりで、隈なく店内を見る。

 

「いつもショーケースに置いてあった防具のほとんどが【SOLDOUT】になっているけど…。こんなに景気が良かったのか?」

 

「驚いたかしら?私も驚いているくらいに最近売れ行きがいいのよ…」

 

ペペさんが空っぽになっているショーケースを見ながら言った。

しかし、ここの防具店が取り扱っている品は他の防具屋と大差がないはずだが…。

 

「そこまで売れる人気商品でも扱っていたのか?」

 

「いえ違うわね…。防具の仕入れルートが一時的に閉鎖しているの。その手の情報を知ったデビルバスターたちが買い漁りにきたのよ…。ま、防具は消耗品だから従わないけど…」

 

ぺぺさんがお手上げ状態になって、溜め息を吐きながら言った。

防具の流通が一時的に絶たれるって、何かあったのか?そう考えると、他の防具屋もここと同じように品薄状態に困窮しているのかな…。

デビルサマナー・デビルバスターが装備する防具って、軍の横流し品や防具職人が作ったオーダーメイドなど様々である。ここの店のオーナーであるペペさんも、ファッションデザイナーになりたい願望ゆえに防具の制作をしたりする。

俺が着ている防具は、ペペさんの特製の防具だ。

 

「なんで、防具の供給が突然流通しなくなったの!原因は掴んでいるの!」

 

「それはメシア協会やガイア教団が問屋まで買い漁っているという噂なのよ…」

 

ペペさんが深刻な表情で、俺に訴えた。

その答えに俺は納得する。最近あいつらの抗争が激しくなって、ついにテロリスト紛いの強硬を一般人まで巻き込んでしまったとDDS-NETニュースで知ったくらいだ。

勿論そんな連中らにペペさんは防具は売らないが、客として認めた一部の者なら売るケースもある。

 

「まさに世も世紀末だな。あいつら戦争でも起こすのか?ここは法治国家の日本だぜ…」

 

「天使や悪魔と深く関わる組織には意味は無くてよ?それはデビルサマナーだって同じじゃない。最悪そんな事件が日本に危機的脅威を及ぼすならば、【ライドウ】ちゃんが事件の解決に奔走するでしょうし!」

 

その名を聞いた瞬間、突然俺の背筋が怖気が走った。

ライドウって…あの対悪魔殲滅兵器【葛葉ライドウ】だよな?俺は当人を一切見たことがない。その名はDDS-NET内で語り継げる都市伝説上の人物だと思ってた。

しかも、ぺぺさんはまるで面識があるように、【葛葉ライドウ】をちゃん付けしている…。

 

「葛葉ライドウに会ったことあるのか?ペペさん!」

 

「ええ、あるわよ。勇真ちゃんと同じ年齢よ!今はそんなことより新しい防具を用意したわ。きっと似合うと思うわ♡」

 

ライドウの話題をそっちのけて、悦楽気味のペペさんが新しい防具を乗せたプレートトレイを渡してきた。

俺は流されるまま、何も言わずに受け取った。

ボア(毛)がついている装備なんか珍しく気になったんで、手に取って広げてみた。

 

「ボアがついたマイクロビキニ?コスプレ衣装でもついに作ったのか…」

 

「半分は当たりね。それは歴とした防具で、素材は魔獣の体毛と革で製作した傑作品よ。セクシーでしょ♡」

 

自慢気に語るペペささんはご満悦に上機嫌だ。

あの様子からして、このコスプレ衣装ならず防具は相当な自信作であることは間違いないようだ…。

だがしかしだな…。

 

「ペペさん…。俺にこれを着させようとして、何を期待している?普通に見たら、コスプレ衣装しか見えんだろう…」

 

「それが狙いよ。今の勇真ちゃんの姿は狐耳と尻尾が付いているでしょう?それでどうやってサマナー活動するの?」

 

あっ!そういうことなのか。つまり、これを着て狐耳と尻尾を周囲に欺けということか!確かにナイスアイディアだ、ペペさん!

俺が手を叩く様子を見て、ぺぺさんは腕を組み始める。

 

「勇真ちゃんが今考えている通りよ。ちなみにハロウィンも近いからね♡」

 

ぺぺさんは人差し指サインをしてウィンクした。

俺はペペさんのサイン行動に何か嫌な予感した。すぐさま後ろ向きになり、この場から去ろうとした。

だがその前に素早くペペさんが俺の肩を力強く鷲掴みする。

 

「ま・さ・か・逃・げ・るつもりじゃないでしょうね、勇真ちゃん!早速だけど私の新作を試着して頂戴!!!」

 

やっぱ魔王から逃げることはできなかったか…。ドヤ顔でこの衣装をここで、ファッションショーしろというのよ。

 

「はっ!?やっぱ今すぐじゃないとダメなのか?」

 

「つべこべ文句言ってないですぐ着替えなさい。それとも女の従業員用に作ったメイド服があるけど♡」

 

俺に脅迫紛いな勝利宣言するなや。メイド服まで仕立てたって、そもそも女性の従業員いないだろう…。

俺はしぶしぶ了承して、試着室に向かおうとするが…。

 

「勇真ちゃん。後手と足の装備よ!持っていきなさい」

 

ペペさんがボアと爪が付いた手袋とハイヒールを渡してきた。

これ以上言わずに俺は受け取ると、試着室に向かった。

 

 

 

…………………………………………

…………………………………

…………………………

……………………

………………

…………

……

 

 

そして、新しい防具を着た俺は戻ってきた。

 

「まあ!勇真ちゃん、似合うじゃない!素敵~私メロメロになりそうよ!」

 

ペペさんは俺の姿を見ると、瞳をキラキラと輝かせながら言い寄ってきた。

俺は思わず、ペペさんから視線をそらした。

 

「あ、あまり…じろじろと見ないでくれ」

 

正直言って恥ずかしいのだ。これが俺なのかと思う程エロスの極みなのだ…。

今の俺の姿は、目に鮮やかな葡萄色のボアが乳頭部分を覆い被せたマイクロビキニに近い布面積のブラ、膝下から覆って出した太腿の肌色を強調するボア付きスットキング、胴を覆う拘束を思わせるクロスした黒紐と、それに合わせて柔らかな肢体が紐を起用に食い込ませていく。それでも紐はきつくなく、俺の柔らかな体に沿って形を変えていく。

 

「着心地は悪くないし、この姿でコスプレサマナーとして周囲に欺けられるけど…」

 

そう狐耳と尻尾を持ち、前は最低ボアだけ残して後は紐のみである。下手に激しい戦闘ですればポロリしてしまうし、横から見えてしまいそうだ。

 

 

【挿絵表示】

 

 

何よりも獣らしきセクシーさを表現しているからだ。

 

「セックスアピールにはちょうどいいんじゃないかしら?男性系悪魔ならその姿に一撃悩殺よ!」

 

この人、今トンでも発言をしてくれた。俺の視点で見れば、この姿はバニーシリーズより淫猥な格好だ。

ただでさえ、俺のライフは羞恥心MAXでゼロである。それ以外はペペさんが作った新作の中で、一級品の防具一式であることは間違いない。

そういえば、まだこの防具一式の名称を聞いていなかったな。

 

「ペペさん、俺が着ている防具はなんて言うの?」

 

「”デンジャラス・ビースト”というのよ!性能は機動性と格闘戦重視で仕立てているから、バニーシリーズより防御力が下がるわね。でも回避力はかなりお手軽よ!」

 

新作の防具名称と性能を自慢げに話してくれた。

危険、まさに危険な獣である……って、いろいろとツッコませて!凄くスース―するし、ハロウィンに合わせて作るのはいいけど…この防具は防寒機能が薄いんですけど…。

 

「前者は俺の姿を周囲の目を欺くことできても、後者は何で必要な最低場所以外はこんなにスカスカなんだ!」

 

「それは素材が十分に足りなかったのよね。魔獣クン・ヌアンの毛皮が足りなくて、十分な布地が足りなかったの」

 

やはり、ペペさんは防具職人としてプライドが許さないんだろうな…。

さて…これからこの装備でこの10月を戦うのか…。

俺はこの時だけ一抹の不安を覚えることくらいしかできなかった。

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