「ここが神殿の最上階よ…鍵を捧げることで、道が開くはずよ」
隣にいる少女の言葉に従うように、少年は手を伸ばす。
少年の目の前にポリゴンが集まってできたような四角柱の物体が3つ、青と紫とオレンジのものが現れ、それが巨大な楕円形の鏡のような扉に取り込まれていく。
少年自身、なぜ少女の言葉に従っているのかわからない。
その少女はクラスで知っている少女と似ているが、天女のような姿をしていて、瞳は黒ではなく水色。
3つの鍵を取り込んだ扉はまぶしい光を放ち、その中で少年の視界が変化する。
青白い、生きているものとは思えないほどに静寂な空。
そこで体を浮かべる少年の目に広がるのは赤い光を葉としている大樹。
「ついに…至高天への道は開いた…」
再び少女の声が聞こえる。
大樹の前に現れたのはその声の主で、その姿は先ほどとは異なり、銀色の衣を身にまとった、まるで機械のような姿だった。
顔は銀色の仮面に隠れ、もうそこからは表情は見えない。
声も機械音のようになりつつあり、人からかけ離れていく。
「そこは…始原にして終焉を現す地。世界を改変する創世の光の源だ。到達したナホビノは望むとおりに世界を作り替えることができる」
「…いや…」
「資格ある者よ、至高天を進み、王座を目指すがいい」
「待って!!」
手を伸ばすと同時に目の前の天女が光を放ち、同時に視界に広がるのは真っ白な天井。
浮かんでいたはずの体はベッドの上で、腰から下には掛布団がある。
「また…この夢…」
進級してからたびたび見るようになった夢。
その夢はいつもこのタイミングでとどまり、少年はいつもこの時に止めようと手を伸ばす。
そして、目には涙がたまっている。
涙をぬぐった少年は起き上がり、ハンガーにかかっている制服を見る。
3年目となり、着慣れた制服。
桔梗の花の模様が描かれた独特な制服。
花言葉である気品と誠実さをここで育てることを、今通っている高校である縄印学園は求めている。
入学してからはあまりこの女性の着物のように思える制服になじむことができなかった。
最初はそれを着ているがために舞台のことを思い出してしまう。
机にある写真立てには中学生の頃の自分を中心に父親、そして大人たちに囲まれた写真がある。
自分自身は真っ白な化粧をしていて、おまけに女性の着物姿をしており、彼だけでなく大人たちの中にもその化粧姿と着物姿をした人もいる。
それ以外の男たちは父親も含めて江戸時代の侍や町人を思わせる衣装姿だ。
高原キョウタロウ、歌舞伎役者である父親の高原キョウイチの教えを受けて幼いころから歌舞伎役者として活動していた。
この写真は初めて主役を務め、無事千秋楽を終えた後のものだ。
ただし、高原キョウタロウよりも芸名である日向アマツの方が有名だろう。
歌舞伎役者としての教えを受ける中で成長した彼の体つきは女性のようにほっそりとしていて、趣味も読書やピアノということもあり、舞台ではともかく学校ではあまりいい思い出がない。
クラスメートの保護者の中で歌舞伎を知っている人の中では日向アマツとして好奇の目で見られ、クラスの男子からは女扱いにされ、いじめのターゲットにされていた。
歌舞伎役者としての活動をする都合上、転校を繰り返していたものの、その光景も待遇も変わりはなかった。
視線についてはあきらめがついたが、いじめだけは苦痛だった。
仲間外れにされるのはともかく、女扱いされることや弱虫呼ばわりされることが嫌で仕方がなかった。
やり返してやりたいと何度も思ったが、それで役者仲間や家族に迷惑になると思い、受け流すことに徹していた。
そんな中で始まった高校生活。
小中と何度も転校をさせて大変な思いをさせたこと、そして縄印高校という全寮制の高校に進学することができたのは好都合だと考えた父親の提案により、長期休暇の間だけ興行に参加するという条件で3年間をこの高校で過ごすことが決まった。
最初はいじめを警戒していたが、この制服のおかげなのかは知らないがいじめは嘘のようになく、あの大人たちの見せる視線以外は大して問題はなかった。
少ないながら友人もでき、まあまあな高校生活を送ることができている。
役者仲間や両親と会う機会が著しく減ったのは寂しいが、それも今年までだ。
制服を身にまとい、机の本立てにある読みかけの本を手に取る。
ちょうど登校時間となっていて、部屋の外からは生徒の声や足音が聞こえる。
部屋を出たキョウタロウはその中に入っていき、いつもと変わらない高校生活へと思考を戻していった。