ギャラクシーポリス   作:橘 花道

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#2

 優杜が眼を覚ますと、歯科医の診察台のような椅子に手足を固定されていた。

 頭上には怪しげな光を放つヘッドギアが浮いている。

身じろぎする音で起きたことに気が付いたのか、コート男が傍らに立つ。

 目深に被った帽子と襟を立てたトレンチコートで、明るい場所にもかかわらず顔が見えない。

 

「ご気分はいかがですかな」

「………」

「良いわけあるかいな」

 

 緑と白のコントラスト、カエルとしか思えない珍妙な顔の異星人が鼻息荒く登場すると、優杜に顔を近づける。

 

「まぁ、気分が良かろうが悪かろうが、実験できればなんでもええけんどな」

 

 カエルのような異星人の独特の口臭に、優杜が顔をしかめる。

 

「プロック人は初めてかね。まぁ、地球人にはなじみのない顔だが、根は良いヤツだよ」

「ふん、小悪党に根の良いやつなんか居るかい。起きたなら始めさせてもらうで」

 

 そう言ってカエル男は優杜の頭側に回り、なにやら準備を始める。

 

「安心したまえ、殺しはしないよ。もちろん、君の態度しだいだが」

 

 優杜は素直に従うという意味をこめて何度も首を縦に振る。

 

「返事ぐらいして欲しいな。君の身体を調べるだけさ、所謂健康診断さ」

「拉致って、体縛り上げて健康診断って、誰がそないなこと信じるかいな」

「うーん、比喩表現としては間違ってはいないが、まぁ、口も利いてくれないし、健康診断から、体を切り刻む人体実験に変更しようか」

 

 その言葉に、優杜は恐怖で身動ぎをして、

 

「そ、その、か、身体を調べるって…」

「ようやく口を利いてくれたようだね。これは健康診断だからね。リラックスしている状態が一番」

 

 とてもリラックスできない状況に追い込んだ当人が、リラックスしろと言う。

 

「大丈夫、薬を打って、その機械を頭にかぶせば一瞬で終わる。なに、痛いのは一瞬さ」

 

 顔色は見えないが、すごく悪そうな表情をしているのが想像できる。

 

「俺の体なんか調べても、何も有りませんよ」

「何にもないのも困りものだが、少なからず、君は地球人払い装置の中に踏み込んできた。だからこうして捕まっているんだよ」

「偶然ですって」

「あの装置の開発には膨大なお金と時間が掛かってる。偶然では済ませられないのですよ」

「じゃぁ、機械の故障ですよ。なので帰して下さい」

「さっき装置を調べたけど故障はありえない。次の仕事に差し支える要因があれば徹底的に調べて対策を立てたくなるだろう」

「なりませんよ。そんなこと」

「ならないか、地球人は本当に奥ゆかしいね。表現を変えてみよう。不思議とは思わないかね、君だけが我々の隠蔽装置を無視できたのかと」

「……思いますけど。原因が分かった所で、この状況が好転する分けじゃないでしょ」

 

 そう言って優杜は拘束されている手足を少しばたつかせる。

 

「確かにね、だが、君が協力的なら好転はしないが、友好的になる可能性はある」

 

 その言葉に、優杜は先ほどの切り刻んでもいいんだぞ的な発言を思い出す。

 

「…わ、分かりました、協力しますよ」

「良い心がけだ、では、早速検査させてもらおう。まずはリラックス、はい深呼吸」

 

 優杜が数回大きく深呼吸をすると、頭の上から。

 

「こっちも準備できたでぇ」

 

 カエル男が来て注射器を首筋に刺し、何かを注入すると、優杜にヘッドギアをかぶせる。

 小さな排気音と共にヘッドギアが頭部に密着し後頭部が少しチクリと痛む。

 視界がさえぎられ、診察台から少し不快な振動が伝わってくるような気がした。

 

「一応確認だが、異星人にさらわれた経験は」

「初体験中ですよ」

「おやそれは失礼した。すまないね初体験がこんなむさいおっさん達で」

「残念、記憶操作、チップや改造の形跡はないで」

「記憶操作もか、なら、他の星の遺伝情報は?」

「そっちもシロやな、異星人とのハーフじゃんないわ。九十九点九九パーセント地球人やで」

「でも、百パーセントじゃない」

「遺伝情報なんて勝手に欠損するさかい、百パーセントはありえんわ」

「………」

 

 なにやら考え込んでいるような気配がその場に沈黙が流れる。

 

「なんで、電柱なんて盗むんですか」

 

 視界がさえぎられ沈黙が怖くなってきたので優杜のほうから話題を振ってみた。

 

「うーん、良い質問だ。君、株はやるのかね」

「やってません。高校生だし、なにより金もない」

 

 最近では親が金持ちだとやっている同級生がいるが、未だに高校生で株をしているのは稀だ。

 

「それは残念だ。オワリポールという会社を覚えておくと良い」

「オワリポールって電柱の会社?」

「電柱の会社だ。コノサク人と言うのがいてね。これが石灰岩が好物でね。コンクリートなんか絶品らしい。共感は出来ないがね」

「食べるんですか、コンクリートを」

「うーん。キャンディーに近いなかな。バリバリする奴も、舐める奴もいる。特に長い年

月風雨にさらされたビンテージ物が裏で人気でね」

「ワインみたいなものですか?」

「これがただ寝かせればいいって分けじゃなくてね、劣化具合や粉の吹き方にもこだわりがあるのだよ。だから、厳選した一本を選んでいるわけさ。まぁ、その違いは全く理解できないけどね」

「だからって、電柱を盗んで良いことにはならないでしょう」

「ごもっとも、それに毎回電柱を盗んでいたのでは効率が悪い。安いとはいえ、自重固定装置もタダではないしね」

 

 電柱がなくなれば支えていたケーブルが垂れ下がるはずだが、そのような事は起こらず、停電も通信生涯も起こってない。

 結果的に最初の窃盗から発覚までに時間が掛かり、捜査の初動が遅れていると連日のニュースでも報道されていた。

 

「こんなことせずに、普通に買って売れば良いじゃないですか」

「そう問題はそこだよ。コノサク人が地球の電柱の美味しさに気づいてしまってね。普通に商売が始まってしまったのだよ」

「え、普通に商売するならいいじゃないですか」

「普通では儲からない。商品には付加価値をつけ、流通量をと価格をコントロールし、上前を撥ねる必要があるだろう」

「いや、そこまでしなくても」

「ふむ、この面白さが分からないか。やはり、株からやるべきだよ」

「おい、おしゃべりはそこまでや」

 

 ビーッビーッビーッ。

 

 カエル男の言葉と同時にけたたましくブザーの音が部屋中に鳴り響く。

 

「うーん、囲まれましたね、六人ぐらいですかな」

「余計な事ばかりするから、こないなるねん」

「いや、少年を拾ってきたのは必要な事だよ」

「その時に何か証拠残したんだろう」

「どちらかというと、七回目も盗んだ事だな。我ながらちょっと欲を出しすぎたと思うよ」

「もう、どっちゃでもええわ。さっさと逃げるで」

「少年、命拾い、いや記憶拾いしたかな、全部消える前に助けてもらえよ」

「え、どういうことですか」

「ただで返すわけないだろう。記憶はいじるさ」

「そんな話が…」

 

 命は取らない言っていたが、記憶に関しては確かに触れていない。

 

「まぁええわ、こえは貸しやさかいな」カエル男がかなりイラだ多々しく叫ぶ。

「割り引き効くと良いのだが」

「アホ抜かすな。手動かせ」

 

 掛け合い漫才のように言い合いながら、二人は優杜の前で何かを操作し始める。

 見たくともヘッドギアで視界はふさがれていた。

 

「ああ、バカコンピューターめ、早くデータ書き込めや」

「すまんね、貧乏がいけないんだよ。貧乏が」

「よし、いくで」

「達者でな少年。もう異星人なんか捕まるんじゃないぞ」

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