*20xx/4/2-22:22
【Galaxy Police】【浮遊警視庁 外事特科】と背中に掻かれた濃紺のジャケットを羽織った巨躯の人物が警視庁とか彼等パトカーの助手席から降りる。
「本当にここでいいんですか?」
運転席から警察官が、降りた人物に声をかける。
「ああ、ここでけっこう。現場は足でって言うだろう」
そう言って、不敵に笑ったのは赤褐色の肌に金色の髪、額には二本の短い角をはやす赤鬼のような顔をした異星人だ。
身長は百八十くらいだが、肩幅と腕周りは地球人より一回り半ほど広くて太い。
「犯行場所、次予想、未然に防ぐ」
そう言って赤鬼の背中から、ジャケットの後ろ襟が不自然に開いて、小さな異星人が顔を出す。
蒼い肌に銀色の髪、頭頂部には一本の小さな角、頭が大きく、ジャケット越しに見える腕や肩はやたら細い。
それが赤鬼の背中の窪みに、まるでカンガルーの親子のようにはまり込んでいた。
大きな赤鬼のようなほうが、ザーマック。
小さな青鬼のようなほうが、シレーム。
ゴンジーマ人は基本的に二つの異なる種族が共生関係で成り立っている特殊な生態系を持つ異星人だ。
二人は惑星ゴンジーマから来て、警視庁に協力をしている異星人で、公安部外事特科という異星人犯罪がらみを主に扱う部署で働いている。
二人は送ってくれた警察官に礼を言って、大通りから、人気の少ない住宅街へと入っていく。
「でもよう。予想って、まだ東京には何万本と電柱があるんだぞ。どうやって次に盗まれる電柱を探すんだ」
ザーマックの言うとおり、異星人の技術で送電方法も変わってきていて、街中の電柱は減って入るが、急激にインフラが進んでいるわけでもなく、住宅地には未だに多くの電柱が並んでいた。
「電柱、でかい、遠く運べない。アジト遠くない」
そう言ってシレームがザーマックのガジェットに、今まで盗まれた電柱の所在地を記したマップを表示させる。
「言いたいことは判るけどよこの十本の真ん中にアジトがあるわけでもないだろう」
「電柱隠す、建物、廃屋、条件、絞る」
そういうと、マップ上に赤い天が三点追加される。
「ここをしらみつぶしって事か、やっぱり捜査は足じゃねえか」
「違う、情報、精査、推理、重要」
「おうおう、頭使うことは任せるわ。だが、ここからはオレの出番だぜ」
「暴走、禁止」
そう言って自制を求めるシレームの言葉を無視してザーマックは走り出した。
―ドン!―
何かが盛大に破壊される大きな音に、優杜の心臓が激しく跳ね上がる。
「ギャラクシー・ポリスだ。大人しくしやがれッ」
ヘッドギア越しに鼓膜に痛みが走るぐらい大声をあげながら、誰かが入ってくる。
「うるさい」
「チッ、窃盗犯め、恐れをなして逃げたか」
「警察ですか、助けてください」
室内に侵入してきたシレームとザーマックが、拘束されている優杜の姿に警戒する。
「貴様は何者だ、ここでなにしてやがる」
「なにって、犯人に捕まって、記憶を消されそうになっているんです」
「装置、寄れ」
「ああ、面倒だこうすりゃ止まる」
機械を安全に止めようとするシレームを無視して、ザーマックが装置と優杜の拘束されているベットの間のケーブルを力任せに強引に引き抜く。
優杜の耳には突然バッチッと何かが弾ける音がして、一瞬鼓膜が破れたかと思える。
「安心しろこれで装置は止まった、問題ない、で、犯人はどっちに逃げやがった」
「今な何気に危険なことしませんでした。この状態で犯人見れるわけないでしょう」
「匂いと振動で解るだろう」
「分かるわけないでしょう」
「外せ、開放」
「ん、そんなの事後処理班に任せりゃ良いだろう。こうしている間に犯人が逃げるぞ」
「間に合わん」
「間に合うさ、建物は囲っている。逃げられん」
「#$&+<」
「*+(%$!!?&%$!!!」
言い合いがヒートアップしたのか、突然、未知の言語でののりしあう。
「ちょっと、喧嘩してないで助けてくださいよ。本当にギャラクシーポリスなんですか」
犯罪者のほうがやっている事は兎も角、言動は紳士だった気がする。
だが、優杜の言葉に痛い所を突かれたようで。
「わかった、わかった。ほらよ」
乱暴にヘッドギアが引き抜かれ、拘束されていた手足のベルトが切られる。
ようやく視界を取り戻した優杜の前には巨大な赤鬼の様な異星人、ゴンジーマ人が立っていた。
地球人だけでは手に負えない、異星人犯罪を抑制したりするのに、異星人の警察官がいるのは有名な話しだが、こうして目の前で見るのは初めてだ。
テレビや警察の広報ポスターなどではもっと紳士的なイメージだったが、実際に目の当たりにすると、がさつで少しがっかりとする。
「有難うございます」
手足をさすりながら優杜は、一応礼を言う。
「礼には及ばんこれが仕事だ。で、ここでなにがあった最初から…」
「ここ、来てから」
ザーマックの背中から声が響く。
優杜は腰を浮かして声がした場所を見ると、赤鬼の背中に小さな青鬼が寄生していた。
「えっと、その」
「わかったよ、ここに来てからのことを話せ」
テレビや、部長達から、ゴンジーマ人は赤い大きい方が肉体担当、青い小さい方が頭脳担当をしているという。
二人で一つの共同生活をしている、かわった異星人だ。
優杜は頭脳担当のシレームのほうを見て、掻い摘んでトレンチコートの男との会話を説明する。
すると、シレームが隠し扉がありそうな所を指差すと、ザーマックが待ってましたとばかりに駆け寄り。
「隠し扉だ」
ザーマックが壁を激しく叩き強引に隠し扉を破壊する。
覗き込むと、隠し扉の向こうにはマンホールのような蓋が跳ね上げてあり、地下に降りるような大きくない穴が開いていて、僅かながらに悪臭が漂ってきていた。
「下水に逃げ込みやがったな。さっさと後を追うぞ」
「時間、経過、ムリ」
そう言って穴に近づいたザーマックが自分の体の大きさと、掘られた穴を見比べで立ち止まる。
「お前ならやれるだろう、下水道の情報とかで割り出せよ」
そう言って、ザーマックは怒りをあらわにしてその辺の機械に八つ当たりする。
「空港、行く」
「はあぁ、空港に犯人なんかいるのかよ」
「いない」
「ああ、バカかいないなら意味ないだろう」
シレームとザーマックが再びいがみ合う。
「また喧嘩しないでくださいよ」
「うっせいよ。喧嘩じゃねぇ、こいつとはいつもこうだ」
「日常」
「そうなんですか、なら、いいですけど…」
「いいわけあるか、何でこんな頭でっかちとバディ組まされたのか、未だになぞなんだぞ」
「同感…」
「ははは…」
なかが悪いのか気が合っているのか分からない二人を見て優杜が思わず笑いを漏らす。
「でも、自分も空港に行くのに賛成です」
「なぜだ。小僧」
「異星人の科学力がどれだけ凄いか解りませんけど、物質を一瞬で銀河の果てまで運ぶなんて、それだけで莫大なエネルギーを必要としますよね」
「ああ」
電柱をどんな手段で運ぶのか見当も付かないが、あんな大きなものを運ぶのであれば、それなりのルートが必要だろう。
「犯人は経費をかけずに儲けたいわけだから、効率の悪い事しないと思うんですよ」
「言われてみれば」
「コノサク人向けの荷物を探して、発送を止めれば証拠を押さえられる可能性が…」
「むむむ…」
「少年、正しい。空港、行く、荷物、探す」
「わかった。わかった。今回はこの小僧に免じて、お前に従ってやる」
ザーマックは入ってきた勢いそのままに、激しい音を立てながら部屋を出ていった。
優杜一人、ポツリと部屋に取り残される。
「ええと…、動かないほうが良いんだよね…。これ」
シレームとザーマックの背中を見送りながら、優杜は暫くその場で救助を待った。
暫くして、優杜は警察官に保護された。
シレームのインカムから状況は送信されていた為、状況説明や調書の処理は簡潔に終了。
身体検査も行ったが心身に異常は見つからず、異星人達が言っていた特別な理由も分からないままだった。
警察も相手の機械の故障か偶然の可能性が高く災難だったねと言ってくれた。
結局、学校帰りに、異星人に拉致られ、警察署で事情聴取を受け、病院で検査をし、帰宅できたのは、次の日の夕方になってしまった。
春休み中でなければ、今頃面倒な事になっていたが、平穏な日常を送れそうだった。
その後、電柱窃盗事件はなくなり、ニュースにも上がらなくなった。
後日、プロック人が窃盗容疑で捕まったというニュースが小さく流れたが、異星人の顔の識別がしにくいので、あの時のプロック人かは不明だ。
他の協力者のプロック人かもしれない。
ただ、四本腕の巨人と、トレンチコートの男が捕まったという報道は未だに聞いていない。
近年、多くの異星人が地球に、特に門戸を開いている日本に来て生活している。
日本を「デジマ」などと揶揄する外国もあり、異星人がらみの奇怪で奇特な他愛のない事件から、重大な犯罪まで日々発生している。
その全てを警察が迅速に対応し、未然に防ぎ、事件を解決しているとはいえない。
それでも、犯罪抑止のために東京上空には、今日も浮遊警視庁が宇宙人犯罪に目を光らせていた。