東京都O区の鎌羅地区は、不法滞在異星人が関係したは犯罪が多発している。
人数が多く、戦闘に秀でたサイード人で構成されたチーム『シャリード
盗賊団』は敵対組織への一斉攻撃を目前に控えていた。
その会議の場に、屈強な新入りが入ってきて…
『黒の魔天』
アジトの空気は緊張に満ちていた。
不安定に点灯する照明に引き寄せられた蛾が、薄汚れた丸テーブルに不気味な影を落としている。
ニホン人が廃棄していた粗大ゴミで作ったプレハブのアジトだ。
カルブ・シャリードは、愛用のククリナイフを研ぎ終え、刃の歪みが無いかを確かめた。この星に来て手に入れた刃物の中で一番のお気に入りだ。
問題ないことを確認してから指先で回して鞘に収めた。
「お前ぇ等、今までよく辛抱してくれたな」
テーブルを囲むのは、カルブと同じ屈強な体躯を持ったサイード人だ。
「頭こそ」
「遂に、この時が来たんですね」
「応よっ。今日こそ、ここ鎌羅の全てを手に入れる時が来たんだ。華が咲く日が来たんだぜぇ」
「俺たちが鎌羅の王かッ」
「今まで散々下に見てきた連中を見返してやるぜ」
銀河連邦中心で製造される機械製品の純正品は非常に高価であるため、辺境の星では安価なコピー品が出回ることが多い。
そこで、仕事に都合が良い場所を見つけては、ゴミの山から自分たちの技術でコピー品を大量に製造し、かなりふっかけた値段で地元企業に売りつけ、場合によっては流通にも口を出す。
そして、機械はその内壊れる。
しかも、ニホン人はそれを安く捨てたがる。時には人気の無い場所に投棄する。無料の回収業者に引き渡すことさえある。
それを回収しては自分たちの技術でコピー品を以下同文という感じに、ローコストハイリターンで金を生み出すサイクルができている。
鎌羅地区は、巨大なゴミ収集場所を保有し、三つの鉄道が交差している上に空と海両方の港を持つ素敵すぎる場所だ。
不法滞在の異星人が入り込んできてからは、違法パーツ製造の温床になり、陸・海・空の販売ルートで様々な機械が世に出回っていった。
当然金が集まるので街は大きくなっていき、飲食店・風俗店・様々な娯楽施設は数を増し、タワーマンションも雑草が生えるような勢いで建ちまくった。
しかし、そのうま味に目を付ける輩は沢山いるもので、抗争は日夜発生している。
ここ最近はパワーバランスが崩れ始め、カルブ達の『シャリード盗賊団』に流れが向いていた。
今日の作戦が成功すれば、鎌羅における絶対的優位な所に立つことができる。
「カルブ兄ぃ。そろそろ作戦の確認をやらねぇか?」
「キット。その前に・・・だ。お前ぇの後ろに居る新入りの紹介が先じゃあねぇか?」
キットは硬質顎を広げてニィと笑った。
「ああ、紹介しようじゃねぇか。こいつこそ、俺がこのニホンで出会った最高の仲間さ」
影に隠れていたサイード人が一歩前へ出ると、照明の光で顔が露わになった。
「・・・名前は?」
「テンマというモンです。アス・テンマ」
テンマと名乗ったその男に、カルブは本能的な危機感を覚えた。
戦闘に適した民族であるサイード人とはいえ、その男の躰は凄まじく鍛え上げられたものだった。
丸太のように太い腕、くすんでいるが厚くて硬そうな皮膚。見るからに丈夫そうな硬質顎と牙を持っていたが、何よりも凶暴な中にも深い知性を秘めた瞳は吸い込まれそうな力を秘めていた。
「鎌羅駅地下通りの段ボールハウスに住んでやがったんだ。俺が他の異星人と揉めてるところに躍り出てきた。俺と一緒に瞬く間に連中をぶちのめしたんだ。そんな腕っ節と度胸を見込んで、俺が連れてきたってワケさ」
「・・・いいだろう」
カルブは、テンマに一瞥をくれた。
「今日からお前ぇも俺たちの仲間だ。そんなとこに突っ立ってないで、椅子に座れ。今日の説明を始めるからな」
カルブは、粗大ゴミを分解して作り上げた3Dディスプレイを起動させ、鎌羅地区の映像を映し出した。
重要拠点を赤くマークしてある。
「長い調査活動のおかげで、ようやくこの地区に存在する敵の活動拠点が割れた。今回の作戦では、その中心組織を構成する5団体に対して一斉攻撃をかける」
キットが親指を立てた。
「3人体制でA班からE班までの配置は完了しているぜ」
頷き、各班の位置情報を青でマークした。
「連中の動きは把握している。バンで近づき、中の二名で強襲。狙いは各目標のトップだけだ。始末した後、再びバンで逃走する」
キットがニッと笑った。
「東京進出を狙っているこの国のギャングから来た身代わり連中の出頭準備も万全だぜ。襲撃犯はこいつらに擬態させてある。十五人分だから、弁護士費用やらなんやらで結構金がかかるな」
テンマと名乗った男が3Dディスプレイに映った十五名のニホン人の顔をじっと見ている。
「ギャングと共闘しての襲撃か。手に入れたシマは折半するのか?」
「あいつらのことを、この国ではクミとかいうらしい。危ない橋を渡るのはこっちだ。連中と共闘する形だが、あいつらに金を出す気もないし、手綱を握られる気もねぇよ。せいぜい三対七くらいの比率だな」
テンマがフッと笑った。
「気に入ったかい。ルーキー?」
「ああ、野良犬にしてはよく考えたもんだ」
「なんだとッ」
「いきり立つな。野良犬が浅知恵で餌を探すなら、俺たちのような首輪付きの犬もまた、浅知恵を絞って獲物を狩りに出かける。いわば、似たもの同士だ」
「手前ぇ、何モンだっ」
テンマの横にいたキットが立ち上がり、ナイフを突き立てようとした――しかし
「ぐぁっ」
突然、キットの躰が吹き飛ばされ、プレハブの壁に叩きつけられた。見えないハンマーに殴られたように見えた。
「何だ?」
テンマとキットの横。何もない空間に一瞬揺らぎが見えた。
「……光学迷彩か」
テンマは答えず、小型の無線機のようなものを取り出した。
「音無。先ほど視認した顔情報からターゲットは割り出せたか?」
『モチのロンだよ、隊長! 既にGP3、GP4へ送信済み。B、D、E班はGP4の有効射程内』
『GP4よりGP1へ。狙撃準備完了。許可を』
「――撃て」
無線機から発砲音が響いた。
「何だ? 何をしてやがるッ」
「A班、C班の特定を急げ」
『GP3よりGP1へ。立体駐車場に潜伏中のA班、C班の無力化に成功』
「よくやった。襲撃犯は予定通り所轄と協力して本部へ連行しろ」
テンマは通信を切った。
「何をしやがった?」
「聞いたとおりだ。先ほどお前からご丁寧に説明してくれた襲撃犯は全てこちらで押さえた。後はこの場の連中だけだ」
「野郎っ」
団員達がマシンガンを取り出し、テンマと謎の透明人間の方向に銃口を向けた。
だが、トリガーに指がかかった瞬間、窓ガラスが砕け、四人全員の銃器がはじけ飛んだ。
「今度はなんだっ」
床に落ちたマシンガンに、ライフル弾クラスの穴が開いており、穴の周囲に粘ついた赤い液体が付着している。
「血・・・だと・・・?」
「訂正がある」
椅子に座っていたテンマが立ち上がった。
「ああッ?」
「私の名前だ。アス・テンマではない。本当の名は、アスワード・マーテン。警視庁公安部 外事特課 強行犯捜査第一係の係長だ」
「聞いたことがあるぜ。浮遊警視庁の鬼警部だッ」
「しゃらくせぇッ」
カルブはククリナイフを抜き放ち、アスワードに向かって飛びかかった。
「むんッ」
速く、重い斬擊だった。くすんだ日本刀の一閃が、カルブの手に持ったククリナイフを両断していた。
「悪の華も咲くだろう。実を結ぶこともある。本物の力を持ったもの達ならばな。しかし、お前たちはお粗末だ。力なき者は華が咲いても実はならなぬ。・・・・・・それをこの国では
【徒花】と呼ぶそうだ」
◎登場人物紹介
※異星人の年齢は地球人に換算したものです
○アスワード・マーテン(45)※
警視庁 公安部 外事特課 強行犯捜査
第一係 係長。階級は警部。
彼が指揮する第一係は『アスワード小隊』と呼ばれている。
○カルブ・シャリード(45)※
サイード人のみで構成される『シャリード盗賊団』の頭領
鎌羅地区の覇権を狙う
○キット・シャリード(44)※
カルブの弟