ギャラクシーポリス   作:橘 花道

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◎簡単なあらすじ
 外事特課 強行犯捜査第二係の小山凛子は、アスワード率いる一係と比べて全然活躍できていないことを不満に思っている。
 事件を探す中、五年前に発生した詐欺事件の話を聞くが、既に時効は過ぎていた。
 しかし、その時効にはとある欠陥が存在することが判明する。


捜査報告書 No.5【奇妙な時効】- 小山凛子メイン
#1『事件を追ってサボタージュ』


 浮遊警視庁の食堂で注文したボンゴレビアンコが素晴らしい香りを放っていた。

 

「よっしゃ、喰うぜぇ」

 

 ザーマックはフォークとスプーンでパスタを巻いて食べ始める。

 パスタを日常的に食べる国ではフォークだけで食するそうだが、ザーマックは未だにそれができないでいる。

 ついでに言えば、日本人がラーメンなんかを食べる際にやる"すする"という芸当もできない。インフェリシタス人のヘリアンテス・ルクサ・イグニースなんかは、音をたてて食べる行為が下品だと言って、よく倉林美希と喧嘩している。ザーマックはそうは思わないにしても、不思議な食べ方だと思っていた。

 

「さて・・・」

 

 ボンゴレビアンコの象徴とも言えるアサリの身にフォークを引っかけ、殻ごと口の中に放り込む。

 バリボリと砕ける絶妙な歯ごたえ。飲み込み、胃に入る頃には躰が求めていた栄養素が染み渡り、何とも言えない幸福感に包まれていた。

 

「相っ変わらず変わった喰い方ねぇ・・・そんなモノまで食べなくてもいいでしょ」

 

 目の前の女が目元をひくつかせて軽蔑するような眼を向けてきた。ザーマックと同じ公安部 外事特課 強行犯第二係の同僚である小山凛子だ。

 髪の毛という不気味に頭部にだけ生えた体毛をセミロングと呼ばれる長さに揃えている。人間の女にしては筋肉質で、スカートから伸びるふくらはぎはしっかりとバネがありそうに膨らんでいる。血色も良く、そこそこ丈夫な子供を産めそうだ。

 乳房という、子供に乳を与える器官は平均よりも大きめに見える。正直、この脂肪の塊に何の必要性があるのか理解に苦しむが、周囲の職員を魅了していることから、人間の眼から見るとそこそこイケてる女なのだろう。

 顔立ちはほぼシンメトリーなので、そこだけは評価できる。

 ザーマックに言えることは、人間の中の美人であることと、その美点を覆すほど口が悪いということだけだった。

 

「俺の硬い外皮の維持にはそれ相応の栄養素が必要なんだよ。お前等と同じような食事をしてたんじゃぁ、追いつかねぇ」

「サプリ飲めば?」

「あんな錠剤よりもアサリや伊勢エビの方がよっぽど美味いぜ」

「異星人の感覚ってわからないわ」

「けっ。この旨さがわからねぇとは、可愛そうな生き物だぜ」

 

 見ると、凛子は海老フライの身の部分だけを食べ、カリカリになっている尻尾を残している。殻ごと揚げない理由もサッパリわからないが、尻尾まで拒否するとは・・・。いったい何が美味くて喰っているのだろうと思う。

 そんな事を考えていると、ポケットに入れていたギャラフォンが鳴り始めた。

 マナーモードにしていたので、ザーマックの硬い外皮に当たり、ガチガチッと嫌な音が周囲に響いた。

 

「どうにかならないの? それ」

「うるせぇ。通常はマナーモードにしろと言われたから設定しているだけだ」

 

 実際、ザーマック自身迷惑している。外皮を通じて躰中が振動してしまうので、着信の度に嫌な気分になるのだ。

 電話に出る。相棒のシレームだった。

 

『・・・今、何処にいる・・・?』

「食堂だ」

『凛子も?』

「ああ、俺にとってのごちそうを残しているけどな」

『・・・早く戻れ。過去事件の異星人関係分類報告期限・・・今日の18時・・・』

「頭を使うのはお前の専門だ」

『・・・お前の専門は?』

「躰を張って犯人を検挙することだ」

 

 電話の向こうで溜息が聞こえた。

 

『お前たち馬鹿二人のせいで・・・まともな事件・・・回ってこない・・・お前の仕事はない』

「言ってくれるじゃない、シレーム」

 

 急に凛子が割り込んできた。

 

「だいたい、アスワード警部の係が仕事を持っていきすぎなのよ。わたしたちだって、やればできるんだって証明しなきゃ駄目ね」

「凛子、口元に海老フライの衣がついてるぞ」

「うるさいわね」

 

 少し頬を赤らめながら拭った。

 

「そうと決まれば出かけるわよ」

『・・・分類報告・・・・・・』

「シレームにはその仕事が適任よ。わたしたち二人は外に出るわ」

『・・・何をしに・・・?』

「事件が割り当てられないならば、自分の足で事件を探しに行くのよ。刑事ってもんは、足を使ってナンボなんだから」

「なるほど、よく聞くフレーズだな。そういう意味だったのか」

『・・・ザーマック・・・騙されるな・・・』

「善は急げ。さぁ、行くわよザーマック」

「待て、ボンゴレビアンコがまだ終わってない」

 

 まだ半分以上残っているのだ。

 

「もう美味しくないわよ、それ・・・」

「馬鹿、そんなわけあるか」

 

 急いでかき込む。

 

「・・・・・・・・・あれ・・・?」

 

 先ほどまで食べていたボンゴレの味ではない。冷めている上に、妙に油っぽく感じる。

 

『乳化状態・・・終わった・・・』

「乳化?」

『油と水分の一時的な融合状態・・・すぐ解ける・・・だから、早く食べないと美味しくない・・・もう、手遅れ・・・・・・』

「くそがっ。お前等のせいで美味いメシが不味くなっちまったぜ」

 

    ☆    ☆    ☆

 

 ザーマックと凛子が来たのは、高岡高校の校庭だった。

 

「おい、凛子。どうするつもりだ?」

「うるさいわね。そろそろ次の授業でグラウンドに生徒が来るわ。隠れるわよ」

「?」

 

 ワケがわからないまま身を隠すと、言った通りに生徒が体育の授業でグラウンドに出てきた。

 

「しめたっ。あの子がいるなら好都合だわ」

 

 それは、ザーマックも良く知る男の子だった。そして、都合の良いことにその男子生徒は飛びすぎたサッカーボールを追いかけて茂みに近づいてきた。

 ボールをグラウンドに蹴り返し、戻ろうとした男子生徒に凛子の小麦色の腕が伸びる。口をふさぎ、吃驚した男子生徒は暴れるが、警察官の腕力には適わない。たちまち押さえ込まれてしまった。

 

「はぁい。可愛いボク、ちょっとお姉さん達とア・ソ・ビ・マ・ショ❤」

 

 男子生徒もとい羽咋優杜は青ざめた顔で凛子とザーマックを見つめていた。

 

 事の次第を話す。

 

「要するに、暇だから仕事くれってことですか?」

「違うわ。アスワード警部達ばかり目立つからしゃくに障るだけよ」

 

 優杜が残念な人を見る眼で凛子を見つめた。おそらく、なんで外事特課に入れたのか不思議がっているのだろう。

 

「とりあえず、授業に戻っていいですか?」

「駄目よ。サボりなさい」

「ちょっと、そんなの嫌ですよ」

 

 凛子は優杜の顎を人差し指でくいっと持ち上げた。

 

「今、この瞬間にも罪のない人間が被害にあっているかもしれないのよ。その解決に協力しようというのが人情ってものでしょう?」

「・・・今、この瞬間僕が迷惑を被っているのは?」

「うるさいわね。ちょっとサボったことろで問題ないわよ」

「何でそんなことが言えるんですか?」

「わたしたちを見なさい。仕事をサボって仕事を探しに来ているのよ。それでも生きていけるんだから、何とかなるわ」

「・・・いや・・・でも・・・・・・」

「面倒くさいわね。これ以上ごねるなら、公務執行妨害で君を逮捕するわよ」

「横暴だーーーーッ」

 

 てんやわんやだったが、優杜は観念したようだった。

 

「異星人関係の犯罪・・・僕ははっきりとしたことは知りませんけど、隣のクラスの女子が不思議な事件に遭ったって言ってました」

「ほうっ」

 

 その女子生徒の名前は佐伯美和といい、体育は優杜のクラスと合同授業だった。もちろん凛子は美和が誰かを特定するやいなや、優杜の時と同じ手口で茂みに連れ込んだ。

 

「五年前だったわ。あたしのお母さんは、異星間交流が始まるから、他の星に旅行に行きたいって思ってたの」

 

 そんなある日、ある男が近づいてきた。

 バリッとした高そうなスーツに身を包んだイケメンだったそうだ。

その男は、限定百人の団体で銀河連邦加盟五カ国の旅行を五十万円で行けるというプランを紹介してきた。

 

「うちのお母さんって、舞い上がるとロクなことにならないの。お父さんは随分前に死んじゃったから、正常な判断がつかなくって・・・」

「欺し取られちゃったってわけね?」

 

 美和はコクンと頷いた。

 ザーマックは、外事特課にある自分の端末にアクセスし、シレームが分類したファイルを覗いた。

 

「あったぞ。7年前だが、惑星サギールのカミーノとかいう奴が同じ手口で捜査の手が伸びている。海外逃亡して逃げ延びているから、逮捕はできなかったみたいだな」

「詐欺かぁ・・・ちょっと待ってね」

 

 凛子はギャラフォンをいじり始めた。

 

「長期10年未満の懲役又は禁錮に当たる罪については5年・・・なるほどね」

「なんの話ですか?」

「時効よ。詐欺罪は懲役10年未満の犯罪だから、5年経過すると逮捕できないの」

「そういうのって、記憶しているものじゃないんですか?」

 

 凛子は優杜のツッコミを無視した。

 

「時効が無い犯罪もあるよね?」

 

 美和が言った。

 

「殺人等の犯罪は時効がたしか無いな」

 

 優杜が手を上げた。「異星人が地球人に擬態するのって、犯罪じゃなかったでしたっけ?」

 ザーマックは首を振った。

 

「擬態そのものは違法じゃないな。日本人がよくやるコスプレみたいに、異星人が一人で地球人の格好をしたり、元が異星人だと知っている相手と遊ぶのは構わない。しかし、それと知らない相手に対して地球人のフリをしてコミュニケーションを取ると犯罪だ。懲役5年未満だな。もっとも、今回は詐欺罪が10年未満だから、擬態の罪単体が裁かれることはないだろう」

「美和ちゃん、お母さんが欺されたのって、いつの話?」

「四月一日よ」

「一ヶ月前に時効成立してるな・・・」

「というか、エイプリルフールじゃない」

 

 たしか、この星の風習で嘘をついても良い日だったはずだ。

 どうでも良い情報なのに、面白そうだから覚えてしまった。

 何か他に情報がないか、ギャラフォンを再度操作する。

 

「ん? 待て。こいつは犯罪を犯すと恐るべき速さで国外逃亡して行方を眩ましている。その間はたしか時効のカウントが止まるはずだ。まだ希望はあるぜ」

「あの、ところでザーマックさんと小山さんって、強行犯捜査第二係でしたよね? 詐欺罪って仕事と関係な・・・」

「さぁ行くわよッ。悪い異星人をふんじまれーーーッ」




◎登場人物紹介
 ※異星人の年齢は地球人に換算したものです

 ○小山凛子(23)
  公安部 外事特課 強行犯第二係の巡査。
  ブレーキがイカれた暴走機関車

 ○シレーム・ヴ・ザーマック(27)※
 警視庁 公安部 外事特課 強行犯捜査第二係 巡査の二人。

 ○羽咋優杜(16)
  高岡高校の2年生

 ○佐伯美和(16)
  優杜の同級生
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