ギャラクシーポリス   作:橘 花道

18 / 78
捜査報告書 No.6 【110番の女①】- 百枝十香メイン
『辞令、受け取りました・・・』


 あたしの目の前に一枚の紙があります。デカデカと辞令と書いてあります。

 もーちょっと詳しく説明すると、受令者の名前は百枝十香。府中警察署 地域課から浮遊警視庁 地域部 通信指令本部への転属を命ずる。って書いてあります。

 

 もちろん、百枝十香というのは、あたしの名前です。

 

 年齢は二十歳ちょうど。

 高校卒業後、東京都の警察官採用試験を受験し、なんとか受かって巡査を拝命しました。

 コネがあるとか、特別な能力があるとかは一切無い、ただの女性警察官です。

 

 目の前に居る、頭頂部が薄くなった恰幅の良いオッチャンは、しんみりと窓の外を眺めていましたが、くるりと振り返ってあたしの方に目を向けました。

 府川忠治警視。あたしが今居る所轄の署長です。

 年齢はあたしより十個上。オッチャンなどと言いましたが、結構若いです。貫禄がある方なのです。あ、所謂キャリアさんです。

 

 辞令を渡した署長は寂しさと栄転への期待をない交ぜにした、なんとも爽やかな笑顔でこっちを見ています。

 署長の後ろの窓から、あたしの新しい職場である浮遊警視庁が見えます。右から左へと、スィーーーって感じで移動しながら…。

 

 浮遊警視庁っていうのは、あたしが小学生くらいの頃に起きたテロが原因で、霞ヶ関にあった警視庁っていう建物と、異星人の巨大宇宙船が融合してできた、東京都地方警察本部であり、地球人と異星人が一緒くたになって暮らしている現代日本のシンボルです。

 

 何となく想像できるんじゃないかなぁと思いますが、SFチックな浪漫を感じさせる職場ですので、今の警視庁採用試験はとっても倍率が高いです。キャリアの人たちも凄く異動したがっているって聞きます。警視庁は大きな積雲のようにプカプカと浮いていますが、警察庁や、あたしが今居る所轄は地面にありますからね。

 ここ十年くらいの間に警視庁の門を叩いた学生達の志望動機のほとんどは、お空に浮かぶ職場で働くことを夢見た人たちが大多数なんじゃないでしょうか。

 飲み屋で浮遊警視庁に勤めているなんて言った日には、もうヒーロー扱いでモテモテです。

 そんな場所に配属されるとは、つい最近まであたしは思いもしませんでした。希望はおろか、夢見たこともありません。

 

 もう一度辞令をマジマジと見つめました。目をゴシゴシと擦っても、文面に変化はありません。結婚式のブーケみたいに投げたら、お巡りさんたちの争奪戦が始まりそうな紙切れの文面に変化はありません。

 口元をきつく結んだ府川署長が立ち上がり、「百枝十香巡査、新天地でも頑張るようにッ」

 

 警察官らしく暑苦しい口調で告げました。

 

「はいっ。ありがとうございますッ」

 

 反射的に敬礼しましたが、膝が凄く笑っています。

 

 今の気持ちを率直かつ端的に表現すると、凄くオシッコが漏れそうです。

 感動や、緊張の為では断じて無く、切実な恐怖心故に、です。

 

 聡明な皆さんなら、もうどういうことかお察し頂けると思います。

 

 あたしは、高所恐怖症です…

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。