ギャラクシーポリス   作:橘 花道

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#2『その名はジェスター』

 懐かしい。

 矢原の脳裏にまず浮かんだのはそんな感情だった。

 懐中電灯で照らされた光景一つ一つが写真のようだった。13年前の傷跡が、まだ癒えずに生々しい恐怖を感じさせている。

 進藤は周囲の雰囲気に完全に呑まれ、矢原の後ろで小さくなりながら、ちょこちょこ着いてきていた。

 

「先輩~…もっと大人数で来た方が良かったんじゃないですかぁ?」

「うるせぇ。たかだか小学生一人を保護しに来ただけだろうが」

「だって、外の巨大ロボットなんか、こっちを見下ろしているみたいで気味が悪かったんですよぉ」

「大袈裟すぎるだろ。たかだか4・5メートルくらいじゃねぇか」

「何言ってるんですかぁ。直立状態で18メートルくらいからこっち見てたんですよぉ」

「馬鹿言え。お前は知らないだろうが、あのモビルスーツは事故で壊れて跪いた状態になって放置されてるんだ。お前の見間違いだよ」

「でもぅ…うわっ何だ、コレ?」

 

 進藤が指さしたのは、床に開いた穴だった。タイルがジグザクにひび割れており、見方によっては巨大な怪物の口のようにも見える。

 

「事故の時の爆発で開いた穴みたいだな。タイルの破片がこの階の床に散乱している」

「ホントだ。じゃあ、下の方からの圧力で床が吹っ飛んだんですね?」

「おそらくな」

「なんだか、空気の音が化け物のうなり声に聞こえ…先輩、何処に向かおうとしているんですかッ?」

「下だよ、決まってんだろ。あの子供三人も下の方を探索していたっていってたじゃねぇか」

「それはそうですけど…ああ、先輩待ってくださいっ。置いていかないでぇ…」

 

 階段で下に降りれば降りるほど、薄気味悪さが増していくようだった。

 

「何処に向かっているんですか?」

「地下の制御ルームだ。子供が見て面白そうなのは、多分あそこしかねぇからな」

「詳しいんですね」

「俺はその頃から港湾署にいたんだ。まぁ、街の方が別物になっちまったが」

「お台場エリアの一部が閉鎖されたのも、その頃でしたっけ?」

「ああ、元々このお台場エリアは、今有明に住んでいる異星人達の商工業地区に改造する予定だったんだ」

「え? そうなんですか?」

 

 進藤が知らないのも無理ない話だった。当時から警察として治安維持に努めていた矢原達は知らされていたが、一般には公開されていない計画だったのだ。今あるヘリオン0が異星人技術を使用した変電所であることも、テロが発生してから開示したくらいだ。

 理由は色々あるが、攘夷派の存在が大きい。

 矢原自身、異星人に対しては色々思うところがあるが、あの過激派連中ほど迷惑な集団もいなかった。

 史上初の異星人殺害事件から始まった対立感情は日本人・異星人間の国交に致命的なダメージを与えていた。

 連日のニュース番組で映る総理、官僚、与党議員は揃いも揃って顔面蒼白の充血眼であり、日本兎集団(ジャパニーズ・ホワイツ)と呼ばれていた。

 

「…気の毒でしたね。僕はまだ子供でしたけど、テレビ付けると連日頭下げているお偉方が居た印象がありますよ」

「ま、そういうわけで、居住エリアは残っちゃいるが、働き場所は他の区に行くしかなくなった。その後は、家から遠いとか何とか理由をつけて、どんどん本土に住み着き始めやがった。兎集団は断れる筈もなし。ってな」

「そういえば、線路ってこっちにも通ってるんですね?」

「ああ、昔はレインボーブリッジから、このお台場エリアの北側から中央付近までをグルリと回るようにゆりかもめが走っていたんだ。中央が閉鎖されてからは、ショートカットするみたいに青海駅に直通しちまったけどな」

「その頃のことは、あまり良く知りませんね」

「この辺りを回るゆりかもめの風景は、結構綺麗だったんだ。なんだか、子供の頃見ていた未来の風景を見ているようだったのを思い出すぜ」

「テロが起きたのはわかりますけど、何でヘリオン0は閉鎖されたままなんですか? 原発でもないのに」

「その辺りの詳しい事情は俺も知らないな」

「怪物が出るからとか? 以前から結構噂になってますよね?」

「……」

 

 矢原は目線を上に向けて沈黙した。それが何か嫌な流れかと感じたのか、進藤が慌てて両手を振り始めた。

 

「いやぁ、ジョーダンですよ。ジョーダン」

「それも、全くでまかせな話でもないな」

「え?」

「ここを襲ったテロリストは、もちろんいた。けどな、このヘリオン0の破壊には、何か別の存在が居るっていう説がある。テロリストだけでは、どうにも説明がつかない部分が多いからだ。裁判だってまだ続いている。だから、現場を簡単に荒らすことができず、今でもこうして残されているんだよ」

 

 階段の表示は地下6Fとあった。この階の奥に制御ルームがあったことを思い出す。壊れたドアを潜ったとき、妙なものが見えた。

 

「あれは…」

「なんです?」

 

 階段のすぐ隣の部屋は倉庫だった。かなりの広さがあり、木材や鉄骨などの他、怪しげな建築用資材が山と積まれており、このヘリオン0が街作りの重要な拠点であったことを物語っている。しかし、異質な部分が一つだけある。それは格納庫の扉だった。他の部分が爆発の衝撃でも崩れていないのに対し、ここだけが開いている。それも、衝撃や振動によるものではなく、横にある開閉パネルを壊して無理矢理開けたように見えた。

 

「何か出てますね」

 

 進藤が懐中電灯で照らすと、極太の金属パイプと電圧で伸縮する人工筋肉で構成された三メートルほどの金属骨格が浮かび上がった。中央に開いた空間に操縦桿らしきものがある。一番上には頭部らしき物があり、眼のように付随しているターレットレンズが不気味な視線で虚空を見つめている。

 

「作業用のエグゾスケルトンだな」

「ああ、あのパワードスーツみたいなやつですね」

 

 おそらく、この街を異星人街に造り替える目的で配備されたものだろう。よく見ると、大型のアームやらドリルやらが並んで置いてあった。

 直立で整列している何十体ものエグゾスケルトン。埃を被ってたたずむその姿に、矢原はなにやら忘れられた労働戦士のような哀愁を感じ、思わず敬礼したくなる衝動にかられた。

 

「ん?」

 

 矢原の脳裏に何かが引っかかった。

 投げ出された機体と整列している機体。その中を順にライトで照らす。

 矢原は走り出した。

 

「先輩っ?」

 

 真っ直ぐ制御ルームへ駈ける。

 

「どうしたんですか?」

「埃だよっ」

「は?」

「投げ出されたエグゾスケルトン。あれが背面よりも頭や肩に多く積もってやがった」

「それがどうしたんですか?」

「自分の部屋のテレビとか思い出して見ろ。埃ってのは上の面や土台には嫌になるほど積もっても、側面はそうでもねぇだろ。つまり、手前の機体が投げ出されたのはつい最近のことだ。おまけに、揃いもそろって腰部分のコードが乱暴に引きちぎられてやがった」

「えーと・・・?」

「ようするにッ」言うが早いか、矢原は制御ルームに躍り出た。

 

「――ッ・・・・・・こういうこった」

「へ?」

「ん~~?」

 

 電子機器が並ぶクリーム色の壁の内、一面だけに大型のモニターが設置され、下にある端末で操作できるようになっている。電源が落ちているにも関わらず、モニターから淡い光が放たれ、金属骨格で覆われた異形の存在を浮かび上がらせた。

 

「うわっ・・・あれ何ですかっ?」

 

 そこに居たのは、一体のエグゾスケルトン。しかし、どんな魔改造を施したのか、背中から生えたマニピュレータの先に、大型アーム・ドリル・チェーンソーに、何かの噴射装置が備え付けられている。フレームを覆う人工筋肉が細かく伸縮し、さながら独自の意思を持っているかのごとく複雑に稼働していた。どう考えても、乗り込んでいる人間が操作しているとは思えない。しかも、中にいる人間は・・・

 

「・・・子供?」進藤が言った。

 

 小学校高学年くらいの男の子。外見の特徴から察するに、例の葉桜皐月少年に違いない。

 エグゾスケルトンの頭部が回転し、ターレットレンズが矢原達の方を向く。ピントを合わせるように回転し、カメラ独特の収縮音が鳴った。

 

「……だ……れ…だ…?」

 

 虚ろな表情で絞り出すように声を発した。

 進藤が一歩前へ出た。

 

「葉桜皐月君だよね? 君のことを心配した友達に話を聞いてきたんだ。さ、そんなのから降りて帰ろう?」

 

 首をグリンっとこっちに向け、

「んー? うん?」

 

 大きく開いた眼の眼球が機械のように上下左右にグルグル回り、ようやく矢原達の方に焦点が合った。

 

「――進藤ッ。離れろ、正気じゃねぇッ」

「⁼あ~~~」

 

 そんな矢原達を見た皐月が欠伸をするように大きく口を開けた。と同時に、マニピュレータの一つが進藤達の方を向いた。

 

「くそッ」

 

 とっさに進藤にタックルし、二人して転げ回る。

 かわしたのと、マニピュレータの噴射装置からレーザーのようなものが床を切断したのはほぼ同時だった。切断面に水滴が残っている。

 

「ウォータージェットだったのか・・・」

 

 マッハを超えるスピードで水を発射し、鉄さえ斬り裂く機械だ。

 

「あ・・・あぶないじゃないかっ」

 

 進藤が言うと、完全ににイっちまってる皐月少年が、口をパクパクさせながらしゃべり始めた。

 

「HAHAHAッ。なんだぁ? 真っ二つは趣味じゃねぇか? んじゃぁ、腹潰してボン・キュッ・ボンになるのと、穴あきチーズになるのと、ミンチになるのと、どれがイイんだぁ?」

「そういうこと言ってんじゃないよっ」

「Ohー。オイラのオススメを聞きたいのかぁ~。そうか、そうか。それじゃあ応えてしんぜてやろうじゃないかッ」

 

 少年が操る鋼鉄の外骨格から伸びる四つのマニピュレータが動き出す。

 

「遊びは余すことなく楽しもうぜぇ。フぅルコぉスぅだぁぁッ」矢原達めがけて突っ込んできた。

 

「先輩っ。ぜんぜん話が通じませんよぉっ」

「んなことわかって・・・どわぁっ」

 

 突っ込んできた機械の塊を躱すと、すぐ後ろの壁がズタズタに引き裂かれた。

 

「先輩っ・・・この子・・・はぁっ・・・いったい・・・」

「悪い異星人に操られているんだ。そうに決まってる」

「なんて安直な・・・」

「ヒヒヒヒヒィ。悪い異星人。異星人ねぇ」

 薄気味悪く嗤いながら、マニピュレータをタコ足のように広げてみせた。

「さぁ、クイズですッ。オイラの名前は何でしょう? 正解者にはァ素敵な賞品をプゥレゼントォォォ……ってなぁぁッ」

 

 異音を放ちながら佇む暴走機械に呑まれている進藤の首根っこを掴み、「逃げるぞっ」三十六計の精神で走り出した。

 最初はガシュン、ガシュンという音が追いかけてきたが、だんだんと小さくなり、やがて聞こえなくなった。

 

「こいつぁ、やべぇな・・・」

「先輩ッ。突然ですけど僕退職しますッ」

「んなこたぁ、生きて帰ってから署長にでも…どわぁッ」

 

 目の前にいきなり壁が現れ、重い音が響いた。隔壁が尋常じゃないスピードで降りてきたのだ。

 

「なんじゃこりゃっ。挟まれたら骨が折れるぞッ」

「先輩、あっちに道がありますっ」

「くそっ」

 

 とにかく遮二無二走るしかなかった。それからというもの、隔壁に邪魔され、警報に驚き、落とし穴にはまりそうになりながら逃げ続けた。

 

「先輩っ。この建物知ってるんでしょ? 出口は何処ですかぁっ」

「はぁっ、がぁぁっ。もう・・・わかるかぁっ・・・うん・・・?」

 

 暗闇の中、眼の代わりに研ぎ澄まされた耳に入り込む音の中に鈍重且つ高速な異音が混じる。その音がどんどん高くなる。それがドップラー効果だと気づいた瞬間、進藤の後ろ頭を掴んで床にダイブした。

 

「ふばぁっ・・・先輩、何をっ」

 

 進藤の抗議を遮るように、大質量の何かが壁に突き刺さった。

 

「え・・・?」

 矢原はその物体に触れた「鉄骨・・・?」

「何でそんなものが飛んでくるんですかっ」

「俺に聞くなっ。とにかく走れッ」

 

 もうどこにどんな仕掛けがあるかわからない。洋画で有名な某冒険家みたいな状況だが、心情的には完全にホラー映画の気分だ。

 そうこうしている間に、目の前に光が漏れる扉が見えてきた。

 

「出口ですか?」

「――違うッ。あれはっ」

 

 壁が弾け、矢原と進藤は吹っ飛ばされた。

 

「ぐはぁっ」

 

 倒れ込む二人を見下ろすのは鋼鉄の外骨格。「お帰りぃぃ~~」

 

「ひやぁぁーーーッ」進藤が叫ぶ。

 

 ――なんてこったッ

 

 矢原は思った。この正体不明の化け物は施設を無茶苦茶に操作し、二人を制御ルームまで誘導していたのだ。

 

「おいぃぃッ」

 

 妙に不機嫌な声を出したかと思えば、チェーンソーで壁を斬り始めた。粉砕された壁が矢原達の顔に降り注ぐ。

 

「お帰りって言ってんだろぉ~~。この国ではそう言ったら、ただいまを言うモンじゃねぇのかぁ~? ・・・・・・ん? 順序が逆だったかぁ~~」

「進藤っ。悪い異星人は多分近くにいるんだ。探すぞっ」

「何でそう言い切れるんですかっ?」

「外骨格のあんな複雑な操作やこんな仕掛けが人間にできるか。それに、俺たちの行動を細かに把握している。近くで見てるに違いない」

「なるほどっ」

 

 そう言った進藤の背後にエグゾスケルトンが立ち、唸るチェーンソーを振りかざし――

 

「半分正解だ」

 

 振り下ろされたチェーンソーは、壁から生えるようにして現れた刀のようなものに阻まれた。いや、何者かが壁の向こうからその刀を差し込んだのだ。

 その刀の主は、音を立てて崩れる壁の向こうから現れた。その姿を見た瞬間、矢原の眉間がピクピクと痙攣を起こした。黒光りする硬顎に四つの牙。二メートルを超す巨大な躰と丸太のような四肢をダークスーツに包み込んだ異星人。

 

「あいつは・・・」

「先輩、あれ、サイード人ですよね? 知っているんですか?」

「ああ、こいつは異星人だが、警視庁公安部外事特課第一係の係長だ。名前はたしか・・・アスワード・マーテン」

「HAHAHAッ。サイード人ったぁ面白え。じゃあ、こんなゴミ文明惑星の劣等種族にゃもう用はねぇ」

 

 異音を上げて駆動するマニピュレータはウォータージェットの噴射口を矢原達に向け、躊躇なく発射した。

 

「「どわぁっ」」

 

 二人してそんなことをしても無意味と知りつつ腕でガードする。

 

「――危ねぇっ」

 

 水のレーザーは矢原達を斬り裂きはしなかった。腕ガードを解いた時、矢原達の目の前に新たな異星人が仁王立ちしていた。その姿に、赤鬼をイメージする。

 

「ちくしょうっ。シャツが切れちまった」

 

 水レーザーでシャツが切り裂かれたようだが、その異星人の赤い躰は傷一つ負っていない。凄まじい外皮の硬度だ。赤鬼はTシャツを和紙のようにビリビリと破った。その赤い異星人の背中から、青鬼のような小型の異星人がぴょこりと顔を出す。

 

「生存確認」

 

 それだけ言って、再び赤鬼の背中に入り込んだ。

 

「何だ? こいつらは・・・」

 

 矢原が言うと、赤鬼が振り向いた。

 

「俺はザーマック。背中の奴はシレーム。アスワードのオッサンと同じく外事特課の刑事だよ。ゴンジーマ人を見るのは初めてか?」

「ああ・・・あんたらが・・・」

 

 ゴンジーマ人。たしかデカい体力担当と小さい頭脳担当でコンビを組んでいる異星人だ。特徴は小さい方がデカい方に寄生することで強力な力を発揮する種族だったと思い出す。矢原も見るのは初めてだった。

 

「ゴンジーマ人もいるとは、ますます面白ぇじゃねぇかッ」

 

 興奮気味の少年を睨み付けながら、アスワードはこちらを一瞥した。

 

「シレーム、ザーマック。その二人の護衛を頼むぞ」

「おう、任された」

 

 矢原は目をむいた。

 

「ちょっと待て、お前一人で相手をするつもりか?」

 

 アスワードは応えず、左腕に取り付けた機械を操作した。

 

「音無。目の前の少年を操っている存在の再チェックだ」

『ラジャーだよ、警部。・・・チェック完了。実体は無いけれど、波動パターンに該当あり。出身惑星は不明。銀河連邦の指名手配リストに該当があるね。因子型存在。危険度はS。仮名称の名は、【ジェスター】』

「ジェスター?」

 

 矢原が言うと、シレームがぴょこりと顔を出した。

 

「僅少存在・・・何かを操るという点で自分に少し似ている」

「因子型・・・? ちょっと待て、まさかとは思うが、あの少年の中にウィルスみたいに入り込んでやがんのか?」

「可能性としてはあり得る。情報が少なすぎて、ハッキリとはわからない」

「クソがっ」

「とりあえず」アスワードが歩を進めた。「邪魔な外骨格を取り外す」

「やってみなぁッ。HAHAHAHAァ」

 

 皐月少年・・・いや、ジェスターが再び制御ルームに入り込んだ。すぐに追いかける。すると、エグゾスケルトンから伸びた小型のマニピュレータが椅子のキャスターを無理矢理取り外し、自身の脚部に取り付け始めた。

 

「ムンッ」

 

 アスワードが刀で武器を破壊しようと踏み込んだが、ジェスターは椅子から奪ったキャスターで作り上げたローラーダッシュで素早く身を躱した。

 

「ヒャッハァーーーッ」

 

 ジェスターが叫ぶ。部屋内を縦横無尽に動き回り、ドリルやアームを振り回す。異様としか思えない戦い方だった。しかし、アスワードはその全てを受け流していた。

 

「破ぁっ」

 

 アスワードの刀が奇妙な唸りをあげ、ジェスターのドリルを斬り裂いた。

 

「工業用ドリルはかなり頑丈なんだが、バターみたいに斬れちまったぞ」

「オッサンの得物は高周波ブレードだからな。大抵の物は斬れるぜ」

「凄いっ。腕の端末からの声、あれが噂に聞く幽霊捜査員の音無さんですよッ。それにあの凄まじい切れ味の武器ッ。頼もしすぎるっ。銀河連邦の技術があれば怖いものなしですよ、先輩ッ」

 

 興奮気味の進藤が妙にウザい。

 こっちの戯言を余所に、何度目かの鍔迫り合いを終えてアスワードと距離を取ったジェスターがヒヒヒっと嗤った。

「なかなかヤルなぁ。だが、これはどうだぁ?」

 

 再び襲いかかるジェスターの猛攻をアスワードは受け流した。しかし、すれ違いざまにブレードに妙な物が巻き付いていた。先ほどの小さいマニピュレータだ。それがブレードとコンピュータに巻き付き、

 

「ひゃっHAHAぁぁぁ~~ッ」

 

 一瞬の電光。

 アスワードがそれを引きちぎった時には、刀とコンピュータは煙を噴き、バチバチと放電しながら小さく爆発を起こした。高周波ブレードの方は機構が暴走したのか、刃の中程で折れてしまった。

 

「あ・・・ああ・・・・・・」

 

 進藤が青で口をパクパクする。

 

「んん~~。連邦のオモチャも案外脆いなぁ」

「先輩っ。ヤバいですよッ。音無さんが壊れちゃいましたよッ」

『え? ボク?』

「うひゃあぁぁっ」

 

 ザーマックの腕に付いている端末から先ほどと同じ声が聞こえる。

 

「えーとぉ? 二人目の音無さん?」

「いや、こいつの本体は不遊警視庁の本部にあるパソコンで、今はこの端末と繋がっているだけでな」

『それより、あいつ何かしらの手段で触れた機会を操ることができるみたいだ。精密機械じゃ勝負にならないよ』

「そんなぁ……銀河連邦の超技術が通用しないなんて。もう駄目だぁ、お終いだぁぁ~」

「さっきから五月蠅ぇぞッ。もとから異星人なんてアテにしてねぇっ。お前もサツカンなら自分の体一つで皐月君を助ける方法を考えやがれっ」

 

 矢原が叫ぶと、アスワードが小さく「ああ」と呟いた。「その通りだ」

 

 アスワードは、刀を床に突き立て、腕のコンピュータも外して捨てた。

 

「進藤巡査。警棒を貸してもらえるか」

「え? ハイ」

 

 進藤は腰の警棒を抜き取り、あと一ミリもジェスターに近づきたくないのか、投げてよこした。アスワードは、振り向かずに空中で警棒を掴み、手首のスナップを利かせて伸ばす。

 

「そんなんで勝負する気かぁ? サイード人」

 

 ジェスターの煽りには全く耳を貸さず、アスワードは腰を落とした。

 

「耳ふさいだ方がいいぜ」

 

 ザーマックが言った。どういうことか分からなかった上に、言うとおりにするのが嫌だったのでシカトしていたが、進藤は従った。次の瞬間、矢原は後悔した。

 大きく息を吸ったアスワードから鼓膜が破れそうな爆音が放たれた。制御ルーム全体が震えている。それは、戦の鬨とも猛獣の威嚇とも違っていた。神への祈りにも似た、歓喜さえ感じる咆哮。そして、僅かな静寂。次の瞬間、アスワードの巨体が魔改造外骨格に突撃した。


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