ギャラクシーポリス   作:橘 花道

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#5『終わらぬ雨』

 廃工場は死で溢れていた。

 おびただしい銃弾の跡。血の海と化したコンクリートの床。牛のような、豚のようなうめき声が建物内に木霊している。

 銃声の方向へと走った。

 重い資材庫の扉を開け放つ。部屋の隅っこで追い詰められたネズミのように小さくなっている岩永に、一人の龍人が歩を進めていた。

 その間に、防弾チョッキを着た男が一人青紫色の顔を天井に向けて横たわっている。

 護衛は全滅したらしい。

 左腕に装着された鈍色のボウガンが、岩永に向けられている。

 

「ザフィッ」

 

 警棒を引き抜いて駆ける。龍人が向き直り、鈍色のボウガンをロングソードに変えて打ち付けてくる。なんとか警棒で受け止めたが、凄まじい剣圧だった。

 

「ザフィなんだな」

「…柳沼……」龍人が呟いた。

 

 龍の頭の下、大柄な巨躯を覆う緑色の鱗の上から植物繊維の衣類を身に纏っている。

 変わらないのは、山吹色のシャツと黄金色の双眸だった。

 闇に輝く眼に悲しみの色が混じったように見えた。

 剣を押し返し、警棒を構えながら後退する。岩永の側まで行き、怪我が無いか確認する。

 

「無事ですか?」

「無事なものかッ。いったい今まで何をしていたんだっ」

 

 勝手にいなくなったのはお前だろうという文句を飲み込んだ。言い争いをしている時では無い。

 

「大事ないなら、すぐに逃げて下さいっ」

「馬鹿を言うなッ。こいつは普通じゃない。逃げても必ず追ってくる!」

「ああ、逃がすつもりはない…」

 

 鈍色の鞭がうなりをあげながら襲ってきた。

 

「くっ」

 

 岩永をかばいながら扉に飛び込み、外へと脱出した。

 二人して水たまりに突っ込む。

 岩永は泥水にまみれ、グレーのスーツを土色に染めながら、赤ちゃんのハイハイの格好で森の方へと逃げる。

 ザフィは、見た目も行動も豚と化した岩永に鈍色のボウガンを向けた。

 

「危ないっ」

 

 とっさに岩永の襟首を掴み、後ろへ倒れ込むように救い出す。

 紅の光が奔り、森の木へ当たる。その瞬間、木は色を失い、全身が崩れ去り、周囲と同化する土の山へと変わった。

 

 ――これがヴィジャーヤか…

 

 そこそこデカい木がものの二秒程で崩れてしまった。これでは人間など悲鳴をあげる間もないだろう。

 岩永が、悲痛な思いをぶつけるように叫んだ。

 

「頼むッ。許してくれ!」

 

 泥の地面に額を擦りつけながら土下座した。

 

「黙れ」

「何でもする。金ならいくらでも出すっ。欲しいものなら、何でも差し出すから、命だけはッ」

「私はそんな言葉を聞くためにここへ来たのではない。黙れ」

「いやだ! 君の気が変わるまで交渉してやる! おれは今までこの口だけで生きてきたんだ!」

 

 必死に叫び続けていた。

 一歩前へ出る。

 

「ザフィ。こいつを殺しても、故郷の娘が生き返るわけじゃない。そんなことをしても、喜ぶ者はいないんじゃないか? 俺からも頼む。罪を重ねるのはやめてくれっ」

 

 柳沼の言葉に救いを受けたように、岩永の声が多少元気になった。

 

「そうだ! そうだとも! あの娘には悪いことをした。反省している。わたしは死にかけてどうかしていたんだっ。謝ろう。故郷の墓に手を合わせようとも。これからの人生で、わたしも罪を償う。わたしにもう一度チャンスを与えてくれ! あの世にいる君の恋人も、それを望んでいるんじゃあないか?」

 反吐が出そうな言葉の連続だが、もはや重ねる言葉はそれしかない。

 何とか、ザフィの心が変わってくれれば…

 

「お前達は、何もかも勘違いしている」

「え?」

「私は殺されたあの娘の恋人ではない。同郷の友人だ。彼女が殺された事に私は怒りを覚える。しかし、その怒りは私だけのものではない。私たち一族全ての怒りだ」

 

 巨躯の龍人が歩を進める。

 

「そして誤魔化すな。お前とお前達が奪った私達一族の命は、一つではない。この星の時間で一年間。十人もの命を奪っている。自分たちの利益のために…」

 

 岩永を見た。

 頬をヒクヒクさせながら、何とか笑って誤魔化そうとしているように見えた。

 

「もう一つ。殺されたあの娘達は、私がこれからお前を殺すことを悲しみはしない」

「そんなことわからないじゃないか。善良な心の持ち主ならば、友達が罪を犯すことを喜びなど…」

「無に還った者が、何を喜び、何を悲しむのだ?」

 

 岩永の弁舌が止まった。何を言われたのかわからなかったのだ。実際、柳沼も硬直していた。

 

「あの世? それは何処だ? あの娘達は何処へ行ったのか、お前はわかっていると言うのか?」

「そ…それは……」

 

 岩永の顔から生気が抜けていく。

 

「私が許せないのではない。我々はな……それを許さないんだよッ。

神とかいう、超常的な存在が、貴様らの罪を公正な立場から罰し、聖者を楽園へ送り、悪人を地獄へと叩き落とすなどという夢物語を、我々は信じないッ。

この宇宙に生きる同胞を助け、未来を守るのは、法律でも! 神でも! 他の誰かでもない! 我々ナーゴ族こそが行わなければならないものなのだ!」

 

 龍人が鈍色のロングソードを構える。

 

「我々に仇なす貴様への報復をもって、未来の貴様等に知らしめる! 我々に手を出すと言うことの意味を! それこそが、受け継がれし『ザフィ』の死命故に!」

 

 岩永が足にしがみつく。

 

「殺せ! このエイリアンを殺すんだ! おれが許可する! 無かったことにしてみせる! だから、今すぐ始末して――」

「離せッ」

 

 頭を思いっきり殴りつける。気絶した岩永は地面とキスをはじめた。

 

「ザフィ。お前の言い分はわかった。言葉では止まってくれないことも」

「ならば、邪魔をするな」

「いや」

 

 真っ直ぐに黄金の双眸を見つめ返す。

 

「俺はお前を止める。言葉でだめならば、お前の心に訴えかける手段は、これしかないな」

 

 右腕に埋め込んだ生体端末を起動させる。

 

「GP03 シグ・サィヴ。リミッター解除申請」

『GP03の申請を送信。…GPαからの許諾を受信。リミッター解除』

 

 右腕からの応答と共に、右腕の形状変化が始まる。

 かつての友から受け継いだ異形の右腕が、本来の力を取り戻し、灰青の腕の先から90度に日本刀が現れる。

 

「それが君の奥の手か」

 

 右腕の刀を真っ直ぐに構える。

 

「――勝負だ」

 

 ザフィも応じ、ロングソードを構える。

 こちらの構えは青眼。対する相手は剣を天に向ける。日本剣術でいう上段か八相の構えよりも、西洋剣術の屋根の構えに近い。

 あの体制から放たれる一撃は限られる。

 

「フッ」

 

 死角となる逆胴。それをザフィは最小限のスウェーバックで躱す。すかさず放つ逆袈裟と袈裟の二撃・三撃。それは剣の重量を活かした鉄壁の防御に阻まれる。

 横からの攻撃は通らない。ならば…

 真下からの切り上げ、逆風。これを躱させて後ろへ下がらせ、踏み込んで唐竹を見舞う。

 頭上で十字に交わる刃と刃。

 周囲の雨を切り裂きながら金切り音が鳴り続ける。

 ザフィの打ち込みを左右に受け流し、距離を詰める。左切り上げ。

 躱すザフィが屋根の構えに戻る。

 

 ――打ち落とし。

 

 西洋剣術のロングソード技の基本中の基本。その名を憤激と呼ぶ。単純かつ強力な一撃。だが…

 その打ち込みを刀で受け流し、大きく踏み込み、死角へと滑り込む。

 

「――ッ」

 

 もらったッ

 身を返し、無防備になった背中へ斬りかかる。

 

「――伊崎一刀流 木蓮ッ」

 

 刀を振り下ろす。

 しかし、そこにいるはずの背中が消えた。

 

「何ッ?」

 

 ピピッと雨を切り裂く音が背後から鳴る。

 

「くッ」

 

 倒れ込むように躰を回転させ、刀で防御する。

 凄まじい横薙ぎで吹っ飛ばされ、泥上を転げ回った。

 

「その技を使うと思っていたよ」

 

 素早く起き上がり、体勢を整えた。

 

「十八番を見せたのは失敗だったな。柳沼」

「まったくだ」

 

 口の中に入った泥を吐き出す。

 甘かった。ザフィ程の使い手に、知っている技を使うべきではなかった。

 ならばッ

 

「ハっ」構えは下段。真っ直ぐに飛び込む。

「ムンッ」相手の憤激。

 

 この軌道をギリギリで見切って空振りさせ、こちらの刀で相手の剣を地面に落とす。

 がら空きの躰に胴を打ち込む。これは、素早いスウェーバックと左腕に阻まれた。

 しかし、流石の鱗も刀の一撃には耐えられずに割れ、小さく出血した。

 

「やるな」

「まだまだこんなものではないぞ。ザフィ」

 

 体重を乗せた袈裟切り同士がぶつかるつばぜり合い。

 受け流そうとした瞬間、内側に滑り込ませた切っ先が胸に襲いかかる。

 それを捌いて斬り上げる。

 つばぜり合いの経験値は向こうが上。相手の土俵で勝負はできない。

 ミドルレンジでの攻防。剣撃を受け流しながら、打ち合う。

 一撃一撃に意思を込める。必ず止めるという覚悟をもって。

 その一刀が、友情の証となると信じて。

 

「ハァッ」

 

 相手が構え直したのと同時に右肩付近で刃を返し、左小手を斬る。

 

「チッ」

 

 ザフィが後退する。

 

「剣では勝負が付かんか…」

 

 雰囲気が変わった。

 

「行くぞ。柳沼ッ」

 

 ロングソードの連撃。これは今まで通り捌ききれる。

 しかし、突然鈍色の剣が形を変える。

 

「フンッ」

 

 体勢を変えて槍の連撃。突然軌道の違う攻撃に冷や汗が流れる。

 眼が慣れ、槍を打ち落とそうとした瞬間、再度武器が変わる。

 躰を回転させて、超重武器を振り回す体勢と共に、武器は西洋の両手剣モンタンテのような形状に変化した。

 強力な左斜めからの一撃は受け流すことも躱すこともできず、まともに刀で受けるしかなく、空中で吹っ飛ばされた。

 マズい…

 体勢を変えられないこちらを見逃す筈も無く、鈍色の鞭が足に絡まる。

 ザフィは、左手に構えたハンドガンの銃口をこちらに向けていた。

 

「クソッ」

 

 響き渡る銃声。

 刀で銃弾を弾く。しかし、全てを捌くことなどできるわけもなく、足や腕に被弾する。

 だが、それはこちらにとっても好機だ。

 足に絡まった鞭を刀で斬り、地面に降り立つと共に、悲鳴をあげる躰に鞭を打って突撃し、ハンドガンを弾き飛ばす。

 

「鞭では簡単に戻せないだろうッ」

 

 上段に構えた刀を振り下ろす。しかし、ザフィの動体視力は普通じゃない。これを避けられるのはわかっている。

 鞭をロングソードに戻しての打ち落とし、それを逆風ではじき返す。

 目の前にはがら空きの胴体が見える。

 

「貰ったッ」

 

 右手の刀を形状変化。

 剣術が使いやすい90度の角度から、拳から真っ直ぐ伸びる0度の直刀へ。

 右手を脇に構え、腰の回転と同時に右手を突き出す。すなわち、空手の正拳突きの要領でえぐり込む軌道の突き技。

 

「――伊崎一刀流 鳥兜ッ」

 

 これ以上無いくらい十分な体制から放った必殺の一撃。

 しかし…

 

「何ッ?」

 

 切っ先はザフィの胴体に届くこと無く、数センチ手前で電磁フィールドのような力場に阻まれた。

 

「すまないな。柳沼」

 

 鈍色のボウガンがこちらに向く。

 

 ――ヴィジャーヤ

 

 紅い光が放たれる。素早く身を翻すが、間に合わない。左手の先にわずかに掠った。だが、この武器はそんな状態でも致命傷になる。

 手の先から崩壊が始まり、土へと変わる。

 これしか打つ手は無い。

 

「クソッ」

 

 崩れる左手を、肘の先ギリギリで斬る。

 血があふれ出すのを、動脈の圧迫で抑えた。

 荒ぶる息を整える。

 

「ヴィジャーヤを喰らって生きていたのは、お前が初めてだよ。柳沼」

「そのアロハは…」

 

 ザフィが山吹色のシャツに触れる。

 

「殺されたあの娘が、ザフィとなった時私にくれたものだ。お守りだと言っていた」

 

 予め溜めておいたエネルギーで張る電磁フィールドだ。防弾チョッキレベルのものは見たことがある。

 まさか、あんな一般の服装に偽装できるような高性能ウェアがあるなんて知らなかった。

 

「試合としての一騎打ちはお前の勝ちだ。柳沼。しかし、勝負は私が貰う」

 

 どうする…

 あのテの電磁フィールドは、保有エネルギーが尽きると、その効果が失われることはわかっている。

 だが、このザフィ相手にフィールドエネルギーを使わせる程の隙を見つけることなど、あと一回あるか無いかだ。ましてや、左手を斬ったこっちは動ける時間が限られる。エネルギー切れを狙う長期戦などできる状況ではない。

 後ろへ飛ぶ。

 

「む?」

 

 呼吸を整える。あと一撃でフィールドを破れる可能性のある技は、これしかない。

 

「まだやる気か? 柳沼」

「言ったはずだぞザフィ」刀を青眼に構える。

 

「俺はお前を止めるッ」

 

「岩永は殺す」

 

 ザフィが最後の一撃を打ち込みに走ってくる。

 瀕死の状態において、呼吸法によって最後の一撃の為に躰を動かす伊崎一刀流の奥の手。その名を『竜胆』。

 しかし、その効果はシグの力である人と人、物と物にある引力をたぐり寄せるのにも効果がある。

 感じ取れ。

 雨でも、石でも、木でもない。柳沼翔とザフィの間にある引力を手繰れ。

 

「ハァッ」

 

 ――ここだッ

 

 ザフィの躰を、そのシグの力で引き寄せる。

 

「何だッ」

 

 一瞬で移動させる強烈な運動エネルギーに、こちらの捨て身の袈裟切りをぶつける。

 

「――伊崎一刀流 竜胆ッ」

 

 再び広がる電磁フィールド。刀とフィールドの間で火花が散る。

 

「いけぇッ」

 

 刀を振り下ろす。フィールドは破られ、龍人の躰は斜めに鮮血が飛ぶ。

 二つの躰が重なった。

 荒ぶる息が、互いの躰にかかる。

 力を使い果たした右腕が、刀の形を保てず元に戻った。

 

「ぐっ…」

 

 ザフィはなおも動き、歩もうとする。その肩を掴んだ。

 

「私は、死命を果たす…」

「もうやめろ。ザフィっ」

 

 額を突き合わ、眼を見る。

 

「そんな方法では、滅びが待っているだけだ。他の種族と共存しなければ、解決は望めない」

「…その他種族こそが、我々を狙うのだ」

「どうしても信じられないのか?」

「……」

「俺とお前は……」

「柳…」

 

 銃声が鳴った。

 ザフィの躰が目の前で倒れる。

 横を振り向く。

 岩永が、ザフィのハンドガンを構えて立っている。

 

「やめろ! 岩永ッ」

「うるせぇ! お前も死ねぇッ」

 

 胸と腹を撃たれた。

 喉の奥から熱いものがこみ上げ、血反吐をぶちまけた。

 

「へへへっ。ついてる。ついてるぞ。見事に潰し合いやがったぁ」

 

 殺させる訳にはいかない。ザフィに岩永を。岩永にザフィを。どちらに、どちらを殺させることも、やらせてはならない。

 この雨を、終わらせる為に…

 

「くそっ」

 

 躰が動かない。

 血を流しすぎた。指一本動かない。

 目の前でザフィが立ち上がる。岩永を殺すつもりか。

 やらせるわけにはいかない。

 動けッ。動けッ。動けッ。

 目の前でザフィが撃たれている。紅の血が飛び、雨と一緒に地面を流れる。

 目の前が…暗くなっていく……

 

 ……………

 

 気分が軽くなっていく。

 死ぬっていうのは、こういう気分なのか。

 楽になるとは、よく言ったもんだ。

 くッ…

 結局、最悪の結末を迎えてしまった。

 自分が弱いばかりに。何故立つことができなかったのか。ザフィは立ったというのに。

 やるべき事は、沢山あった。こんなところで死ぬわけにはいかなかった。死ぬなど、許されなかったのに…

 俺は……

 

「……て……ぬ…ま…」

 

 幻聴か?

 

「立てよ……柳…沼……」

「ザフィっ?」

 

 軽くなったのは、死んだからではない。

 これは…

 

「お前は…生き……ろ……」

 

 飛び起きる。岩永の恐怖に歪んだ顔が飛び込んできた。

 

「何故立ち上がれるっ」

 

 岩永へと走る。形状変化させた右腕を返し、峰打ちで胴を打つ。

 憎い護衛対象は再び昏倒した。

 振り返り、友に駆け寄った。

 

「ザフィッ」

「間に合って…よかった…」

「しっかりしろッ」

 

 抱きかかえる。躰がどんどん冷たくなっていく。

 

「お前達…自分の傷は…」

 

 ザフィは静かに頷いた。

 

「今病院に連れて行くッ」

「もう…いい……」

「そんなことを言うなッ」

「こんな形で…戦いたくは……なかった…」

「死ぬなッ。ザフィ!」

 

 ザフィはゆっくりと首を振った。

 

「もう…ザフィじゃあ…ない…」

 

 金色の双眸が閉じていく。

 

「……私の…名…は……」

 

 躰から全ての熱が失われ、ぐったりとした肢体は、どれだけ揺すっても、もう動かなかった。

 

「――ザフィッ」

 

 何故お前が死ななければならない

 何故俺は助けられなかったッ

 何故……

 

 ザフィは、死ぬことは無に還る事だと言った。あの世など、信じていなかった。

 ザフィ。お前は、もう何処にも居ないのか?

 

 ありったけの声で叫んだ。

 

 かけがえのない友を失った悲しみ故か。

 友を殺した岩永のような屑を生かさねばならない自分の立場に対する憤り故か。

 それとも何処かにいるかもしれないザフィに声が届くかもしれないという、淡い期待故か。

 わからない。しかし、叫ばずにはいられなかった。

 慟哭のように、叫び続けた。本当の名前もわからない、友の名を叫び続けた。

 

 雨はまだ、やむ気配は無い。

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