奥多摩方面で深夜に謎の青い物体の目撃情報と、わずかながらも通信障害ありとの情報を得たギャラクシーポリス。小山凛子巡査、並びにシレーム・ヴ・ザーマク巡査たちは、奥多摩周辺に馴染みのある鈴木イチロー部長の運転で、奥多摩のキャンプ場周辺に異星人がらみかどうかの調査へと出かけた。異星人すら珍しい奥多摩の地に現れる謎の物体とは…
#1『湖畔臨場』
※20xx/6/1-16:00 奥多摩湖のキャンプ場
東京都心から車で二時間弱、家々が点在しウグイスの声もよく響く山間に、1957年にできた人造湖、奥多摩湖がある。湖岸に沿ってグニャグニャとした道路がめぐり、対岸に渡るドラム缶を浮かべた浮き橋が知られる。周辺にはキャンプ場やハイキングコースなども整備され、東京都の最高峰雲取山をめざす登山口の一つとして愛好家達も大勢訪れる。晴れた日には富士山が望める山頂付近には、銀河連邦から送られて来る電力を地域に供給するための変電設備【ヘリオン】が設置されている場所でもあった。
そんな奥多摩湖のキャンプ場の駐車場に、一台の大型のワゴン車が入って来て停車する。
後部ドアが開き額に角のある顔の赤い大男が、収納ポーチに収まった頭でっかちな小さな人形のようなものを抱えてのっそりと降りてくる。抱えていた人形のようなものがポーチから伸びをするように出ると、顔の赤い大男の背へと回り服に隠れた凹みに身を収めた。顔の赤い大男もまた両手をあげて伸びをすると、体が膨らんだように見えた。
赤い顔の男はザーマック、頭でっかちの小さな方はシレーム。二人で一つのゴンジーマ人。警視庁外事特課所属の異星人警察官である。
「やっと着いたか。車の中は狭くてたまらんぜ」
「部長に運転させて、あんたたちは寝てただけじゃない」
助手席からタブレットを手に降りて来た女性が、イヤホンを外しながら言った。運転席からは男性が降り、女性がタブレットとイヤホンを手渡した。
女性は小山凛子巡査。男性は鈴木イチロー巡査部長。二人もおなじく警視庁外事特課所属の警察官である。四人ともスーツや制服は着て居らず、休暇でキャンプ場へやってきた様に見せていたが、実は仕事できているのだった。
「なぁ、凛子、今日はもう終わりにしてメシにしよう」
「そういう事はちゃんと仕事した人が言うの!」
「休暇のふり…仕事」
「な…。あ〜あ、なんで一緒なのよ…」
イチローがタブレットとイヤホンを凛子に返し、彼女の肩を軽く叩く。
「まぁまぁ、そうカッカするな。課長からは夜に備えて、軽く聞き込みしたら早めに食事をとっていいと言われたぞ」
「そうこなくっちゃ」
「もう…、部長まで…」
不満そうにしながら凛子はタブレットをバッグにしまった。
「さて、まずは、そうだな、今日はイチローと呼んでくれ」
「おお。イチロー! イチロー!」
「おいおい、そんなにはしゃぐな。さあ、荷物を下ろしてくれ。各自の装備は揃えてあるから」
少し肩をすくめてから、荷物を下ろし始めるザーマック。
駐車場には平日ではあるが数台のワゴン車やキャンピングカーも駐車しており、テント泊の客たちも食事の準備を始めながら、この辺りでは珍しい異星人の出現にこちらの様子を窺っていた。
「あぁ、やっぱり目立ってる…」
そこへ男性が近付いて来る。スラリとした痩せ型で、しっかりとした足取りだが、白に近い髪は前の方から薄くなり額には艶がある。だいぶ年配のようだった。
「ご連絡いただいたギャラクシーポリスの方々ですね。管理人の秋山です」
凛子が身分証を出し、次にイチローが前に出てシレーム&ザーマックを指差す。
「あの二体、…いや、二人も、大丈夫ですか?」
チラッと二人を見る秋山。角の生えたザーマックと、その肩越しに顔を出す目のぎょろっとした小さなシレーム。だがその姿を見ても動じない。
「大丈夫ですよ。騒音と異臭は困りますが」
「異臭は無いわね」
「異臭、騒音、発生…ない」
「では、バンガロー三つでしたね。電気が使えるタイプで、設備は簡易ベッドと折りたたみの机と椅子だけ。水場とトイレはバンガローの近くに案内がありますので」
「わかりました」
秋山がバインダーに挟んだ使用届を出し、イチローがボールペンで必要事項を記入すると、ナンバーの付いたカードキー3枚を渡した。
「オートロックではありませんので、気をつけてください」
「バンガローでもカードキーなんですね」
「電気が使えないタイプはシリンダー錠ですよ。この辺りはヘリオンのおかげで電源供給が良くなりましたが、わざわざ電気の無い生活を体験しにくる方もあるんですよ」
「今回は不慣れなやつらがいるからな」
「さすがぶ…、イチローさん、キャンプ慣れしてますね」
「では、何かありましたら、奥の岩山の手前の看板があるところが管理事務所ですので」
「分かりました」
一行は荷物を持って各々のバンガローへ向かった。
※20xx/6/1-17:00 管理事務所
シレーム&ザーマックへのバンガローの使い方や説明はイチローに任せ、凛子は管理事務所と案内板のある建物にやって来た。扉に札がかかっている。手書きで《裏の納屋に居ます》と書いてある。
「裏の納屋?」
見ると建物の右側が通路になっており、裏手の岩山へ続いている。凛子は通路に沿って裏山へ向かう。
少し登った斜面に洞窟があり、覗き込むと木の柵らしきものが見える。そこは厩舎らしく秋山が栗毛の馬に餌を与えているのが見えた。
凛子に気付いた馬が嘶き、秋山も気付いて会釈をする。
「へえぇ、馬が居るんですか」
「ええ。あの馬車で湖の周辺をドライブもできますよ」
秋山の視線の先に幌の付いた四人ほどが乗れそうな馬車が停めてある。
「ドライブ? 馬車でドライブって変じゃありません?」
「え? そうですか? 馬車も車だからドライブかと…」
「馬車で巡る、とかじゃ、ないですか?」
「はぁ、そうですか…」
湖畔を馬車で巡るのは楽しそうだ、と思いながら凛子が馬に近づくと馬が大きく首を振り始め、秋山がそれをなだめた。
「なんだ、美人を見て興奮したか。ほら、ほら」
そう言いながら首から頭を軽く撫でる。凛子も同じように慣れた手つきで撫でると、馬は彼女の方へ頭を近づけもっと撫でて欲しそうにする。秋山は少し驚いた顔をしたが、すぐににこやかに微笑んだ。
「お嬢さん、慣れていますね。ピューリッタも気に入ったようだ」
「ピューリッタって言うんですか」
「ええ。この子がこんなに懐くとは珍しい」
ピューリッタは凛子にじゃれついて来る。彼女もそれに応じて撫でている。その様子に微笑む秋山に、凛子もついほほえみ返した。
「母の実家近くに牧場があって、学生時代は夏休みにはそこでバイトをしてたんです。馬に触れるのは久しぶり」
「そうでしたか、ところで、何かご用でしたか?」
「あ、お話をうかがいたい事がありまして」
「じゃぁ、事務所へ戻りましょう」
秋山が手早く片付けると、名残惜しそうなピューリッタを残し二人は事務所へ向かった。
管理事務所へ戻った二人は応接セットに向かい合わせで座る。事務用の机にパソコン、背後の棚にはたくさんのファイル、それに応接セットがあり、壁には奥多摩周辺の山々の写真の他、秋山の写真の入りの防火管理者の証書が掲示されている。秋山悌二郎 1956年生まれ。交付は平成21年10月11日、東京消防庁。
「それで…?」
「実はこういう目撃情報があると聞き、調査しているのですが…」
そう言って凛子はタブレットの画面を見せる。
橋を飛び越えて行く青白い物体が映っていた。
「これは数日前拝島橋で写された物で、多摩川の上流に向かったようなんです。鳩ノ巣渓谷、小河内ダム付近でも目撃され、湖の上を飛んでいたというので来たんです」
黙って見ている秋山をまじまじと見る凛子。祖父くらいの年齢なのに若く見える、などと考えながら。
メガネをかけ画面をみていた秋山。またメガネをはずす。
「ウワサは聞いた事があります。雨上がりの夕方に西日に照らされて青白い物が飛んでいったって。そう、おとといだったかな。私は見てませんが」
「その話しはどなたから聞かれました?」
「由美ちゃん、あ、いや、ええと、中沢さんていう、近くのコンビニの店員です」
「中沢さん…。その方にお話を聞きたいのですが」
凛子は手帳にメモをとりながら聞いた。
「ああ。コンビニといっても、地元の食材やキャンプ用品を取り扱っているところで、そこの道路を右に10分ほど上流に行くとあります」
「10分…、徒歩でですか?」
「ええ、すぐですよ。今の時間なら中沢さんも店にいると思います」
凛子はその他の情報についても聞きながら、それとなく秋山の日常についても聞き出した。
管理人になってからはここで寝泊まりをしており、暇な時や休憩中は先ほど見た馬とのんびり過ごしているそうだった。
30分ほどして、凛子は一礼して出て行った。
秋山はそれを見送りながら呟いた。
「ちょうど、いいかもしれないな…」
誰もいない部屋で誰かに話しかけるように…
◎登場人物紹介
※異星人の年齢は地球人に換算したものです
○秋山悌二郎(74)
奥多摩のキャンプ場の管理人
○小山凛子(23)
公安部 外事特課 強行犯第二係の巡査
○シレーム・ヴ・ザーマク(27)※
警視庁 公安部 外事特課 強行犯捜査第二係 巡査の二人