ギャラクシーポリス   作:橘 花道

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#2『管理人の秘密』

※20xx/6/1-18:00 コンビニの駐車場

 キャンプ場から歩いて10分ほどの上流にあるコンビニの駐車場には、大勢の人が集まりお祭り騒ぎとなっていた。

 シレーム&ザーマックと一緒に順番に写真を撮っている人や、バーベキューが用意され飲めや歌えの宴会状態。

 

「こうなってしまいまして…」

 

 凛子から電話で事の次第を告げられ、様子を見にやってきたイチローはあっけにとられた。

 

「や、これは…」

「ちゃんと調査の協力もしてもらっていますし…」

 

 イチローは頭をかきながら周辺を見回す。着いて早々に向けられた奇異の目に比べ、今はみな異形の二人に対して怖がる様子も無く楽しそうにしている。

 

「今のところの情報は?」

「ハイ。二日前の夕方にも目撃されています。それ以前から、からたびたび現れては上空へ飛び去って行くようですね。そのたびに雷のような音がしたり、一瞬光ったり、通信障害が起きたりしているそうです」

「そうか…」

 

 メモした手帳をポケットにしまいながら、イチローは人々に囲まれているシレーム&ザーマックを見る。

 

「俺は戻って本庁へ現状を報告して、監視の準備をしておこう。少ししたらあいつらを連れて戻れ」

「分かりました」

 

 キャンプ場へ戻っていくイチローを見送る凛子。

 シレーム&ザーマックは住民に囲まれ、まるで凱旋将軍のようである。

 

「まぁ、怖がられなくなったのはいいことよね」

 

 やれやれ、という表情で凛子もその輪の中へ入って行った。

 

※20xx/6/1-19:30 イチローのバンガロー前

 折りたたみテーブルの上に置かれたランタンが灯り、コーヒーの入ったカップを手に、ゆったりした折りたたみのイスに座って、お祭り騒ぎを切り上げ戻って来た三人の話しを聞くイチロー。

「だいたい、似たような目撃情報だな。通信障害と雷が気になるところだが」

 

「そうですね。今晩、何か出るといいんですが…」

「ちょっと…いいか」

 

 ザーマックの背中から顔を出したシレームが言った。

 

「なんだ」

「あの管理人…少し、変」

「別に普通のおじいさんじゃないの」

「何か違う。俺たち…見て、驚愕ない」

「人間、年を取れば多少のことには驚かないのよ」

 

 少しムッとするシレーム。

 

「カードキー…指紋、身元…調べる、どうだ」

「身元なら管理事務所に証書が」

「念のため照合しておこう。奥多摩署の知り合いにも問い合わせてみる」

「部長ッ」

「まぁ、まぁ、何もなければそれでいいだろう」

 

 そう言われて凛子も黙るしかなかった。

 

「よし。じゃぁ深夜帯の観察までは仮眠をとったり自由にしていい」

「カメラはいつ作動させます?」

「うーん、暗くなってからでいいかな」

「ってことでよろしく」

「お前の担当だな」

「……了解だ」

 

 シレーム&とザーマックのバンガローは、少し木々が開けて夜空や周辺が比較的よく見える位置にあった。

 

※20xx/6/1-22:00 シレーム&ザーマックのバンガロー

 シレームは机の上に座り、1リットルの牛乳パックを2本寝かせて台にした上にパソコンを乗せ、穴あけパンチを座椅子のようにして座り、小さな手で器用にパソコンを操作中。ザーマックはバリバリと殻付きの小海老の素揚げを食べながら、体を動かしている。

 ドアが開き、暑そうに団扇で仰ぎながら、ショルダーバッグを肩にかけた凛子が入って来る。

 

「一時間後には監視任務開始するって」

「おう」

「…3人も入ると、ますます暑いわね」

「カメラ…作動、テスト…」

 

 シレームがパソコンから無線で外のカメラを作動させる。カチカチというキーを叩く音とともに、ギィギィというが響く。

 

「あんた、その穴あけパンチ、わざわざ持って来たの?」

「俺…必需品。これ…なかなか、いい」

 

 楽しそうに穴開けパンチをギィギィと揺らしながらシレームが答える。

 

「こっちはカルシウムが大量に要るし、あんたは車用のシートといい、いちいち面倒よねー」

「仕方ないだろ。身体構造が違うんだ…、お前も食うか?」

 

 ザーマックは凛子に小海老の素揚げの入った袋を差し出したが、凛子は軽く手を振って断った。

 

「そういえば今日、制服じゃないのね」

「お前が制服じゃダメだって言ったんだろ」

「そうだったわ…。よくサイズがあったわね」

「課長、用意…して、くれた」

「課長が?! あの人、異星人には優しいのね…」

 

 団扇で仰ぎながらパソコンの方へ寄っていく凛子。

 イチローが用意した360度撮影できる小型カメラを、身軽なシレームが屋根の端に設置し、屋内でモニターできるようにしてあった。

 

「どう? ちゃんと映る?」

「良好だ」

「あれは? カードキーから採取した管理人の指紋」

「ああ…」

 

 シレームがパソコンを操作し画面を指さす。

 凛子は表示された画面に目を通す。

 

「若い頃に連続企業爆破の犯人と交流があり公安がマーク。10年ほど前にここの管理人に就職。独身で親兄弟もなし。評判も悪くない…と、ほらみなさい、普通のおじいさんよ」

「報告、不審…無い、だが…」

「ん?」

「俺たち、見て…興味無し…」

「まだ言ってるの?」

「地球人…俺たち、見る…驚く。管理人、驚き…ない。異星人、知ってる。おかしい」

「そんなに気になる?」

 

 うーんと考える凛子。

 

「凛子、お前あのじいさんに入れ込んでるな」

「ち、ちがうわよ。ちょっと知り合いに似てるだけよ」

「凛子、動揺…してる」

 

 シレームは少し意地悪そうに口角をあげた。

 

※20xx/6/2-02:00 午前2時過ぎ シレーム&ザーマックのバンガロー

 シレームが窓枠に座って外の様子を見張り、屋根に設置した360度が撮影できるカメラからの映像を、凛子が屋内のパソコンで観察。ザーマックは外で体を動かしている。

 変化の無いカメラの映像を画面の隅にやり、凛子はネット上の最近の奥多摩周辺の超常現象のニュースに目を通す。青白い物体の目撃情報。電波異常が発生し毎回1分程の通信障害が起こる。雷のような光や衝撃音。しかしいずれも関連性は不明。

 

「やだ、昨日のがもう載ってる」

 

 【休暇中のギャラポリ異星人が来訪!】という見だしで、昨夜のコンビニ駐車場のお祭り騒ぎの写真も載っていた。

 

「お〜お、ゴキゲンだこと。何をしてんのかねぇ〜」

「市民との交流…大事、凛子、管理人…出て来た」

 

 シレームが窓から見つめる先にライトを手にした秋山の姿。ここからは管理事務所もよく見える。

 凛子が窓に寄り外を見る。ライトが一旦暗闇に消え、少しして、裏手の納屋の方に明かりがつく。

 

「裏…何か…」

「洞窟に馬が居たわ」

「洞窟? 馬?」

 

 どんなものだ?と考えているシレーム。

 そうこうしていると裏手の照明が消え、今度はピューリッタを連れた秋山が管理事務所の前を通って行く。

 

「あれが愛馬のピューリッタよ」

「ピューリッタ? 言いにくい…。こんな時間…、どこ行く」

「追うわ。GPS入れとくから、あんたたちは監視を続けてて」

「待て、馬…走る」

「レンタル自転車を使う」

 

 凛子はギャラフォンを手に、ショルダーバッグを肩にかけるとザーマックに声もかけずに走って行った。

 

「なんだ、どうした」

「管理人…追う」

「あ? 勝手な奴だな」

 

 凛子が道路に出ると街灯のおかげでゆっくりと進む馬の影が見えた。駐車場の一画にあるレンタル自転車を借り、バッグを斜めがけにすると自転車で影の後を追った。

 

※20xx/6/2-03:00 奥多摩湖畔

 キャンプ場から2キロ程上流の、湖面に降りるスロープと階段のある場所から、秋山は下馬し手綱を引いて降りて行った。

 凛子は少し程離れた曲がり角で自転車を降りた。バッグからゴーグルタイプの暗視スコープを出し装着し、身を隠しながら湖が見えるところで様子を窺った。

 ピューリッタはパシャパシャと水音を立てて、気持ち良さそうに水辺を歩き、跳ね上がった水が青白く光って見える。秋山は流木でできたベンチに座り、時々空を見上げては、身振り手振りをしながら口を動かしている。凛子にはまるで誰かと話しているように見えた。

 その時凛子のギャラフォンが鳴った。慌てて出ると小声で言った。

 

「現在秋山を監視中」

『おい、何勝手な事してるんだ…』

「すみません。ちょっと気になって」

『秋山が何かしているのか』

「馬を湖の中で遊ばせて、自分はベンチでそれを見てます」

『ん? それだけか』

「独り言をしゃべってるようですが、それだけですね」

『小山、変に思われる前に戻ってこい』

「はーい」

 

 凛子がギャラフォンを切ろうとしたところに、いきなり鼻息がかかり舌が伸びてきた。

 

「きゃぁッ」

 

 いつのまにかピューリッタが近くまで来ていて、凛子の顔を舐め始める。しつこいくらいベロベロとなめ回され、持っていたギャラフォンを取り落とす。

 

「やめて! やめて! くすぐったいし、もう、ベタベタになっちゃう」

「ずいぶんと気に入られましたね」

 

 いつの間にか秋山も近くに来きていた。だが、さらに、別の声がした。

 

「これほど気に入るとはな」

「え…ッ」

 

 秋山の顔を見た凛子は気を失った。

 

「これは、これは、なんとも…」

「いきなり現れたら驚くさ」

 

 秋山は凛子を抱き上げるとピューリッタの背に乗せ、自分も跨がり歩を進めた。不思議と蹄の音は聞こえない。

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