※「20xx/6/2-05:00 奥多摩湖畔の道
月明かりの中、角の生えた筋肉質な体が周囲をきょろきょろ見ながらやってくる。凛子のギャラフォンのGPS情報を頼りに、探しに来たザーマックである。
凛子が停めた自転車を見つけ、その自転車を肩に担ぎながら更に周辺を捜索する。一瞬月明かりに何かが反射した。走り寄るザーマック。ザーマックは指先でちょいちょいとギャラフォンを操作する。凛子のギャラフォンだ。
「おれだ。ギャラフォンは見つけたが、凛子はいない」
それだけ言うと、ザーマックはギャラフォンを切り、空を見上げる。ぼんやりと青白い光が見える。
「ん? あれは謎の物体か?」
自転車を肩に担いだザーマックは、遠くにぼんやりと見えている青白い光を追いかけた。
※20xx/6/2-06:30 シレーム&ザーマックのバンガロー
自転車を肩にかついで戻って来たザーマック。
「凛子は?」
「いない。だが途中で例の謎の物体のようなものを見かけた。イチローは?」
「イチロー、会議中。電話…出ない」
「映像は?」
「映像…少し、光…映った」
録画されている映像を確認するザーマック。ぼんやりとした光が遠くを通って行くのが映っている。
「凛子のバンガローの方だな…。見てくるか」
ザーマックは少し離れた凛子のバンガローへ向かった。
※20xx/6/2-07:00 凛子のバンガロー
外から声をかけるザーマック。だが応答はない。窓から覗くが中が暗くてよく見えない。分厚い木のドアをノックすると、鍵がかかっていないのか少し開いた。
鍵は中から締めるか、外からカードキーでロックすると説明をうけていた。
「凛子、いるのか?」
ザーマックは取手を掴んだまま少し考えた。返事も無いのに入ったら怒られるかもしれない。しかし…
ザーマックは意を決して扉を開ける。ベッドには横たわる人らしき盛り上がりがある。抜き足差し足でベッドに近寄り頭のあたりをのぞき込むザーマック。
「凛子?!」
ザーマックの声にも反応しない凛子。よく眠っているなら起こさない方がよいだろうかと、ベッドの横をうろうろすると、ぎしぎしと床が軋む。
× × ×
ザーマックの背中越しに凛子を覗き込むシレーム。
「息…ある。寝てる…」
「寝てるだけか? 起こしたら、怒るよな」
「起こす、無い。不明」
「弱ったな…」
じーっと凛子を見つめるシレームとザーマック。
いきなり目を覚まし体を起こす凛子。
「起床」
そろそろとドアのほうへ後退りするザーマック。
「ここ、どこ?」
「凛子、やっとお目覚めか。心配したぞ」
「心配?」
「何があったんだ、自転車もギャラフォンも放り出して来て」
自転車とギャラフォンと言われ、記憶を辿る凛子。秋山の顔を思い出しザーマックを掴む。
「秋山さん、秋山さんはどこ、どこに居るの?」
「え? 管理人?」
「管理人、事務所」
「事務所にいるのね?!」
バンガローを飛び出して行く凛子。追いかけるシレームとザーマック。
「おい、待て」
「私見たのよ!」
「見たって、青い物体をか?」
「違う! あいつ、人間じゃあないのよ。顔が、ちがうのよッ」
叫びながら走る凛子。足がもつれて転ぶ。
「違うって、なにがだ…。落ち着いて話さんとまるでわからんぞ」
ザーマックに支えられ、立ち上がる凛子。呼吸を整える。
「半分、顔が半分青白くなって、声も違うのよ」
「顔が半分青白いから寝てたってのか?」
「違うわよ!」
「凛子、興奮…なぜだ」
さあ? という顔のザーマック。
「イチローに知らせなきゃ」
イチローのバンガローへ向かおうとする凛子。
「イチローは奥多摩署だ」
「ええッ?!」
「会議中。電話…出ない」
「地球人に化けた異星人だったら、捕まえなくちゃ…。私が、私がやらなきゃ」
凛子、バッグの中をがさがさと何かを探す。ザーマックがポケットに入れていた凛子のギャラフォンを出す。
「これか?」
凛子、ハッとする。
「どうし…、そうだ、電話を切ったら、ピューリッタがやってきて、それから、それから…」
「どうかしちまったのか?」
「大丈夫。やれるわ!」
凛子は自分を励ますように頷き、頰を数回叩くと、今度は管理事務所へ向かって歩き出した。シレームとザーマックも凛子の後に続いた。
※20xx/6/2-08:00 管理事務所
凛子とシレーム&ザーマックが窓から中を覗くが秋山の姿は無い。すると馬の嘶きが聞こえて来る。
凛子たちが裏手のを窺うと、ピューリッタを連れた秋山がやって来る。ピューリッタは嬉しそうに首を振って凛子に鼻先をすりつける。
「ちょうどいい。中で話しましょう」
ピューリッタの背に乗せていた重たそうなジュラルミンケースを、軽々と持って管理事務所へ入っていく秋山。ピューリッタは凛子をひと舐めすると中へ入るようつついた。凛子たちも管理事務所へと戻る。
ジュラルミンケースはあちこちに傷があり、かなり古い。テーブルの上へ置いて蓋を開ける秋山。中には米軍のマークの入った15cmほどの立方体が3個、他に赤と青のコードや工具、筒状の金属なども見える。
「秋山さん、これは…」
「どうみても危険物、爆薬だな」
「秋山悌二郎さん、あなたを逮捕します」
「危険物…所持…」
バッグの中から手錠を出そうとする凛子。
「待ってください。もうじきこの惑星に禍が降ってきます」
「え?……!」
「何言ってるんだこのじいさん」
「協力していただけるなら、その後は従います」
「協力?」
秋山の顔が青白くなり、徐々に半分が別人へと変わっていく。
「奴はもう近くに来ている」
その時、凛子のギャラフォンが着信を知らせた。
我に返った凛子が通話ボタンを押し耳に当てた。
『雲取山から奥多摩湖周辺に避難命令だ』
急にきりっとした凛子は内容を確認する。
『急に現れた隕石が、雲取山のヘリオンに導かれるように落下中だ』
「え?! 隕石が落下中?!」
ザーマックの肩越しに凛子を見るシレーム。
秋山は驚いた様子も無く、ジュラルミンケースから出した立方体の蓋を開け中をいじっている。
『管理事務所へ行って、秋山氏とともに災害時の退避マニュアルに従い…』
「今管理事務所です。秋山さんならここに居ます」
凛子は通話をスピーカーにしてテーブルに置いた。
『猛スピードで隕石が雲取山方面へ向かっている。退避行動をお願いします』
直後に防災無線のサイレンが鳴り響いた。
「どうやら現れたようですね。あいつが…。奴の狙いはヘリオンです」
『あいつ?』
「あいつって、なんです? あなたは…」
「我々はギャラモンと呼んでいる。あらゆる資源を吸収し、分裂と破壊を繰り返す。あいつを完全に破壊しなければ、死の星となってしまう」
そう言うと、じわじわと顔の右半分が青白くなる。
「わたしは秋山の体を間借りしている、メール」
「ど、い、う…」
驚きのあまり言葉につまり、いや、うまく声が出ず、固まってしまう凛子。
凛子の様子に、ふたたびもとの元の顔に戻った秋山が微笑んで近づき、そっと抱きしめる。固まっていた凛子が秋山のぬくもりに安堵しの表情を浮かべる。
わずかな時間だったが、凛子は落ち着きを取り戻した。
「おい、凛子」
「年寄り…好きか」
「そんなんじゃないわよッ。変なこと言うとホルマリン漬けの標本にしてやるからッ」
シレームはガラス瓶に漬けられている姿を思い浮かべる。
「勘弁…だ」
秋山が静かに言った。
「一刻も早くギャラモンを完全に破壊せねばなりません。我々だけでは手が足りない」
「我々?」
秋山の顔がまた青白くなり、今度は完全に顔が変わる。
「秋山の体の私とピューリッタ。大切な相棒だ。君たちには分かるだろう」
顔を見合わせるシレームとザーマック。
凛子は今度は固まらずに、青白い別の顔をした秋山を見つめた。
「で、さっきから言う、完全な破壊ってのはどうするんだ」
ザーマックの問いに、メールと名乗った別の声が説明を始めた。
【ギャラモン】の体内には再成能力を持った頭脳という核ようなものが存在し、それを破壊しない限り新しいギャラモンが次々と生まれる。頭脳が体内にいる間は破壊は不可能。その為、まずは核を外に出す必要があるという。
「この国の言葉で言う、息の根を止めるのだ。そこで、最重要任務を諸君達にお願いする。だが、危険な任務であり、負傷することもある。命の保障もできない」
ゆっくりと、凛子、ザーマック、そして背中のシレームへと視線を向けるメール。凛子が頷くと、シレームとザーマックも頷く。
「では、作戦を説明しよう」
スピーカーにしたままの凛子のギャラフォンから、作戦の内容はイチローにも伝わっていた。