※20xx/8/15-08:00 奥多摩へむかうバスの中
奥多摩湖の湖岸のぐにゃぐにゃとした道路を走行するバス。家族連れなどとともに凛子が乗っている。周辺には大きな岩が転がり、ところどころ工事中の表示があるが通行は大丈夫なようである。
× × ×
−−− 凛子の回想
外事特課のフロアの一画。課長デスク前に、制服姿の凛子が直立している。課長の根米がタブレットを手に、座ったまま正面の凛子を見つめる。
「小山巡査、報告書は読みました」
「ハイ…」
「なぜ秋山への協力を決めたのかしら?」
「え、と…」
「異星人と体を共有していると、自称した男の言葉だけで、まだ現れてもいない怪獣が来ると、どうして信じられたのかしら?」
静かだが厳しい根米の追求である。
「課長、確かに、メール、という異星人は、いたんです。秋山さんの中に。部長も聞いていたんです」
「鈴木くんの報告では、音声では聞いたが姿の確認はしていないそうだけど?」
「でも、メールと秋山さんの指示で、ギャラモンを倒せたんです!」
ふぅ、とため息をつく根米。
「怪獣、ギャラモンを倒せたことは認めましょう。ですが、なぜ協力をしたのか、その理由を聞いているのよ」
「秋山さんとメール…、いえ、異星人のしゃべり方が、私を可愛がってくれたおんじ…いえ、牧場主に似ていて…。ぶっきらぼうで素っ気なかったんですが、私にはよくしてくれて…、それに…」
言葉に詰まる凛子。
「それに、なんです?」
戸惑いながらも、イチローに言われた通りに正直に答える凛子。
「最初は気付かなかったんです。親しみは感じていたんですが。その、思い出すとたまらなくて…。おんじは事故で亡くなってお別れもできなくて、恩返しもしてなかったんです。それと重なって…」
呆れたようにため息をつく根米。
「それで、確証の無いことに協力を? シレームとザーマックも巻き込んで? 冷静な判断とは言えませんね」
「それは! やらなければ地球が危ないと…! あいつ…、いえ、二人には悪かったと思ってます。でも、巨大化したピューリッタを見た時、できそうだと感じたんです」
根米はまたひとつため息をついた。
「それはうまくいったから言える事です。それに、もう協力を決めてからのことですよね」
「…それは、その…」
「正直に言いなさい」
凛子がうつむきながらぽそぽそと力なく説明する。
「ピューリッタは、私が牧場で育てていた馬のように思えて、見捨てられなかったんです。それに、秋山さんのような祖父がいたらと…」
根米がタブレットをテーブルに置き立ち上がる。
「小山巡査」
「ハイ…」
「それが今回の行動の要因ですか」
「ハイ、そうです…」
肩をすくめ小声になる凛子。
「分かりました。結果はどうにかなりましたが、あなたの感情が原因で、巻き込まれた者に犠牲が出たかもしれません。そのことは忘れないように。処分は後日通知します」
「ハイ…」
「下がってよし」
力なく頭を下げ課長室を後にする凛子。
× × ×
キャンプ場前でバスが停車。他の客に続いてバスを降りる凛子。少し周囲を見回してから、管理事務所へと向かう。
※20xx/8/15-08:30 キャンプ場の管理事務所
秋山がデスクワークをしている。ノックがあり凛子が入って来ると、ニッコリと微笑む秋山。勧められソファに座る凛子。秋山は正面に座る。
「大変だったんでしょう」
「課長にはさんざんシボラれましたが、首はつながりました」
「そうですか…。よかったです」
「秋山さんもたいした事なくって…」
「米軍からの盗難届も出ていなかったようですし、銃や爆薬の不法所持くらいしか…」
「撃ったのは私ですしね」
秋山、少し笑う。
「まぁ、証人のメールもいませんでしたから、襲来がなぜ分かったのかは僕にもわかりません。しかしまた警察の監視対象にはなったようで、周辺はパトカーが日に何度も巡回にも来ます。まぁ、生活は変わりません」
「メールは、どこへ行ったんですか?」
「わかりません。検査結果で、体にいない事を知ったんです」
秋山は仕事をしていた机に戻り、パソコンを打ち始める。
凛子も近くへ行くと、モニターを凛子に向け左手で凛子の頰を触る秋山。ハッとする凛子。その手は青白くなっている。
その手の色に思い出した凛子。その手を握って秋山を見る。秋山は目でモニターを見るように合図し、口に指を当て黙るよう指示。その右手も青白くなっている。そしてモニターの文字を読む凛子。
「おはよう凛子くん。君の質問に対する答えだが、私とピューリッタは、核になる部分だけが残り秋山の両手に逃げ込んだ。普段は俗に言う仮死状態だ。元に戻るには何年かかかるだろう。この事を知って君が報告するかあるいは黙っているか、私たちはいっさい感知しない。以上だ。なお、この文章は自動的に消滅する」
読み終えるとモニターの文章は消えていった。
凛子は秋山の右手を両手で握る。
「私どうしたら…。みんなが生きていてくれて嬉しいんですけど…」
「どっちでも大丈夫。そう悩まずに、報告していいんですよ」
「で、でも…」
秋山が凛子の頭を撫でる。
「まぁ、なるようになれ、ですよ。たぶん、僕たちはここに居るでしょう」
凛子は秋山の胸に顔を埋め、涙を流している。暫くは二人はこの姿勢でいたのであった。