ギャラクシーポリス   作:橘 花道

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◎簡単なあらすじ
 府中警察署地域部の笠間琉也が殺された。
 殺害の手口から異星人の可能性が浮上し、本庁から派遣された外事特課のチームとの
 合同捜査本部が立ち上がる。
 しかし、日本人と異星人との摩擦が深刻な府中市では捜査が難航する。
 その対立は地域社会だけでなく、警察組織内にもあった。


捜査報告書 No.11【予備班】- アスワードメイン
#1『坂上と坂下』


 植木勝は自分の耳を疑った。

 

「署長、今何と仰いました?」

「すぐに本庁(ホンブ)へ連絡。外事特課の参集。そう言ったのだよ、植木警部」

 

 署長―府川警視は、口をへの字にして虚空を見つめていた。

 

「外事特課・・・笠間を殺したホシは異星人だと言うんですか?」

「その可能性がある。ということだ」

 

 殺された笠間琉也は、植木の同期だった。刑事部で出世した植木と違い、笠間は常に良いお巡りさんを続けていた。それだけに周囲の信用も厚く、慕われていた。

 それが、巡回の最中不審な動きをした三人に職務質問をした所、突然刃物で刺された。

 犯人を含む三人は逃走。笠間は病院へ向かう救急車の中で息をひきとった。

 府中警察署の刑事は煮えたぎる怒りを胸に捜査本部に参加した。通常、捜査本部には一線級の職員を投じない。通常業務が回らなくなるのを防ぐ為だ。しかし、今回はベテラン捜査員が笠間の敵をとるべく、率先して参加を申し出てきた。

 刑事課長の植木も予備班として犯人の追跡を開始し、鑑識班からの報告を聞いた。

 司法解剖による結果から、致命傷は二つある創の内、みぞおち付近の刺切創と断定された。要するに鋭利な刃物による刺し傷だが、この報告が問題になった。

 創の形状から、片刃ナイフのような形状の凶器と考えられるが、通常有刃の凶器による刺切創は、刺す時と引き抜く時にそれぞれ皮膚を斬り裂くことになる。

 つまり、刃が付いている方の傷が二つになるわけだが、今回は一つしか傷ができていなかった。

 現場に凶器は残されていない。この報告を受けた瞬間、本部長である府川は、突如異星人犯罪の捜査をする浮遊警視庁の精鋭部隊参集を命じてきたのだ。

 

    ☆    ☆    ☆

 

 植木たちの前に現れた異星人二人は、対照的な印象だった。

 

「カプノスです。階級は警視正。今回の捜査主任補佐を担当します」

「アスワード・マーテン。階級は警部です」

 

 カプノスと名乗った方はデルタ人だった。銀河連邦の中心惑星の人間で、念力が使えるらしく、常に浮いて移動する。頭が異様にデカく、躰の線は細い。

 植木は、こういったエリート然としたタイプがたまらなく嫌いだった。現場の苦労を理解しようとしないことが多いからだ。

 アスワードと名乗った警部は、典型的なサイード人だったが、身長183cmの植木が見上げるほどの巨漢だった。

 植木は、職業柄異星人と関わることが多い。特にサイード人はその人数の多さから、よく見かける。

 府中市は、大きく坂上と坂下に分けられるが、現在は坂下付近に異星人の街ができはじめた。サイード人はその中でも全体の60%を占めるが、アスワードはこれまで出会った中で最も大きい。口角から露出している牙がより一層の威圧感を与えていた。

 

「では、アスワード警部は予備班ということでよいですね?」府川が言った。

「謹んで、引き受けさせて戴きます」

 

 アスワードがすかさず応えた。

 

 ――予備班?

 

「こちらの植木警部も予備班です。二人で連携して事件解決に努めて戴きたい」

 

 アスワードは無言で植木に会釈した。それでも、頭の高さは植木の遙か上にあった。

 この化け物と一緒に捜査するだとッ

 形だけの会釈をしながら、植木は自分の胸に先ほどまでとは別の熱が生まれているのを感じた。

 

    ☆    ☆    ☆

 

 予備班というのは、名前から想像するヘボさとは裏腹に、捜査本部の重要ポジションだ。捜査主任の懐刀となり、情報の交通整理や容疑者等の尋問を行う。

 予備班となったアスワードもまた、その仕事をすることになる。

 アスワードは、報告書をぱらぱらと捲った。

 

「なるほどな」

「何かわかるのか?」

「凶器は発見されていないとのことだったが、現場で凶器を見た者はいないということで間違いないのだな?」

 

 見落としを疑っているのだろうか。

 

「捜査班の報告ではそうだ。異星人が作った透明なナイフがあったというなら、話は別になってしまうがね」

 

 やや皮肉を交えて答える。すると、報告書を捲るアスワードの手が止まり、目線を文面から植木の眼へと移してきた。

 

「いや…」植木は肩をすくめた。「ただの例え話だよ。気分を害することを言いたかったわけじゃ…」

「良い着眼点だ。植木警部」

「…は?」

 

 その時、捜査本部の扉が開き、一人の女性警察官が入ってきた。

 捜査本部の面々が一様にその女を眼で追っていた。見とれていたと言ってもいいだろう。それくらいの美女だった。

 その女は、真っ直ぐに予備班の席へと歩いてきた。神秘的な見てくれとは対照的に、規則正しく響く靴音には、軍人のような雰囲気が混じっている。アスワードの前でかかとを揃え、気をつけの姿勢をとる。ボブカットの真紅の髪の毛がふわりと揺れた。

 

「調査が終わりましたわよ。魔天のおじさま」

 

 紅髪の女が手渡した報告書を受け取ったアスワードは、さっそく目を通し始めた。

 

「その呼び方は改めるよう言った筈だぞ。イグニース巡査」

「はいはい、わかりましたわよ。けーぶ様」

「………」

 

 捜査本部に沈黙が広がった。

 見事に外見と仕草と中身の印象が違う女だ。捜査員の中にも、理想を裏切られたような顔をする者が少なからずいる。

 そんな中、アスワードは読み終えたらしい報告書を机に置き、「やはりな」と呟いた。

 

「わたくしの同族ですわ。恥ずかしながら」

「どういうことだ?」

「犯人の種族と大まかな人物像が判明した。インフェリシタス系異星人の流れ者。年齢は二十代前半から後半。男性」

「氷の神 グラシリスの加護を受けた血筋ですわ。本人は棄教しているようですけどね」

「ちょっと待て、何故そんなことがわかる?」

 

 植木が身を乗り出して質問すると、女が初めて植木の方を振り向いた。聖火のような紅い瞳が植木の眼を覗き込んでいた。

 外見は地球人とそう変わらないが、髪の色以上にその瞳に異質なものを感じた。

 サーモグラフィーで見え方が違うように、自分たちとは見えている世界の景色が違っているような瞳。

 こちらの外見や表情ではなく、内にある精神自体を見つめられているようだ。

 理屈では無く、直感だ。だが、刑事として研ぎ澄ませた嗅覚が警戒を促している。

 

「府中警察署の植木警部だ」アスワードが言った。「私と一緒に予備班として捜査本部に携わっている」

「おや、そうでしたか」イグニースと呼ばれた女は背筋を伸ばして敬礼した。「公安部 外事特課 生活安全総務係のヘリアンテス・ルクサ・イグニース。階級は巡査です」

 ヘリアンテス……たしか惑星インフェリシタスからやってきた異星人捜査官だ。

 前に本庁に配属されるとかで騒ぎになっていたのを思い出した。

 ヘリアンテスは報告を続けた。

 

「わたくし達インフェリシタスの民は、神の加護を持って魔法を扱います。

――このように…」

 

 瞬間、ヘリアンテスの髪に炎が宿り、周囲に西洋の美術館に飾られるような剣が無数に出現した。

 

「なっ…」

「これが消えた成傷器のカラクリだ」

 

 アスワードが言った。

 

「剣を出現させ、笠間巡査に致命傷を負わせ、そのまま引くこと無く消した」

「どこに証拠が?」

 

 植木が言うと、ヘリアンテスがペラペラで青く光るシートを見せてきた。

 

「銀ですわ。純水に浸してわたくし達の剣による創にかざすと、このように変色します。変わる色の種類によって、加護を受けている神様も判別できるのです」

 

 ヘリアンテスは、剣を消し去った。

 

「威力は弱めですわね。筋肉は切り裂けても、肋骨付近の刺突は骨を断てていません。棄教し、神や教会と袂を分かったチンピラのなまくらです」

 

「年齢の件は?」

 

 植木が訊ねると、ヘリアンテスはにこりと笑った。

 

「色の濃度と濁り方からざっくりと」

 

 植木は驚愕せざるを得なかった。残された遺体から得られる情報は極めて多い。しかし、それが異星人に通じるかどうかはわからなかった。それが、創だけでここまでの人物像を特定することができるとは。

 

 やはり、餅は餅屋ということか…

 

「植木警部」アスワードが呼んできた。

「何だ」

「ホシの潜伏場所は何処だと見る?」

 

 植木は少し考えて答えた。

 

「おそらく、坂下だろう」

「坂下?」

「ああ、府中市は地球人や裕福な異星人が住む坂上と、低所得の異星人や地球人が住む坂下に別けることができる」

「ほう」

 

 坂下の街は暴力団や半グレ集団や流れ者異星人の温床となっている。坂上との平均賃貸価格差は約三万五千円だ。空き家に勝手に住んでいる者も大勢居る。ほぼ無法地帯だ。

 

「総人数は把握できていないが、インフェリシタス系の異星人も少なからずいる筈だ」

「充分だ」アスワードが言った。

 

 植木は頷いた。

 

「坂下と言っても広い。的は絞れるのか?」

 

 ヘリアンテスが手を上げた。「インフェリシタス系は、お風呂に入ります」

 

「は?」

「定期的に躰を清めなければ、神から授かった魔力と身の汚れが干渉して、大変なことになってしまうのです」

「…どうなるんだ?」

「色々です。個人差があります」

「話を纏めると」

 

 アスワードが引き継いだ。

 

「ホシは低所得のインフェリシタス。家は水道が引かれていない可能性が高い。そうでないにしても、大浴場を好む彼の種族ならば、銭湯を定期的に利用している可能性は極めて高い」

「――毛髪か?」

 

 アスワードが頷いた。「先ほどと同じ要領で銀紙をかざし、色や濃度が一致すればホシと特定できる」

 アスワードは立ち上がった。

 

「地取りの班分けを行う」

 

 植木は身を固めた。他の府中署の捜査員も同様だった。

 

「府中署の捜査員と、浮遊警視庁の捜査員でペアを組んで貰う。特に、ベテランの捜査員は私の部下である外事特課のメンバーとだ」

「…ちょっと待ってくれ」

「どうした?」

「こっちの地取りは、基本的に府中署の捜査員でペアを作りたい。やれても、刑事部のメンバーとだ」

「理由は何だ?」

「府中市の治安は、異星人が来てから劇的に悪くなった。捜査員の中にも、異星人に対して良くない感情を持っている者が大勢居る」

「そんなことを言っている場合じゃあないと思うのですけれど?」

「言いたいことはわかる。だが、今回は異星人に俺たちの仲間が殺されているんだ。あんた達は知らないだろうが、殺された笠間って男は…」

 

 言いかけた時、アスワードが手で制した。

 

「言い分はわかった。まともにコミュニケーションが取れないようでは、コンビを組む意味が無い。円滑に捜査できるよう、提案を呑むことにする」

「…感謝する」

「方針は決まったようだね」

 

 カプノスがゆらりと席を立った。アスワードに耳打ちをするように話しかける。

 

「私は戻るが、何としても挙げろよ」




◎登場人物紹介
 ※異星人の年齢は地球人に換算したものです

 ○アスワード・マーテン(45)※
  警視庁 公安部 外事特課 強行犯捜査
  第一係 係長。階級は警部。

 ○植木勝(42)
 府中警察署の刑事課長。階級は警部。
  捜査畑一筋のベテラン

 ○笠間琉也(享年42)
 府中警察署 地域課の巡査だった。
  巡回中、天河組の手によって命を落とす

 ○カプノス(44)※
  銀河連邦首都が存在する星デルタの人間。
  
 ○府川忠治(30)
  府中警察署の署長職に就いている、キャリア組。階級は警視。
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