異星人向けに解放している銭湯の調査を終えた鑑識班が戻ってきた。
「ヘリアンテス巡査より教えて貰った方法で調査したところ、三件の銭湯で一致する毛髪を発見することができました」
捜査本部に「おおッ」という声が広がった。
「坂上地取り班です。犯行前後で銭湯を利用している者に変化はなく、聞き込みを続ければ犯人特定ができそうです」
しかし、坂下地取り班からの報告では、有効な証言が得られなかった。
「どうみる?」
植木は溜息をついた。
「坂下の横のつながりは強い。警察というだけで目の敵にして、何も答えやしないんだ。俺たちが行っても無駄だが、あんたらならもしかしたら。と思っていたんだがな」
「そこまで深刻なのか?」
「言葉と文化の違い、色々な摩擦があった。俺たち警察官も、余計な刺激を与えたくなかった」
「坂下の交番は機能しているのか?」
「あまり効果は無いな。交流も皆無と言って良いだろう。互いに踏み込まず。そうやって摩擦を避けていなければ、色々な事件が起こっていただろう」
☆ ☆ ☆
捜査本部が立ち上がってから、一週間が過ぎた。最初と違い、まったく有効な情報が上がってこない。
府中市の坂上と坂下の溝。それが痛かった。
聞き込みをする側から逃げてしまうのだ。
棲み分けをすることで、一応の平和を維持していた。だが、それは互いの領域への無関心へと繋がっていたのだ。たかが坂一つを境に、地球と異星のような距離を生み出しているのか。
苛立ち、焦り、そういったものが汗に混じり、からみつくような熱気となって捜査本部を包み込んでいる。
「まさか、もう逃亡してしまったのか?」
「いや、まだいるはずだ」
「何故そう言い切れる?」
「今あの連中が逃亡するとすれば、異星へ逃れるしかない。航空ルートは別の捜査員に抑えさせている」
その日の会議が開かれた。カプノスは、本庁から通信で参加した。席にホログラフで姿が投影されている。
「やれやれ。この会議も進展がありませんね」
「皆頑張っている。追い打ちを掛けるような真似は控えて頂きたい」
「私の貴重な時間を使っているのだよ、警部。反論するのであれば、成果を見せ給え」
「承知しております」
ここ数日の通り、何も無い報告が続いた時だった。
「鑑取り班です。その…」
何か言いにくそうにしている。
「どうした? 早く報告しろ」
「はい。ホシの背後関係を洗っていたのですが、連中は…天河組の構成員の可能性があるのです」
「何っ」
捜査本部に動揺が走る。植木の目の前も真っ暗になった。
天河組は、浮遊警視庁と銀河連邦が全力を持って壊滅に取り組んでいる宇宙を股に掛ける暴力団だ。
犯人がその人間ともなれば…
「はははははっ」
カプノスが突然笑い声をあげた。
「これは愉快だ。ええ、アスワード。これは何としても挙げねばならんぞ」
「どういう意味ですかな?」
「犯人の身柄は、銀河連邦に引き渡す」
カプノスの言葉に、捜査本部にさらなる動揺が走った。
「貴様の失点の回復にもなるぞ。気合いを入れることだな」
「身柄を引き渡す…」
そうなれば、尋問も裁判も地球外の案件として処理される。
府中警察署の……日本警察の手で敵を取れなくなる。
アスワードの表情は変わらなかった。