ギャラクシーポリス   作:橘 花道

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#3『狩りの時間』

 捜査会議は、絶望の色を残して終わった。

 植木は、休憩室でブラックの缶コーヒーを胃に流し込んだ。ウイスキーが飲めるなら、それにしたいくらいの気分だった。

 懐から、写真を取りだした。笠間のものだ。 いつも街を巡回していた笠間。府中の安全を・・・いや、笑顔を守っていた。この街からあいつを奪った犯人の処罰を地球でできなくなる。それが悔しかった。

 拳を机に叩きつけた。

 

「人に慕われる人物であったようだな。笠間巡査という警察官は」

 

 アスワードだった。

 

「何の用だ?」

「……」

「ホシは銀河連邦の預かりになるんだろう? 捕まえることができればの話だが」

「必ず捕まえる」

 

 植木は鼻を鳴らした。

 

「この前聞いたぞ。あんた、浮遊警視庁に入るに当たって、結構無茶をやらかしたそうじゃないか」

「……」

「エリート様の挫折ってやつか? 早く名誉を挽回して、本部に返り咲きたいだろうな」

 

 植木の携帯が鳴った。

 

「植木だ」

『警部。地取り班の前田です』

「どうかしたか?」

『聞き込みを続けていた所、異星人の無銭飲食に遭遇しまして』

 

 植木は溜息をついた。

 

「交番に引き渡せ。捜査が先だろう」

『それが、その異星人が興奮して、私が持っている笠間巡査の写真を指さして何か叫んでいるんです』

「なんだとっ」

 

 取調室に連れ込んだサイード人は、ゼナ・カァブという名だった。

 話は同じサイード人のアスワードが担当した。

 

「へへへ。同族に会えるとは思いませんでしたぜ。いや、そんなに飲むつもりじゃなかったんでしたがね、ちょっと懐具合を…」

「何故笠間巡査を知っている?」

「ん? まぁ、何度か道ばたで見かけているもんでね。ほら、お巡りでござんしょ? あの地球人」

「話をしたことがあるのか?」

「ええ、妙な地球人でしてね。何処からかサイード語を学んで、話しかけてきたんですよ。ああ、他の言語も使ってやがりましたね。片言で下手くそでしたが。だから…色々と相談に乗ってもらうこともあってですね。…あ、これは仲間には言わないでもらいたいんですよ。官憲と話しているなんて知れたら、色々やりにくいもんで。まぁ、あの官憲に相談すれば、無銭飲食の罪も誇張されること無いかなと期待してのことでござんす」

「……」

「で、笠間さんはいらっしゃらないんで?」

 

「笠間巡査は」アスワードは言った。「先日亡くなった」

 

 ゼナの動きが止まり、顔色が変色した。

 

「旦那、おいらちょっと耳が悪くなったみてぇだ。もういっぺん言ってもらえるかい?」

 

 植木とアスワードは眼を見合わせた。

 

「溝に橋を架けようと、一人戦っていた男がいたらしいな」

 

 植木は壁を思いっきり殴りつけた。

 誰も坂下の異星人とコミュニケーションをとろうとしていなかった。署内にも、不用意に近づくと怪我をすると、行く事を躊躇う風潮があった。

 そんな中、たった一人彼らの話を聞こうとしていたのが、笠間だった。やつが守ろうとしていた街、笑顔。それは地球人だけではなかった。異星人も街の一員、同じ府中市の民。そんなことを考えて仕事をしていたのだ。昇進もせず、日々不器用に彼らの言葉を密かに覚えながら…

 

 ゼナの協力により、ホシの素性・素行・交流関係が判明し始めた。

 

『ホシの出入りしていたスナック、キャバレー、バイト先など可能な限り調べましたが、行方を知っている者はいません』

「壁は調べたか?」アスワードが言った。

『え?』

「連中はインフェリシタス系だ。魔法を操る」

『それが何か?』

「ホシの一人はリフォーム会社でアルバイトをしていたとあった。出入りしていたスナックの内装工事にも関わっている。空間を歪ませ、隠し部屋を作っている可能性がある。会議でも言っておいたはずだ」

 

 別の者が出た。

 

『自分が調べました。警部の仰るマークは存在しません』

「無地だったか?」

『いえ・・・ごく細かい模様はあります』

「遠くから眺めてみろ。壁全体で以てマークとしている可能性もある」

『・・・わかりました』

「あんたも必死だな」

「・・・仕事なのでな」

 

 仕事・・・か・・・

 それは植木達府中署の署員も同じだ。しかし、この捜査がどのような結末を迎えても、自分たちの望む物にはならない。

 自分たちは利用されているだけだ。それが地球人捜査員のモチベーションを著しく下げている。

 席を立ち、喫煙室でたばこを吸った。

 

「植村警部」捜査班の一人が来た。

「何だ?」

「アスワード警部の事ですが・・・」

「ん?」

「正妻を亡くされているのはご存知でしょうか?」

「そうなのか?」

「その犯人は、天河組らしいんです」

「なんだとッ?」

 

 あの執念はそういうことだったのか。

 席に戻ると、新たな無線が入っていた。

 

『犯人らしき人相を見たという情報が入りました』

「どこだ?」

『府中駅側の並木通りです』

 

 難しいと植木は思った。

 この時間の府中市は、街灯の少なさの割に人通りが多い。見つけるのは困難だ。

 

「見つけ出せ。但し捕らえるな。仲間の居所まで追跡しろ」

『この人数の中をですか?』

「できる」

『――っ』

「やれ」

『・・・・・・了解しました』

「見つかるか?」

「見つける」

「なぁ、俺たちはあんたの駒じゃない」

「・・・」

「殺された笠間はみんなに慕われていた。太陽のような男だったんだ。みんな自分たちの手で捕まえたいと思っている」

「当然だろう」

「しかし、あんたとしての立場もあるだろう。・・・その、個人的な想いも。だから、力を貸して欲しい。せめて、銀河連邦じゃなくこの捜査本部の者の手で捕まえたい」

「もう一度言うが、当然だ」

『ホシを見つけました』

「どこだ?」

『例のスナックの前です』

「ママは知らないんじゃなかったのか?」

「情婦なのだろう。隠していたんだ」

『警部の仰るマークは存在しました。隠し部屋も発見済みです』

「やった」とそこら中から聞こえてきた。

 

 捜査本部の熱気が変わった。沸き上がる熱い血潮の熱だった。

 

「すぐに向かう。やつらは魔法を操る。決して先走るな」

『了解』

 

 府川署長が捜査員を召集した。

 

「えー、これからホシの確保に向かいます。しかし、相手は異星人であり、ヘリアンテスさんの証言によれば、極めて危険な状態になっているとのことです。そこで、本作戦の指揮はアスワード警部にとって貰うこととします。では、アスワード警部。一言」

 

 アスワードが府川からマイクを受け取った。

 

「現刻より、ホシの逮捕に向かう。しかし、抵抗が予想されるので、戦闘は私とその部下で行う」

 

 予想通りの言葉だった。捜査員にも諦めの表情が浮かんだが、せめて地球で逮捕できるという安堵もあった。

 

「・・・これから話す内容は重要なので、心して聞け」

 

 植木も、捜査員も首をかしげた。

 

「戦闘は私たちが行うが、犯人三人に手錠をかけるのは、この府中警察署の職員で行う。これは命令である」

 

 その言葉に、植木は絶句した。他の皆も同様だった。

 

「殺害された笠間巡査の経歴を見た。華やかさこそ無いが、地域の平和を守るため、常に前向きに職務に励んでいた。有給はほとんど取らず、風邪等による欠勤は皆無だった。関わった地域の声も聞いた。皆名前を覚えていた。いつも助けられたと言っていた」

 

 全員がアスワードの言葉を驚きの表情で聞いていた。涙を浮かべる者もいた。

 

「その彼を、奴らは奪ったッ」

「――っ」

「その弔いは、この署の同じ屋根の下、職務に励んできた同胞の手によって行われなければならない」

 

 皆引き寄せられていた。アスワードの声に、その力ある瞳に。

 

「この一週間、諸君等は街中を歩き回り、情報をかき集めた。何の為か? 全てはホシ三人を腰縄を掛けて引きずり回し、この地球の法廷に立たせ、犯した罪に等しき罰をその魂魄に刻みつける為である」

 

 捜査員全員の瞳に、炎が宿った。熱くなったエンジンのように、走り出す時を待っている。

 

「狩りの時間だ。諸君等は猟犬である。罪を犯したチンピラの喉元に、鍛えた牙を突き立てろッ」

 

「「「「応ッ」」」」

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