ギャラクシーポリス   作:橘 花道

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捜査報告書 No.13【赤の軌跡】- 倉林美希メイン
#1『直径6.5ミリの繁華街』


 繁華街はいつも通り賑わっているようだった。耳に届くのは客引きと酔っ払い、夜の店に誘う女の喧噪だ。

 バケツをひっくり返したような雨が降る金曜日の二十五時。遊び足りない大人達は、日本で最も稼げるこの街で、稼いだ金をバラマキながら経済を回している。

 バーで異星の高級な酒を飲んでいるのかもしれない。大衆居酒屋で決起会を開いているのかもしれない。スナックでのど自慢大会を開いているのかもしれない。大人の店でハッスルしているのかもしれない。

 しかし、私は彼ら彼女らが何をしているのか、いかなる様子か知る由も無い。

 私は五時間前から同じ姿勢で同じ景色を見つめている。

 ススだらけの高層ビル屋上。黒い雨合羽に身を隠し、うつ伏せの姿勢で雨に打たれている。

 

「――っ」

 

 小さく息を呑む。

 500メートル先の雑居ビル入り口。

 直径6.5ミリの視界の中、豊和M1500の銃口が狙う先で、待ちに待ったターゲットが現れた。

 

     ◇   ◇   ◇

 

 入り口を蹴破るように入ってきた二人組は、カウンターをたたき割る勢いで腕を振り下ろした。

 

「ニホン人。ミカジメ料……ダセ」

「俺タチ。ココガナワバリ。オマエタチヲマモッテイル。ダカラ、オマエタチハ俺タチニカンシャスルアタリマエ。金ヲ出セ」

 

 額に浮いた汗を拭いた。

 

「――お断りします。あたな達のことなんて存じ上げませんし、そもそもみかじめ料の徴収は法律違反です。……日本の法律は知っているんですよね?」

 

 二人の異星人は顔を見合わせた。緑色の肌と異様に大きい楕円形の眼が目を引く。

 鼻と耳に当たる部分が無い代わりに、頭頂部に二本生えている触手がクルクルと回っている。考え事をしているのかもしれない。

 

「ホウリツ……聞イタトキアル」

「ニホン人がマモッテイル決マリ事ダナ」

「そうです。法律を守らないと、警察に捕まるんです。わかりますね?」

「ルクスタニハ関係ナイ」

「……え?」

「オマエタチガホウリツを守ルノハ勝手ダ。ダガ、俺タチハ従ワナイ」

「俺タチハヤラナキャナラナイコトアル。イッパイアル。ソレヲ縛ルモノハ全部ムシスル。ルクスタガ守ルモノハ、ニホン人トハチガウ」

「ソンナバカゲタモノヲ押シツケルナ」

「社会で生きるのに、そんな無法は……」

 

 再び腕が振り落とされ、今度は本当にカウンターが破壊された。

 

「――ひっ」

「ガタガタヤカマシイ」

「金ヲダセ。オシャベリシタイノトチガウ」

 

 ルクスタと名乗った異星人達は、有無を言わさない迫力があった。

 

「……仕方ありません。わかりました」

「ソレデイイ」

 

 カウンターから出て、奥の扉を開いた。

 

「ドコエイク?」

「現金は事務室に置いてあるんです」

 

 ルクスタ人の二人も付いてきた。

 

「そう、仕方ないんだ」

 

 事務所金庫のダイヤルを回し始める。

 

「ハヤクシロ」

 

 一瞬、壁の方から風が吹き抜けた。

 

「オイ、窓ガ……」

 

 空気を切り裂く音が聞こえたのと同時に、喋り始めた方が倒れる。そして、二秒と経たない内にもう一人も倒れた。

 ピクリとも動かない。

 

「――はっ、はっ、はっ…………」

 

『怪我はありませんか?』

 

 机に隠していた小型スピーカーから女性の声が聞こえた。

 

     ◇   ◇   ◇

 

 イヤホンから聞こえてくる声は今にも過呼吸になりそうな様子だった。

 

『だ……大丈夫です』

「では、別の者が片付けに行きますので、何もしないようにお願いします」

 

 ライフルからマガジンとスコープを抜き、ケースに入れた。

 

『あの……少しいいですか?』

「手短に」

『この人達、何なんでしょう? とうか、何故今日ウチが襲われるとわかったんですか?』

「名乗ったかもしれませんが、ルクスタという惑星から来た異星人です。正式な手続きで入国したわけではない不法滞在者で、この大田区で急速に勢力を拡大しています。みかじめ料を取る恐喝班は開店一週間目に来る傾向があることがわかっているので、我々栗唐組がマークさせていただきました」

 

 答えながらも、撤収の為の手は動かした。

 

『はぁ……なるほど……あの、報酬とか聞いてませんですが、どのように……』

「ご安心を。別ルートから報酬は貰う形になっています。事業者様からは一銭も受け取りはしません」

『別ルートって、一体?』

「申し訳ありません。撤収準備が完了しましたので、私はこれで失礼させていただきます」

『あ、はい。……お引き留めして申し訳ありません』

 

 ケースを担いで屋上の扉を開く。

 

「お気になさらず。では、良い週末を」

 

 通話を切った。店内の通信機は遺体を回収する班が一緒に撤去することになっている。

 扉を閉めるのと同時に、ドヤ街の方角から爆発音が聞こえてきた。

 ルクスタのアジト襲撃に成功したのかもしれない。

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