復讐は何も生まない。
それをやったら憎んでいる奴と同じ。
憎しみに捕らわれているだけじゃ何も解決しない。
安っぽいテレビドラマで使われる薄っぺらい台詞は、とても陳腐で古臭く、押し入れの中に転がっていた饅頭と同じく、緑色にカビているように思えた。
何の力も無く、誰からも見向きもされない。
それは、畳んで久しいお店のシャッターに描かれている、色あせた名前もわからないキャラクターに恐ろしく似ていた。
蒲田駅周辺の中で一番高いビルの屋上で息をひそめる。
昨日の雨が作り出した水溜まりに膝をつく。
太陽はまだ空を碧く染める程度の位置にいた。
ターゲットは、シャッター街と化した商店街の角から現れた。
彼らが徹底的に潰した町並みを、ケラケラと笑いながら闊歩する姿には、直接的な被害を受けていないわたしも怒りがこみ上げる。
リーダー格らしいルクスタの目撃情報から照らし合わせて張っていたが、どうやらビンゴかもしれない。
ルクスタは、キングを頂点とした種としての社会構造を持った生物だ。
生まれながらに指揮管理を義務付けられた個体もいれば、働き蟻のように任務を忠実に行う個体もある。
その他、キングの子を大量に産み出せることに特化した個体。諜報に秀でた個体など、それぞれの役割がハッキリとしている。
今、中央の要人と思しきルクスタの周囲を固める個体は、明らかに他の個体よりも上背と肩幅がある。
特殊任務よりも警備・警護に重点を置いたボディーガードタイプのルクスタと言うべき個体に思えた。
「あれが、キング……?」
正解かどうかは不明だが、やるべきことは変わらない。組の方針は、目の前のキングと目される個体を仕留めることだ。
距離を計算し、現在の湿度と気温の補正を加える。
スコープを開くタイミングまで息を整えた。
朝の四時。まだ出勤者もいない駅のロータリーに、迎えと思われる黒塗りのセダンが停まった。
ターゲットが乗り込もうとしたその時、急襲したバンの窓から数挺の銃身が突き出され、ルクスタ達に無数の鉛玉を浴びせかけた。
完全に不意を突かれたルクスタ達は、ターゲットを取り囲むようにして車と反対側へと駆けだす。
――わたしの仕事のはじまりだ。
駅の方向に向かっているが、この時間で動いている電車はない。
狙いを定めた時、ボディーガードの一人がバトンサイズの筒を地面に叩きつけた。
一瞬のうちに、白い煙が辺りに充満し、ターゲット達の身を隠していた。
しかし、行動はある程度読める。
構わず引き金を引いた。
白い煙の中で、鮮血が散った。
ビル風で煙が吹き飛ばされた。小さく舌打ち。
肩を貫通しただけだった。
次の狙いを駅のホームに向けた。線路をどの方向に逃げようと、外さない自信はある。
その時、駅内に鐘が鳴った。始発までには若干の時間がある筈だった。
眼をスコープから離して確認した。
貨物列車だった。
――――「……ッ」
ターゲット達は、貨物列車に飛び乗り、コンテナの間に挟まるように身を隠した。
「ちっ……」
無線機を取り出した。
「こちらA4。ターゲットを負傷させるも、ロスト。現在、ターゲットは蒲田駅から貨物列車に乗って横浜方面へ移動中。補足可能なメンバーがいれば、追跡されたし」