ギャラクシーポリス   作:橘 花道

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◎簡単なあらすじ
 高岡高校宇宙人研究部の新田部長が、部活動活性の為にも
 新一年生を大量獲得するべく、部活動紹介に望みをかける。
 そんな中、新田部長が一発逆転を狙える極秘情報を手に入れた。



捜査報告書 No.14【留学生】- 羽咋優杜メイン
#1


 *20xx/4/8-7:27

 

「諸君。早朝よりの召集ご苦労」

 

 宇宙人研究部部長・新田豊が何時も通りの尊大な態度で話し始める。

 高岡高校の天文部の部室で早朝から新田部長の招集に全員が怪訝な表情で新田部長を見る。

 

「集まって貰ったのは他でもない。我が部存続の一大転機となる極秘情報を入手した為である」

 

 言葉をかみ締めるように搾り出す新田部長の台詞に集まった部員達が息を呑む。

 天文部員の優杜だけがまたかとため息をついた。

 優杜の経験上、新田部長が悦に入っている時は大抵くだらない思いつきな事が多い。

 新田部長の黒ぶちメガネが一瞬輝くと、

 

「本日より入学する新一年生の中に、宇宙からの留学生がいるとの情報を掴んだ」

「っな」 

 

 その場にいた全員、優杜までが驚きの声を上げる。

 

「部長、それは本当ですか」

「留学生は、何星人ですか」

「当然、女子、女子ですよね」

 

 立ち上がり、前のめりになる部員達を、手を出して制する。

 

「まぁ、落ち着きたまえ諸君」

 

 これ以上ないドヤ顔の新田部長。

 

「君達が興奮するのも分かる。かく言う私も、溢れ出る感情を抑えきれないぐらいだ」

 

 なら、もったいぶらずに教えて欲しいと部員達が抗議の視線を送る。

 

「だが、残念なことに私の優秀な諜報能力を持ってしても、判っているのはそこまでなんだ」

 

 クソ教師どものガードが固くてなと、小声で吐き捨てる。

 

「そ・こ・で・だ!なんとしてもその宇宙人留学生を我が部に」

「当然ですね」

「なんとしても、探し出して勧誘してきます」

「ありがとう、皆協力を頼む。特に羽咋君。君には期待している」

 

 新田部長の情報が本物だとして、あえて自分から劇物をあげる気のない優杜は、わざわざ捜す気もなく。

 

「ええ、まぁ」と曖昧に返事をする。

 

「なにを惚けているんだ。君には使命があるだろう。部活紹介という」

「だから、天野先生からも言われているとおり、そっちの部活紹介はしませんって」

「頼む、羽咋研究員。後生だ。もう、そこは天文部で良い。せめて宇宙からの留学生はぜひ天文部へと一言、一言、壇上で呼びかけてくれぇぇぇぇぇえええ」

 

 早朝から新田部長の叫び声が優杜の鼓膜を突き破った。

 

 

     二

 

 ガタン!

 薄暗い裏路地で、何かが激しく転倒する音が響き渡る。

 

「ちっ、見つかった。逃げるぞ」

「がってん。ボク達は風。捕まるものか」

 

 キジトラ・デ・シルーバとシロ・クロチャは勢い良く走り出すと、その背後から三匹の猫が追ってくる。

 

「「「ニャー!」」」

「ふッ、言葉も理解しない原住民にボク等が捕まるものかよ」

「全くだ、高貴で知的な生き物に生まれ変わってから出直してくるがよい」

 

 そういう二人も、体型・外見的に何処から見ても《猫》。

 地域の野良猫と餌場を求めて縄張り争いを繰り広げている彼等は立派な異星人。

 惑星キティンズで文化を育んで来たミャタマ人だ。

 彼等は己の魂の使命に目覚め、艱難辛苦を乗り越え地球にやってきた。

 だが、その代償はあまりにも大きかった。途中で翻訳機能を内蔵したチョーカーを犠牲にしたのだから。

 結果、地球人の言葉どころか、自分達そっくりの生物である猫にも言葉が通じず、地球人には追い掛け回され、猫には敵とみなされ。

 サバトラ模様のキジトラ・デ・シルーバ、三毛模様のシロ・クロチャ。

 二人はこうして町から町をさすらう日々を送っていた。

 

「ふう、ここまで来ればやつらも追って来るまい」

「くぅ…激しい運動したから、腹が減って死にそうだよ」

 

 そう言って二人は建物の影に寝転がる。

 地球に来た当初、気位が邪魔して行ってかった残飯漁りも、とうとう空腹に耐えかねて身を投じる始末。

 だが、始めてみると残飯は厳重に管理され業者が処理。

 少ない餌場も野良猫グループが牛耳っている為、思うように行かない。

 彼等の体力は何時だって限界だ。

 

「はぁ、こないだ食べた、白くてふわふわしたの、美味かったなぁ」

「熱くて死にそうだったけど、あれは最高だったね」

「せめて言葉が通じれば」

「我々が悪くないと、いや、むしろ栄光ある音楽家だと理解してもらえるのに」

「ん。おい、あれ」

「あれは、確かヤプル・ラボ社製の最新モデル」

「ああ、あれならこの辺境でも、オレ達の言語が入っているはず」

「まさか、あれを盗む。それはダメだ」

「違う、ちょっと借りるだけさ。ちょっと借りて、ちゃんと話せるようになれば理解してもらえる」

 

 トラの言葉に一瞬考え込むシロ、だが、空腹と惨めさが圧倒的に倫理観を上回る。

 

「そうだよね。今のボク達にはあれが必要なんだ。ちょっと借りるだけさ」

 

 あっさりと、考えを翻す。

 そうして意を決した二人は最後の気力を振り絞り身構え。

 

「行くぞシロ、昔やったフォーメーションPだ」

「がってん、ボク達は一陣の風」

 

 いっせいに標的に向け駆け出して行った。

 

 

     三

 

  *20xx/4/8-18:52

 

 ―こまった…

 優杜が最初に感じた感想は実に自分勝手なものだった。

 突如、前方から小走りにやってきた少女は、優杜の前で立ち止まると、ものすごい剣幕で話しかけてきた。

 優杜が通う高岡高校のブレザーの制服、リボンは青色、一年生で間違えないだろう。

 トラブルが発生して、同じ高校に通う人物を頼って話しかけてきた感じだ。

 確かに周りを見ると、同じ高岡高校の制服を着ているのは優杜だけだ。

 この往来の激しい人ごみの中、わざわざ優杜を選んで向かってきたも疑問だが。

 最大の問題は彼女が何を言っているのかさっぱり分からない事だ。

 支離滅裂なことをしゃべっているのではなく、言語として理解できない。

 発音やイントネーションからして、英語やドイツ語など良くテレビで耳にする言語とも違う。

 そして、同時に朝の新田部長の言葉がよぎる。

 異星人のの留学生………

 くせ毛ではあるものの黒い艶のあるミディアムの髪、目鼻立ちの薄い顔立ちに少し垢抜けない白い肌。身長も百五十後半ぐらいで何処から見ても、日本人の女子高生に見える。

 だが、間違いなく彼女の発している言葉は日本語でも、方言でも、英語でもない。

 

「ごめん、なにを言っているかわからないけど、とりあえず、落ち着いて」

 

 掌を下に、下にと落ち着くように動かす。

 ダメもとでスマホを取り出し、翻訳系アプリから言語一覧を表示させるが、彼女は首を振るだけ。

 こんな時、新田部長達がいたら、異星人用の言語データとか持っているかもしれないと一瞬脳裏に浮かび、すぐさま危険行為だと否定する。

 彼女を部員達に会わせる訳には行かない。

 かなり遠いが、谷中銀座の守銭堂に行くか、警察に行くか、素直に110番してギャラクシーポリスに来てもらうか、どうしたものかと思案していると、彼女が大声を上げ、優杜の腕を掴み突然走り出す。

 

「ちょ、ちょっと…」

 

 路地裏のさらに小さな小道の先に入り混むと、悠々と歩いて猫がビックと一瞬動きを止めて俊敏に塀の隙間を走り去って行った。

 彼女は歩みを止めて肩を落とす。振り返ると再び話しだすが、さっぱり理解できない。

 

「猫。猫に何かあるの」

 

 優杜はスマホの画面に猫の写真を表示させると三毛猫の写真に反応を見せた。

 

「猫、マジで猫なの。まさか猫が盗んだなんて言い出すんじゃないよな」

 

 今度はSNSのスタンプから、猫が走っている。覆面をしている小悪人。荷物を持って走っている。びっくりしている。落ち込んで泣き崩れているスタンプを順番に表示するす。

 彼女は意味を理解したのか、今までになく力強く何度も頷く。

 

「マジかッ」

 

 その上で、彼女は自分の手首を掴んで輪っかのように形作る。

 

「もしかして、翻訳機ブレスレットタイプ」

 

 ブレスレット関係の一覧を出すと、ミサンガの写真でうなずく。

 猫がミサンガ奪って逃走。お魚銜えたドラ猫追っかけて言う今時ありえない歌詞がまともに思えてくる。

 これは本格的に自分の手には負えない。

 素直に警察に行こう、そう優杜が決心した瞬間。

 彼女が犯人を見つけたとばかり声を上げて走り出す。

 

「ああ、もう待てってば」

 

 まさかこのまま見捨てるわけにも行かず、優杜も慌てて後を追った。

 

 

    四

 

「やったぞ」

「さすがはボク達。何をやらせても完璧だね」

 

 小さな公園の草むらに息を切らせながら倒れこむミャタマ人のキジトラ・デ・シルーバとシロ・クロチャ。

 二人は自分達の偉業を誇らしげに語るが、直ぐに立ち上がるだけの元気は残っていない。

 

「これで、今晩からメシが食える」 

「それに暖かい寝床もね」

 

 シロは奪った帯状のものを空に突き上げて満面の笑みを浮かべる。

 

「ヤプル・ラボ社の最新モデルなんて、一生縁がないと思っていたけど」

「まさかこんな辺境の地で手に入れるとは」

 

 もはや彼等の認識は盗んだことを忘れている。

 

「ほら、トラ。つけてみなよ」

「いやいや、シロ。せっかく今手にしているんだ。お前が付けろよ」

 

 二人はゆっくりと起き上がると、小さく頷いて。

 

「じゃあ、お言葉に甘えて…」

 

 シロが手にした帯状のものをゆっくりと首に巻く。

 肉球をひし形模様の部分に軽くタッチすると首にフィットするように巻きついて動作完了…のはずが。

 二人の目の前にスクリーンが投写され、なぞの文字がいっせいに表示される。

 

「な、なんだこれ」

「ふむふむ」

「えっ、トラこれ読めるの」

「こう見えても、銀河標準文字の成績はDマイナーだ」

「さすが、ボクなんかEしか取った事ないよ。で」

「ふむ、警告がさっきから出ているのだが、それ以外はさっぱり」

「えっ」

 

 ガサガサッ!

 

「「ぎゃぁああ」」

 

 草むらからの異音に、身を寄せ合って恐れおののく。

 

「ぬぁああごぉ」

 

 威厳に満ちたメインクーン似のボス猫と子分の猫が茂みから堂々と現れる。

 

「はぁ、なんだ大将か」

「てっきり、また悪魔のサイード人かと思ったよ」

「てか、君等もほんとうにしつこいね」

 

 言葉は分からなくても、馬鹿にされているのは雰囲気で伝わるもので、大将と呼ばれたメインクーン似の猫が怒りで毛並みを逆立てる。

 いくら空気を読めない二人でも流石に危険を感じて、瞬時に警戒態勢を取る。

 

「やるか」

「ボクは負ける気しないけど、弦を押さえる指が心配だね」

「ほんとは勝てるけど、仕方がない。今日は空腹だから勘弁してやらぁ」

 

 トラが啖呵をきったと同時に、野良猫達が一斉に飛び掛る。

 空腹と疲労で体力は限界だが、身に危険が迫れば話しは別だ。

 ありえない瞬発力と跳躍力でそれらをかわすと、一気に公園を走りぬける。

 

「鬼さんこちら」

「追いつけまい。オレ達は一陣の風さ」

 

 二人は逃走の経験から、彼等、野良猫が苦手な人通りの多い道に抜け出る。

 

「ヤバイ。前」

「あれ、さっきの」

 

 翻訳機を取られた少女が二人を捕まえようと追っかけてくるのが見える。

 慌てて路地裏へ。

 

「なぁあああごおお」

 

 そこに待ってましたとばかりに、野良猫軍団が追尾してくる。

 

「くっ。前門のアスワード、後門ヴォルフォルのか」

「どうしてボク達ばかり」

 

 自分達の事を棚にあげる。彼等の最大の武器だ。

 

「ちくしょう。お腹がすいていなければ」

「ねぇ、あれ。前に温かいふわふわをくれた」

 

 追いかけてくる少女の後ろに、走ってくる優杜の姿を見つける。

 

「まさか、彼まで裏切ったというのか」

「信用していたのに。このまま裏切り者に捕まるのか」

「あ、足が、これ以上は走れない」

「諦めちゃダメだ。この星でビックになるって誓ったじゃないか」

「そうだった。オレ達は負けない」

「そうさ」

「危険だが、やるか」

「危険だって。ボク達は一陣の風。危険のほうが避けて通るさ」

「よし、今だ」

「ボク達は」

「「一陣の風」」

 

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