「何か掴んだのか?」アスワードが言った。
「ああ。だが、皐月君を引き離す必要がある点は変わらねぇぜ。何とかなるのか?」
「たった今、その算段がついたところだ」
アスワードとアイコンタクトを交わした。そんなことをするとは、つい数時間前まで思いもしなかったことだ。
どちらが先だったかはわからない。ほとんど同時に走り出していた。
「あのロボットは、どこかはわからねぇが、サブカメラが無数に付いているぞ。そいつを壊すんだ」
「承知した」
アスワードが右手を掲げ、ヘリオン0で閉じ込められた時のように空間が歪み始めた。
「悪ぃがなぁ、もうOSARABAだぁぁ」
完成したロケットブースターからガスが噴射し、二つのマニピュレータが石をカチカチと擦り合わせて火花を散らしはじめた。
「ああ、逃げるーーー」
「シレームっ。ザーマックッ」
「「任されようッ」」
アスワードの呼びかけに、シレームとザーマックが同時に応える。
石の火花が噴射ガスに引火し、ジェスターは背中から煙をあげて飛び上がり始めた。
「アイッ、キャンッ、フラーーーーーッ・・・ん・・・?」
ジェスターは、地上数メートルまで飛んだところで静止してしまった。
「なんだこりゃぁぁ?」
ジェスターの巨体に巻き付いたのは、先ほどジェスターとヘリアンテスで斬りまくった電線。それを束ね、地上で飛行を阻止しているのはシレームとザーマックだった。
「「二つの心を一つにっ。合身シンクロ
――リミッター解除ッ」」
ただでさえムキムキの躰が更に盛り上がり、掴んでいた電線の束を引き下げた。
「FAAAAAーーー!」
「「そりゃぁッ」」
ジェスターを地上に叩き落とさんとしたシレームとザーマックが、逆に拳を振り上げてブースターめがけて飛び上がった。拳は見事にブースターへと命中し、完全に破壊した。
「こんにゃろッ」
体勢を立て直そうとするジェスターの周囲が歪んでいく。
「その図体でなぜ我々三人の攻撃を凌ぎきれるのか疑問だったが、機体の周囲にあるカメラを使って見ているのだな」
「なぁ?」
「周りを浅く破壊するくらいなら造作ありませんわッ」
ヘリアンテスの剣が巨大ジェスターの周りを取り囲み、爆炎であらゆる装甲を破壊した。
「くそぅ。見えねぇッ。何処だぁ?」
キョロキョロするジェスターに向かい、アスワードが走り、空中に浮かんでいたヘリアンテスの剣を一振り掴み、ジェスターの足を駆け上がった。
「ヘリアンテス、貴官は剣の威力制御に全力を傾けろ」
「おじさま・・・ええいっ。了解しましたっ」
燃えさかる大剣を振りかざし、強力な斬擊で胴体を破壊した。そこには、例のコンデンサーが露出した。「これがなければ、今の状態は維持できまいっ」
アスワードは、コンデンサーに向かって燃えさかる剣を突き立てた。
「IIIIIIII~~~」
叫び苦しむジェスターの躰のあちこちが爆発し、煙を噴き上げる。だが、ダメージはジェスターだけではない。ヘリアンテスの魔剣を突き立てるアスワードもまた、紅蓮の炎に焼かれていた。
「もうよせ、おっさんっ。リアの炎なんかに巻かれたら燃え尽きちまうぜッ」
ザーマックが叫ぶ。しかし、アスワードはまるで聞こえていないかのように何も喋らなかった。ただ爆炎の中で剣を深く突き立てている。
「このっ・・・サイード人めぇぇッ・・・」
ジェスターが大きく腕を振り上げた。握りこんだ巨大な鋼鉄の拳が勢いを付け――
「警部ッ」矢原は叫んでいた。
――警部
警察官の序列6位の役職名。矢原はそれをアスワードに対して使った。驚いたのは、それが素直に口から出てきたことだ。常に人質である少年の安全を第一に戦い、被疑者であるジェスターに対しても、検挙を目指した。資料を見ていた限りでは、荒事で鍛え抜かれた異星人の筈だ。しかし、アスワードは日本の風習を尊重している。
少しやり過ぎな感はあるが、他の三人も同様のようだ。
もう認めたも同然だ。ここにいる四人の異星人が、自分たちと同じ日本の警察官なのだということを。
「破ぁッ」
アスワードの剣戟がジェスターの拳を破壊する。
続けざまに、自分の剣を足場にして飛び上がったヘリアンテスが、ジェスターの両腕を肩関節部分から切断した。
「再生しないぞっ」
「GYIIIIIーーーッ」
唸るジェスターのコックピットにアスワードが飛び込み、爆発の中から皐月少年を抱えて脱出した。
「おじさまっ。そういうのはわたくしの役目ですのにーーッ」
ヘリアンテスが両拳を振りながら地団駄を踏んだ。
《ちくしょーーーう》
完全に武器を奪われたジェスターが、もはや正体を隠す必要もなくなった為か、スマホ部分から叫んだ。
《ファーーーーっクッ。しかしぃ・・・もうこの位置までくればこっちのモンだ。電波に乗って逃げてやるッ》
「ええ?」「あいつ、そんなことまでできるのかぁ?」
進藤とザーマックが驚きの声をあげた。対して、ヘリアンテスは皐月に向けていたのとは正反対に、絶対零度の視線をぶつけている。
「こうなれば、我が聖なる炎で概念ごと滅ぼして・・・」
「何度も言わせるな巡査。殺すことはまかりならん」アスワードが言った。
「では、どうするのですか? ここで取り逃がせば、他で被害が起きるだけですわよ?」
アスワードが矢原に一瞥をくれた。
「貴官の出番だ」
「うおっしゃあッ」
「先輩、どうする気ですか?」
「こうするんだよッ」
矢原はヘリアンテスからギャラフォンを奪い取り、自分のギャラフォンを取り出した。
《何をする気だぁ?》
「おい、糞携帯。ケーブルだッ。ケーブルを出せっ」
「合点」
妙な応対表現だったが、矢原のギャラフォンからも、進藤のと同じケーブルがするすると伸びてきた。その先端をジェスターが入っているギャラフォンに突き刺す。
「ダウンロードだ。ジェスターとかいう異星人をダウンロードするんだぁぁぁッ」
「「「ええええぇぇぇーーー?」」」
アスワード以外のその場にいる全員が信じられないといった声をあげた。
「先輩、そんなことできるわけが・・・」
《NUWAAAAーーーッ。吸い込まれるぅぅぅぅぅーーーッ》
「「「嘘ッ?」」」
ジェスターは悲痛な声をあげた。他の連中は状況についていけず、呆然としていた。
「だうんろーど終了」
矢原は然る後ケーブルを引き抜く。そして、天高く自分のギャラフォンを掲げて宣言した。
「ふははははぁぁぁーーー。どうだッ。この俺が逮捕してやったぜぇぇーーー」
《この劣等種族め。何を喜んでやがる。こんなの端末が移動しただけだ。それならこっちから電波に乗って逃げれば良いだけ・・・・・・ん? ・・・・・・・・・あれ? ・・・・・・・・・で・・・できねぇ・・・・・・・・・馬鹿なッ》
呆然としている連中の中から、進藤がハッとなり、手を戦慄かせた。
「せ・・・先輩・・・まさか・・・・・・」
「その通りだぜ」
《そんな馬鹿なッ。どういうわけだ? 何処も壊れてねぇ、壊れてねぇのに・・・何故だッ・・・どういうわけか、この端末はインターネットに接続できねぇぞーーーッ》
「はははははーーッ。そうさ、俺のギャラフォンは、何故かインターネットに繋がらねぇ。さっき進藤が戦えば戦うほど強力になっていくって言ったのを聞いて閃いたんだ。わざと、使えない機械に閉じ込めてしまえばってな」
「この旦那…いったい何者なんだ……?」
「科学の常識で計れない…異様なる存在…」
「恐ろしいですわッ。地球人…なんていう能力を持っていますの……」
「いや、こんなの先輩だけですよ? 多分」
《ちくしょぉぉぉぉ~~。萎えるぜぇぇ。こんなバッテリーじゃアガらねぇぇ~~あああ・・・ナエナエだぁぁぁぁ・・・・・・》
☆ ☆ ☆
「状況報告は以上ですね?」
目の前の女性警察官が言った。名前は根米准という外事特課の課長だ。つまり、アスワード達の上司にあたる。キャリア組の日本人だ。進藤はヘリアンテスに見とれたままだが、矢原からすればこの課長の方が色気があるなと思った。
「はっ。間違いありません」
矢原達はジェスター逮捕後、浮遊警視庁へと連れて行かれ、アスワード達と合流する前のヘリオン0について報告を求められた。
「ところで、少なからず被害が出たようだけれど、うちの捜査官の対応に問題はありませんでしたか? なにぶん他の星から来た者達ですので、加減がわからないこともあるのだけれど」
准の質問に、奥のザーマックがビクリとなったのが見えた。一番該当しそうなヘリアンテスは、自覚が無いのか優雅に紅茶を飲んでいる。
「いえ」矢原は言った。「被疑者は非常にやっかいな能力を持っていました。多少の公共物破損はありましたが、妥当なレベルであると確信致します」
「そうですか。ありがとうございます」
《ちくしょうぅぅ。こんなド田舎惑星のクソ野郎に捕まるなんてよぉぉ》ジェスターが言った。
「ふふっ。けれど、因子型存在を捕まえるなんて、お手柄なんてものじゃないわ。あとで正式に表彰されますね」
准が柔らかい笑みを浮かべながら言った。正直、勘弁して欲しいと思う。
「矢原の旦那。いっそのこと、外事特課に入っちゃどうだ?」ザーマックが言った。
隣の進藤を含め、視線が集まるのを感じたが、矢原は小さく首を振った。
「いえ、私は港湾署の警察官ですので。この街を守ることが、自分自身の使命です」
「そうですか」
准の最後の笑みは、少しだけ残念な表情に見えた。
☆ ☆ ☆
契機になった青海駅前に戻ってきた。
ジェスターの攻撃で半壊しているが、奇跡的に人的被害は出なかったらしい。
「先輩、どの店に行きます?」
「普段行かねぇ店でパーッとやるか。・・・しかし、なんであんたらも来てるんだ?」
後ろから、ぞろぞろとアスワード、シレームとザーマック、ヘリアンテスがついてきていた。
「傷を治すのは肉が必要だからな」
「何故だか皐月君がわたくしの顔を見るなり、泣き出してしまいましたのよッ。おまけに、強面のおじさまに助けを求める始末。ヤケ酒でもしなきゃやってられませんわッ」
「ジェスターに操られていたときも意識はあったらしいから、目の前であれだけ派手にやってりゃ、トラウマにもなるわな」
「私は三人の監視だ」
矢原は溜息をついた。
「まぁいいぜ。あんたら異星人には言いたいことが山ほどあるんだ。朝まで付き合って貰うからな」
眉間の痛みは、もうなくなっていた。