ギャラクシーポリス   作:橘 花道

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#3

     五

 *20xx/4/20-15:15

 

「きゃぁ」

 

 厨房のほうからかわいい悲鳴が聞こえた瞬間。

 ヘリアンテスの手にいつの間にか炎の魔剣が現れ、盾にするように、フライヤーと自分の前に突き立てていた。

 カツを上げ始めたようで、油が撥ねて盛大に跳ねて、顔に飛び込んできたようだ。

 

「油はねなどに屈するわたくしではありませんわよ」

「こら、リア。厨房で魔剣出さない。そんなの振り回したら危ないでしょ。それに油に引火したらどうするのよ」

 

 ハッテマスが同郷の誼かヘリアンテスを愛称で呼んで窘める。

 

「安心してくださいまし。敵意のないモノにわたくしの炎は影響を与えませんわ」

「そういう問題じゃなくて、厨房で武器を振るなッ」

 

 ハッテマスが注意する端から、ヘリアンテスは跳ねてくる油を炎の魔剣を使って何度も器用に防ぐ。

 まるで意図的に油がヘリアンテスに向かって飛び跳ねているかのように、彼女に向かって跳ねてきていた。

 

「始まったかな」

「見たいですね」

 

 神妙な面持ちで、襷副総監と佐倉巡査がつぶやく。

 

「いや、あれ止めなくていいんですか?」

 

 優杜が話の流れてつい口をだす。

 

「ヘリアンテスをかね、それとも、彼女の魔法をかね」

 

 襷副総監の問いかけに優杜は即答で。

 

「両方ですよ」

「魔力も魔法もな私達には難しい問題ね」と、投げやり気味に佐倉巡査が言う。

「いや、料理対決中止にすればいいだけでしょ」

「大人の事情でね。そういう訳にもいかないのだよ」

 

 副総監が静観の言葉を紡ぐと。

 

「わッあ」

 

 厨房から新たな悲鳴が聞こえる。

 油跳ねも収まり、ハッテマスに怒鳴られて、しぶしぶ炎の魔剣をしまったヘリアンテスに、最後の一撃とばかりに跳ねた油が一筋襲い掛かる。

 

「ふふ。これぐらいよけるのは造作もないことですわ」

 

 そう言って身を引いた彼女の足元が滑り、体制をくずすと、手先が用意されていた調味料に当たり、床に落ちて四散する。

 

「ああ、やってしまいましたわ」

 

 落ち着きを取り戻して、近くのモップを取り出して床を掃除し始める。

 

「解説の副総監、次の一手はどう見ます」

「彼女のは解りやすいので、掃除に気を取られている間にフライヤーのカツがこげて煙を出す」

「それは人災ですよね。本当に止めなくていいんですか」

 

 優杜の問いに、ため息をつて二人が沈黙する。

 掃除を終え、手を洗いなおして、フライヤーに向かうと、少しだけきつね色を過ぎたカツが脂取りに上げられる。

 ほっとした表情を浮かべたのを見て。 

 

「残念でしたね、焦げてはないようです」

「いや、あれを実食することを考えると、外れてくれて良いのだが」

「そうなんですけど、なんか無いと無いで寂しいじゃないですか」

「安心したまえ。佐倉巡査。まだ、勝負は終わっていない」

 

 そうドヤ顔で宣言する襷副総監。

 

「それに、ハッテマスさんのほうは順調そうじゃないか」

 

 ヘリアンテスの悲鳴でほぼ彼女に視線が集まる中。

 ハッテマスは順調に調理を進めて、丼もの用の片手鍋にカツと溶き卵を加えて最終工程に入ろうとしていた。

 

「あっ」

 

 だが、再び聞こえるヘリアンテスの悲鳴。

 掃除した床が乾ききっていない為か、ヘリアンテスが足元をすくわれ、漫画みたいに彼女の体が大きく宙を舞う。

 手にしていた、千切りしたキャベツをつめたボールから、キャベツがふわりと舞う。

 再び一瞬で炎の魔剣をまた作り出す。

 空中で一回転しつつ、舞い上がったキャベツの千切りを炎の魔剣でくるりと整えボールの中に誘導すると、今度は炎の魔剣を突き立て着地に利用する。

 無事に着地すると、ポーズを決め、ドヤ顔でヘリアンテスが愛嬌を振りまいた。

 それを目撃したギャラリーから歓声と拍手が飛び出す。

 

「オオーッ。これはすごい、人間業じゃない。確かに魔法です」

 

 佐倉巡査がマイクを握り締めて興奮気味に絶叫。

 優杜もここに来て始めて感動したという表情を見せる。

 

「ちょっと、これはどういうことよッ」

 

 ほぼ全員が彼女の技に感動している中、ハッテマスだけが怒りの声を上げる。

 彼女が指差した先には、調理中の味噌汁のなべ。

 厚揚げや豆腐の具材に交じって赤いパンプスが真ん中に浮かんでいた。

 ヘリアンテスが慌てて自分の右足を見ると、綺麗に靴がない。

 滑った瞬間に撥ねて飛び込んだようだ。

 

「ごめんなさい。悪気はなかったの」

 

 そう言って誤りにハッテマスに近づこうとするヘリアンテス。

 

「まって、動かないで」

 

 近づいて来て頭を下げようとするヘリアンテス、悲鳴にも近い声でハッテマスが止めようとする。

 だがそこに。突然彼女の左ヒールがポキリと音を立てて折れる。

 慌てて体勢を立て直そうとした彼女の手が、コンロの上の片手鍋の一つ、その持ち手に当たると、テコの原理で大きく跳ね上がった。

 誰もが先ほどのような奇跡を期待していた。

 だが残念ながら、ヘリアンテスの目線は折れたヒールに向けられていた。

 

『気に入っていたのに』

 

 そんな言葉が聞こえてきそうな表情をしていた。

 そして巻き上げられたかつ丼の具材達。

 放物線を描きながら、無常にも二人の頭上に降り注ぐ。

 

「あついぃ」

「あつっ」

 

 あまりの出来事に場内が静まり返る。

 

「………」

「さてと…」

 

 最初に動いたのは山田さんだった。彼女は厨房に行くと、コンロの火を消し、片づけを始める。

 

「やっぱりこうなりましたね」

「うむ」

 

 その言葉で、ギャラリーもため息混じりに散会し始める。

 

「いや、みんなわかり顔でいないで、説明してくださいよ」

 

 何が起こったのか唯一理解できない優杜が叫ぶ。

 

「彼女達の一番の問題は、……不幸体質なんだ」

「はぁ?」

 

 襷副総監の言葉に、優杜が本当に気の抜けた返事をする。

 

「科学的に根拠がないので、状況証拠だけなのだが、彼女達がやる気を出せば出すほど、なんからのトラブルが発生する」

「えっ、今のただの不注意ですよね」

「最初の油の飛び跳ねを見たかね。あんなに的確にヘリアンテスめがけて飛び跳ねる油を」

「あれは、その…」

「その後の不注意もあるが、何はともあれ、あそこからの不幸の連鎖が発生するのだよ、二人いると」

「一人だけでも不幸を呼び込むのに、二人いて両方やる気を出すと、不幸パワーが連鎖して増すのよね」

 

 本当に残念そうに佐倉巡査が言う。

 

「一般人の、まして小学生達が来る現場にそんな二人を一緒に連れて行けると思うかね」

「む、ムリですね」

「それでね、色々あって、二人で料理勝負して、勝った方を連れて行くことにしたのよね」

「何も起きないようなら、二人共連れて行く気だったんだ。何もなければ…」

「やる気が出たら不幸になるなら、やる気が出る前に止めればよかったんじゃないですか?」

「一番の問題はそこだよ。既にやる気を出してしまった彼女達を止める方法はない。心の問題でもあるからね」

「それに、やる気になった所で中止や禁止を宣告した時に巻き起こす不幸よりも、やる気の中で巻き起こる不幸の方が、私達が対処しやすいのよね」

「今みたいに。分りやすい不幸が目の前で起きるからな」

「あれ、でも、今回やる気になっていたのってヘリアンテスさんだけですよね。不幸体質って、どこまで周りに影響するんですか?」

「今のを見てもわかる通り、不幸になるのは基本的には本人のみだ。だが、今、山田さん達が片づけ始めているように、二次被害は出る」

「ハッテマスさんも連鎖で不幸なってますよね。これは不幸体質、二次被害?」

「不幸体質ね」

「でも、やる気なさそうでしたよね」

 

 即答した佐倉巡査に優杜が聞くと、襷斗副総監と優杜が彼女に視線を向ける。

 

「…もう、全部バラすとね。今回の料理対決、ハッちゃんが出ないって渋っていたから、ちょっと合コンを餌に出てもらうことにしたの」

 

 てへぺろと続けて聞こえてきそうな声色で、佐倉巡査が言う。

 

「合コン…」

「彼女はね、インフェリシタス人の中で魔法が極端に苦手なのよ。だから扱い一族の中でもがものすごく低いらしいの」

「それでね、一族の言いなりで結婚させられるらしいのよ。可哀想と思わない」

 

 佐倉巡査の説明に山田さんが厨房の片づけをしながら、世間話大好きおばさんのように大声で口をはさむ。

 

「異星人って、精神的に僕等より発展していると思ってましたけど、封建的な感じのところもあるんですね」

「その辺はわたしらにはわからないけどさ。そのままじゃみじめなままでしょ。一念発起して、自由と恋愛を求めて地球に来たって分けさ」

「すごい行動力ですね」

「ほんとよ、感心しちゃうわ。でね、彼女としては出来れば自分が異星人だと引け目を取らずに恋愛してみたいんだって」

「それで、合コン…」

「なので、別にやる気がなかったわけじゃないのよ。ハッちゃんも」

 

 佐倉巡査がごめんねとそのあと小声でつぶやいた。

 

「そう、それでね…」

 

 そう言って、ハッテマスの事について、山田さんと佐倉巡査の井戸端会議に優杜が捕まる。

 それをほほえましく見ていた、襷副総監のもとに、根米課長が詰め寄ってくると。

 

「で、副総監。どちらを連れて行くのですか?」

「よし、少年」

「はい、いやな予感しかしないんですけど」

 

 優杜は声を掛けられ、井戸端会議から解放された安心感と、その先の選択に不安になりつつ呟く。

 

「君の感は正しい。さぁ。どちらでも好きなほうを選びたまえ」

「まって、それただの責任放棄じゃ」

「大丈夫、どちらを選んでも、責任は自分が持つ」

 

 神妙な面持ちで、襷副総監が格好をつけると、根米課長がため息をつき。

 

「そう言っているけど、棄権してもいいわ」

「ええと、じゃぁ、ハッテマスさんで…」

 

 山田さんと佐倉巡査からハッテマスさんが頑張っている話を聴いた手前、同情的に優杜が答える。

 

「「えええええっ」」

 

 厨房から、片付けと調理の続きをしている二人から、異口同音に悲鳴が上がる。

 それを聞いた優杜が、少しおびえて何かお言おうとした時。

 根米課長が大丈夫とばかりに優杜の肩を叩くと、にこりとほほ笑み。

 タブレットを襷斗副総監に強引に手渡す。

 

「副総監。選んでください」

 

 凄みのある視線で睨みつける。

 

「は、はい…」

 

 根米課長の圧力に負けてタブレットを受け取った襷副総監。

 そこにはイベントの人員名簿が承認待ちでリストアップされていた。

 こうして、警視庁料理対決は幕を閉じた。

 優杜はその後かつ丼でなく、スペシャルB定食を味わいつつ…。

 

 

 

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