ギャラクシーポリス   作:橘 花道

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◎簡単なあらすじ
 謎の伝染病のため、完全封鎖となった歌舞伎町。
 元歌舞伎町No.1キャバ嬢のあかねの頼みで自室から指輪をとってくることを頼まれた稔侍、
 透明化の能力を生かしてゴーストタウンと化した歌舞伎町に侵入する。


#2『あかね編~淫夢が囁く~』 

 歌舞伎町の周囲はぐるりとバリケードで囲われ、一様に盾を持った機動隊が張り付いていて、どこからも侵入することはできそうにない。

 歌舞伎町内への唯一の出入り口が新宿区役所だ。新宿区役所は調査本部となっており、関係者はまず正面入り口から入場。受付で身分証を確認、身体検査を受けたのち、歌舞伎町内に入場する者は更衣室で防護服を着用後、裏口から町内に入ることになる。

 どう考えても鉄壁の要塞と化した歌舞伎町内への侵入は不可能と思われるが、こと稔侍に関しては事情が違う。

 左手のスイッチで透明化した稔侍は交代で戻って来た警備隊の背後に張り付いて正面から入場、係員から身体検査を受ける警備隊を尻目にやすやすと館内に入った。

 館内にはいかにも即席の調査本部らしく、正面に大きな手書きの案内図が張り出され、また天井のあちこちから「更衣室」「会議室」「食堂」「仮眠室」「待機場」といった案内の貼り紙が大きく垂れ下がっていた。そしてご丁寧に「町内出入口」の垂れ紙も。

 案内に従って『町内出入口』に向かう稔侍。この時間ではすでに今日の調査は打ち切られており、人の出入りは全くない。カギは幸い内カギのサムターン錠で、そっと扉を開けて稔侍は闇の街へと飛び込んだ。

 

 闇に閉ざされた歌舞伎町は全くの別世界だった。24時間眠らない町と称された、あのぎらついた景観はどこにいったのか。人っ子一人いない歌舞伎町はまさにゴーストタウンといった面持ちだ。

 稔侍にとって暗闇は問題なかった。透明化になるのは例の機械で実は誰にもできるものだ。ただ、透明化のまま自由に動くというのは誰でもできるものではなく、稔侍の持つ並外れた察知力のなせる業であったのだ。だが、このあたりの仕組みの詳細はまた別の機会に解説したい。

 暗闇を進む稔侍の前をさっと何かが横切った。歌舞伎町でイタチ?と思ったら、どでかいネズミだった。ネズミは稔侍の気配に気づいたのか、シャーととびかかってきた。と、その脇から飛び出してきた、更に大型の何者かがネズミに食いついた。野良犬だ。人間という存在を失った町は新たな生態系を有していた。野良犬がネズミを加えたまま、くんくんと鼻を鳴らす。どうやら彼も念侍の気配に気づいたようだ。

 ぐっと身構える稔侍。と、野良犬は稔侍に何かを察したのか、じりじりと後退すると、ネズミを加えたまま去っていった。

 やれやれ、こんなところとはさっさとオサラバだと、念侍は足早に駆け出した。

 

 あかねの自宅は店のビルの上のフロアだった。

 借りたカードキーで室内には難なく侵入できた。

 ここが元No.1キャバ嬢、あかねの部屋と期待を膨らませて扉を開ける稔侍。電気はつけなくても稔侍の察知能力で辺りの様子は手に取るように判る。が、次の瞬間、異臭に思わず鼻をつまんだ。コンパクトなワンルーム八畳の部屋の中は酒にタバコに香水をメインに、ピザやハンバーガーにポテトやカレーといった食べ物の匂いが充満していて、匂いに敏感な人間にはとても耐えがたい。

 少し幻滅しかけた稔侍だが、女は内面より外見、あかねとの一夜が待っていると奮起する。が、中に足を踏み入れた瞬間、稔侍は足を取られる。手に取りると、どうやら下着のようだ。これは!と興奮しかけた稔侍だが、次の瞬間、愕然とした。部屋には脱ぎ捨てられた衣服や下着が散乱していて、とても足を踏み入れられる状態ではない。

 いくら気配を察する念侍とはいえ、さすがに床に転がった衣服や空き缶、雑誌といった細かい物の気配までは感じ取ることができず、四つん這いになって慎重に手探りしながら進むしかなかった。

 何とかドレッサーまで辿り着いた稔侍。だが、聞いていたドレッサーの引き出しの中も化粧品が散乱していて、何がどれだかさっぱりだ。と、引き出しの手前に宝石箱がそっと置かれていた。この置き方を見るに、どうやらこれだけは別格のようだ。

 携帯で写真を撮り、あかねにメールで送る。と、即「ありがとう。だ~い好き!」の返信があった。

 やれやれと部屋を後にする稔侍であった。

 

 宝石箱を手に意気揚々と帰路を急ぐ稔侍。

 もう汚部屋のことはどこへやら、あかねとの一夜とのことで頭はいっぱいだ。

 あかねの抱き心地ははどんなであろうか、ウィークポイントはどこだろう?どんな声を上げてくれるのか…期待は膨らむばかりできりがない。 

 と、シネシティ広場で一人の防護服を着た捜査員が地面に付着した血液を採取していた。ここから一番街までが騒動の中心地である。こんな遅くまで任務ご苦労さん、と心の中で唱え、立ち去ろうとした瞬間、ふと足が止まった。

 今日の調査はすでに終わっているはず、こんな夜中にこいつは何をしているのだ?一見するとただの調査員のようにも見えるが、明かりも無しに、そもそもこんな場所で単独行動なんて聞いたことがない。

 稔侍はそっと捜査員に背後から近づいた。

 タイミングを見て、一気に羽交い絞めにする稔侍。

 突然のことで捜査員が慌てもがくが、稔侍の絞めは簡単には外れない。

「貴様、ここで何してる?どこの者だ?」

 と、突然稔侍の脇腹に激痛が走った。

「ぐっ」

 思わず緩んだ絞めの隙を捜査員は逃さなかった。そのまま肘鉄を数発くらわされ、絞めを外されて、だらしなくも地面に尻をつく。

 稔侍の絞めから逃れた捜査員は振り向き際、さらに攻撃を加えようと構えた。が、その動きが止まる。

 透明化のおかげで命拾いした、捜査員は相手の姿がないことに戸惑っている。でなければ、おそらくそのままとどめを刺されていたことであろう。

 左手袋の平を突き破って大きな注射針のようなものが見える。稔侍の脇腹に走った激痛はどうやらあの注射針だったようだ。

 息をひそめる稔侍。さっきは油断したが、奴はまだこちらの正体に気づいていない。有利なのはまだこちらなのだ。

 敵もその場から動かず、かなり慎重に周囲を警戒しながら気配を探っている。

 と、突然電話の呼び出し音が鳴りだした。

 さっきあかねの部屋で写真を撮るのに電源を入れて切るのを忘れていた。ったく、油断していたのは稔侍の方だった。とっさに携帯を投げ捨てる稔侍。

 何もないはずの空間から突如鳴り出した携帯が飛びだしてきて、とっさに後ろに飛びのく捜査員。

 居場所がばれた、来るか…と身構えた稔侍だったが、捜査員はそのまま飛び退いた方向に逃走した。

「待てっ!」

 と追いかけようとした稔侍だったが、脇腹に激痛が走った。さっき刺されたところだ。

「ぐっ…」

 せっかくのチャンスを逃すとは、あいつも甘いな…と思ったが、こっちの状況がわからないまま、見えない相手に不利と判断したと考えれば、むしろ手練れなのかもしれない。

 と、稔侍の鼻から一筋の血が垂れてきた。たかが鼻血と思ったが、止まることなく次々と溢れてくる。

 ただの鼻血じゃない。この量はやばい…念侍はとっさに鼻を摘まむ。が、血は止まらずに喉にまで流れ込んでくる。めまいがしてその場にしゃがみこんだ。しかもこんな時にもかかわらず、下半身が熱くなってきた。発症した者は鼻血を出し、発情、興奮が高まり、死亡する…今朝の朝礼の根米部長の言葉が頭をよぎる。

 まさかな…が、興奮は収まらない。心臓の鼓動が激しくなっていくのが自分でもわかる。

 と、さっき放り投げた携帯が再度鳴りだした。画面に「ゆかり」が発信者として表示されている。ったく、あいつこんな時に電話なんかしてきやがって…あかねが待っているんだ、こんなところでくたばって、た、ま、る、か、よ…必死に携帯に手を伸ばす稔侍…だが、その手が携帯まで届くことなく、稔侍の意識は遠くなった…。

 

 ~続く~

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