ゆかりのおかげで一命をとりとめた稔侍。
ウィルス騒動の真相と稔侍が遭遇した捜査員は謎のままだが、都内の騒動は収束しつつあった。
すっかり回復した稔侍はあかねと一夜を過ごすために歌舞伎町に出かける。
真っ赤なシースルーのベビードール姿のあかねに稔侍はごくりと息をのんだ。
「そんなに見つめないで。恥ずかしい…」
頬を赤らめたあかねが恥ずかしそうに視線を外し、左手を差し出す。
その手をとり、回収した指輪を薬指に通す。
「稔侍、ありがとう」
稔侍に抱き着くあかね。
ゆっくりとベットに押し倒す稔侍。
「んっ…」
稔侍は耳元から首筋、胸元へと舌を這わせた。
「ああっ、稔侍ぃ」
甘い吐息ともに、あかねが喜びの声をあげた。
稔侍は胸元から腰、そして秘部へと手を伸ばす。
「あっ、あっ…」
と、稔侍の手がふと止まる。下半身に妙な手触り。何だか妙に触り慣れたフニフニした生暖かいそいつは次第に固く、大きくなってきた。はっとして顔を見上げた稔侍の目の前に映ったのは上気した顔のゆかりだった。
「ああ、稔侍ぃ」
顔を両手でがっしりと掴まれ、ゆかりに唇を奪われた。
はっとして目覚める稔侍。
そこは病院のベットの上だった。
妙に生々しい感触が唇に残っている。
「だんなぁ~、良かった。気がついて」
隣のテーブルの上のギャラフォンから音無しが叫んだ。
音無しがアスワードに通話を繋いだ。
アスワードからいきさつを聞く稔侍。
あの日から一週間、稔侍は寝込んだままだったらしい。発見時の稔侍は出血多量でかなりやばい状態に陥っていたらしく、そしてそんな稔侍の危機を救ったのがゆかりだったということも。
「まさかお前にあんな人がいたとはな」
にやりと笑うアスワードに、
「ばかっ、そんなんじゃねぇよ」
と慌てて否定した。
「何言ってんだ、命の恩人に。救急隊員でも感染者者相手には、いきなりあんなことはできないぞ」
「けけけっ、稔侍の趣味じゃないらしいよ」
「わからんな。異星人の俺から見ても魅力的な人物だとは思うが…」
まあ、あいつが悪い奴でないことは稔侍もわかっている。わかってはいるのだが…
「悪い、なんだか疲れが出てきた。もう少し寝る」
「目を覚ましたばかりなのに悪かったな。ゆっくり休んでくれ」
回線が切れて、稔侍は一人思う。あいつ、そんなことを…と、夢のことを思い出し、慌てて否定する。いやいや、そんなことがあってたまるか。…それよりあかねだ、あかね。回復したらあいつと一夜…もやもやしながらも、再び眠りにつく稔侍であった。
あれから一か月がたち、稔侍はやっと退院することができた。
体調そのものは二週間程度で回復していたのだが、立ち入り禁止区域への無断侵入で謹慎処分が下され、病院で半監禁状態にさせられていたのだ。
ゆかりの方は症状が軽く、一週間程度で退院していたらしい。
しかし今となっても例の防護服の人物の行方は不明のままだ。おそらく防犯カメラの死角にあるマンホールから下水道に抜けて外へ出たと考えられているのだが、その正体や目的は謎のまま。ただ、稔侍やゆかりの体内から抽出したウィルスが今回の俗称「歌舞伎町ゾンビパニック」騒動を引き起こしたウィルスと同等の物ということが判明、その関係性が問われている。
いずれにしろ、あの騒ぎが人為的なものであり、自然発生した物でないということが分かっただけでも一つの進歩ではある。まだ油断はできないとは言え、とりあえずあれ以降、事件は起きていない。
これ以上の被害の拡大がないことから、歌舞伎町封鎖も二週間前にはとかれていた。
まだ以前ほどの賑わいは戻ってはいないものの、徐々にだが人々は集まってきた。これが歌舞伎町の逞しさなのか、日本人特有の特性なのかは不明ではあるが。
薄暗いキャバクラの店内で、皮のソファに腰かけた稔侍がそわそわしながらあかねを待っている。
例の指輪は救出された際に回収され、とっくに当人に返却されていたが、稔侍には一筆残したメモ書きが残っている。いきなりお店に来て、あかねはどんな顔をするのだろうか。そう考えるとニヤニヤがとまらない。
「ごめんね、お待たせして」
と、やってきたのはがりがりにやせ細った骨女と推定体重三桁の巨体だった。
「あれ、あかねちゃんは?」
「お兄さん、わたし喉渇いちゃった。ドリンク頼んでもいい?」
「あたし、フルーツ盛りが食べた~い」
骨女と巨体が左右から腕を絡めてくる。
「いや、あかねちゃん…」
「とりあえず、シャンパンいい?」
「アイスクリームもたべた~い」
「わかった、わかった。好きなもの頼めよ」
「こっち、シャンパンひとつ~。あと焼酎も」
「フルーツ盛りにアイス~。あとチョコの盛り合わせも」
こいつら、とんでもない地雷だ。
「で、あかねちゃんは?」
ひと段落したところで改めて切り出す。
「あかねさん?やめちゃったわよ」
「えっ…」
「なんでもぉ、田舎の幼馴染と結婚するとかなんとか」
「寿退社って本当?はったりじゃないの?」
「指輪してたよ。最後挨拶に来た時。すっごい安物~」
「まあ、一時は歌舞伎町No.1だったかもしれないけど、もういい歳だもんね」
「顔だけは美形だからね。でも元No.1だなんて信じられない」
「たまたまあの顔に惚れた太客がいただけよ。変にプライドばっか高くってさ、客に選ばれるんじゃない、私が客を選ぶんだって、チョーシ乗り過ぎ~」
ガハハハハと下品に笑う女たち。こいつらは永遠にヘルプだな、と稔侍は思った。
しつこくすがる骨女と巨体を振り払い、店を出た。ったく、あいつらとだと、せっかくの酒がまずくなる。
ただ、これであかねとの縁が切れたわけではない。稔侍にはこの前もらった携帯番号がある。このままサヨナラしてたまるか、むしろ店をやめてフリーになった今がチャンスともいえる。
複数のコール音で諦めかけたその時、電話がつながった。
「あかねちゃ~ん、おじさん退院したよ。退院祝いしてよ~、退院祝い」
「…」
「おいおい、黙って店をやめるてるなんてひどいじゃねぇか。一言あれば俺だって相談の一つや二つ…、まっ、金以外のことだがな」
「…本当に相談聞いてくれる?」
「ああ…何なら今夜一晩じっくり…って、おい、その声」
「じっくりと、聞いてもらおうかな~」
「ゆかり!?お前、どうして?」
「あかねちゃん、この携帯もういらないっていうからもらっちゃった。あんた専用だって」
携帯複数持ちはキャバ嬢の得意技。わかってはいるものの、期待せずにはいられないのは男の性か。
「お前なら、知ってんだろ、あかねの行き先。なぁ、教えろよ。あいつとは一夜の約束があるんだからよ」
「一夜なら共にしてるわよ。あの晩、私たちのことを心配して、ずっと病院の控室にいたんだから」
「なっ…」
本当は関係者として一晩取り調べを受けていただけなのだが、それは稔侍には黙っておく。
「それに、サインした秋風あかりはもうこの世にはいない…お店やめちゃったからね」
「まじかよ」
「マジです」
「ちぇっ、ご祝儀変わりだ、くれてやらぁ」
そう言い放ち、電話を切った。
懐から取り出したのはあかねのメモ書き。「ええ~い」と粉々に破り、宙に放つ。
ひらひらと舞い散る紙はまるで舞い散る落ち葉のようだ。
振り返れば遠くにお店の看板で微笑むあかね。
これまで意識してなかったが、あれは何年前の写真なのだろうか?よく見れば看板自体もかなり傷んでいる。
あかねの顔がふとなぜかゆかりの顔になる。
そういえば、まだゆかりにお礼を言ってなかった。復帰後初の電話があれではさすがの稔侍もいい気がしない。
仕方ない、退院祝いの初飲みはゆかりにするか。ちなみにさっき元あかねの店で飲んだのはまがい物でノーカンだ。
そんな都合のいい言い訳を考えつつ、足はゴールデン街へと向かった。でもあいつ、男なんだよな…。
~終~