ギャラクシーポリス   作:橘 花道

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◎簡単なあらすじ
 地球に密航した自称アーティストのトラとシロの二人。
 地球人のファンを助けようと大奮闘する。


捜査報告書 No.20【メジャーデビュー】- トラ&シロメイン
#1


     一

 

 *20xx/4/27-10:07

 

「「やぁっと、気づいたのさぁあ~♪」」

 

 野外ステージには十万人を超えるオーディエンスが二人の歌が終わった瞬間、熱狂の奇声を上げる。

 …はずだった。

 二人がゆっくりと瞼を開けると、妄想していた光景は綺麗さっぱりと消え去り、地球の、日本の小さくのどかな公園の景色が広がっていく。

目の前には大観衆の代わりに地球人の少女が一人、座り込んで興味深そうに二人を見ているだけだった。

 当然、心からの拍手を送るわけでも、彼等の歌に聞き惚れているわけでもない。

 

「おかしい、なぜこんな美声を奏でているのに人が集まらないんだ」

「やっぱり相棒のチシャがないとダメだと言うのか」

「ボクだって、シャルルさえあれば」

 

 そう言って彼らは本来手にしていたであろう相棒に思いを馳せて、自分達の手を見る。

ハハハ…

 先程の歌ではなく、今の動作が面白かったのか突然少女が笑い出す。

 その現実に、二人は再び打ちのめされる。

 

「…トラ」

「ああ、分かっている。今はどんなに笑われようと、きっとオレ達の歌声が地球に、いや、銀河に響き渡ると」

「そうだよね」

「「ボク(オレ)達には明日がある」」

 

 そう言ってお互いの拳をぶつけ合った。

 再び、オーディエンスの少女に向き直ると、

 遠くから母親らしき声に、少女が振り返えり、何度も母親と二人を見返して。

 

「…ジャァネ、ネコチャン」

 

 唯一のオーディエンス、地球人の三歳ぐらいの少女が、地球語で二人に言葉を投げかけ、名残惜しそうにその場を立ち去っていく。

 

「最後にボク達を褒めて言ったよ」

「いや、きっと感謝の言葉を残したにちがない」

 

 二人は、何事においてもポジティブシンキングな他惑星からの密入国者。

 自分達には音楽で人を幸せに出来る天賦の才能があると信じて活動してる、見た目は何処から見ても猫そっくりな、ミャァタマ人。

 サバトラ模様のキジトラ・デ・シルーバと、三毛猫模様のシロ・クロチャ。

 母国では音楽性の違いから全く相手にされなかったが、ここ地球ならきっと自分達の音楽を評価してくれるだろうと、一念発起し地球に、日本に向かった。

 全く売れない一文無しミュージシャンが地球へ行くのに正規の方法をとれるわけもなく、監視の目を盗んで密航、密入国して、日本にたどりついた。

 だが、密入国する時に入国管理局とアスワード警部に追われることとなり、二人は相棒でもあった楽器と、翻訳機を泣く泣く手放して、ようやく日本にたどり着いた。

 密入国して追われる立場になっても、二人にとって日本での音楽活動は魅力的な事なのだろう。

 そして、翻訳機を捨てて言葉が通じなくても、天才的な音楽、神秘的な歌声があれば、この地球でちやほやされるに違いないと、日々ゲリラ活動を続けていた。

 

 もちろん、二人は壊滅的な音痴である。

 

 

     二

 

 *20xx/5/1-10:07

 

 軽快に裏路地を駆け抜ける猫が二匹。

 いや、ミャァタマ人が二人。

 サバトラ模様のキジトラ・デ・シルーバと、三毛猫模様のシロ・クロチャだ。

 

「今日は大猟だったね」

「またオレ達の技に磨きがかかったと言うことだな」

 

 そう言う二人の口元には戦利品の食べ残しのパンと、ソーセージ。

 日々の残飯漁りでの久々の戦果に足取りは軽い。

 勿論彼等の技に磨きがかかったのではなく、世間的にはゴールデン・ウィークと言う大型連休に人々の流れが多く、悲しいことに、打ち捨てられているゴミが多かったからに他ならない。

 密入国し、翻訳機も手放した二人は、正規の仕事に就く事も、地球人と対話交渉する事もできず。

 密入国してからの生活や食事は、ほぼノラ猫と変わらない。

 捨てられた食べ物を拾い、人気のなく、雨風のしのげる場所で寝る。

 そんな二人は落ち着いて食事が出来る場所を求め、地球人も異星人の気配もない場所を捜し歩く。

 

「ねぇ、あそこなんて静かそうでよくない」

「おお、確かに、昨日はうるさそうだったのに、今日は静かだな」

 

 そう言って、二人は建設中のビルの工事現場を、覆っているバリケードの隙間から中を覗き込む。

 連休中だからか工事が休みの為、人の気配が全くない。

 建設中・関係者以外立ち入り禁止と至る所に書かれてはいるが、猫と同じ視線の、ましてや字の読めない二人がそんなことを気にするわけもなく。

 

「トラ、こっち」

 

 シロが痛んでいるフェンスの隙間を見つける。

 トラが軽く傷んでいる部分を押すと、小さな子供なら無理やり通れそうな隙間ができる。

 猫と同じようなサイズ、しなやかさを持つ二人は、その隙間から難なく中に侵入、そして、薄暗い建物の中へと入り込む。

 

「ここなら雨風もしのげそうだね」

「おお、いいじゃないか。今日からここを俺たちに城にしよう」

 

 まだ外側の鉄筋とコンクリートだけの建物だが、野宿同然の二人には日差しも適度に入る最高のロケーションだ。

 気に入ったとばかりにゆっくりと座り込むと、口にくわえていた戦利品を離して、半分に分け合う。

 

「さぁ、久しぶりのご馳走だ」

「最初は地球の食べ物なんて馬鹿にしていたけど、食べ慣れると美味く感じるね」

 

 彼らは知らない、日本の残飯が世界一おいしい事に。

 そして、空腹が一番のスパイスだと言うことも。

 

「では、いただき…」

「ねぇ、トラ、何か聞こえない?」

「ん?」シロの問いに、トラがよだれが垂れている口を大きく開いたまま、耳をピクピクさせる。

「泣き声らしきものが」

「確かにそう言われると、こっちのほうから」

 

 そう言って建物の奥を覗き込む。

 

「よし、分かった。食べてから見に行くとするか」

「うん、そうだね」

 

 ものすごく気になるところだが、もはや命に危険が迫っていない限り、食事を中断したくない。

 かといって、気になったことを放っておける性格でもないので、二人はせっかくのご馳走を味わう事無く、急いで口の中に流し込む。

 

「モガガ、モガモガ(こっちだ、ついてこい)」

「モガア(がってん)」

 

 口いっぱい頬張ったまま走り出す。

 そして建物の奥の大きな縦穴の底で、地球人らしき子供がうずくまって泣いているのを見下ろす。

 地球人の大人であれば普通によじ登れる高さだろうが、子供が一度落ちると、周りがコンクリートで固められていて、手足をかけることろもなく、自力で登るのは困難に見えた。

 地球人の子供は既に大泣きして体力も無く、ただうずくまっている様だった。

 

「トラ…」

「分かっている。だが、色々巨大すぎてオレ達では助けられん」

 

 適当に辺りを見渡すが、人影どころか、救出に必要な道具さえも見つからない。

 

「助けてあげたいけど、やっぱりボク達じゃ」

 

 例え地球人が子供と言えど、猫と同じサイズの二人にはどうすることも出来ない。

 二人が諦めて、その場を立ち去ろうとした時、少女が二人に気がつき、一瞬見上げる。

 何度か自力で上がろうとしたのだろう、顔も髪も砂埃で汚れ、目も泣き疲れて腫れあがっていた。

 

「「………」」

 

 少女と二人は一瞬目が合うが、少女はあからさまに失望したような表情で、再びうずくまる。

 

「おい、あれは」

「あの娘だね」

「「唯一のファン!」」

「よし、何としても助けるぞ」

「ああ、ボク達なら余裕だよ」

「とにかく道具だ」

「そうだね、何とかロープを探そうよ」

 

 先程までの諦めモードの二人が、一気にやる気を見せて、工事現場を走り回るが、当然人影はなく、工事が休みの為、使えそうな道具などはきちんと片付けられていて見当たらない。

 

「なんて場所だ、ロープ一つ置いてないなんて」

「全くだよ、地球人のくせに奇麗に片づけちゃって」

「くっ、これではファンの娘を助けられないだろう」

「せめてボク達にもっと力があれば」

 

 そう言って、少女が落ちている場所に戻ってきて、再び二人は少女を見下ろす。

 疲れも出てきているのか、見た目はさっきより元気がない感じがする。

 

「………だが、ファンの娘を放っておくわけにもいかんだろう」

「だね。それにファンの娘を助ければ、間違えなく感謝され、有名にもなってきっとメジャーデビューだよ」

「メジャーデビューか」

「メジャーデビューだよ」

 

 二人は脳内で満員のオーディエンスの中、ライブを行い。

 ファンたちにチヤホヤされる妄想をしばらく繰り広げる。

 

「よし、ならオレ達に出来ることはただ一つッ」

「そうだね。ただ一つだよ」

「助けを呼びに行くことだ」

「そして、メジャーデビュー」

「「オレ(ボク)達は一陣の風ッ」」

 

 二人は脱兎のごとく飛び出していった。

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