ギャラクシーポリス   作:橘 花道

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#2

     三

 

 *20xx/5/1-10:52

 

「アッチイキヤガレ、バカネコッ」

 

 商店の中から罵声がとどろく。

 手にした氷を店に近づこうとする二人に投げつける。

 

「ふん、そんなもの当たるものか…、って冷たいだろう」

「そうさ、ボク達は一陣の風…、いっ、痛いって」

 

 結局避けきれず、冷たい思いをしながら再び近づこうとする二人に牽制のごとく、氷が投げつけられる。

 

「ええい、なぜ、話を聞こうとしない」

「ボク達は君達、地球人のピンチを教えに来ただけなのに」

 

 普段、売り物の魚を虎視眈々と狙っている二人が、いつもの自分達を棚に上げて文句を言う。

 商店街の地球人達はなにも動物虐待がしたいわけではなく、普段から盗みを働くノラ猫を追い払っているに過ぎない。

 二人がどんなに言葉を尽くそうとも、地球人からしたら、どこからどう見てもノラ猫にしか見えないのだから。

 

「くぅ、なんて薄情なんだ地球人どもは」

「しかも氷を投げつけてくるなんて、血も涙も、何より心も凍りついた種族だよ」

「ここはやっぱりオレ達の音楽で一刻も早く、彼等に芸術の素晴しさを教え込まなければ」

「そうだよ、音楽に触れればきっと暖かい心を手に入れ、凍った血ではなく感激の涙が出るはずさ」

「だが、その前に、なんとしてもオレ達の大事なファンを助けなければならないと言うに。ええい、だから話を聞け」

「トラ、ここはダメだ、一旦引こう」

「くッ…」

 

 そう言って、一旦人通りの多いエリアから、裏路地のほうに逃げ去る。

 少女の倒れていた建物から出て、近くの人通りの多い商店街に向かって助けを求めに来たが、かれこれ三十分ほど全く相手にされない。

 無視され、話を理解してもらえず、挙句の果てには、蹴られそうになったり、氷水を投げつけられる始末。

 

「もはやこれまでか、せめてあのチョーカーかヤプル・ラボ社の翻訳機があれば…」

 

 そう言って裏路地で座り込むトラ。

 

「諦めちゃダメだ、どんなに苦しくても、誰からも相手にされなくても、ボク達は大きな使命の為にここにいるんだから」

「そうだった、ファンがオレ達を見捨てても、オレ達はファンを見捨てない」

「そうだよ、そしてメジャーデビュー」

「うむ、メジャーデビューだ」

「考えよう、まだなにか手は有るはずさ」

 

 シロに励まされ、再び立ち上がるトラ。

 

「よし、場所を変えてもう一度チャレンジだ」

 

 二人が再び動こうとした時。

ナアアアアゴオオ・・・

 地獄から響いてくるような泣き声が轟く。

 同時に路地裏の狭い道を複数の猫が行く手をさえぎるように立ちはだかる。

 その中で一際大きな態度のメインクーン似の猫が二人の前に躍り出た。

 

「大将か、毎度、毎度。しつこいなぁ」

「まったくだよ、今日は急いでいるんだから空気読んでほしいよね」

 

 二人が大将と勝手に呼んでいるメインクーン似の猫は、この当たりをまとめているボス猫らしく、異物である彼らに対して何かと絡んでくる。

 

「まったくだ。今は一刻を争っているというのに」

「どんなに兵隊集めようと、ボク等の敵じゃないけどね」

「仕方がないさ、こいつらは言語も持たぬ下等生物。群れなきゃ喧嘩も出来ないのさ」

「で、やるかい」

「そうだな…」

 

 二人が会話しているうちに、大将の足取りに合せて猫達が詰め寄り、包囲網が狭まる。

 

「ちょっとむしゃくしゃした気分を晴らしたい」

「それもありだね」

 

 二人はすばやく身構える。

 その動きに合せて猫達も警戒を強め。

 大将が鋭い爪を立て、ニヤリと威嚇する。

 負けじと、トラとシロも大将を睨み返す。

 いっせいに大将と共に数匹の猫が飛び掛ってきた。

 華麗なステップで相手の攻撃をかわしカウンターを…。

 出来る気がしたのは勘違いで、こちらのパンチは空を斬り、多数に猛攻撃を食らう。

 

「まって、いたい、痛いって」

「ええい、じゃまだ、あった、ばか、こうしている間に、ってイタイだろうこのやろう」

「と、トラ…」

「ダメだ、ここは引くぞ」

 

 二人は猫達の追撃を気力で押し返し、踵を返して、

 

「だね、逃げるが勝ちさ」

 

 そう言うと、大将達に背中を向け一気に表通りの方に走り出す。

 

「「オレ(ボク)達は一陣の風ッ」」

 

 二人の上げた大声に怯んで身を小さくした猫達の真上を、豪快なジャンプで飛び越えた。

 慌てて大将と猫達が追いかけるが地球人の多い表通りは猫達にとっては危険エリア。

 二人を追撃したいが、恐怖心が勝り足を思わず止めてしまう。

 

「大将、またなぁ」

「次はちゃんと遊んであげるから」

「なぁごおおぉ…」

 

 大将の叫び声を背中に受け、街中を疾走する。

 

「ふふふ…、負け惜しみを聞きながらというのは気持ちが良いなぁ」

「特に大将のは何時聞いても甘美だね」

「まぁ、誰も彼もオレ達には敵わないのだから仕方がない」

 

 さっきまでボロボロに負けていて、全身傷だらけなのに、減らず口だけは超一流である。

 

「全くだねトラ…、ねえ、あそこ見て」

 

 走りながらシロが促すと、そこには見覚えのある地球人が歩いていた。

 

「あれは白い食べ物」

「そうだよ、あの地球人なら」

「よし、オレがやつの背後から飛び掛り、首を押さえて脅迫する。シロはファンの元に誘導でどうだ」

「いいアイデアだね。でも、あの地球人、ポリスと仲良かったから危険じゃない」

 

 もしばれて捕まれば故郷に強制送還、夢も野望も潰える。

 

「ああ、だから首筋に爪を突きつけ脅して言う事を利かせ、ファンの子を救助させ、おまけに白い食べ物を奪う」

「さすがトラ。やることえげつない」

「ファンからは感謝され、白い食べ物は手に入り、おまけにポリスを煙に巻く、一石三鳥な完璧な作戦」

「うん、完璧だ。おまけにファンの子を助けたことが世間に知れ渡れば、一気にメジャーデビュー間違えなしだよ」

「まぁ、その場にポリスがいても、あんな無能連中に捕まる事などないのだが、どんな時も最高のパフォーマンスをしてしまうオレの性格が憎いぜ」

「よし、じゃぁ、まずはボクが白い食べ物の前に飛び出して注意を引くから」

「よし、任せたフォーメーションFだ」

「がってん」

 

 二人は地球人を挟むように前後に分かれる。

 突然飛び出してきたシロに、足を止めた地球人の背後からトラが飛びかかり首元に爪を突きつける。

 

「命が惜しければ、オレ…、ぎゃあ」

 

 爪を突きつけたまでは成功だが、あっさりと首元をつままれ引き剥がされる。

 

「と、トラッ」

「ええい、離せ、離せ、白い食べ物」

「マタ、オマエタチカ」

「と、トラを離せ、離せ…」

 

 シロも慌てて地球人の足元詰め寄ると、右足の靴紐をかんで必死の抵抗を見せる。

 

「マテ、マテ、ホラ、イマハナスカラ」

 

 地面にそっと降ろされるトラ。

 

「シロ、その口を離すなよ。そのままこいつを引きずってでも連れて行くぞ」

「もちろんだとも、例えこの口が裂けても」

「ああ、ファンを助けてみせる」

「「そして一気にメジャーデビュー」」

 

 続いてキジトラも左足の靴紐をかんで引っ張り始める。

 

「ナンダヨ、ナニガシタイノ、ツイテコイッテコト」

 

 地球人が二人の引っ張りに合せて歩き出したので、二人は靴紐を離さない様に後退する。

 

「ナァ、ツイテイクカラ、イイカゲンハナシテクレナイカナ」

 

 地球人が納得したような言葉を投げかけてきて、シロ達の引っ張る方へ足を向け始める。

 

「ねぇ、白い食べ物こっちの意思が通じた気がしない」

「ああ、オレも今そう思った所だ」

 

 地球人を無理やり引っ張りわずか四歩、歩かせた所で早くも何時もの調子に戻る。

 地球人がなにを言っているのかわからないが、何よりもう顎の力が限界だ。

 

「そろそろ離しても、大丈夫だよね」

「ああ、きっと大丈夫だ。オレ達の意気込みは伝わったはずだ」

 

 二人は同時に靴紐を解放する。

 そのまま建物のほうに歩き始めると、地球人も後からついてきた。

 

「やったねトラ」

「これで、少女の所まで連れて行けばミッション達成だ」

「じゃぁ、ついに」

「ああ、メジャーデビューだ」

 

 

     四

 

 *20xx/5/1-11:47

 

 建設途中で放置されていた建物の周りを警察車両数台と、救急車が赤い回転等を点灯させながら囲んでいた。

 救急車に少女を乗せたストレッチャーが運び込まれると、サイレンを鳴らして走り去っていく。

 

「お手柄だったね、少年」

 

 地域部の警察官がブレザーの制服を着た高校生、羽咋優杜に声をかける。

 

「いや、発見したのは俺じゃなくて、ノラ猫なんです。偶々ここに案内されただけで」

「その件に関しては少女のほうもネコちゃんが助けに来てくれたって証言してますし、疑うつもりは無いのですが、ネコが自発的に、そのありえない事で…」

 

 そう言って警察官は横にいる巨大な赤鬼のような異星人警官のザーマックを見る。

 

「一応調べてみたが、異星人が関係していそうな証拠はないな」

「ネコ、翻訳機の」

 

 背中から小さな青鬼のような異星人、シレームの声が響く。

 優杜の中で五十鈴の翻訳機を盗まれた事件があったから、念のためにシレームとザーマックを呼んでもらったが、それらしい証拠はやまり見つからなかった。

 猫達も、ザーマックの顔を見たら、どこかにすっ飛んで行ってしまった。

 

「同じ柄の猫ちゃんたちだったから、気になって、やっぱり異星人なんですかね」

「結論ない、可能性上がった」

「まぁ、異星人かネコかは置いといて、人助けした分けだから、感謝はせんとな」

「そうですね、今日の事であいつ等の事、少し気に入りましたし、また見かけたら肉まんぐらいは奢ってやりますよ」

 

 そう言って優杜は、初めて公園でお腹をすかせた二人に会った時に、手渡した肉まんを豪快に食べているシーンを思い出し、小さく微笑んだ。

 

 ミャァタマ人の自称アーティスト・・・キジトラ・デ・シルーバとシロ・クロチャ。

 二人のファン・・・現在、二名。

 

 メジャーデビューまでの道のり・・・∞。


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