ギャラクシーポリス   作:橘 花道

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#4

     五

 

*20xx/5/11-16:05

 

 東京スカイツリー。

 全長634メートルの電波塔は、老朽化した東京タワーの代わりや次世代の通信システムを担う為に建設された。

 今日では、軌道ステーション【しろがね】からの通信や、【しろがね】からの転送ゲートの出入り口施設としての役割も担っている。

 日本政府や建設に関わったゼネコン関係者はお互いに口をそろえて否定しているが、異星人との交流を目的に建設されたと言われている。

 事実として、異星人が地球に銀河連邦に加盟し、門戸を広げるように迫ってきた時に、世界中でいち早く対応し、活躍したのがこのスカイツリーだ。

 それは日本政府が少なからず、その建設途中で異星人とコンタクトを取っていなければ、設計上辻褄の会わない話として、今日では都市伝説化している。

 

「はい。チーズ」

 

 優杜が構えたスマホの画面の向こうで、ティンクと五十鈴が無機質な東京の町並みをバックにポーズを決める。

 スマホの画面の中に東京スカイツリー展望デッキからの景色をバックに上機嫌な二人の笑顔が切り取られた。

 

「どう、綺麗に撮れた」

「おお、中々じゃない。次はユウトも来てみんなで撮るわよ」

 

 そう言って嫌がる優杜をティンクと五十鈴が無理やり大外のガラス越しに引きずり込む。

 ティンクは優杜と五十鈴のそれぞれの肩を足場に器用に立つと、

 

「さぁ、何時もでいいわよ」

「先輩早く」

「じゃぁ、撮るよ」

 

 優杜が目一杯腕を伸ばしてスマホの画面に三人を入れ込んで、震えながらシャッターボタンを押す。

 

「いいわねぇ。この調子でどんどん行くわよ」

「どんどんって、あんまりはしゃぎすぎるバレちゃうって」

 

 そう言って、落ち着きなく優杜は周りの観光客やスタッフを見渡す。

 

「ほんと先輩は心配性なんだから。堂々としてたら大丈夫ですって。それにみんな自分たちの事で忙しくて私達の事なんて気にしてませんから」

「ユウトは男なんだから、もっと堂々としてればいいのよ」

「ええと、なんでしたっけ何とかの休日作戦なんですから」

「ローマの休日ね」

「じゃぁ、ローマの休日作戦。次にいきましょう」

 

 そう言って優杜の肩に乗っているティンクが顔の横から指を突き出す。

 あの後、ティンクの小腹を満たしつつ、五十鈴の下宿先に向かった。

 五十鈴の同じ下宿先の知り合いのお姉さん。

 ハッテマスさんに頼み込んで、ボロボロになったティンクのドレスの代わりに、人形用に作った手作りの菜の花模様の着物を借り受けた。

 背中の翅を出せるように手直しをしてもらい。

 かんざしで髪の毛をまとめ上げると、ぱっと見ではそれが皇女様とはわからない着飾りに、本人も五十鈴も満足して観光に繰り出した。

 ただ、ナゾのペンダントはそのままだと危険だと言う事になり預けてきていた。

 最後に今日の軍資金までも援助して貰い。

 準備万端、観光に乗り出そうとした時には、皇女様が病気との報道や、街中で皇女様を見たというニュースからSNSなどであちらこちらで「ローマの休日ごっこ」が流行り出していた。

 中にはお手製のティンク人形を持ち出してきて、それっぽい写真を上げる人が出てくる流行りっぷりだ。

 なので、優杜達もそれに乗っかることにして、ローマの休日ごっこのスタイルで、観光していた。

 それでも、優杜的には勝手に抜け出てきているティンクと一緒に観光しているので、何時見つかって大事になるか気が気ではない。

 何度か優杜が人目がある所では心配だからと、ティンクには胸ポケットに入ってもらえるように勧めたが、景色が見難いと言う事で優杜の左肩に腰をかけるように座る事で落ち着いた。

 一応、優杜の左側に五十鈴が来ることで視線をそらせてはいるが、いつ、自分達が皇女様を連れていることがばれるか心中穏やかではない。

 そんな優杜の心配をよそに、

 

「ちょっと、ユウト早く、早く」

「先輩、そんなキョロキョロしていたら逆に怪しいですって」

 

 と、下宿先を出てから常にこの調子だ。

 

「ねぇ、シュズ。さっきから変な黒服の人達がちらちら見えるんだけど」

「もう先輩。だから気のせいですって、私が目が良いのは知っているでしょ。私が見えていないんですから、心配しすぎて幻覚見ているんですって」

「幻覚かなぁ…」

 

 それでも、さっきから黒服にサングラスの二人組みが視界の片隅に入って来ている気がしてならない。

「幻覚です。そんなことより観光楽しみましょうよ」

 

 そう言って優杜の手を強引に引っ張る。

 

「みてみて、ユウト。あの変な建物はナニ」

 

 順路どおりに南向きから西向きに進むと、ティンクの指差した先に《く》の字に曲がった東京タワーが見えてきた。

 

「私もあれ気にはなっていたんですよね」

「東京タワーって言って、昔の東京のシンボルだったんだけど、十年以上前にさ、僕等日本人の過激派と、異星人とが激突した事件があって壊れたままなんだ」

 

 俗称で攘夷派事件と呼ばれる異星人を排斥しようとする過激派の起こしたテロ事件は、優杜がまだ幼稚園の頃の出来事で彼自身は詳しい経緯を知らない。

 

「なにそれ、壊れたなら直せばいいのに」

「普通に私達が地球で生活しているけど、昔は大変だったんですね」

「再建するのに莫大なお金がかかるとかで十年以上そのまま。でも事件の後、積極的に東京の復旧に力を貸してくれたのが異星人だったらしくて、その後は急速に異星人と仲良くなったらしいよ」

「つまり、私達がこうしているもの、その事件のおかげって事ですよね」

「じゃぁ、あれは平和のシンボルって事ね」

「いや、教訓じゃないのかなぁ…」

「よし、平和のシンボルをバックに記念撮影よ」

「先輩、ほらもっと近づかないと写真に入りきらないですよ」

「ほれほれ、ユウト。もっと近こう寄るがよい」

「ハイ、ハイ、オオセノママニ。はい、チーズ」

 

 軽快な電子音と共に、折れかけた東京タワーをバックにした思い出が切り取られた。

 

 

 

*20xx/5/11-17:32

 

 異星人との宥和政策により解放され多くの異星人が住む、荒川区日暮里駅の西側エリアに東西に伸びる商店街、谷中銀座商店街。

 通称「谷中銀河」

 約200メートルの商店街には、昔からの下町の商店に混じって、異星人が経営する異国情緒あふれる店が混在してる。

 

「らっしゃい。らっしゃい。今日は群馬産の春キャベツがお買い得だよ」

 

 と言う八百屋の呼び声と重なるように。

 

「イラッシャイ、イラッシャイ。今日は、ヴェジフール星のエロエロが緊急入荷、今を逃したら、これを逃したら一生後悔するよ」

 

 他惑星からのなぞの食料を売り捌こうと異星人が声を張り上げている。

 見た目は混沌としているが、地球人と異星人が協力し、競い合って独特の雰囲気を作っていた。

 土曜日の夕方ともあってか、学校帰りの学生から、観光客まで多くの人で賑わっている。

 

「す、すごーい。こんなヴァイタリティあふれる場所もあるのね」

 

 喜んで飛び回りたい気持ちを堪えてティンクが優杜の頭の上で喚起の声を上げる。

 東京タワーの話から、一番地求人と異星人が綺麗に共存している場所にと言う話しになり、三人は学校近くの谷中商店街に来ていた。

 

「ね、面白い所でしょ。私も始めて来たときには少し感動したんですよね」

「わかる。わかる。ねぇ、ユウトあれは何」

「あれは、みたらし団子って言って、日本の伝統的なお菓子だね」

 

 店先で割烹着姿のおばあちゃんがコンロで団子を焼いていると、香ばしい匂いが漂ってくる。

 

「美味しそうな匂いよね」

「ほんとね、でも、あれもこれも食べれるの」

「ちょっとシュズ、なんで欲しい物が食べ物ばかりって決め付けるのよ」

「違うの、視線が食べ物ばかりに釘付けに見えるんですけど」

「そこまで食いしん坊じゃないわよ。分かったわ。とにかく厳選するから、色々周ってみましょう」

 

 優杜はティンクの指す方向、指す方向、決して長くないアーケード街を練り歩く。

 

「お嬢ちゃん、それ気に入ったのなら、手にとって奏でてみるかね」

 

 店先に優杜を立たせて真剣に見入っているティンクに、店の中からのっそりと出てきて声をかけてくる。

 愛想よく接してきたのは、ジャバザハットのような腹の出た爬虫類の様な姿の異星人。

 この谷中銀座でも有名な異星人の経営する雑貨屋【守銭堂】の店主だ。

 

「これって、レイナーでしょ。まさか、こんな所で見るとはおもわなかったわ」

 

 そうって、ティンクは優杜の頭から飛び降りると、赤茶けた色をした、ししとうの様なものを持ち上げる。ヘタの先端部分に当たるところに口をつけて思いっきり息を吹き付ける。

 すると、中から甲高い響きとコロコロとした風斬り音が響く。

 

「ほほう、結構上手いじゃないか」

 

 守銭堂の主人が腹を叩いて賞賛する。

 優杜には全く聞こえなく、隣にいる五十鈴を見るが同じく聞こえていないのか小さく首をかしげた。

 

「それ楽器なの」

「そうよ、良い音色でしょ」

「うーん、音色って言われても」

 

 ねぇ、と言う五十鈴に優杜も力強く首を縦に振る。

 

「お嬢ちゃん、地球人には聞き取りにくい音なんだよ。だからちっとも売れない。フォフォフォ…」

 

 売れないことがそんなに楽しいのか、上機嫌に笑い出す。

 

「それ気に入ったの?」

「気に入った訳じゃなけど、なつかしいなぁって」

「なにか想い出があるんですね…」

「親父さん、これいくら」

「二百円さね」

 

 優杜は財布から小銭を取り出すだすと、守銭堂の主人の手に乗せる。

 

「まいどあり。フォフォフォ…」

「それは今日の記念にプレゼント。まぁ、そんなおもちゃ見たいのしか買えないけどね」

「本当に。ありがとう。大切にするわ」

 

 レイナーという楽器を抱えてティンクが飛び上がる。

 

「そう言ってもらえると、嬉しいよ」

「ねぇ、ティンクこんなものあったわよ。じゃーん」

 

 五十鈴が店の奥から、A5サイズぐらいの少し大きめながまぐち財布の様なものを持ってきた。

 淡い緑と深緑のストライプで、頭の部分に目のような模様が描かれていてスイカのお化けのようなデザインだ。

 

「ああ、懐かしい。昔あった、あった」

「でしょ、でしょ」

「ええと、それは何?」

 

 流石に二人で盛り上がると疎外感に、興味がなくてもつい質問してしまう。

 

「これはですね…」

 

 そう言って、五十鈴はパカリとがまぐち財布と同じように口を開けると、その中に手を突っ込む。

 

「よいっしょ」と、中から1メートルぐらいの樹の棒が現れた。

 

 とてもA5サイズのものに入っている長さではない。

 

「意外なものが入っているわね」

 

 そういうと今度はティンクが、頭から体ごと突っ込む。

 

「ええと、確かこの辺に…、きゃぁあああ」

「えっ、ティンク。まって」

 

 五十鈴が慌ててがまぐちからティンクを引っ張り出そうとするが、力が強いのか引っ張り出せない。

 

「ちょっと、ええッ」

 

 優杜も慌てて五十鈴の手を掴み引っ張り出そうと試みると、スポッとティンクが抜け出てきて。

 

「うわぁああ」

 

 ティンクの上半身が、醜いトカゲのようになっていた為、驚いて優杜が半歩飛びのく。

 

「はっははは…」

「うんうん、大成功。こういう遊びよくやりましたよね」

「ちょっと、二人共…」

 

 からかわれたと分かり、安心と共に怒りもこみ上げてくる。

 

「ごめん、ごめん、そんなに怒らないでくださいよ」

「そうそう、ちょっとした冗談じゃない」

「本当に冗談。てか、本当にローマ休日、見たことないんだよね」

「ないわよ」

「ないですよ。これは思い描いたものを数秒だけ作ってくれるおもちゃなんですから」

 

 そういうと、ティンクの周りのトカゲ模様はサラリと霧散し行き、五十鈴の出した樹の棒も消えていた。

 

「ねぇ、他にも面白そうなものあるかなぁ」

「ここは何時も意外なものがあるんですよ」

「たのむから、心臓に悪いのは…」

 

 ヴゥーン…、ヴゥーン…

 止めてくれよ言おうとしたとき、優杜と五十鈴のスマホが同時に鳴り響く。

 

「げっ」

「あらら」

 

 優杜には新田部長、五十鈴には窪内先輩からの着信が表示される。

 ある意味、最も心臓に悪い着信だ。居留守をすると後々面倒なので、

 

「はい、もしも…」

「いま、守銭堂にいないかね」

 

 間髪入れずに問いただしてきた部長の声に、優杜は心臓が飛び出しそうになるのを堪えて。

 

「い、いえ、いませんけど…、な、なにか」

 

 と、何とか否定しつつ声を絞り出す。

 

「実はさっき知り合いの宇宙人から守銭堂近くで皇女様を見たとリツイートがあってな。今我々もそちらに向かっている最中なのだが、もし近くにいるようなら」

「ざんねん。いません。でも念のために他を探してみます」

「すまない。健闘を祈る」

 

 五十鈴のほうも同時にスマホを切る。

 

「部長からですから用件は同じですよね」

「一応、ここにはいない事にしたけど」

「私も。でも、長居は無用ですよね」

「部長達とティンクが出会っても、手荒なまねはしないと思うけど…」

「まぁ、こっそり観光じゃなくなりますよね」

 

 嬉しそうに店内を飛び回っているティンクのことを思うと心が痛むが、部長達に見つかればタダではすまないはずなので、心を鬼にして声をかける。

 

「ティンク、ごめん」

「どうしたのユウト、シュズ」

「ごめん、ちょっとトラブル発生。一旦外に出ようか」

「いいわよ」

「ごめんね、どうやらティンクの熱烈なファンに、ここにいることがバレタみたい」

「う、それは確かにトラブルかも」

「なので、ちょっと場所を変えたいんだけど」

「いいね、いいね。逃避行しながらの観光も楽しいしね」

「いや、まぁ、喜んでくれるなら」

「先輩、しゃべってないで急ぎましょう」

 

 そう言って、慌てて三人は谷中銀座を後にした。

 

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