六
*20xx/5/11-18:22
逃避行とはいっても部長達に見つからなければ良いだけなので、少し離れた場所に行こうという話しになり、最近では外国人のみならず、異星人にも人気の観光スポットである浅草寺に来てみた。
東京に住んでいながら優杜も実際に来るのは初めてで、日も落ちかけているというのに日本人、外国人、異星人問わず多くの観光客、参拝客で賑わっていた。
お忍びの観光だけでなく、部長達に追われているのもあり、周りが気になる優杜は、あまりの人の多さに周りの人達がすべて自分達を見ている気になってくる。
しかも、仲見世通りは道幅も広くないのに多くの人で賑わっているため、余計に人目が気になる。
五十鈴は幻覚だと言うが、特にスカイツリー以降、何度と無く黒服の二人組みが優杜の視界の中にに入って来ていた。
優杜の心配をよそに、ティンクと五十鈴が単純に散策を楽しんでいる事がせめてもの救いだ。
色々な物に好奇心を示すティンクとシュズに冷や冷やしながら、華やかな賑わいを見せる仲見世通りをふらふらと練り歩き。
ようやく本殿にたどり着いたときにはすっかり日も暮れて完全にライトアップされていた。
「や、やっとついたぁ」
優杜の肩に乗っていて歩いているわけでもないのに、一番疲れたような口調でティンクが言う。
「思ったより、商店街が長かったですよね。色々な店があって目移りしちゃうし」
「俺も初めて来たけど、こんなに人ごみで大変だとは思わなかったよ」
雷門から仲見世通りを抜け、宝蔵門潜って、本殿にたどり着くだけで、小一時間が過ぎていた。
「しかし、どれもおいしそうで、困ったわ。こういう時、自分の小さな体が恨めしい」
「本気で悔しそうに、食べ物屋を通り過ぎてたよね」
「ティンクって、見かけによらず、食いしん坊だよね」
優杜と五十鈴がそれぞれ感想を述べると、ティンクが握り拳を作り。
「地球人の食べ物のサイズが、でかすぎるのがいけないのよ。もう少し、いえ、せめて十分の一に」
「異星人の観光客が増えたといっても、地球人サイズの人がほとんどだからな」
「でも、今回の件でシューバーリ星人の観光客増えたら、小さいのを作る店も増えますよきっと」
「そうね、そのころにもう一度来るわ」
そのまま三人は参拝の列に並び、巨大な仏殿を見上げながら眺める。
「でも、これぞ観光って気がするわ」
「ですよね。歴史とかよくわからなくても、なんだかすごいなぁって思えますし」
「初めて来たけど、こんな凄い所だとは思わなかったよ」
しばらくして三人は、向拝所の賽銭箱の前にたどり着く。
「この中にユウト達の神様がいるの?」
「見た事がないので、絶対とは言えないけど、この本殿の中に神様がいて、大昔から多くの人達が安全祈願や願い事を聴いてもらうために、ここでお祈りを捧げるんだ。こんなふうに」
優杜はお賽銭を投げ入れ、手を合せて黙祷を捧げると、ティンクと五十鈴も倣って手を合わせた。
「で、先輩はなんてお祈りしたんですか」
「え、普通だよ。またこうしてみんなでお参り出来ますようにって」
「小さいお願いねぇ。お祈りってもっと大きな事を願うんじゃないの」
「まぁ、先輩らしくてかわいいですけどね」
「じゃ、じゃぁ、二人はなんてお願いをしたんだよ」
「内緒です」
「内緒よ」
ねぇ~、と二人仲良くハモられ優杜は一人疎外感を覚える。
ここで食い下がるわけにも行かず、そのまま本道の階段を下りる。
「先輩、入り口のところ、部長達です」
「マジか」
偶然と言う事はありえない。
部長達は、正確には新田部長と窪内先輩にはナゾのネットワークが存在する。
暫く平穏な時間が続いていたから普通に観光が出来ると思っていたのに、部長達の諦めの悪さを、異星人に対する嗅覚と執念を甘く見ていた。
まだ、こちらには気づいていないようだが、部員全員が散開して、優杜達の捜索を開始する。
その中の菊本と中山がこちらに向かってくるのが見えた。
「シュズ。逃げるよ。ごめんティンク」
肩に居たティンクを掴んで無理やり胸ポケットに押し込む。
「わわ、ちょっと、なによ」
「例の、熱烈なファンが追ってきた」
「うーん、人気者は辛いわ」
本当は五重塔とかも見たかったが、薬師堂のほうから北側へ向けて走り出す。
「先輩、逃げるのはいいですけど、なにか算段が有るんですか」
「と、特に、ない、い」
猫に翻訳装置を奪われた時もそうだが、優杜は息も絶え絶えに走っているのに、五十鈴は周りに気を配る余裕を持って付いてくる。
幸いなことに、追ってくる部員は入ったばかりの新一年生を除き、全員が運動が苦手だという事だろう、全力で走っている限り差が縮まることはない。
もちろん広がることもないのだが…
言問通りに出たところで停車中の路線バスを発見。
「の、のりまーす」
発車間際のバスに飛び乗った。
息を整えながら、窓越しに菊本がスマホを取り出し連絡しているのが見える。
路線バスなら行き先は明白で、先回りの指示でも出しているのだろうか。
「しまった」
「どうしたんですか」
「お金があるんだから、タクシーを使えばよかった」
バスと併走して走るタクシーを見て優杜が悔しがる。
「降りてタクシー使います?」
優杜は改めてバスの系統図を見る。
慌てて乗ったので何処行きかも確認していなかったが、幸いにも日暮里行きだ。
電光掲示板は次の行き先の他に19:46と数字が刻まれている。
「うーん、せっかくお金があるから、どこかで豪華なディナーでもと思っていたのになぁ」
「豪華なディナーって、そんなガラじゃないですよ先輩は」
「そうよ、ディナーじゃなくていいから、ご飯にしましょう。お腹すいたわ」
ティンクも胸ポケットからようやく顔を出して、夕食にしようと言ってくる。
「でも、部長達がなんで追いかけてきているか分からないしなぁ」
「問題はそこですよね。ナゾだらけですからね」
「もしかして追われているの、わたしじゃなくてユウト達なの」
「あ、半分は当たりかも。無駄に感がいいから、さっきの電話で気づかれた可能性は高いですよね」
「あとは、SNSでオレ達を追跡させているってっか。ほんと意味不明だよ。あの人達」
「よく分からないけど、難しい話をするならご飯を食べながらが一番よ」
ティンクが空腹から再び話を夕飯にもどす。
「かといってのんびり食べていたら、部長達に見つかりそうですしね」
「まさかここまで来てコンビニ弁当というわけにもいかないなぁ」
「えっ、なに、なに、コンビニ弁当って。それ、スッごく地球っぽい響き」
「本当にいいんですか。あまり美味しいものじゃないですけど」
「いいのよ、ユウト達と食べれればなんだって」
本人はすごく乗り気だが、日本人、いや、地球人代表として本当にそれで良いのか真剣に悩む。
「良いんじゃないんですか、コンビニ弁当で。私もまだ食べたことないですし」
二人からそれで良いと言われては他に拒否する理由も思いつかない。
「それに、今日は夜間活動の日ですからね」
「そろそろ学校に戻る時間だよな」
唯一夜間に課外活動を許されている天文部は、日が沈んでからが部活動の開始時間だ。
事前にティンクにもそのことを説明していて、今日の最後には一緒に天体観測をする約束になっている。
普段の部活動では、一度帰宅し事前に夕飯済ませてくるか、商店街のお弁当屋さんで買っていくのが定番だが。
「わかった。そのまま学校まで戻るか」
「なに、なに、次の行き先決まったの」
「今から、途中コンビニ弁当を買って、私達の学校に行きます」
「ユウト達の学校。ああ、そういう約束だったわね。よし、じゃぁ、まずはコンビニ弁当目指していきましょう」
少しテンションアップ気味なティンクの言葉に、一瞬周りの視線がユウト達に集まる。
「しー、ティンク声がでかい」
慌ててたしなめる。
部長達以前に色々ばれてしまうのは時間の問題かもしれないと思い始めた。