ギャラクシーポリス   作:橘 花道

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#6

     七

 

*20xx/5/11-20:30

 

「とーちゃく」

 

 優杜達が勢い良くドアから飛び出すと。

 その向こう側にはささやかながら東京の夜景が広がっていた。

 高岡高校第二校舎の屋上。天文部のみが使用を許されている、特別な場所だ。

 目の前にはピクニックシート上に、キャンプなどで使う折りたたみのテーブルと椅子が数脚並べられており、その奥には二台の天体望遠鏡と天文部員の学生が二人いた。

 

「副部長、鍵、鍵」

 

 優杜がそういうと、副部長と呼ばれた男子生徒がゆっくりと扉に向かい。屋上側から鍵をかける。

 本来建物の中から鍵を使っての施錠はないのだが、勝手に屋上に上がれないように、ここの扉だけ内側からも外側からも鍵を使って開け閉めしなければならない。

 天文部の部長だけが、この扉の鍵の管理を特別に許可され屋上を部活動の範囲で自由に使うことを許されている。

 だが、今年は諸般の事情により副部長である、井上太陽が管理していた。

 

「ふう、これで一安心。色々とありがとうございます。副部長」

 

 井上副部長は大丈夫だよという感じで小さく頷く。

 

「部長達はよっぽどここまで登ってこないんじゃないんですか、天文部の活動をしたら負けって思っている節がありますし」

「でも今回は異星人絡んでいるから。下手すると、校舎の壁を登って現れるんじゃないかと思うよね」

「たしかに、やりそうで怖いですね」

「で、先輩と五十鈴は、愛の逃避行の挙句、子供を作ってきたんですか」

「!!」

 

 フェンスの向こうに意識を飛ばしていた優杜の背後から、女子生徒かぼそりと呟くと、優杜は驚いた上に顔を真っ赤にする。

 

「ななかちゃん、おつ。どう、ふふふ…すっごくかわいいでしょ」

 

 五十鈴はななかと呼んだ女子生徒に優杜の肩に座っていたティンクをひょいっと自分の手の上にのせて見せびらかす。

 

「いえ、とくには。私は市松人形の方が好みなので」

 

 三倉ななかが本気とも冗談とも取れない、淡々とした口調で答える。

 彼女は今年入った唯一のまともな天文部員だ。

 一応、五十鈴は天文部員扱いだが、親戚の天野先生の目の届く所にということで、天文部に入ってはいる為、それほど天文が好きでも、詳しいわけでもない。

 ただ、五十鈴とななかが入ってくれたおかげで、辛うじて新田部長から天文部の体裁を保てているのも事実だ。

 

「だって、ティンク。ということで、この可愛らしさは私が独占」

「まって、シュズ。それは痛いって」

 

 五十鈴がティンクに頬ずりをすると、今まで人形に見せるために大人しくしていた彼女が大声を上げて抗議する。

 

「おお、動いた。本当に皇女様」

 

 ななかがそうつぶやくと、井上副部長も感心したように頷いた。

 

「Allyで先に連絡していた通り、シューバーリ星から来た、ティンクちゃんです」

 

 五十鈴はティンクを頭の上にのせて改めて紹介する。

 

「初めまして皇女様…」

「ノンノン、ななか、ティンクちゃん」

「ふぅ…。三倉ななかです」

「ティンク・カールベルです。今日は突然お邪魔しちゃってごめんなさいね」

「いえ、この部活、先輩達の無茶ぶりはいつもの事ですから、気にしてません」

「まって、三倉さん。部長達と一緒にしないで」

「………」

 

 新田部長達と一緒くたにされた優杜が、慌てて抗議するが、ななかは無言の圧力で優杜を見つめる。

 

「ああ、ええと、こちらも紹介しておきますね。うちの部活のリーダーで、副部長の井上先輩。そしてティンク・カールベル…さんです」

 

 耐えきれなくなった優杜が慌てて井上副部長を紹介すると、彼は小さく頭を下げた。

 

「始めまして、よろしくお願いします。って、ねぇ、私もうお腹ぺこぺこ。早くコンビニ弁当を食べましょうよ」

「副部長すいません」

 

 優杜はそう言って軽く頭を下げると、設営されたテーブルに向かい、買ってきたコンビニ弁当を広げる。

 春の行楽弁当、ハンバーグ弁当、AOSHI監修豪華フレンチ風弁当、ノリ弁、親子丼、ざる蕎麦、フレッシュパスタのミートスパゲッティ、茸と鶏肉のサラダ、冷奴セットにお茶やコーラ、いちごオレと結局、悩みに悩まれた結果、ティンクと五十鈴が気になるのを片っ端から買うこととなった。

 その他、取り皿やウエットティッシュなど、合せて約八千円、値段だけなら豪華ディナーだ。

 サイズ的にも全部一口づつしか食べないであろうそれを広げて見せる。

 駅前のコンビニから学校までは少し距離があり、せっかく暖めてもらった弁当はすでに生暖かく、内包した湿気でなんとなくへたっている感じもするが、それも合せてコンビニ弁当だと思って食べてもらうしかない。

 初めてのコンビニ弁当にティンクは、弁当のラッピングが取れて置かれるたびに、嬉しそうにその周りを飛び周り周る。

 

「さて、お嬢様。どちらから御取り致しましょう」

 

 ティンクに爪楊枝を短くしたものを渡し、紙皿を用意する。

 

「あぁーん。どれから食べよう。なやむーぅ」

「副部長と、ななかちゃんも良かったら適当につまんでくださいね。きっと私達だけでは食べ切れませんから」

 

 五十鈴の言葉に、天体望遠鏡をのぞいていたななかは、後でと小さく答えた。

 それに頷いて、五十鈴は少し離れたところから見ている井上副部長に紙皿と割り箸を渡すと、テーブル際まで引っ張ってくる。

 副部長が一旦割り箸と紙皿を置き、手を合わせるのを見て、慌てて優杜も。

 

「頂きます」

 

 手をあわせると、ティンクもそれに倣う。

 

「そういえば、今日は一日オレ達の星の話ばかりだったけど、ティンクの星でも、ご飯食べる前に手を合わせたりするの」

「私達のはこう」

 

 そう言って、ティンクは腕を交差させて掌を胸に当てる。

 

「お祈り言葉はイギリスとかで見たのに近いかなぁ」

「へぇ、もし、オレ達がティンクの星に行くことがあったらその時は詳しく教えて、色々とさ」

「それはもちろん。任せなさいって。ああ、これからにしよう。それとってユウト」

 

 遠い星の皇女様が夕飯に最初に興味を示したのは、醤油と生姜がほんのり香る冷奴だった。

 

 

 

 

「もうだめ、これ以上は食べられない」

 

 猛烈な勢いで、全ての食べ物をまさにつまみ食いしたティンクはそう言って、テーブルの上でごろんと仰向けになる。

 

「私ももうお腹いっぱい」

 

 五十鈴もそう言ってレジャーシートの上に仰向けになって天頂の星を眺める。

 

「この公務で星空なんて一度も見なかったけど、こうして地球から見る星も綺麗ね」

「不思議ですよね。ただ、星を見るだけなら軌道ステーションに行って見るほうが、はっきりと数もたくさん見れるのに、こうして地上から眺めてしまうんですよね」

「宇宙で見る星も素敵だけど、地上で見る星って暖かさを感じるのよね」

「草原の真ん中で、そよ風に吹かれ、寝転がりながら星を見る。見たなことをしてみたいですよね」

「ああ、それいいかも。シュズ。今度わたしの星に来た時に良いところに連れて行ってあげるわ」

「おっ、それは楽しみ、ぜひ、ティンクの星に行ってみたいです」 

 

 寝そべりながら、五十鈴とティンクが無駄話をしていると、天体望遠鏡のところにいた優杜が戻ってきて。

 

「ティンク。ぜひ見せたいものがあるんだけど」

「え、なに、なに」

 

 すばやく起き上がると、若干重い感じで優杜のところまで飛んでくる。

 優杜の差し出した手に乗ると、起き上がった五十鈴と共に天体望遠鏡の接眼レンズの所まで案内される。

 

「上手く覗けるか分からないけど、覗いてみて」

「星がいっぱい。すごく綺麗」

「少し分かりにくいんだけど、その真ん中ぐらいにある小さな青白い点が、123年前のティンクの住んでいる星の太陽の光」

「………」

「本当は望遠鏡の精度がよければちゃんと見せてあげれるんだけど、今はこれが精一杯。でも、なんだか不思議だろう。こうして、遠い星から、自分の星の太陽の光を見るって。広い宇宙だけど、繋がっているんだなって思えるよね」

 

 ティンクは接眼レンズから顔をあげて優杜を見る。

 

「ありがとう、ユウト。すッごく嬉しい」

 

 喜びのあまり飛び上がって優杜の顔に抱きつく。

 

「うぐッ。よ、喜んでもらえてとても嬉しいよ、こんなおもてなししか出来ないけど」

「ううん、そんな事ない。十分素敵よ…」

「副部長に、三倉さんもセッティングありがとう。おかげで遠い星から来た友人に喜んでみらえたよ」

 

 優杜がお礼を言うと、普段から口数の少ない二人は照れてそっぽを向く。

 

「地球に来て、色々大変だったけど、なんだか最後のいい思い出ができたわ」

「…それはよろしゅうございましたな。姫様」

 

 その聴きなれぬ言葉に優杜達が振り向くと、紳士服に身を包んだ妖精、シューバーリ星人の執事のラウルキンがいつの間にか飛んでいた。

 

「ら、ラウルキンっ」

「これはお初にお目にかかります。私、カールベル王家に仕えておりますラウルキンと申します。此度は姫様のために色々とご足労いただきありがとうございました」

 

 そう言って深々と頭を下げる。

 

「ご歓談中に失礼いたしますわ。ギャラクシーポリス所属のヘリアンテス巡査です」

 

 同じく空を飛んできたであろうヘリアンテス巡査が警察手帳を見せつつ姿を現す。

 突然の来訪者に警戒を強める優杜と五十鈴をよそに淡々とラウルキンは。

 

「姫様、お迎えにあがりました。地球での休暇は堪能されましたか」

 

 ティンクがしがみついていた優杜の顔から離れると、

 

「お迎えご苦労。ええ、今日は一日楽しかったわ」

「それは宜しゅう御座いましたな」

「ティンク…」

「ユウト、シュズ、今日は色々ありがとう。でも、もう戻らなきゃ」

「………」

「………」

「………」

 

 ティンク、五十鈴、優杜がそれぞれお互いを思い見つめ返す。

 

―ドン・ドン・ドン―

 

「クソっ、やっぱり鍵かけてやがる」

「そこにヘリアンテス様がいるというのは、本当だろうな」

「はい、間違えなく第二校舎に飛んで行くのを見ました」

「絶対皇女様も隠しているはずです」

「よし、こうなれば三階の教室から上がるぞ」

 

 

「ああ、もう。相変わらず、空気読まない人達だなぁ」

「でも、一瞬で湿っぽい空気を飛ばしてくれましたよ。少しは感謝しないと」

「そういえば、私の熱烈なファンに申し訳ないことしちゃったわね」

「じゃぁ、それは次回のお楽しみということで」

「わかった。楽しみに取っておくわ」

 

 ティンクはヘリアンテスの前に羽ばたいて移動し、その肩の上に乗る。

 

「じゃぁ、またね。ユウト、シュズ」

「うん、また」

「さっきの約束忘れないでよ。いつかティンクの星に行くから」

「ええ、もちろん。楽しみにしているわ」

 

 そして、三人同時に含み笑いを堪える。

 ラウルキンもヘリアンテスの肩に乗ると、

 

「皇女様、少々手荒いですが、ご容赦願いますわ」

 

 ヘリアンテスはティンクを抱えたまま背中に炎の魔剣を翅のように広げて四階から飛び降り、高級車の横に優雅に着地する。

 優杜と五十鈴が慌ててフェンス際に駆け寄ると、車に乗り込む直前のティンクに向かって手を振っていた。

 ティンクは小さく手を振り返し、振り切るように視線を外すと車に乗り込む。

 ティンクが専用の小さなシート座り、シートベルトをすると、しばらくして、ゆっくりと車は走り出す。

 ティンクは車窓から見えなくなるまで優杜達がいた学校の屋上を眺めていたが、やがてため息とともに目を離すと、皇女の顔に戻る。

 

「姫様、少しですが、成長されましたな」

 

 ラウルキンが皇女様をねぎらってそう語りかける。

 車窓から流れる町並みの明かりを漠然と眺めながらティンクは小さく、うん、と頷くのが精一杯だった。

 

 

     八

 

*20xx/5/12-10:12

 

 ティンク・カールベル皇女様をせめてテレビ越しに見送ろうと、日曜日の午前中だというのに、新田部長の強権発動で強引に優杜達は部室に集められた。

 優杜と五十鈴がその招集に渋々応じたのも、昨日ティンクと一緒に過ごしたからで、個別で見るよりはと部室に来てしまった。

 ティンク・カールベル皇女の帰国直前のインタビュー見る前に、当然昨日の事を問いただしに来る部長達。

 優杜と五十鈴は皆に取り囲まれながら、昨日のことを根掘り葉掘り問いただされる。

 途中浅草で逃げたのは、カールベル皇女様探しをサボって遊んでいたから。

 屋上で天文部の活動している時にヘリアンテスが来たのは、犯罪者を追っている最中に、偶然通りかかり巻き込まれたと言うことで、強引に押し通した。

 日暮里駅近くで小さな爆発騒ぎがあり、異星人が関係していると言うニュースがあったので、それは利用させてもらった。

 十数分の独裁法廷は会見映像と共に素早く終了し、今は全員でテレビ越しにティンク・カールベル皇女様の勇姿を、あるものは姿勢を正しながら、あるものは涙を流しなら直視していた。

 優杜と五十鈴は、少し離れた後ろ側から疲れ果てた表情でだらりとそれを見ていた。

 そして、

 画面の向こうでは報道陣に囲まれ、ティンク・カールベル皇女が女性アナウンサーから質問を受けていた。

 

「ティンク・カールベル皇女様。滞在中で一番お気に入りの国は何処ですか」

「世界中、色々な国に寄らせてもらいましたが、何処も特色が豊富で、素敵な場所でした」

 

 そこでカールベル皇女が小さく頷き。

 

「…でも、あえてあげるとしたら日本です。私は日本がとても素敵だと思いました。次に来た時には、またぜひ立ち寄らせて頂きたいと思っております」

 

 そして、会見中一番の笑顔で、

 

「ユウト、シュズまたねぇ~」

『んッ』

 

 部員達が一斉に振り返る、それは独裁法廷代二幕の幕開けだった。

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