三
*20xx/5/11-13:43
「…でね、姉さんの秘蔵コレクションをちょこっと貸して欲しいなぁって」
「はぁああああっ、で、それ本気で言ってる?」
シュズの電話から約三十分、扉を開けてから二分、ハッテマスは濃い紅色のジャージには着替えたものの、慌てて着替えたからか、髪はぼさぼさのまま、気恥ずかしさを隠すように少し厳しめの表情を作り、下宿の廊下で何事もなかったかのように三人と会う。
そして、シュズから聞かされた経緯や事情に思わず声を荒げて聞き返えした。
事情を聴いて、ようやく心臓の行動を抑え込むと、訪ねてきた三人を改めて順番に見渡す。
まずは休日のひと時を壊してやってきたのは、妹のような関係のモトゥーリン・シュズ。
地球人そっくりな容姿だが、異星人である彼女は地球ではあえて本居五十鈴と名乗っている。
シュズが電話口て説明してくれなかったのも悪いが、訪ねてくるのが彼女だけと思い込み、いつもの調子で扉を開けた自分にも隙があったので、攻めるに攻めれない。
次になんの因縁か、先日の料理対決で審査員をしていた高校生、羽咋優杜。
何よりも驚いたのは三人目、テレビで憧れていたティンク・カールベル皇女だ。
テレビで見た愛らしさのままだが、ぼろぼろの服装と荒れた肌と髪になんとなくお転婆な感じで、テレビで見ていた印象が覆る。
なので、最初にちゃんとシュズに紹介されたとき、
「本当に皇女様………」
と、感動よりも、疑いの目を持ってしまった。
初見でも、本人がこんな所にいるわけないと、そっくりさんだと思い込んでいた。
まさか、自分が皇女様のフィギュアを脱がしているところに、本人が登場するなんて思いたくないのが一番の理由だが、ハッテマスはその感情に気付かないふりをして、強引に押し込む。
もし、あのアクシデントがなければ、疑うこともなく感動で迎え入れただろう。
その三人がハッテマスに助けを求めてやってきていた。
当然、警察には内緒で協力して欲しいとの事だった。
妹分のシュズと、憧れの皇女様のお願いに協力してやりたいのは山々だが、警察関係で働いているハッテマスの立場的には微妙だ。
「ハッテ姉さん今日はお休みでしょ。だから内緒で私達に協力して欲しいの」
シュズが手を合せて、お願いと付け加える。
「知ってる、休日でも逮捕権があるのは」
事態が事態だけに何とか思いとどまらせようと、ダメ元で突き放してみる。
「逮捕権があるって、犯罪者に対してでしょ、まだ、犯罪を犯したわけじゃないわよ」
「痛いところ付いてくるわね。確かに今の話を信じるなら、人様に迷惑をかけてるだけで、犯罪じゃあないわね」
「でしょ」
「無理は承知で、お願いします」
「頼む、こんな機会は中々無いのよ」
皇女様と優杜も再度頭を下げてお願いする。
六つの純真な瞳に見つめられては抵抗することも出来ず。
「ああ、もう分かったわよ。思い出作りには協力してあげるわよ」
「姉さんッ。ありがとう」
シュズが勢い良くハッテマスに抱きつくと、体勢を崩してそのまま部屋の中に倒れこむ。
「あてて…、あんた、相変わらず加減ってモノを」
「すいません。ありがとうございます。でも、具体的に…」
慌てて二人を助け起しながら優杜が尋ねる。
「その前に、協力するのは今日の二十二時まで、それまでにちゃんとホテルだか大使館に戻るって、約束できる」
「「「出来ます」」」
三人は同音異句に頷く。
「じゃぁまず、そのペンダント預かるわ」
「でもこれがないと、ティンクが表を…」
「あっても地球人以外に効果ないんじゃ意味ないでしょ。それに、得体の知れない商人から買ったものなんて、そんな危ないものを持たせられないわよ」
「ハハハ、確かに面白そうなヤツではあったが、得体は知れないわね」
「ティンク、それ笑い事じゃ…」
他人事のように言い放つティンクに優杜があきれ顔で突っ込みを入れる。
「ようは、一見して皇女様だとバレなきゃいいんでしょ。そこは任せなさい。こんなチャン…、ちゃんとした皇女様に合わせた服装を用意してあげるから」
そう言いながら、ハッテマスは脳内にある人形用の衣装コレクションを思い浮かべる。
リアル皇女様にどんな服を着せて合わせるか、高速でシミュレーションが始まる。
「ねえさん、なんかやばい顔になっているけど…」
「そ、そんなことないわよ。まずはペンダント預かるわ」
そう言って、ハッテマスはティンクから問題のペンダントを預かると、ついつい小物としての出来を見て心の中で二十点と呟く。
「にしてもみんな汚れているわね、皇女様の着替えの準備もあるしいったん着替える?。何なら、少年には私の私服を貸すけど」
カラスとバトルしたり皇女様が興味を示した、たこ焼きとの格闘で、優杜やシュズの制服も若干ソースやら青のりやらが目立っていた。
「いや。そこまでは…」
優杜が断ろうとすると、
「えっ着替ましょうよ先輩」
「ユウトも着替えるといいよ」
「そうそう、せっかくの思い出作りなんだから、遠慮しない」
そう言われて、優杜はしぶしぶ頷く。
「さて皇女様。少々不恰好ですが、ぜひ着て頂きたいお召し物があるのですが、いかがなされます…」
ハッテマスは最後に不敵な笑み皇女様に問いかける。
が、目元はは獲物を目の前にした野獣のまさにそれであった。
「どう、ユウト似合う。似合う」
ティンクは上機嫌で、ハッテマスの部屋から飛び出すと優杜の前で。
ティンクは菜の花色を基調とした、華柄模様の浴衣を着てクルリと一周する。
長い髪もまとめ上げ小さなかんざしで止めていた。
遠めに見る分には絶対に皇女様とは思われない出で立ちだ。
「先輩、中々奇麗に仕上がったと思いません。さすがはハッテ姉さん」
一緒に部屋の中で着付けを手伝ったシュズが嬉しそうに後から出てくる。
ハッテマスは普段集めている色々な人形の、服装のコレクションから散々悩みぬいて、皇女様に似合いそうなのを選ぶと、翅が出せるように短時間で裁縫しなおし着付けてみせた。
ハッテマスは自分でも感心してしまう速さと出来栄えだ。
普段の衣装製作の時にこの集中力が発揮出来たらと思ってしまうほどだ。
「どうです先輩、これならパッと見、皇女様には見えないでしょ」
「それに小さいだけの異星人なら、他にもいるからあとは度胸と勇気で乗り越えなさい」
お披露目が終わり、ティンクが優杜の肩に座り込む。
「どう見ても人形を持ち歩いている、ダメな人だよね」
優杜がそういうと、
「そんな事ない。悪くないぞ少年」
「そうですよ先輩、それにさっき調べてローマの休日ごっこが流行っているから、その線で行きましょうって決めたばかりじゃないですか」
「ハハハ…」
「さて、これは餞別だ。好きに使ってきなさい」
そう言ってハッテマスは財布から、お札を何枚か取り出す。
「ええ、こんなに。頂けませんて」
「大丈夫、金は有って困らないから。それにあまったら返してくれれば良いよ」
そう言って無理やり優杜の手に握らせる。
「すいません、では、ありがたく」
「さぁ、今日も、夜も短いからさっさと遊んできな。ただし、時間厳守ね」
ハッテマスは優杜と五十鈴の背中を押して玄関から追い出す。
三人は行ってきますと、小走りに駅前に向かっていった。
ハッテマスは暫く優杜達の消えていったほうを眺めていたが、
「……さてと、ここからは名ばかりだけど、浮遊警視庁の一員よね」
ポケットからスマホを取り出し。
連絡先一覧を眺める。
真っ先に相談しなければいけないのは、外事特科の根米課長とか言う人なのだが…。
「食堂のお姉さんじゃ、世間話しかしないしねぇ」
警察官でもない、ただの食堂の従業員では、例え浮遊警視庁内部で働いていたとしても直通の番号は知らない。
普通に110番に掛けるわけにもいかず。
諦めて履歴を表示させる。
「うーん、浩美、瑞穂は異星人向きじゃない担当だし…」
何より、話が多きなりそうで怖い。
「でも、美希は確か…」
異星人向けの外事特科の知り合いである倉林美紀は、特殊任務でしばらく連絡が取れないと言っていた。
ハッテマスはさんざん悩んだ末。
「ねぇ、ヘリアンテス今いいかしら。…忙しい。仕事中。なにふざけた事言っているのよ。美少年のピンチなのよ。いいから私の言うとおりにしなさい」
後でトラブルに巻き込まれることが予想されつつ、今はヘリアンテス経由で「穏便に」話を通してもらうしかない。
「実はね…」