ギャラクシーポリス   作:橘 花道

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#3

 

     四

 

*20xx/5/11-15:42

 人目を惹くような肩口で揃った真紅の髪、笑顔が似合う愛嬌のある顔立ち、そんな女性が警察官の服装を着て犯罪撲滅や、交通安全のポスターになって、町の至る所に貼られている。

 ポスターのモデルはヘリアンテス・ルクサ・イグニース。

 インフェリシタス星から来た異星人で警察官の一人だ。

 その容姿や知名度から、警察官として広報活動のモデルに抜擢されることも多い。

 そんなヘリアンテスのポスターの張られた町中の壁に身を隠すように怪しい二人組。

 漆黒のダークスーツに身を包み、シルクハットにサングラス、足元はパンプスとショートブーツ。

 ダークスーツにサングラスに身を隠しているのが、体躯の良い男性なら堅気ではない職業の方と思う所だが、若い女性となればどこかの諜報員のコスプレと言う有体だ。

 しかも二人共モデル並に背が高く、一種、異様なオーラをまとっているので違う意味で周りの注目を集めていた。

 

「ねぇ、リア。この格好本当に必要なの?」

「当然ですわ、地球では対象を監視護衛する時の正装すって、イチローも言ってましたし」

 

 自信満々に答えたのは、インフェリシタス人の特殊警官、ヘリアンテス・ルクサ・イグニース。

 普段はふわりとしているボブカットの髪を纏め上げ、帽子の中に隠して一応変装しているつもりだ。

 そのヘリアンテスを愛称のリアと呼ぶのは、同郷のハッテマス・パリエース・イグニース。

 彼女の方は服装こそヘリアンテスに併せているが、変装する気などみじんも感じさせず、自然体で臨んでいた。

 確かに、この場違いな格好であれば二人が異星人で、ギャラポリとして仕事をしている最中と思う人はいないだろう。

 今の所、監視対象である皇女様達には見つかってはいない様だが、あからさまに往来する人々からはなんとも言いがたい視線を浴びせられていた。

 ちなみに物好きがこの二人の事を写真に取り、ローマの休日のSP側コスプレしている人発見とSNSにあがって、小さな盛り上がりを見せ、これが間違いだった事を知るのは事件が終了してからとなる。

 

「でも、助かったわ。一番の心配は皇女様達が強引に連れ戻されることだったから」

「それはもう、少年少女のピンチを救うべく、頑張って説得いたしましたから」

 

 ハッテマス的には皇女様を心配しつつ、出来ればこの観光を成功させてあげたかったが、連絡した手前、一番の心配は強引に連れ戻されることだった。

 そのあたりに温情が行くように、ヘリアンテスにお願いしていた。

 実際は、ヘリアンテスの説得が成功したからではなく、シューバーリ側から、今回は皇女様のご意向に沿うように穏便にという話が出たからに過ぎない。

 

「あんたが、こわもてで有名な根米警視正を説得したのはいまだに信じられないけどね」

「ハッちゃんが真っ先に友人のわたくしに連絡してきてくれたのです。頑張りどころですわ。何より、始めて根米警視正に褒められましたのよ」

 

 ドジッ娘属性とも言えなくもない、不幸体質のせいでギャラポリ内で一・二を争う失敗エピソードの持ち主であるヘリアンテスは、質実剛健を絵に描いたような根米警視正から褒められることは皆無。

 その為、褒められた時の喜びは一入だ。

 

「それはようござんしたね。で、本当に根米警視正が私も一緒に追跡しろって言ったの?」

「とうぜんですわ、これは私達が最初に手がけた事件ですのよ。私達がやらなくて誰がやりますの」

「いや、確かに内密にってお願いしたのは私だけど…、それにバディの鈴木さんはどうしたの?」

 

 異星人警官は日本の文化などの知識や経験が乏しいので、相棒となる警察官がついている。

 鈴木一郎巡査部長は、ヘリアンテス担当の警察官だ。

 要領がよく、人を乗せるのが上手いので、トラブルメーカーのヘリアンテスの担当をしているとハッテマスは聞いたことがある。

 

「イチローは今日は非番ですの。無理して倒れられてたら困りますわ」

 

 決して、彼がいると何時も美味しい所で手柄を取られるから避けたわけではない。あくまで彼を気遣ってという所を強く主張する。

 

「ちょっと、待って。私は公休なのよ。本当に根米警視正が私と行けって言ったの」

「言いましたわ。(貴女一人だと心配だから)単独で行動しないこと、(本署の)誰でもいいから一緒に警護しなさいって」

「まって、誰でもいいって、それはあくまで警察関係者って事じゃないの。私は食堂の従業員よ」

「大丈夫ですわ、ハッちゃんも浮遊警視庁の中で働いていますし。それに私達友達でしょ」

 

 【持っている者】から【持っていない者】への友達でしょ発言ほど信用できないものはない。

 しかも相手に自覚も悪意もない場合なおさらだ。

 

「はぁ、あんたはつくづく…」

 

 返事の変わりにハッテマスがつぶやく。

 惑星インフェリシタス、同郷出身といっても、国元では身分も立場も違う。

 方やイグニース王国の女勇者。

 方や一族有数の落ちこぼれ。

 イグニース王国の女勇者の前では、一族有数の落ちこぼれはただただ飲み込むしかない。

 

「ハッちゃん今何か言いました?」

「わかったわよ、協力すればいいんでしょ。これも何かの縁だろうし」

 

 こんな二人の共通点は、孤高の女勇者も、落ちこぼれもどちらも故郷に友達と呼べる存在は少ない事だろう。

 こんな辺境の地で友達ごっこをする事になるとは故郷を出たときには夢にも思ってもいなかったことだろう。

 

「そのかわり、今度合コン、セッティングしなさいよ」

「えッ、むりですわ。そんなの」

「大丈夫、あなたの知名度があれば良い男がいっぱい釣れるわよ」

「その、私合コンなんてやったこともないですし」

「いい機会じゃない、地球の文化を学ぶチャンスだと思えば」

「でも、やり方が解りませんことよ」

「あなた顔広いんだから、生活安全課でも、広報でも地域部でも好きな所に相談したら良いじゃない。それに私達友達でしょ」

「うぅッ。努力しいたします…」

「出来れば一月以内によろしく、それと…」

 

 合コンの条件を色々つけようとした時。

 

「まってハッちゃん、少年達が動くわ」

 

 皇女様達がソラマチからスカイツリーのチケットカウンターに入って行くのが見える。

 

「まさか、ここに登るって言わないわよね」

「なに言っているの。ちゃんと影から警護しないと」

 

 スカイツリーに入っていく往来の人々の多さと、その塔の高さを思い浮かべて、ハッテマスは本当にこのままで大丈夫なのか、さらに不安を募らせた。

 

 

 スカイツリーが出来て既に数十年、目新しさはないもの、未だ展望デッキの土日は観光客でにぎわう。

 しかも、基本的な移動方法はエレベーターだけという、きわめて尾行をするのに厳しいミッションを何とかクリアして、ターゲットを監視する、ハッテマスとヘリアンテス。

 

「ハッちゃん伏せて」

 

 ヘリアンテスが自分が身をかがめると同時に、前にいたハッテマスの肩をつかんで伏せさせる。

 ゴン!

小気味の良い音を立てて、身を隠してた壁にハッテマスの頭が、思いっきり当たる。

 

「………!!!」

 

 ハッテマスが声にならない、悲鳴を押し殺しながら、涙を浮かべてヘリアンテスを睨む。

 

「危なかったですわ。危うく見つかるところでした」

「あんたね、だからってやり方ってものがあるでしょッ」

 

 荒げた声に、周りの視線が一瞬で二人に集まる。

 

「………」

「………」

 

 二人はいったん無言で何事もなかったかのようにふるまい。その後小声で、

 

「あんたのせいで、変に注目集めちゃったじゃないの」

「仕方がありませんわ。あの少年が急にこっちを向くからいけませんの」

「あの少年な。警戒しすぎて、見てるこっちがハラハラするぐらい挙動がおかしいからなぁ」

「見つかってしまっては、せっかくの尾行が台無しですわ。ここは狭くて隠れる場所もないですから、慎重に行きますわよ」

「あんたがそれを言う。ってか、さっきので、周りの目線が痛いんですけど、本当に尾行の仕事したことあるの?」

「もちろんですわ。でも、最近はイチローがその手の仕事を持ってこなくなりまして」

「…ハハハ。ナントナクワカッタワ」

 

 乾いた笑いでハッテマスが応える。

 

「何がですか」

「どうせ、尾行中に目立ったり、不幸体質ばらまいたりしたんでしょ」

「そんなことありませんわ。何時もわたくしの尾行は完ぺきだとイチローが褒めてくださいますし」

「へー、以外ね」

 

 得意げに話すヘリアンテスにハッテマスが感心したように頷く。

 しかし、本当のところは、ヘリアンテスが目立って相手の注意を引き付けてくれている間に、死角からの尾行を成功させているのだが、本人にはそのことは伝えられていない。

 

「あっ」

 

 突然ヘリアンテスが小さく悲鳴を上げた。

 ハッテマスが視線を離した隙に、皇女様達に何かあったのかと思ったが、ヘリアンテスの視線は、倒れて膝を打った小さな男の子に向けられていた。

 

「今…」

「ちょい待ち」

 

 慌てて男の子を助けに行こうとしたヘリアンテスをハッテマスが異様に俊敏な動きで肩をつかんで止める。

 

「ハッちゃん、行かせて」

「行かせるわけないでしょ、こんなところで不幸体質を発動させるつもり」

「発動なんてしないわよ。わたくし、何もしてませんから」

「いや、今、一瞬凄いやる気になったでしょ」

「なりますわ。男の子がピンチなんですのよ」

「それがだめだって言ってるの、もし、皇女様達にばれて尾行ができなかったら、根米課長に怒られるでしょ」

「大丈夫ですわ。尾行も男の子の救出も無事にやり遂げて見せますわ」

「その自信が一番危ないって、絶対トラブル引き寄せるから。それに…」

 

 二人が口論している間に、男の子の姉が助け起こしに来ていた。

 

「ああ………」

 

 ヘリアンテスが悲しげな声をだす。

 

「よし、これで発動はしないわね」

 

 反対にハッテマスは満足そうに頷く。

 不幸体質。

 インフェリシタス人だからか、地球人ではないからか、彼女達はやる気を出すと、その後、科学的根拠のない突然の不幸に見舞われる。

 異国の戦士としても日本の警察官としても優秀なヘリアンテスだが、なぜか彼女を中心に発生する不幸な現象により、トラブルメーカーの影が付きまとう。

 その不幸体質は同郷のハッテマスにも小さいながら発動し、二人合わさると、確実に発動すると謂われている。

 当然、その事を理解しているであろう根米課長が今回の任務にハッテマスを組ませるとは考えにくい。

 なので、ハッテマスは最初にに根米課長が自分を指名した事に疑念を持っていた。

 しかも、今となってはヘリアンテスの暴走を止める仕事をしなくてはいかない。

 これ以上自分達が不幸にならないように。

 

「はぁ、せっかくの休日に、私なにをしているんだろう」

 

 ふと目線の先に広がる展望デッキからの東京の眺めに、一瞬我に返るハッテマス。

 

「ハッちゃん、少年達が動きましたわ」

 

 エレベーター待ちの列に並ぶ皇女様達をヘリアンテスが指さす。

 その言葉に、もう一度気を引き締め直して。

 

「もし、あんたの不幸体質で任務失敗したら、今日の晩御飯おごりだからね」

「それは、どちらが不幸体質を発動させるかって勝負ですわね」

「ぎゃく、ぎゃく。不幸体質発動させなかった方が勝ちだって」

 

 先が思いやられると思いつつ、ハッテマスはヘリアンテスと共に非常口に向かった。

 

 

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